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技術使い  作者: 中間
二章:侍と鬼山
22/23

4話


「シンさん、帰ってくるの遅いですね」


サリナ、ライラ、ミュリン、ジル、プリム、ケイト、マナ、カナ、キリの9人は、お城の城門近くでシンが出てくるのを待っていた。シンが連れて行ったコーネリアが、机をぶった切ったりと突飛な事をしていたので、9人の内の半分以上が心配になったのだ。


「今頃、あの女に切られていたりして」


ジルが軽口を口にすると、シン大好きなプリム、ライラ、マナ、カナ、キリの5人に睨まれた。


「す、すまん」

「馬鹿なこと言ってると、ライラに凍らされるわよ」

「そ、そこまではしません!」


いったいどこまでならするのだろう?

サリナが今思いついた様子で皆に質問をする


「そういえばシンさんが召喚状で呼ばれた理由って誰か聞いていますか?」

「「「・・・・・・・」」」


皆の返答は沈黙だった。誰も知らないようだ。王都行きの理由のはずなのに誰も内容を知らなかった。


「ライラもプリムも知らないんですか?」

「その、あの時は王都に行けるとはしゃいでいましたから」

「私もです。でも兄さんはSランクですし、やっぱり戦いに関係があることなのでわ?」

「でも、王女さまは昔から探していたんですよね。なら昔の話とか、もしかしたら、こ、告白とか」


プリムの言葉を否定したライラが妄想を膨らませていた時、城からシンが出てきた。気づいたマナ、カナがすかさずシンに駆け寄る。


「お兄ちゃん、お帰りなさい」

「お帰りー」


2人は屋敷では面白がってご主人様と呼んでいたが、さすがに屋敷の外ではお兄ちゃんと呼ぶようだ。


「ああ・・・・・・・全員揃ってみたいだな」

「はい、連れて行かれるときのがあれだったので、気になったんです」

「そうか。・・・・・・突然で悪いが、用事ができた。俺はプリムをつれてこれから、別行動を取る」


そういうと、シンはプリムの腕を掴んで歩き出した。


「え?」

「シンさん?」


連れて行かれるプリムも、残された側も一瞬ポカンとする。


「ど、どちらにいくのですか?」


すぐに反応できたのはライラだった。シンが自分を置いてどこかに行く。ただそれが嫌だったのだ。ライラが追いかけて、問いかける。しかし返答はそっけない。


「遠くだ。屋敷で待っていてくれ」

「私も連れて行ってください!」

「駄目だ」

「プリムさんはいいのに?」

「『不別の指輪』があるからな」

「なら勝手についていきます!」


完全に拒否された。それでもライラは怯まない。シンに絶対について行こうとする。ライラ以外は困惑しっぱなしで言葉を紡げずにいる。

ライラもぞんざいに扱われて、結構精神的には辛かったのだが、シンと離れ離れになるのが嫌だからなんとか食いついていく。


「どうやってついてくるつもりだ?」


シンが転移珠を二つ取り出し、その1つをプリムに渡した。

シンは移動先を口にしていない。転移珠での移動先を調べるのは、ほぼ不可能。だからシンが転移珠を使った暗殺者を見つけることができたのは、発信機と高速移動ができたからだ。ライラたちでは到底追いかけるのは無理だ。


「プリム、先に行け」

「で、でも」

「早く」


有無を言わさぬ態度に、プリムが転移珠に魔力を注ぎ込んだ。光に包まれて、転移した。


「大人しく屋敷で待ってろ。全部片付いたら、その時話せたら話す」


シンも光に包まれた。光が消えたときには居なくなっていた。


「シンさん、どうして」


ライラが呆然とした様子で座り込んだ。


「行きましたか」


そこにコーネリアがやってきた。


「お兄さんに何をしたの!」


叫んだのはミュリンだ。ようやくショックから立ち直ったらしい。ライラが傷ついたのをコーネリアに連れて行かれた所為だと判断したミュリンが、コーネリアを問いただす。手は腰の剣に伸びている。


「あいつに過去に関わることだ。あいつは何も語らなかったのだろう。私が勝手に話していいことではない」

「先ほどのシンさんは普通ではありませんでした。会話もしたくない心情だったのでしょう。だから詳しくは聞きません。何処に行ったかだけ教えてくれませんか?」

「それを聞いてどうする」

「それはわかりません。でもこのままでは納得できません」

「・・・・・・・ヤマト国だ」

「ありがとうございます。皆さん、別のところで相談しましょう」


サリナに先導されて、8人が移動を始めた。それを見たコーネリアは


「あいつを気にかける奴が、姫様以外にもいたのだな。・・・・・・姫様にあの白猫獣人の話をしてみましょう」


コーネリアはライラが必死にシンについて行こうとしていたのを見ていた。それを姫様に伝えるとどんな反応をするだろう、という邪推と、姫様もあいつのことを気にしていたから、相談相手にどうかと思ったのだ。

