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技術使い  作者: 中間
一章:技術使いと元王女
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4話


アルフレッドと、サリナが到着した頃、シンはソファーで居眠りしていた。アルフレッド達が遅かったわけではない、シンがすぐに眠ってしまったのだ。ギルドマスターであるアルフレッドを呼び出しておいて、居眠りをするなど普通はありえない。


「『拡声』」


サリナが魔術を行使してから、シンに近づく。そしてプリムと父に耳を塞ぐように手振りで促す。二人が耳を塞いだのを確認すると、自分も耳を塞ぎシンの耳元に顔を近づける。アルフレッドが防音の魔術を部屋にかける。


「起きなさーい!」


部屋に増幅されたサリナの声が響く。距離があり、耳を塞いでいるプリムにとってもかなり大きな声だった。近くでやられたシンは堪ったもんじゃない。シンは寝ていたソファーから転げ落ちて、目を覚ました。キョロキョロするシンをサリナが見下ろしている。部屋の端では、アルフレッドが笑いを堪え、プリムがオロオロしている。とりあえずシンは


「おはよう、パンツ見えてるぞ」


サリナが赤面して、スカートを抑える。アルフレッドが今度こそ、抑えられずに爆笑した。


シンの挨拶から少し経って、サリナとアルフレッドはようやく落ち着きを取り戻した。

今はアルフレッドとサリナが一緒のソファーに座り、シンとプリムが反対側のソファーに座っている。


「シンくん、あまり騒ぎを起こさないでくれ。」


「起こしたくて起こしているわけでじゃない。それであの三人は?」


「何とか説得して、今はジルの新しい武器を買いに行っています。」


「で、何があったんだい?」


アルフレッドが、本題に入るように促してくる。こちらに何かあったのは、承知しているようだ。

シンは一度プリムを見てから、アルフレッドに顔を向ける。


「実は、こいつキルマイア国の元王女なんだな、これが。」


サリナは、ギョッとプリムを見たが、マスターはそれほど驚いている感じはなかった。どちらかというと、疲れたような表情を見せた。その表情に、プリムはシンのため息を思い出した。


「・・・・・そうだったか。」


「あまり驚かないんだな。」


「情報は集めているからね。王女が亡命したのは知っていた。それに君の方から、ギルドを訪れたんだ。何かあるなと思って、色々想像を膨らませていたんだよ。」


「それなら、もう話を少し膨らませてやろう。」


シンが指輪を見せて、これまでの経緯を説明した。聞き終えたアルフレッドとサリナは、シンとプリムに呆れた視線を注いだ。


「まったく指輪を放置なんかするから。」

「プリムさんも、男の部屋に指輪がある時点で、少しは疑問に思ってください。」


「別にいいだろ。今のところ苦労しているのは、本人達だけなんだから。」


渋面を作ってシンが反論するが、以前プリムが滞在した村が焼き払われたらしいから、周りに飛び火する可能性はある。さすがに他国でそこまではしないだろうが、村を焼き払うような奴が他人を巻き込まない保障は無い。


「まあそうだが、それにしても、面倒なことになったな。悪いが、簡単に打開策は思いつかないな。」


「私も何も・・・・・ところで、ヘルハウンドを倒したって本当ですか?」


サリナは話に出てきた戦いの方が気になっていたらしく、質問をしてきた。俺が単独でヘルハウンドを倒したことが信じられなかったようだ。失礼な話だ。あの程度のランクの魔物に驚きすぎだ。

その質問には、シンではなくプリムが答えた。


「ええ、すごかったんですよ。突然シンさんがパッと現れて、かっこよかったんです。」


「その話はいいだろう。アルフレッド、指輪について調べてくれないか?あと、プリムを泊めてくれないか?」


「調べるのは構わないが、彼女は君が預かってくれないか。」


「な、何でだ!?」


予想していなかった返答に、シンは思わず大声を出してしまった。


「君のところが一番安全だろう。それに村を焼いたというのも気になる。頼むよ。」


「なんで俺のところが一番安全なんだ!」


「それは君もわかってるだろう。君より強い者は、少なくともこの町には居ない。」


「そう、かもしれんが」


クルセウス近辺で最大の力を持っているのは、ギルド『青竜の爪』だ。そのトップのアルフレッドが、シンが一番強いというのだ。否定することにあまり意味は無いだろう。だが、シンも諦めない。


「こいつは女だぞ。男女が二人っきりってのは、どうかと思うんだが。」


「何故だい?」


「・・・・・」


感情の読みづらい笑顔をするアルフレッド。これは俺を信用していると思っていいのだろうか?だが、これは俺だけの問題じゃない。


「プリムに、山暮らしは厳しいぞ。」


プリムは自分の荷物すら碌に持てないのだ。プリムも何処と無く不安そうにしている。


「それなら、私がついて行きます。それなら問題ないでしょう。プリムさんも一人だと不安だと思いますし。プリムさんにいろいろ教えることもできます。」


「おお、これで解決だな。それじゃあ、シンくん頼んだよ。」


問題大有りだ!さらに面倒が増えてしまった。

・・・・・いや、まてよ、サリナにプリムのことを任せれば、楽ができるかも。それに二人っきりよりはマシだ。俺に年頃の女の世話なんかできるはずもないし、サリナとプリムは年も近いから任せても大丈夫だろ。


