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朝の雑談2

「……今日は吃驚してばかりで疲れました。戻って寝ます」

「いやいや、もう昼前なんだけど」


 昼前、というか、この一瞬で疲れさせたのは一体誰だと思っているんだ。

 とは流石の僕も言えないので苦笑を浮かべてお茶を濁す。


 今、僕は何故か芳野さんの部屋のバルコニー芳野さんと相葉さんの真ん中に座っている。


 この立ち位置がいかに不可効力であり尚且つ逃げられない状況であったことは言わずもがなだ。

 確かに相葉さんは美人だし素敵な女性だけど、明らかに恋人同士であろう2人の雰囲気をぶち壊してまでどうこうしようと思うほど、僕はアクティブではないし野暮でもない。

 という訳で一刻も早く自室に戻りたいのだが2人にがっちりと両脇を抑えられて動けない。

 そう、がっちりと。

 文字通りに、腕を組んで。


 ……何度も言うけど、いちゃついてるカップルに挟まれて喜ぶ趣味はない。


「あの…、僕は部屋に戻るので気にせず」

「大変、もうこんな時間!私、お昼ご飯の買い物してくるわね!」

「え、なんもないの?」

「ありはするんだけど、歌穂ちゃんがパスタ食べたいって。でも麺足りないからすぐに買ってくるわね……そういえば、瑞樹ちゃん嫌いなモノある?」

「…いえ、基本的には何でも食べます。付いていきますか?」

「智恵さん、俺、久々にナポリタン食いたい」

「ならよかったわ。ありがとう、大丈夫よ、スーパー近いの。で、ナポリタン?そしたら食材も買ってこようかしら」

 

中途半端にあげていた腰を下ろして座り直すと、芳野さんがこちらをじっと見ていることに気が付いた。


「なんですか?」

「基本的に何でも食べるって、アレルギーはないけど好き嫌いはあるってことか?」

「…………」


 芳野さんってなんでこんなことにだけ気が付くのだろうか。気を遣うべきはもっと他に沢山あるだろうに。例えば、彼女との時間に他人を誘わない、とか。


 黙り込んで芳野さんを睨む僕と、さらに追究しようと迫る芳野さん見て何を思ったのか相葉さんが笑い出した。


「長くなりそうだから、瑞樹ちゃんの好き嫌いが分かったら教えてね」


心なしか口元がニヤニヤして見えたが、さっさと部屋を出て行ってしまった。

 ……この男を置きっぱなしで。


「さて、智恵さんからも許可が下りた訳だし、教えてくれるよな?」

「…………………そりゃあ確かに、嫌いなものの1つや2つはありますが、別に湿疹が出る訳でもありませんし、出されたものは美味しく頂きます」

「何が嫌い?」


 この人はなんでこんなにも僕の嫌いなモノを知りたがるのだろう。普通初対面やあまり親しくない人には好きなものの話をするものなのに。

相葉さんとの時間を邪魔したのを実は根に持っていて、僕に嫌がらせでもしようと思っているのか。

 ……しかもなんだか、少しずつ距離が狭まってきているように感じる。

精神的な心のキョリじゃなくて、本当の物理的な距離が。


 どうにも答えたくなくてだんまりを決め込む僕にさらに寄ってくる芳野さん。


「………………生魚」


 背を沿っても近づいてくる芳野さんにいい加減に耐えられなくて白状すると、何がお気に召さなかったのかさらに追及してくる。


「まだあるだろ?」

「………………脂っこい肉」

「あとは?」

「………………っぬめぬめしてるやつ!」


 息を切らして半ばやけくそな様子に隠していることはもう無いと信じてくれたらしく、やっと離れてくれた。

 これだけしつこく問いただしておいて今度は目を瞑って腕を組み、浮かせていた腰を椅子に落ち着けて脚まで組んで唸って、僕をしばらく放置してやっと目を開けたと思ったら何か難しいことでも考えていそうな顔をして喋りだした。


「お前の嫌いなものって結構多いのな。要するにそれって、刺身や寿司、肉の脂身って…豚バラ?あとは……なめことかか?」


 ………………。


随分と待たせた割に言っている内容は正直言って大分どうでもいい。しかも無理やり言わせたくせに多いとか。


「単に苦手なだけなのできちんと食べますから気にしないでください」

「お前なぁ…。何?図星刺されて照れてんの?それ。

 なんでさっきから俺に冷たい?今朝はあんなに素直に俺の心配してくれ」

「え、何?今朝って、今朝ってナニ!?そういえば起き出すタイミングも一緒だったわ!!さぁ答えて、これはいったいどういうこと?!」


 出掛ける準備を終えたらしい相葉さんがいつの間に戻ってきていて、後ろからはしゃいだような叫び声が耳に刺さった。

 芳野さんは予想外の大きな声に驚く僕を横目に、どこか残念なモノを見る目をしていた。過去に何があったのかは知らないけど、そんな目を女性に、ましてや彼女に向けるなんて失礼だ。


「え…、と、あの……相葉さん?」

「え?あ、ごめんなさい!驚かせちゃった?

 ……だってほら、瑞樹ちゃんが知っている通り、槇ちゃんは龍平さんに対してトラウマがあるからあんまり近づかないし、……色々と久し振りだったから………っ。私、すぐに買ってくるから!………詳細は後でしっかり教えてね!」


 相葉さんは顔を赤らめてそそくさと出て行った。


 まるで嵐のようだ……。

今のが何に対しての言い訳だったのかさっぱりだ。

相葉さんは頼れるお姉さんですが、残念な人でもありましたww

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