あの白猫の獣人ならシン(あいつ)についての話を、真摯に聞いてくれるだろう。そういう意味では姫様と気が合いそうだ。そう考えながらコーネリアは城に戻っていった。


その頃、シンとプリムはグンダーラ王国から海を隔てた島国のヤマト国に転移していた。

転移先はどこかの家の敷地内らしく、周りを二メートちょっとのへいに囲まれた和式の建物が目の前に建っている。

近くの四阿あずまやに兵士が詰めていた。簡易型の鎧を身に付け、腰にはヤマト和国でよく使われている刀がぶら下がっている。その内の一人がシンとプリムに近づいてきた。


「失礼、そなたらはどこ・・・・から・・・・」


中年の兵士がシンとプリムの身元を確認しようと近づいてきた。兵士はシンの顔を見ると、絶句した。


「『蒼刃そうじん』のシン、裏切り者が!ここに何しに来た!?」


怒りの形相を浮かべた兵士が、怒鳴り散らしてくる。ちなみに『蒼刃』はヤマト国での通り名の1つだ。

その声を聞いたほかの兵士も集まってきた。その内の中年くらいの兵士達が、先の兵士と同じように顔を憤怒に歪める。ただ若い兵士は状況が良くわかっていない様子で、困惑している者ばかりだった。


「グンダーラ王国の依頼で来た。これが紹介状だ」

「黙れ!そんなこと知ったことか、ここで斬り捨ててくれる!」


三人の中年兵士が刀を抜いて、斬りかかってきた。シンは左手の『武器庫』から剣を抜き、そのまま横殴りに振る。三人の刀が中ほどで切断された。剣に雷を纏わせて切れ味を上げる『刃雷』を使ったのだ。シンも刀の方が使い慣れているのだが、前の戦いで溶かされてしまったのだ。

刀を破壊された三人の兵士が一歩後退する。


「シン殿?シン殿ではありませんか?」


喜びの含んだ声が建物から聞こえてきた。そこには悪意は無く困惑も少しだった。声の主は女性で、黒髪を後ろで束ねた綺麗系の美人だ。簡易型の青い鎧を着込んでいて、腰には大太刀がある。名前はマイ。この国の王位継承者のキリツグの元側近だった女で、今は有角族への対処を任されている。

キリツグ繋がりで、シンとも顔見知りだ。


「マイか久しぶりだな」

「シン殿、とりあえずこちらに、ここに居ては騒ぎになります。一先ず移動しましょう」

「そうだな」

「あなた達、引きなさい!その方は私のところで預かります」


マイがそういうと兵士達が悔しそうに道を開ける。その道を通ってマイの傍に移動すると、小声で言ってきた。


「私の家に行きましょう」

「頼む。それにしても偉くなったんだな」

「ちょっと仕事を任されているだけですよ。そちらの方は?」

「こいつはプリム、まあ家族みたいなもんだ」

「ど、どうも、プリムです。よろしくお願いします」

「ええ、よろしく。それでは、細かいことは移動してから」

「ああ」


シン達は、転移珠の転移用に建てられた建物から出て、マイの家に向かった。

マイに案内されたマイの自宅は、ちょっと大きな屋敷だった。広い土地に一階か二階建ての細長い家屋を建てるのが普通のヤマト国では、それほど大きいというわけではない。

居間に通され、女中がお茶を出して下がった。


「シン殿、よく来てくれました。わが国はシン殿に恩を仇で返すようなまねをしたというのに」

「いいよ。俺はキリツグとの約束を守りに来ただけだ。もう約束の1つ守れないが、残りの約束は絶対に守る。そのために来た」

「そうですか、ありがとうございます。私は歓迎しますよ」

「あ、あの~」


2人の会話にプリムが口を挟んだ。


「あの、そろそろ、説明してくれませんか?」

「そうだな。・・・・・俺はこの国で嫌われている。だから他の奴らを連れてくるわけには行かなかった。俺は浄化戦に参加・・・正確には勝手に介入するつもりだ。そう意味でも連れてこれなかった。以上だ。プリムには悪いが、この国にいる間は、ここで大人しくしておいてくれ。マイ、こいつを頼みたいんだが」