「まあ、女の世話を俺一人では無理だから、ありがたいが、いいのか?山奥だぞ。」


「問題ありません。それでは準備してきます。」


サリナはなんてこと無い様子で返事をする。サリナとしても、シンのことを知りたいと思っていたところだったのだ。だが、当のシンが山からあまり出てこないのでは、知ることができない。サリナにとってこの共同生活は、渡りに船だった。


「ご迷惑をお掛けします。」


プリムが申し訳なさそうに頭を下げると、サリナは楽しそうに。


「大丈夫ですよ。わたし、お世話とか大好きですから。それに元王女だからといって、手加減しませんからね。そうですね、まずは家事から教えましょうか。覚悟していてくださいね。」


本当に楽しそうな顔をしている。特に、覚悟してくださいね、のところの顔がとてもいい笑顔だった。その笑顔に不吉なものを感じたプリムが、泣きそうな顔でシンの方を見る。


「私、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だろ・・・・・たぶん」


「たぶんなんですか!?」


プリムが悲鳴を上げる。まあ、基本的には優しいはずだ。こいつの学習能力しだいだろう。がんばれ。

こうして、三人の奇妙な共同生活が始った。



それから数日後の朝、山奥の山小屋では、シンが寝袋に包まって床に転がっていた。ベットはプリムが使い、サリナは簡易ベットを持ち込んでいる。一人の頃は、昼近くまで寝ているのも珍しくなかったのだが


「シンさん、起きてください。」


プリムの起床を促す声が聞こえてきた。三人の共同生活が始ってからは、プリムかサリナに朝早く叩き起こされる毎日を送っている。


「まだいいだろ。やることもないんだし。」


シンが起きるのを渋っていると、プリムがシンに近づいて行く。


「すみません」


謝罪しながら、プリムは遠慮なしに床で寝るシンをぐるぐる転がした。シンは頭を揺さぶられて、とても寝る気分ではなくなり、仕方なく起き上がる。サリナに影響されたのだろうが最近遠慮がなくなってきている。


「シンさん、いつものお願いします。」


プリムがシンに近寄り、指輪を付けた手をこちらに向けてくる。シンも手を出して、それぞれの指輪を少しの間、重ねた。これが日課になっていた。


寝ていた部屋を出ると、そこには朝食が並んでいた。朝早くに叩き起こされるようになったが、毎朝こうしてちゃんとした物が食べられるようになった。

焼いたパンにベーコンエッグとサラダというメニューだった。朝からが焼いたパン食えるとは。自分ひとりの頃は面倒だから、火を起こすことなんてなかったからな。

シンは並んだ料理を見て、その流れで室内全体を見渡した。それにしても、手狭くなったものだ。元々ここは、シンが暮らすために急造で作ってもらった家だ。三人で暮らすことなんか想定していない。そこに、サリナが簡易ベットを持ち込み、調理器具や日用品を持ち込んだため、かなり窮屈になってしまっている。パンや肉を焼くために竃を一応置いてあったのが幸いだった。新しく竃を用意するのが大変だからな。


シンが食卓に座って、料理に手を伸ばすと


「シンさん!先に顔を洗ってきてください」


サリナが、注意してくる。シンは、お前はお母さんか、と思いながら仕方なく外の井戸で顔を洗いに行く。外から戻ると、サリナとプリムは席についていた。シンも空いている椅子に座る。


「それでは」


「「「いただきます。」」」


同居が始ってすぐにサリナの提案で食事は三人で取ることに決まった。基本的にプリムもこういう家族っぽいことに積極的で、多数決で押し切られてしまうことが多い。女二人に男一人なので多数決では、基本的に勝てない。

三人が食事を始めまり、シンがベーコンエッグに手をつけると


「それ、プリムさんが作ったんですよ。」


「へえ、プリムが・・・・・大丈夫か?」


「どういう意味ですか!」


プリムがこちらを睨んでくる。


「だってお前、この前、卵を殻ごと鍋の上で焼いていただろ」


「そ、それは、忘れてください。」


プリムは顔を少し赤くしてそっぽを向いた。

プリムはお姫様だったのだから仕方ないのかもしれないが料理、洗濯、掃除などの家事全般が全くできなかった。本人の話ではさせて貰えなかったらしい。しかし、これからはそういうわけにもいかないので、サリナが最低限知っておくべきと思うことを少しずつ教えている。同居生活が始ったばかりの頃は、サリナの注意と叫び声、プリムの悲鳴と泣きそうな声を良く耳にした。

最近はやっとまともになってきたが、思い出したように突拍子もないことをするので逆に危険度はましている。いつ失敗するかわからないので警戒が難しいのだ。


「シンさんは何もしていないでしょう、文句を言わずに食べてください。」


「食費は俺が負担しているだろ。」


「まあ、そうですが。」


こんな山奥では、働くことは難しい。これからのことを考えて、プリムとサリナは浪費を控え、金銭面で余裕のあるシンが当面の食費を出すことになった。その代わり二人が家事をしている。


