第四話
丸子の家はデカイ。
前にも説明したが、俺の住む近辺の川に古くから住む極道――源五郎一家はこの街の顔のような存在でな。丸子の家はむしろ屋敷と呼ぶ方が相応しいくらいデカいんだよ。
「おぅ、鯉黒くん。久し振りじゃねぇか。
今日はうちで晩を食っていくんだって?」
丸子の家に入ってすぐに出迎えてくれた丸子の親父さん――源五郎 長助親分とも俺がガキの頃からの付き合いだ。
俺の親父が風来坊で仕事を口実に、あっちこっちにふらふらしてっから色々と面倒見てもらってんだよな。
というか長助親分が俺の親父でいいんじゃね?
とか言ったら丸子に殴られたから呼び方は「親父さん」のままだ。
「うちの親父は幾つになっても中身はガキっすからね。
俺としてもこのまま親父さんの息子になりたいくらいっすよ」
「はははっ、そいつぁーいいな♪
そんじゃどうだい? いっそうちの丸子を嫁にでも「お父さん!」……うちの丸子を嫁にでも「仕切り直すな!(シュン)」おっと……」
話の途中に現れた丸子は刀を振るった。
だが親父さんは真剣白刃取りに成功した。
……てか丸子のやつ、親父さん相手にも普通に刀振り回してんだな。
「もうっ! なんでお父さんはそっちの方向にばっかり話を持っていこうとするのよ!?」
「あん? そりゃおめぇがいつまで待ってもウジウジダラダラ、やる気見せねーからだろうが。
むしろ鯉黒くん以外にお前を嫁に取ろうなんて酔狂なやつぁ、いるわきゃねーだろ」
「馬鹿ー!(ゴヅン)」
今度は拳骨が炸裂。
流石の親父さんも避けることも出来ずにまともに食らってしまう。
これは会心の一撃か?
「おっと鯉黒くん。
こいつぁ~避けなかったんじゃねぇ。
避けなかったんだ!」
「なるほど、流石は親父さんだ。
魂の籠った拳を避けるなんざ男じぇねえ、ってことっすね!」
おうともよ、と答えながら高らかに笑う親父さん。
それにしても頑丈な人だな。甲虫だからだけでは説明のつかないタフさだ。
そして丸子の暴力すらものともせずに話を続ける。
「それでどうだい、鯉黒くん?
丸子を嫁にもらうことを本格的に考えちゃくれねぇかい?」
「ええ、確かに丸子は女子力は低いっすけど料理とかはプロ並みっすからね。
でも俺なんかじゃ、あいつには釣り合いませんよ」
そもそも俺と丸子は長いこと一緒にいすぎて性別を越えたダチみたいなもんだからな。
と、ここで丸子の拳骨が今度は俺の脳天にヒット。ゴッチン。
「いってぇーなコラ! いきなり何しやがる!?」
「ふんっ! あんたが悪いんじゃないのよ!」
「俺が何かしたってのかよ?」
「それに気づいていないから余計に腹が立つのよ! もー!(ゴチン)」
丸子は再び殴ると俺を引きずりはじめた。部屋にでも連れ込む気か!?
流石に二連続で殴られるのは効いたぜ。俺は普通の魚類だぞこらぁ!
というか尾びれを引っ張るなよ! 千切れるじゃねーか。
「がはははは。流石は娘の選んだ男だ。
鯉黒くん、源五郎一家は昔っから女が上だからな。
言っても無駄だろうが、尻に敷かれんように早いうちから気をつけとけよ」
親父さんの言う事は八割が適当だからスルーするにしても、丸子は身体の割に力持ちだな。
引っ張られたままだったのが、こいつの自室に引っ張り込まれたところでようやく解放されたぜ。
「お、お父さんはいつも変なこと言うから気にしないでよね」
「あ~、お前を俺の嫁にやるとかって話か?
確かに俺も、この家と丸子は好きだが、お前にはもっと相応しい奴がいるだろうし、跡取りの問題とかもあるし、俺なんかが出張って婿入りすんのは無理だろ。
お前も俺なんかと結婚だなんて嫌だろーし」
「……」
ん? どうしたんだ丸子のやつ?
いつも元気な癖して何黙りこくってやがんだよ。
「……鯉黒ってさ……いっつも一人で考えて、勝手に結論づけちゃうんだよね」
「そりゃ、男がウジウジ悩んでちゃカッコわりーだろ。
何より俺らしくねぇ」
「……うん、そうだよね。
ごめん、変なこと言っちゃって。
あたし晩御飯の支度に戻るから適当にくつろいでてよ」
ああ、と応える俺の返事も聞かず、あっという間に部屋を飛び出していった丸子。
……もしかしてあいつ、俺のこと好きだったりしてな。
「いやいや、流石にそれはないだろうな~」
さって、晩飯が出来るまでのんびりすっかねぇ~。
本人がいないのにつまらねぇ事を考えても仕方ないか。




