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技術使い  作者: 中間
一章:技術使いと元王女
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6話


シン達がクルセウスを出発してから1日が経ち、シン達はオークのいる廃墟近くの岩場に来ていた。かなり険しい岩場なため、ここからは徒歩での移動になった。御者には、手前で待ってもらった。

ミュリンは、廃墟に行くために、仲間達と岩場を乗り越えていた。


「二人とも、もう少しお兄さんと仲良くできないの」


依頼に出てから1日経つが、ライラとジルはお兄さんと仲良くできないでいた。それがミュリンは気になっていた。ちなみに当のお兄さんは、岩場の移動ですでに疲労困憊の様子のプリムに手を貸している。お兄さんは優しいところもあるようだ。しかし、この二人からは、あまり良くない返事が返ってくるだろう。


「む、無理」

「あいつ嫌いだ」


予想通り、二人から芳しくない返事が返ってきた。ミュリンが、困った表情を浮かべる。


「なんで?お兄さん強いじゃん。ギルドに所属している身としては、あれは無視できない強さだよ。戦った時、私達なんにもできなかったし、そもそも戦いにすらなってなかったけど。」


「うっ」

「ぐっ」


ギルドの実力主義を理解していたからこそ、二人はシンとの決闘を受け入れたのだ。そして負けた。

痛いところをつかれて、二人は顔を逸らした。以前私達が、お兄さんと戦った時は、手も足も出なかった。ライラは術を中断されてしまったし、ジルは武器を壊されて戦いに参加すらできなかった。唯一攻撃らしい攻撃ができた私の『七穿』は、一撃目でいなされて、ほとんど無視された形だった。


「だって、あいつ、私の尻尾を触った」


ライラが顔を染めて反論してくる。ライラにとっては、そこが問題なのだ。


「でも、気持ちよかったんでしょ。」


「ーーーーーッ」


ライラはミュリンの直接的な言葉に、顔をさらに真っ赤にする。獣人の尻尾は、触り方によっては痛かったり気持ち悪かったりするのだが、優しく触れば気持ち良いらしい。つまりライラの尻尾は性感帯なのだ。お兄さんは戦闘中にも関わらず、絶妙な力加減でライラの尻尾をにぎにぎして、ライラに快感を与えてきたらしい。それがとても気持ちよかったようなのだ。戦闘後でまだ動揺していたライラが、私に話してくれたのだ。あのときのライラは可愛かったなあ。

ライラが真っ赤になって固まってしまったので、私は次にジルに矛先を向けた。


「ジルは、サリナとお兄さんが同居しているのが、嫌なんでしょ」


「なっ、なな、なにを」


相変わらずこの幼馴染はわかりやすい。ジルとは、同じ村出身なのだ。ジルがサリナのことを好きなのは、交流のある人の多くが知っている。戦う前は、単純にシンのことを悪人と思って嫌っていたようだが、その誤解はあの戦いとサリナの説明で解けたから、今はサリナと同居しているシンに嫉妬しているだけのような気がする。

ちなみに当のサリナは、お兄さんと一緒にプリムの手助けをしている。


「力は認めているわ。でも、マスターと友人だったり、尻尾は触るしで、よくわからないのよ。」

「なんかあいつ、いけすかねえ。」


確かにお兄さんには秘密が多そうだけど、悪い人じゃないと思うんだけどなあ。それに『技術使い』で、まだ色々力を隠していそうなんだよねえ。

そう思って、お兄さんの方を向いてみると、お兄さん、サリナ、プリムがこちらに近づいて来ていた。


「そろそろだろう。お手並み拝見といかせてもらうよ。」


「お前の出番はねえ!すっこんでろ」


「そうさせてもらうよ。」


またジルがお兄さんに噛み付くが、お兄さんは軽く流して、プリムを連れて少し私達から離れた。その後サリナ達は、廃墟の様子を見てから4人で話し合って作戦を立てた。


「じゃあ作戦の確認ね。」


サリナ達は、決めた作戦の確認に入った。


「不意打ちされるのはごめんだから、オークのほうから出てきてもらう。いいわね。」


オークは、豚を人にしたような魔物で、力は強いが、知能が低く足も遅い。廃墟の木製の建物はボロボロだが形は保っているので、死角が多い。何処から攻撃が来るかわからない廃墟内での戦闘は避けて、廃墟からオークを誘き出し、速さと遠距離攻撃を活かした戦いをすることになった。

