第十一話
昼を食い終わり、教室に戻ってからも俺は授業を寝て過ごした。
それからも教室で退屈な授業風景をBGMに、俺はいつもの安眠をとっていたんだがな。
ほら、俺ってば魚だから目を開けたまま寝れるしバレねぇんだよ。
川中の奴は毎度のことながら、授業にも積極的に挙手して優等生ぶってたのは内容が分かるからなんだろうが、同じく授業態度が積極的ながらも、俺の隣の席にいる丸子は、ついていけてなさそうだった。
やはりあとで俺が教えてやる必要がありそうだな。
睡眠学習している俺よりも勉強出来ないってのはどうかとも思うが……。
「ほら、鯉黒。
授業も終わったし帰りましょ」
「ん、あぁ。そんじゃ帰るか」
「今日はいい天気だし、帰りにどっか寄ってく?」
「今日はいい。
昨日はお前の家に泊まったし、帰って賞味期限ぎりぎりの食材で豪華な晩飯でも作っからよ」
「あら、それじゃ今夜はあたしが及ばれしちゃおっかな~。
鯉黒ってばあたしに勉強もスポーツも出来るのに、料理まで上手いだなんて反則みたいな能力だもん」
「それでも料理に関しちゃ、丸子にゃ敵わねぇさ」
そんなやり取りをしながら、俺達は揃って帰路についていたのだが、そんな日常を壊す出来事というのは常に突然訪れるものである。
「……少しよろしいですか?」
一匹のめだかが声を掛けてきた。
「何か用か?」
「ええ、用……というほどでもないんですがね。
そこのお嬢さん――源五郎 丸子さんですよね?」
「あ、はい。あたしが源五郎 丸子ですけど……」
雰囲気的には優男のようで、めだかという種族にありがちな高慢さを感じさせないが、目の前の男の丸子を見た時の獣のような眼を俺は見逃さなかった。
「なに、大した用ではありません。
少し私に付いてきてほしいのですよ」
言うが早いか、男の目に危険を感じた俺が、丸子を抱えて後ろに下がろうとしたのだが、それと同時に男の繰り出してきた拳が、僅かに額を掠った。
「ぐっ……」
「全身真っ黒な鯉……あなたは荒井 鯉黒さんですよね?
噂に違わぬ素晴らしい反射神経ですね」
「てめぇ、喧嘩屋には見えねぇが強ぇじゃねぇか。
……筋モンか?」
「うーん、私としてはもっとスマートにギャングとでも読んで欲しいものですがねぇ。
アメリカから来ていますし。
それと、名乗っていませんでしたが私、ここ最近この近辺にも勢力を広めようとしているカダ・ファミリーの幹部の一人、トーマスと申します」
隠す必要がないからなのか、表情こそ先ほどから一切変えていないが、その殺意は魚類が持つような生ぬるいものではない。猛禽類のそれに近いものだ。
「そのギャングの幹部が一体何の用だってんだ?」
「もうお分かりでしょう?
私共は勢力を伸ばしに来た。
ならばその邪魔になるであろう、この近辺の実力者である源五郎組とかいう歴史だけは古い連中の弱みの一つや二つ握っておこうかと思いましてね」
どうやらその一つや二つの弱みに丸子が加えられているようだが、それが簡単ないことも分からないんだな。
丸子が俺の側にいるってのが、どれだけ安全かってことを知らねぇようだぜ。
「ハッ、笑わせるぜ!
これだから、めだかの連中はユーモアのセンスが足りねぇんだよ。
その程度の覚悟で俺の幼なじみを攫うとか言ってんじゃねぇぞ!」
「鯉黒……」
へっ、待ってろよ丸子。
喧嘩屋を名乗る以上、ここまで明確に売られた喧嘩はすぐに買って潰して捨ててやるぜ!




