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不機嫌のワケ3

 教室の窓からも見えてはいたけど、大分日が落ちていた。

 薄手のマフラーを巻き直して自転車置き場に向かう。


 携帯で時間を確認すると、もう夕方の4時だった。

 結構長いこと学校にいたらしい。


 自転車に跨って走り出す。今朝の内に相葉さんに聞いておいた、このあたりで一番大きなショッピングモールに向かう。

 生活に必要なモノは大方持ってきていたつもりだったけど、ノートなんかはいい機会だしと買い替えることにした。



 敷地内を出て、来た道を辿って大通りにでる。

 そこから右に曲がると家に着き、左に曲がるとショッピングモールがある。

 自転車を走らせること数分。4階建てくらいの大きなお店が見えた。

 自転車用の入り口から入って玄関前に止める。

 確か文房具は正面エレベーターで3階まで登ってすぐって言ってた。


 言われたとおりに進むと確かに文房具コーナーがあった。

 が、どうやらファンシーショップの一角のようで入る勇気が無かったので、人に聞いて本屋でノートをまとめ買いした。


 肌寒くなってきたし日が落ちる前に帰ろうと正面玄関に戻ると、自動ドアの隅に見知った人影が二つあることに気が付いた。


「相葉さん…日野さん…」


 相葉さんは2つ、日野さんは1つの買い物袋を抱えている。

 まるで僕を待っていたと言わんばかりに微笑んでいる。


「あの…」

「さっき、上に瑞樹ちゃんが居たのが見えたから、ここで待っていれば一緒に帰れるかなって思ったの。よかった、会えて」

「お帰りなさい」

「…………ただいま。……持ちます」


 こんな、誰かが自分を待っているなんて初めてで、なんだか挨拶までぎこちなくなってしまったけれど、2人は気にしないでくれた。

 日野さんと相葉さんの荷物を1つずつ持とうとすると「瑞樹ちゃんはいいから」と断られた。2人が徒歩で来たことを確認した上で自分が自転車なのを告げると、「ありがとう」と言って託してもらえた。


 荷物を持った程度でお礼を言われるとは思わなかった。

 手が空いているのだから荷物を持つのは当たり前だ。

 小学校に入学したくらいの頃から、重たすぎないものなら買い物袋は親に持たせないものだと母に言われてきたし、特に疑問にも思わなかった。

 だから今回もその延長というか、習慣でしただけだから、礼を言われるなんて予想外で、だからまた挙動不審になる。


「大したことじゃないです」


 今朝は普通に話せていた筈なのに、今は言葉がうまく紡げない。


 きっかけは芳野さんだと思う。僕の言葉が、また意味を成さなくなかったから、無意識に怯えているんだ。

 でも、今回は前とは違う。


それに、この二人といると、どんな自分でも受け入れてもらえる気がする。

 だけどそれとは反対に、昨日会ったばかりの人なのにまるで昔から知っているような錯覚に陥ってしまうもの止められなくて不安になる。

 そしてなにより、そんなことばかりに気を取られる自分が恥ずかしくて、2人を直視できなかった。


「……もう遅いですし、早く行きましょう」

「瑞樹ちゃん?」

「……はい」


 気まずくて背けていた顔を、相葉さんが下から見上げてくる。

 小首を傾げて、ほんのちょっとだけ眉を顰めて。


「“行く”じゃなくて、“帰る”でしょ?」


 心臓がきゅってなるこの気持ちを、どういう言葉で表現すればいいのか、僕には分からない。




 自転車のカゴいっぱいに買い物袋が詰まっている。

 左隣には、手を繋いでいる相葉さんと日野さんがいる。

 今日のご飯は和食で、メニューは白米、ホッケ、肉じゃが、ほうれん草の胡麻和え、味噌汁。

 今夜は田所さんと坂本さんが出掛けていて、2人とも外食してくるらしい。


「瑞樹ちゃん?聞いてる?」

「え、あ、すいません。聞いてませんでした」


 相葉さんと日野さんが、心配そうな視線を送ってきてた。どうやら何度か呼ばれていたようだ。


「大丈夫?」


 日野さんにまで気を遣わせてしまうなんて、情けない。


「平気です。すみません、考え事してました。何かありましたか」

「あのね、瑞樹ちゃんは何か好きな食べ物ないのかなって思って」

「好きな、食べ物ですか」

「そう」


 その話をしていて、今朝芳野さんと気まずくなったことを思い出して気分が落ち込んだ。

 住まわせて貰っている身で烏滸おこがましいけれど、正直帰りたくないのが本音だ。


「……。特別に好きなものは、ないです。何でも食べられますし」

「槇にぃが、ミーちゃんは好き嫌いが多いって言ってた」

「みーちゃん……?」

「ダメ?」


 そういって、日野さんが相葉さんを乗り越えてこちらに来て小首を傾げる。

 ミーちゃんって、僕のこと、…?

 嫌かどうかと言われれば嫌だけど、ダメかどうかと言われると。


「ダメじゃ、ないです」


 としか言えない。


 僕の答えに満足したのか、日野さんは微かに笑ってまた相葉さんの隣に落ち着いた。

 繋いだ手をさっきよりも大きく振っているように見えるのは、見間違いではないだろう。

 どうやら随分と気に入ったようだ。ミーちゃん。


「ふふ。ミーちゃんってなんか猫みたい。愛美ちゃん、猫好きだものね」


 後半の相葉さんの問いかけに日野さんが大きく頷いた。


「ミーちゃんは猫みたい。だからミーちゃんなの」


 日野さんのなかで、僕は猫らしい。

 なんだか素直なネーミングに笑えてくる。


 なんて思っていると、2人がこちらを驚いた眼で見ていた。


「どうかし」

「私、瑞樹ちゃんが笑ってるの初めて見たわ!笑っていた方が可愛いわよ」


 僕の言葉を押し切って興奮した様子の相葉さん。

 日野さんもそれに賛同するかのように何度も頷いている。


 日野さんは自分の気持ちがあまり口に出ないだけで、態度にはとても素直に出ている。

そんな、身体全部で優しさをくれるところが相葉さんにそっくりで、きっと今の彼女を作ったのは、救ったのは、相葉さんなんだとわかる。


人にこんなに暖かい感情を向けられるのは高遠さん以来久々で、それが嘘ではないと分かるから、どうにかして気持ちを返したい。

だから、僕も気持ちを言葉にしよう。僕の気持ちが伝わるように。


「笑顔なら、日野さんの方が可愛い」


 僕としては上出来に思いのままを伝えたつもりなのだけれど、なにか可笑しかったのか手を繋いでいる2人は、まるで互いの体温を渡しているかのような同じタイミングで、顔を赤くさせた。

サブタイトル騙し(笑)

不機嫌の理由は次回です。


ユニーク数400人!

ありがとうございます!たくさんの人に見て頂けて本当に幸せです。これからも頑張るので応援よろしくお願いします!

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