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技術使い  作者: 中間
一章:技術使いと元王女
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5話

居眠りから覚めたシンが、山小屋が見えるところまで戻ると、何故かサリナの所属する、チーム『ブルーバード』のチームメイトの、ジル、ライラ、ミュリンの三人が、プリムとサリナと山小屋の前で話していた。

それを遠目に見つけたシンは、元来た道に戻ろうとするが


「あっ、シンさん、お帰りなさい。」


プリムに見つかってしまい、声をかけられてしまった。もちろん他の者達もシンに気付いた。こうなると、逃げたほうが面倒になる。シンは仕方なく、サリナ達に近づいていった。

するとプリムがシンの傍に小走りで近くに来た。面子的に仕方ないが、どうやら心細かったらしい。プリム以外は『ブルーバード』チームメンバーだからな。


「どうも、何か用?」


「お前に用なんかねえよ。俺達はサリナに用があったんだ。」


それを聞いたシンが露骨に喜んだ。


「そうかそうか。それじゃあ俺はこれで」


そのまま山小屋に入ろうとするが、扉の取っ手を掴む前にサリナに腕を掴まれてしまった。それを見たジルが顔をしかめる。


「シンさん、ちょっとこっちに来てください。皆は待っていてください。」


シンは山小屋の裏手に引っ張られていった。また嫌な予感がする。サリナは誰も追ってこないのを確認してから、話し始めた。


「これから、チームメイトと魔物の討伐に行くことになったんです」


「行ってらっしゃい。」


そう言ってシンがプリム達がいる所に戻ろうとしたら、サリナが前に立ちふさがった。すこし怒っているように見える。


「ちゃんと話を聞いてください。それにシンさんも付いて来てください。すぐにです。」


「・・・・・はっ?なんで俺が、そんな面倒なことしないといけないんだ。」


「シンさんとプリムさんを二人っきりにはできません。それに・・・・・」


「それに?」


「王宮から逃げて、やっと自由になれたのに、山奥に閉じ込めるのは可哀想です。」


確かにプリムは王宮を出られたことを喜んでいた。それがずっと山奥暮らしというのは可哀想かもしれないな。クルセウスになら買い物に出ることはあるが、距離があるため体力のないプリムには辛いし、時間もあまり無いから、外出を楽しむ余裕なんて無いだろう。


「・・・・・わかったよ。でも、俺が行く必要は無いだろう」


「私達は、依頼で手一杯なので、プリムを守る護衛が必要なんです。」


「適当にギルドの奴を使えばいいだろ。」


「プリムさんのことは、秘密なのでしょう。護衛なんて雇えません。それに二日以内で帰ってこれないかもしれませんよ。」


「・・・・・・はあ、わかったよ。でも、魔物討伐が気晴らしになるのか?」


「帰りにそれとなく近くの町に寄りたいと思っているのですが、やはり危険でしょうか?」


シンに迷惑が掛かるかもしれないことや、プリムに危険が及ぶかもしれないことを理解しているのだろう。後半になるにつれて、サリナの声が小さくなっていく。シンはしばらく黙考すると


「・・・・・わかった。それでいい。仕事は自分達だけでやってくれよ。」


「はい!ありがとうございます。あっ、あと出発前にギルドに寄ります。お父さんがあなたに用があるらしいので。」


何だよ俺にも用事があるんじゃないか。ツンツン頭め(ジルのこと)、ぬか喜びさせやがって。


「あ~あ。面倒だな~」


シンはブツブツ文句を言いながら、表に戻っていった。


それから少したった頃、シン、プリム、ミュリンのグループと、ジル、サリナ、ライラのグループに分かれて、クルセウスへ向かっていた歩いていた。


「なあサリナ、なんで、あいつがついてきてるんだ?」


「色々事情があるんです。」


「ジル、諦めなさいよ。あんなの無視してればいいのよ。」


どうやらジルは、シンが同行していることが気に入らないようだ。一見説得側にいるように見えるライラも、シンに対して棘のある言動を取っている。ギルドでの戦いの際に、尻尾を触られたことを根に持っているようだ。