「あの大金は何ですか?あれだけあれば家が買えますよ。」


シンが床下に隠していた金貨300枚のことを、サリナが思い出して呆れる。大戦と、大戦の後始末で稼いだ金だ。

このお金は、合法だが、中には人を殺して手に入れた金もある。あまり触れたくはない。ちなみにプリムには、同居生活の初めの日に、シンが大戦に参加していたことは話している。


「本当に大戦に参加してのですね。」


「アルフレッドさんに聞きましたけど、かなりの実力者だったとか。」


「今ではただの怠け者になってしまいましたけどね。」


「俺はガキの頃に死ぬほど頑張ったんだからいいんだよ。それより、今日は洗濯を教えるんじゃなかったのか?」


「シンさん~、思い出させないでくださいよ~。」


話題を変えるための、生け贄にされたプリムが情けない声を出す。サリナが楽しそうに笑みを浮かべる。そのタイミングだと弄るのを楽しんでいるようにも見えるな。


「大丈夫ですよ。プリムさん、飲み込みはいいですから。最近はそんなに、大きな声を出さなくてもよくなりましたから。」


「じゃあ、頑張れ。」


そう言い残してシンは外に出て行く。そのまま山奥に消えた。



シンが出て行った山小屋では


「シンさん、いつも何処に行っているのでしょうか?」


「昼寝でしょう。以前、探してみた時は、山奥のハンモックで寝ていましたから。さあ、始めましょう」


「はい、お手柔らかにお願いします。」


サリナとプリムは外に出て井戸に向かい、サリナがプリムに洗濯を教え始めた。サリナは教えながら、最近気になっていることをプリムに質問してみた。


「プリムさん」


「何ですか?」


「プリムさんから見て、シンさんをどう思いますか?」


サリナとしてはなんとなく聞いてみただけなのだが、プリムが興奮した様子で食いついてきた。その内容が少しずれていた。


「恋話ですか!」


「ち、違います!プリムさんの、シンさんの評価みたいなのを聞きたいんです?」


「なんだ、恋話じゃないんですか。」


サリナが珍しく大きな声を出して否定する。父親に言われた、シンの嫁候補の話をかなり意識しているようだ。プリムは、サリナの強い否定に、少し残念そうにする。


「残念です。え~とシンさんの評価でしたね。いいですけど、シンさんとの付き合いはサリナさんの方が長いのでは?」


「実は大戦に参加していたのすら、最近知ったんです。それに私はシンさんの怠けているところしか知りません。他の人の評価が聞きたいんです。」


サリナから見たシンは、基本的に寝ているか、食べてるかだ。依頼をこなしているところなんて見たことが無い。


「わかりました。え~と、私から見たシンさんは、その、かっこいいですよ。」


「・・・・どうしてですか?」


「私はシンさんに、命を救ってもらいました。それなのに私の事情に巻き込んでしまったのに、親切にしてくれて、とても感謝しています。なにもお返しできないのが、申し訳ないくらいで」


そうでした。プリムさんにとって、シンさんは恩人でしたね。それにこの前は、チームメイト達を一蹴したらしいですし、やはり実力は相当なもの。でも、同居を始めてからは、食べてるか寝てるか、なんですよねえ、やっぱりわかりません。

サリナは、三人の共同生活を始める前後の怠けた姿と、父やプリムの話のギャップをうまく整理できないでいた。


「真昼間から寝ていることについては、どう思いますか?」


「え~と、お世話できて嬉しいです。」


「そ、それじゃあ、何か不満は無いんですか?」


「不満、ですか?・・・・・・あっ」


プリムが何か思いついたようだ。


「あるんですね。教えてください」


「その折角お城から出られたので、お出かけしたいとは、偶に思います。偶にですよ。」


プリムが、少し申し訳なさそうに言う。


「お出かけ、ですか」


今度シンさんに相談してみましょうか。・・・・・何故でしょう?最近、自分の生活がシンさんを中心に回っている気がしますね。という思考にいたって、サリナは顔に熱を感じた後、またサリナはシンについて考え込んだ。


当の山奥に入っていったシンは、開けた場所に出ていた。サリナが言っていたハンモックもここにあった。

シンは、ハンモックには向かわず、開けた空間の中央に歩いていくと、体操を始めた。体操が終わると今度は、刀の素振りを始めた。シンは、身体がなまらないように、偶に身体を動かしている。ちなみにシンの戦い方は戦いの場で学んだ。傭兵団の仲間と、戦場そのものが先生だった。

いざという時に動けないのでは話にならないので、面倒臭がりなシンもこうして身体を動かしているのだが


「疲れた」


汗もかかないうちに、素振りを止めて、近くのハンモックに寝転がってしまった。物臭な性格なので、あまり長続きしないのだ。このままシンは、いつも通り涼むことにした。サリナが以前見たのは、この休憩中おひるねちゅうのシンだ。結局、その後のシンは、ずっとお昼寝していた。



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