「わかりました。お任せください」

「プリム、ちょっと」


シンが『不別の指輪』を重ねるように、プリムの手を掴んだ。魔力を注いで、爆発タイマーをリセットした。そして、部屋を出て行こうとする。


「に、兄さん、待ってください。まだ話は」

「この国での俺のことはマイに聞いてくれ。マイもプリムに聞きたいことがあったら聞いといて」

「わ、わかりました」

「了解しました。ちょうど、『兄さん』というのが気になっていたところです」


プリムは困惑、マイは好奇心を表に出していた。2人を置いてシンは部屋を出て行った。

プリムは2人っきりにされて戸惑っていたが、どうしても気になっていたことがあった。それを聞いてみることにした。


「あの、兄さんが兵士と思われる方に裏切り者と言われた理由を聞かせてくれませんか?」


マイが目を見開いて驚いた。


「そうですか、話していないのですね。シン殿が私に聞けといったと言うことは、話していいのでしょうね・・・・・・・」


マイが言いづらそうに、視線を彷徨わせる。それでもちゃんと話してくれた。


「シン殿は数年前、鬼の迎撃任務を放棄した後、すぐに有角族の味方をしてヤマト国の部隊を壊滅させたことがあるのです。それ以降、裏切り者と呼ばれています」

「え?」

「もちろん理由があってのことです。あの頃に、ヤマト国と有角族が事を構えるのが得策ではなかったのです。ですが、ヤマト国の町が有角族に襲われていて、ヤマト国側も怒り心頭で部隊を出しました。その部隊をシン殿が潰したんです」


聞いた話では、かなり悲惨なことになったと聞いている。プリムに聞かせないために、あえて口にしなかったが、その部隊は全員死んだらしい。


「王はシン殿を許しましたが、周りは周囲は彼を許しませんでした。それからしばらくして、シン殿はこの国を去りました」

「そんなことが」

「シン殿は有角族とのいざこざをすべて背負ってくださったのです。この話はこれくらいにしましょう。次は私のが質問していいですか?」

「なんですか?」

「どうして、シン殿を『兄さん』と呼ぶのですか?」

「えと、それはですね・・・・・・」


その後2人は、質問と回答を互いに繰り返して、現在と過去のシンについての情報を交換した。


その頃、グンダーラ王国に残された8人は適当にいている喫茶店に入った。そして店内で一番大きなテーブルにつく。

現在この集団が出す空気は重い。ライラ、マナ、カナに関しては泣きそうになっている。先ほどリーダーシップは発揮してシンの行き先を聞き出したサリナが、皆に激を飛ばす。


「皆まだ終わりじゃないわよ。さてこれからどうするかですが、何か案はありますか?」

「これからって?帰るしか無いじゃん」


ちょっとイライラしているミュリンのその言葉を、サリナが否定する。


「いいえ、追いかけるという選択もあります」

「駄目って言われたじゃん」

「知りません」

「いや」

「知りません」

「でも」

「知りません。あんの怠け者」


冷静に振舞っていたサリナは、内心ではシンに対して激怒していたらしい。


「ライラ、どうするんですか?」

「私は、・・・・・でも、シンさんは・・・・・・来るなって」

「ライラはどうしたいんですか?」

「・・・・・追いかけたい」

「なら、行きましょう」


珍しくサリナが熱い、チームメイトのミュリン、ライラ、ジルがポカンとしている。


「サリナがそこまでぐいぐいくるのは珍しいわね」

「そう、ですか?わたしもシンさんのこの行動が気になっているのかも知れませんね」


普段の怠け者のシンを知るサリナには、シンの行動は不可解だった。何らかの話を聞いたその日に即行動。サリナにはシンが進んで行動したのは、ランクA以上の魔物と戦うときくらいだった。それにあそこまで余裕を無くしたシンを見たのも初めてだった。


「私はヤマト国に行きます。皆さんはどうしますか?」

「私はシンさんに話を聞きに行きたいです」

「私も行く」

「まあ、皆が行くなら俺も行くよ」


チーム『ブルーバード』は全員でヤマト国に行くことに決まった。


「私は仕事がありますので、クルセウスに戻ります」

「私達も果樹園の手伝いがあるので行けないです」


ケイトは淡々と仕事があると言い、マナがちびっ子三人の意見を口にした。

結果、チーム『ブルーバード』のサリナ、ライラ、ミュリン、ジルの4人はヤマト国に行くことに、マナ、カナ、キリ、ケイトの4人はクルセウスで仕事があるため、クルセウスに戻ることが決まった。


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