ジルとライラがシンを毛嫌いしている中、ミュリンだけはシンに積極的に関わってきていた。それも何故か


「お兄さん」


と呼んでくる。


「お兄さん?」


「はい、お兄さんです。ダメですか?」


尻尾のように揺れるポニーテールと愛嬌のある笑顔が可愛かったので


「いや、まあ、いいけど」


つい、許してしまった。まあ、なにか害があるわけではないし、問題ないだろう。


「やった。ところで、お兄さんはどうして山に住んでるんですか?ギルドマスターとは、どんな繋がりがあるんですか?プリムさんとの関係は?サリナは何番ですか?」


シンはミュリンから質問攻めにあった。というか、何番ってなんだよ。

シンに対してここまでずかずか入ってくる奴は珍しい。普段通りに振舞っているが、内心では戸惑っていた。答えようかとも思ったが、質問内容がどれも答えるのが面倒なものばかりだったのでやめた。


「黙秘する。」


「むう、意外とケチですな。じゃあ、お兄さんって、魔剣使い?ジルの斧鉾ハルバートを切断したあれ、ただの刀では無理ですよね。」


まあ、それくらいはいいだろう。それに何かしら答えてやらないと、ずっと質問を続けられそうで怖い。


「あれは、『刃雷』っていう『技術』で切れ味を上げていたんだ。刀そのものは普通だ。」


「『技術』・・・・・『技術使い』ですか!?すっご~い、生『技術使い』だあ~」


目をキラキラさせて大はしゃぎする。ミュリンがはしゃいでいるのには一応理由がある。

この世界の戦闘スタイルは大きく分けて二つ。

身体を司る『氣力』を使い、肉体や武器等を強化して『技』を駆使して戦う『技士わざし』。

精神を司る『魔力』を使い、あらゆる現象を起こす『術』を繰り出して戦う『術師じゅつし』。

この二つだ。シンの言った『技術』とは『技』と『術』を併用、または混合させる戦闘スタイルだ。それに『技術』は、同時に『氣力』と『魔力』を混ぜて、『合力』という力を扱うので、習得がかなり難しい。そのため大成する者が少ない。普通は『技士』か『術師』のどちらかを目指すのが普通だ。それにチームを組めば弱点を補い合うことができるから、無理に『技術』を習得する必要があまり無いことも、『技術使い』が少ないことの原因の一つだ。なので、『技術使い』は、かなり珍しいのだ。数が少ないのにミュリンが『技術使い』という単語に興奮しているのは、それだけ『技術使い』が突出した能力を持っていることが多かったからだ。

ミュリンはシンの戦闘力の高さの秘密を知って満足すると、好奇心の矛先はプリムに向いた。


「プリムも、強いの?」


「いえ、私は戦いは得意じゃないんです。少し魔術を使える程度です。」


「へえ~」


王女様が魔術の修行をしていたのか、王族の使う魔術ということは、『秘術』の類の可能性があるな。王族や特殊な民族などは秘術を伝承しているところがある。大戦時も秘術を使い、大きな戦果を上げた者がいたのを思い出した。

彼らは秘術を使うゆえに、大戦中に狙われることが多かった。シンはその護衛をしたことがある。当時長い戦いで兵士の少なくなっていた頃でも、ただの傭兵に護衛の話が来たのはかなりレアケースだった。


しばらくして町が見えると、シンが突然変なことを言い出した。


「先に行く。」


「はい?」


まだ距離があるとはいえ、もう町が見える所までは来ているのだ。今更急いだところで、大して到着時間に差が出るとは思えなかった。


「『電歩でんぽう』」


シンの身体が青く光ったかと思ったら、次の瞬間にはいなくなっていた。プリムとミュリンは、少しの間シンの居たはずのところを呆然と見ていた。



しばらくして、プリムとミュリンは、シンの言葉を、先にクルセウスに行ったという意味だと理解した。サリナたちにシンが先に行ったこと説明した後、クルセウスに向かった。クルセウスに到着した時、シンは馬車と初老の御者と共に街門で待っていた。サリナたちが何かを言う前にシンが話し出した。