サリナが説明を続ける。


「最初に、私が『音撃の矢』で炙り出します。その後」

「私が、『氷槍の雨』で数を減らせる」

「外に出てきたオークは私とジルで片付ける」


途中からライラが、言葉を引き継ぎ、最後はミュリンが閉めた。この廃墟の周りは、崖に囲まれているから逃がす心配は無い。この廃墟から出るにはシン達が通ってきた道を通るしかない。

なんでこんな所に廃墟があるのかというと、ここは大戦時に戦火を逃れた者達が、寄り集まってできた村らしい、戦火を逃れるために不便を承知でここに作ったようだ。大戦が終われば、こんな辺鄙で岩場がある所に住む必要ないので、大戦が終わってすぐに引き払われたらしい。依頼地がこんな辺鄙なところだったために、第二陣が二週間後になってしまったのだ。

ちなみに、ここは別に『魔窟』という訳ではない。『魔窟』はもっと魔物が多い、ここに居るオークは、『魔窟』から何らかの理由で出てきただけの、はぐれ魔物だ。

ミュリンが依頼の補足内容を思い出していると、サリナが作戦の開始を告げた。


「じゃあ、始めましょう。」


これを聞いてミュリンは、戦いに意識を切り替えた。私とジルの役割は、『音撃の矢』と『氷槍の雨』が終わった後、オークをライラとサリナに近づかせないようにすることだ。それと戦闘後に、脆いサリナ達が入れない廃墟に残った残党狩り。お兄さんに手伝ってもらった方が早く済むと思うんだけどなあ~。



すぐに準備が終わり、戦闘が始った。サリナとライラは、廃墟近くの岩の上に陣取った。シンはその少し後ろで、プリムと共に突っ立っていた。


「お手並み拝見」


戦いはサリナの『音撃の矢』から始った。『音撃の矢』そのものは1発しか放てない下級魔術だが、多重展開が容易な魔術だ。サリナの前には九個の魔法陣が、三×三の四角形の形で展開されていた。これはすごい。

すぐに、サリナが魔術を行使した。多重展開なのに、展開速度も速い。

九の魔法陣から、九個の光球が満遍なく廃墟に放たれた。光球は、建物に当たるとその場に止まり、爆発音を数秒間響かせる。

音に驚いたオークどもが通りに出てきた。オークの見た目は、豚面に緑色の肌、纏っているのは襤褸ぼろと皮鎧だ。繁殖力旺盛なオークは数が多い、シンのいる所から30体近いのオークが見えた。見えているのだけで30体はいるから、全部で50体くらいはいるかもしれないな。

ライラを見ると、ライラは『氷槍の雨』の準備していた。ギルドで闘った時より、魔法陣が大きい。こちらは拡大展開か、今やっているのは単純な威力拡大だな。少々時間がかかり過ぎな気がするが、チームでの戦闘なら問題ないだろう。

数秒後、40体前後のオークが見えた頃に、ライラが全力の『氷槍の雨』を放った。魔法陣から、先端が鋭く尖った氷塊が、無数に現出して、それを空高く打ち上げた。少し間をおいてから、氷の槍はオークに雨のように降り注いだ。

氷槍ひょうそうの雨』の規模は、廃墟の半分以上を覆うほどだった。無数の氷槍は、大柄なオークを次々突き刺さり、打ち倒していく。

氷の雨が止んだ頃、まともに動いているオークは十数体だけだった。生き残ったオーク達は廃墟を出ようと出口に殺到するが、廃墟の出口にはミュリンとジルが待ち構えていた。


「『七穿ななせん』」


ミュリンはオークの両肩と両膝をレイピアで破壊した後、頭と喉と心臓に一発ずつ打ち込んだ。オークは、そのまま七ヶ所から血を噴出して倒れた。見かけによらず容赦ねえ。


「『大狩おおがり』」


ジルはハルバート(新調した)の刃の部分に氣を集中させ、遠心力を生かした大振りの技を繰り出した。ジルの攻撃は、オーク二体を同時に両断した。その後も、二人はオークを倒していった。

