第五話
「ふぅ~、食った食った。
丸子、やっぱお前の飯は最高に美味いな」
「あ、ありがと……」
晩飯を食い終わった俺は食後の……というか食膳からだが丸子の親父さんと酒を飲んでいるところだ。
親父さんはあまり酒に強くないんだが、俺が来るといつも以上に飲んで次の日は大変なことになるらしいんだがな。
まぁ、酒呑みは翌日の心配をするよりも今を楽しく飲むことが一番なんだろうが。
「がっはっはっはっは!
おいおい丸子、おめぇ鯉黒くんが来るから張り切ったんじゃねぇか。
鯉黒くんよぉ、うちの丸子は確かに料理の腕はいいが、機嫌が悪ぃ日なんかはツナ缶一つしか出さねぇ日もあるんだぜ?
今日はとびっきりの贅沢をしたもんだ♪」
「もー、お父さん!
変なこと言わないでよっ!!」
「気にすんなよ丸子。
そして親父さんにあんま手上げてやるな。
俺はお前の手料理ならツナ缶だって最高だと思ってるから、それでいいだろ?」
ん? 褒めるところ間違えたかな?
よーするに、「俺は丸子の料理は何だって好きだ」って言いたかったんだが、丸子の奴、物凄く顔が真っ赤になってやがる。
「あ~、スマン。
とにかく世辞でも何でもなく、丸子の料理が美味いって言いたかったんだ……が……?」
なんか丸子、物凄い笑顔なんですけど。
おいおい、というか酒くせぇ。
まさか酒飲んだ!?
「おい丸子! てめぇ親父さんよりも酒弱いくせに飲んじまったのか!?」
「えへへ~、こいこく~♪」
しな垂れかかってくる丸子。
避けるわけにもいかずに抱きとめてやるが、ここは普通、父親が面倒みるものでは? と思って視線を巡らせて観ると、丸子の親父さんはすでに組の連中との酒盛りに移っていた。
おいおい、丸子を俺に預けっぱなしかよ……。
「こいこくって~、おいしそうだにぇ~」
「俺とおまえじゃ体格差ありすぎて食えねぇだろうに。
てかやめろ! 本気で食おうとするな!!」
一応、丸子はゲンゴロウだ。
ゲンゴロウは魚も食う。俺が鯉だとしても本気を出せば食えるだろう。
なんせ丸子は、過去に海に遊びに行った際、サメを一人で食いつくしちまったことがあるくらいだからな。
喧嘩ばっかしてる俺よりもつえーんじゃないか? と思うぐらいだ。
「こいこく~、んふ~♪」
「ほら、分かったから離せ。な?
俺は食っても美味くないって」
「こいこくは おいしいにょら~!
いつか くうのら~♪」
だー! ったく絡み酒とかマジ勘弁してくんねーかな!!
親父さんも酒に弱いけど、ここまで酷くはないぞ。
いい加減力づくで引き離そうとしたのだが、俺の手を止めてくる第三の手が伸びてくる。
「ほら、丸子。
ぶちゅ~っと一発熱いの決めちまいな!
私が手伝ってあげるから」
声の主――丸子のお袋さんの源五郎 恵さんだが、これがまた親父さんよりも俺と丸子をくっつけようと必死な人なんだよ。
「あー……、おばさん。酔って前後不覚の女に無理矢理ってのは男として駄目なんじゃないっすか?」
「あらあらまぁまぁ♪
鯉黒ちゃんったら、今更そんなの気にするの?
うちは旦那も組の者も、みんな鯉黒ちゃんと丸子の結婚を祝福する準備をしているというのに。
具体的には将来生まれてくる二人の赤ちゃんに着せるベビー用品を買いそろえちゃうくらいに♪」
「それは流石に気が早すぎるような……というか俺と丸子は前提として、そういう関係じゃないっすよ!」
「あらあら、照れちゃってまぁ~♪
最近の若い子にしては初心よね♪
うちの旦那も若い頃は甲虫だけに硬派で渋くてカッコイイハードボイルドな男だったけど、今じゃ親馬鹿なうえにただの馬鹿だけど、初めての夜なんかは最高に燃え上がったんだから♪」
「聞いてませんって、おばさんと親父さんの馴れ初めなんて」
というか親父さん、昔はハードボイルドだったのか?
少し離れた場所で組の若い衆と騒いでいる姿からは想像出来ねぇな。
「それよりも、今日は泊まってくんでしょ?
鯉黒君がうちに泊まるのは久しぶりだけど、ちゃんと鯉黒くん用の布団は手入れも行き届いているわよ♪ 主に丸子がやってるんだけど。
布団はもう丸子の部屋に敷いておいたから今日はもう寝なさい。
これ以上起きてると、あの人たちに誘われて二日酔いの仲間入りしちゃうわよ」
「あ、何なんかすいません。
それじゃ丸子寝かせたら俺も寝ますんで」
「ん、それじゃおやすみなさい。
丸子の寝顔、物凄い可愛いから手を出してもいいからね♪
でも二人ともまだ高校生なんだから、避妊だけはしっかりとしときなさいよ。
それと、私のことは『お義母さん』って呼んでね♪」
「いや、しませんし呼びませんから」
ったくおばさんも悪ノリが過ぎるぜ。
こりゃ明日の朝は「昨夜はお楽しみでしたね♪」と、定番のセリフを言われるんだろうな。
「にゅふ~、けらけらけらけらけらけら♪」
「ほら、丸子。
寝るならちゃんと布団でな」
丸子を背負って部屋まで連れて行き、布団に寝かせる。
確かにこいつの寝顔、久し振りに見るが可愛いな。
クラスの男連中も、普段のキツイ態度の丸子しか知らねぇんだろうが、この寝顔見たら一発で惚れちまうんじゃねぇか?ってくらい可愛いぜ。
「さてと、それじゃ俺も寝るとするか。
おやすみ、丸子」
「zzZ」
何故かお袋さんが強いてくれたのだろう丸子の布団と俺の布団がくっ付いていたので離しておく。
まったくおばさんも親父さんも、こんな俺のどこがいいのやら。