「用は済んだ。時間も無いし、出発しよう。」


今日中に隣町まで行く予定なのだ、シンの山小屋を出たのが昼過ぎだから、あまり時間に余裕は無い。なので皆すぐに馬車に乗り込んで出発した。シンが、正確にはギルドマスターが用意した馬車の中は、とても広く、三人用の腰掛が二つ付いた上等な物だった。

サリナ達は、置いていかれたのを最初は怒ったが、クルセウスに向かっている間に、シンが先に行った方が効率がいいことに気付いた。なので、サリナがお説教することが置いていかれた五人の間で決まっていた。そして、その説教が今終わったところだ。


「・・・・・今日はこれくらいにしておいてあげます。今度からは相談してから動いてくださいね」


「わかったよ。」


サリナの正面に座っているシンが、げんなりした表情で頷く。シンは説教なんて生まれてから数回しか経験が無い。傭兵時代は、その力を褒められることの方が多かったし、怒られるときは拳骨だった。まあ、それだけシンが強く、大戦時とは力が求められる時代だったのだ。


「ねえねえ、お兄さん。マスターとは何の話してたの?」


「あ?ああ、君たちの依頼に付いて行ってくれと頼まれた。」


チーム『ブルーバード』の面々が色めき立つ。


「えっ?私達のですか?」

「どういうことだ!」

「私も聞いていません。」


シンから一番遠い位置に座っていたジルが、怒りの表情を浮かべてこっちを睨んでくる。サリナとライラは落ち着いているが、納得はできないらしく不満そうだ。まあ無理も無い、見かたによっては、マスターが彼らを信用していないということだからな。一応、理由はちゃんとある。


「ちゃんと説明する」


シンは説明を始めた。説明した内容は、こういうものだった。

サリナたちの依頼は、廃墟に住み着いたオークの討伐なのだが、これは本来〔DD〕~〔DDD〕ランクのチームでも可能な依頼だ。それなのにチームランク〔CC〕ランクの彼らが担当することになったのは、ギルド側から指名されたからだ。二つも上のランクである彼らが、オーク討伐に指名されたのには理由がある。彼らの前任のチームが、依頼遂行中と思われる頃に、消息不明になったのだ。アルフレッドはギルドが行った対処を不十分と考え、シンを護衛代わりに付けたのだ。


「前任のチームは〔DDD〕ランク、オーク相手に全滅するとは思えない。依頼そのものは君たちで達成できると思っている。だから俺が動くのは、あくまでイレギュラーが発生したときだけだ。マスターは君たちの能力については、信頼していると言っていた。」


依頼そのものは自分達に任せることと、マスターが信頼していることを伝えると、『ブルーバード』の面々はなんとか納得した。隣に座っているプリムが、シンにおずおずと質問した。


「あの、前任のチームの方はどうなったのでしょう?」


「死んだんだろ」


「・・・・・」


シン以外の五人に、空気が少し重くなる。プリムがおずおずとシンに聞いてみる。


「望みは無いんですか?」


「無いな。行方不明になったのは、二週間前と聞いている。生きていればどこかの町につけるだろ。身動きできないような怪我を負っていたとしたら、二週間はもたない。」


「・・・・・・・」


プリムに返したシンの言葉は残酷な物だった。


「・・・・・あの、もし生きてたら、どうするんですか?」


「生きてたら、助けるよ。ただ、あまり期待しない方がいいぞ。・・・・・この話はやめよう。それに、見えてきた。」


シンが進行方向を指差した。その先には、街の外壁が見えていた。今日宿泊する予定の、大した得著も無い街だ。名前は知らない、どうせ翌日の朝にはすぐに出発することになる街だ。日が沈み始めていたので、すぐに宿屋に向かった。

二人部屋を三つ取った。部屋割りは、シンとジル、サリナとプリム、ミュリンとライラだった。

ジルはブツブツ文句を言いながらも、面子的にしかたないとわかっていたので渋々承諾した。女性側はサリナがプリムと同室になると言い出した。プリムの寝相がかなり悪いらしい。具体的な内容は濁していたから、内容はわからないが、同居生活中に何かあったのかもしれない。ちなみにシンが起きるのはいつも一番最後なのでしらない。

仲の悪いジルと会話が弾むはずも無く、シンはすぐに寝た。



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