ここまでは順調だった。しかし、そこで問題が発生した。黒色のオークが一体、廃墟から出てきた。


「黒オークか」


黒オークは、オークの亜種で、皮質が硬化していて、鉄より硬い皮膚を持つ。オークの群れのリーダー格だ。〔CC〕ランクの魔物だ。

ジルが黒オークに斬りかかる。しかし、あれではダメだ。

ジルのハルバートは、黒オークの振るった腕に、弾かれてしまった。


「なっ」


攻撃を弾かれたジルの動きが止まる。そこに黒オークが殴り掛かってきた。ジルは何とかハルバートの柄で受けるが、数メートル吹き飛ばされてしまう。しかし、ジルは何事も無かったように起き上がった。頑丈な奴だ。ジルは武器強化より、身体強化の方が得意らしい。

ジルが起き上がったのを見て、サリナが指示を出した。


「ジルとミュリンは、他のオークをお願いします。あれは、わたしとライラでやります」


そう言いながら、サリナはすでに新しい魔法陣を展開していた。


「わかった。」

「了解。」


二人とも、すぐにほかのオークの相手に移った。ミュリンとジルは、迷わず他のオークの対処に向かった。サリナとライラを信頼しているようだ。だが、あの黒オークを遠距離で倒すのは骨が折れそうだが。大丈夫なのか?

ライラは、とっておき魔術の準備に入って、魔法陣の展開を始めていた。魔法陣の展開に気づいた黒オークは、ライラに狙いを定めて、ライラに向かっていく。前の『氷槍の雨』の時も感じたが、ライラは魔法陣の展開に時間がかかるらしく、魔法陣の完成が間に合いそうになかった。

ズシンッ、展開に手間取っている間に、黒オークがライラの近くまで来てしまった。黒オークが拳をライラに振り下ろす。


「きゃっ」


戦いをシンの隣で見ていたプリムが、悲鳴を上げて目を瞑る。黒オークの拳が、ライラの身体を貫いた。


「ぐぅる?」


黒オークが首を傾げた。目の前の女を貫いているはずなのに、手ごたえがまったく無かったのだ。困惑して拳を戻すと、目の前の女は無傷だった。その後ろから、声がした。


「こっちよ。」


ロック・オークの前にいたライラが霧散して、突然黒オークの後ろにライラが現れた。ライラの前には魔法陣が完成されていた。黒オークに至近距離から手を向ける。


「『氷結波』!」


魔法陣から青い光線が黒オークの体内に打ち込まれた。打ち込まれた部分から、ロック・オークの身体が氷に覆われていく。『氷結波』は、冷凍系の上位の『氷術』だ。胴体が凍ってもロック・オークは後ろを向こうとしたが、後ろを向く途中で胴の半ばからベキッベキッと物が割れるようなが聞こえてきた。胴体が上半身と下半身に分かれるように砕け、上半身が地面に落ちて粉々に砕けた。いくら皮が硬くても冷気には敵わなかったようだな。

サリナが使ったのは『幻術』だろう。サリナは『音術』も使っていたから、二種類の術を扱うようだ。

連携も良かった。『幻術』でライラを隠して代わりにダミーを作り出してガード・オークを引き付け、その隙にライラが距離を縮めて、『氷結波』を至近距離から放って倒す。いいコンビネーションだった。あれを打ち合わせ無しで、できるあたりいいチームだな。


その後は、大した問題も無く。ミュリンとジルが廃墟内の残党を始末して、サリナ達の依頼は完遂した。


廃墟から戻ってきた、ジルがシンに向かって勝ち誇ったような物言いをしてきた。


「残念だったな。お前の出番は無しだ。」


「だと、いいんだかな。俺も楽だし。」


シンのまだ終わっていないかのような返答に、ミュリンが頭を傾げる。


「黒オークがイレギュラーだったんじゃないんですか?」


「さあ?」


周りがシンの言葉に、落胆したような反応を見せる。適当に言ったと思われたらしい。

この時、シンは疑念を抱いていた。確かに前任の〔DDD〕ランクのチームが黒オークを倒すのは難しいだろう。しかし黒オークの動きは決して速くはない。〔DDD〕ランクのチームが逃げることもできずに全滅するだろうか?

シンは、喜びあうチーム『ブルーバード』と、誰にも目立った怪我が無いことに安堵しているプリムを見ながら、一人だけ気を緩めなかった。



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