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顔合わせ

ようやく本編がスタートです。

 僕と高遠さんがリビングに入ると、5人の男女が迎えてくれた。


「右から、管理人の坂本さかもと龍也りゅうや君、1号室の相葉あいば智恵ともえ君、2号室の田所たどころ歌穂かほ君、3号室の芳野よしのまき君、4号室の日野ひの愛美まなみ君だ。で、今日から5号室に入った綾野あやの瑞樹君だ。仲良く頼むよ。瑞樹君、何か質問はあるかい?」

「……皆さん、お若いんですね」

「そうだな。上下の年の差は17だったか。最年長は龍也君で、今年で27か」

「高遠さん、俺まだ26になったばっかですよ。それに、年の差も14です」


 異を唱えたのは管理人の坂本さんだった。

 彼は黒のスーツ姿で髪も後ろに流して固めていた。ルームシェア住宅の管理人というよりもむしろ、やり手の営業マンか、売れっ子のホストみたいだ。


「あぁ、そうだったか!いやはや、歳には敵わないな。しかし、ということは愛美君はもう12歳か。道理で大きくなったはずだ」


 坂本さんの指摘に高遠さんは頭の後ろを掻いて答える。

 雇い主は高遠さんだろうが、絶対的な主従関係ではなさそうだ。


 それにしても、高遠さんの紹介の通りなら、一番左の人が日野さんで、さっき話題に上がった12歳の子の筈。確かに周りよりも体格は小さいし、小学6年生ならこれくらいなのだろうけど、彼女から受ける印象は、もっと大人びたモノだった。

 まぁ、こんな所に居るってことは、彼女にもそれなりの事情があって、急いで大人にならなければいけない状況に陥ったのだろう。

きっと僕と変わらないような事情だろうけど。

そんなに珍しい話でもないから。




 それにしても、管理人の坂本さんがルールだというのは本当らしい。

 坂本さんと高遠さんの会話を皮切りに、各々が動き出していた。坂本さんが口を開くまでは誰一人として身動きすらしていなかったのに。


 坂本さんと高遠さんがソファに腰を掛けると、1号室の相葉さんがキッチンに入って湯を沸かし始めた。きっとソファの2人に飲み物でも用意しているんだろう。高遠さんが1号室の人が家事を率先していると言っていたし。

 キッチンは対面式で、リビングからでも中の様子が分かるようになっている。よく見るとコンロに立つ相葉さんの後ろで、食器棚からマグカップを取り出す4号室の日野さんがいた。


 キッチンのすぐ傍に食卓テーブルがあって、そこでは2号室の田所さんが参考書やノートを広げて勉強している。

 高遠さんたちが座るソファの隅には1人用のソファもあって、そこには携帯を開く3号室の芳野さんが座っている。


 全員の動きに統一感はなく、特に田所さんと芳野さんは自室に戻ったほうがいいんじゃないかと思うけど、敢えてここに居るということは、退室するだけでも坂本さんの許可が必要なのかもしれない……。



 僕は特に何をするでもなく入り口近くの壁に寄りかかって室内の様子を観察していたら、相葉さんと日野さんが飲み物をお盆に乗せて皆に配り始めた。

 各々の柄と人物、それに中身が決まっているらしい。


 高遠さんは白い陶器のコーヒーカップにブラックコーヒー。

 坂本さんは青地に白の水玉模様のマグカップにカフェオレ。

 相葉さんは桃地に白の水玉模様のマグカップに紅茶。

 田所さんは白地に赤の水玉模様のマグカップにホットミルク。

 芳野さんは黒字に白の水玉模様のマグカップにホットココア。

 日野さんは白地に水色の水玉模様のマグカップにコーンスープ。


 なんとなく、マグカップの色がその人のイメージカラーに合っている気がする。


 僕はそのままの体制でぼーっとしていると、日野さんが駆け寄って来て僕の服の袖を掴んで引っ張った。

 特に抵抗する理由もないので大人しく彼女の後についていくと、田所さんの斜め前、日野さんのマグの置かれた席の隣に誘導された。そこには薄緑色に白の水玉模様のマグカップが置いてあり、中に湯気の立った緑茶が入っていた。


 これは、僕の分……?


 どう反応しようか迷っていると、すでに席に座って、小さな木のスプーンでコーンスープを啜る日野さんが小首を傾げながら


「何がいいか分からなかったから」


 と言った。


 きっとそのセリフの後には「とりあえず緑茶にしてみた」なんかが続くのだろう。日野さんはすこし言葉足らずな嫌いがあるらしい。それがより彼女を子供らしく見せない要因の一つなのかもしれない。


 年下にここまで使わせておいて、いつまでも突っ立っているわけにはいかない。僕は


「ありがとう」


 とだけ言ってマグカップの置いてある席に着いた。


 本当は猫舌だから熱いものは得意じゃないけど、それが僕のために用意してくれたものだと思うと、気恥ずかしいけど嬉しいものらしく、ふぅふぅと息をかけて冷ましながらゆっくりと、でも確実にその中身を減らしていった。


 そんな僕の様子を日野さんが相葉さんとの談笑の合間にちらちらと窺ってくる。

 斜め向かいの田所さんは相変わらず勉強していて、ソファから向かいの席に移った芳野さんは体ごとテレビに向かって見ているし、そのテレビの前のソファでは高遠さんと坂本さんの話し声が聞こえる。


 皆が気を使ってくれているのか普段通りなのかはわからないけれど、僕は思いのほか、この空間を気に入ってしまっていた。


 どのくらいの間そうしていたのかは分からないが、全員のマグが空になった頃、相葉さんと話をしていた日野さんが目を擦った。

 まるでそれが合図のようにみんなが動き出した。


 1人だけ何もしない訳にもいかないので、相葉さんはみんなのマグを回収して洗っている間に僕はテーブルを拭く。

 田所さんは勉強道具を片付け、芳野さんはテレビを消して、2人で日野さんを連れてリビングから出て部屋まで送っていく。

 高遠さんと坂本さんは帰る支度を始め、それが終わって玄関に向かう頃にはそれぞれの用事を済ませた日野さん以外の全員が2人を見送りに玄関に集まった。


 2人が挨拶をして出ていき、芳野さんは坂本さんを部屋まで、僕はマンションの玄関先まで高遠さんがタクシーに乗るまで見送った。


 最上階に戻ると、先に戻っていた芳野さんと、相葉さんと田所さんが待っていた。

 3人はお帰りと言い、僕はただいまと言う。その当たり前が心地いい。


 僕は心の中で別れを惜しみながら、みんなにお休みを言って自室に戻った。

キャラがぶれ気味ですがこんな感じで続きます。(笑)


愛美の年齢を下げました。

14歳→12歳


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