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技術使い  作者: 中間
二章:侍と鬼山
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3話

シンはコーネリアの案内で、王宮にほとんど審査も無く入城を許された。王宮に来たのはシンだけだ。おいそれと部外者を入れるわけにはいかないし、元々呼びつけた王族が用があるのはシンだけだ。他の奴らは今頃食事を終えた頃だろう

王宮の通路は、大国の品位を失わないほどに豪華なつくりだったが、無駄に金をかけている感じでもなかった。通路は共用で使う場所だからだろう。コーネリアに先導されて、ニーナ王女の部屋の前に連れて行かれた。


「姫様、シン連れて参りました。」

「入って」

「失礼します」


コーネリアが先に入る。


「やっと来たわね。今まで何してたのよ。いつまでたっても鈍臭いわね」


シンを辛辣な言葉で出迎えたのは、10歳くらいに見える小柄な少女だった。シンと同じくらいの年齢だったはずだから、これ以上の成長はあまり期待できないだろう。童顔で銀髪を腰まで伸ばし、左右でおさげにした髪を縦巻きにカールさせている。

その少女は執務机に座り、書類を手にしていた。シンが部屋に入るとその書類を机に置く。

こいつが来るのが遅れて泣いてたとか無いな。


「いつまでに来いとかの指定はなかったからな」

「普通は王族が呼ぶのに時間を指定する必要なんてないのよ。召喚状で門を通過したくせに、最初に私のところに来ないのがおかしいのよ」

「そう言われてもなあ。腹が減ってたんでな。今も減っているが」


シンにはまったく悪びれる様子もない。ニーナ王女も首を振って呆れているだけで、それほど怒っているようには見えなかった。


「・・・・・はあ、まあいいわ。ところで、どうして雲隠れしていたの?」

「金も貯まったから、戦いから身を引きたかっただけだよ」

「それだけの力があるのなら、社会に貢献するべきよ」

「ご高説ごもっともだが、俺の自由だ。それに昔ので懲りたんだよ。そういう話なら帰らせてもらう」

「ちょっと待ちなさい。来て数分もたっていないでしょ。もう、コレなんだかわかる?」


そう言ってニーナ王女が一枚の羊皮紙を取り出してひらひら揺らす。借用書だ。しかも俺名義の。ニーナ王女が得意気に羊皮紙を見せびらかす用にひらひら揺らす。


「なんでお前がそれを?」

「フフフ。さすがにギルドマスターのアルフレッドと運輸で活躍するライアンでも、勝手に金貨250枚も使って、部下から突き上げを食らっていたみたいだったから。私が金貨150枚ほど肩代わりしてあげたの」

「なんでそんなことを」

「決まっているでしょ、あなたに命令するためよ」

「・・・・・・」


シンが眼を細めてニーナ王女を冷めた視線を送ると、ニーナ王女の態度が一転して弱気になり、慌てた様子で付け足した。その様子はシンに恐怖を感じたというより、シンに冷たい視線を向けられるのに耐えられないっという感じだった。


「べ、別に強制しようとかじゃなくて、話くらいは聞きなさいよって意味よ」

「・・・・・話だけなら」


シンの答えに、安堵するニーナ王女。


「で、用件は?」

「そう焦らなくてもいいでしょう。ちょうど休憩するつもりだったし、その、お、お茶でもどうかしら?」

「まあ、飯も結局食えなかったからな。いいぞ」


シンの答えを聞いたニーナ王女の顔が一瞬笑顔になり、すぐにすました感じで手元のベルを鳴らす。コーネリアはニーナ王女の微笑ましいとでも言いたげな表情を向けていた。ベルを鳴らしてすぐメイドが二人入ってきて、テキパキとティータイムのセッティングをする。室内の丸テーブルに三人分の紅茶の用意が終わるとニーナ王女はメイドを下がらせた。

シン、ニーナ王女、コーネリアの三人は丸テーブルに移ってティータイムに入った。

ニーナ王女は紅茶好きで知られている。たまにしか紅茶を飲まないシンにも、ニーナ王女が用意させた紅茶はとてもおいしく感じた。

今飲んでいる紅茶は、ニーナ王女自らブレンドしたもので、使われている茶葉の種類は、用意をしているメイドすら知らないし、調べることも禁止されている。このブレンドティーは、ニーナ王女が信頼を寄せる相手にしか振舞わないのだが、そんなことシンが知る由も無かった。

それを知るコーネリアが複雑な心境で紅茶を飲みながら、隣のシンに険しい視線を送る。その険しい視線には様々な感情が見え隠れしていた。


「おいしいな」


シンはそんなことに気づかずに紅茶の感想を口にした。


「そ、そう」


シンの感想にニーナ王女の顔が綻ぶが、シンはそれに気づかなかった。シンは丸テーブルの中央に置かれている紅茶と一緒に出てきたクッキーを摘む。こちらもおいしい。シンが中央のクッキーに手を伸ばした時に、ニーナ王女がシンの指についている『不別の指輪』に気づいた。


「あ、あなた、いつの間に結婚して・・・・・・」


ニーナ王女が強いショックでも受けたかのような反応を見せる。


「ああ、コレは違う。ちょっとした事故でな、外せなくなったんだよ。知らなかったのか?」

「近況は直接聞きたかったから、資料は途中で、ってそんなことより、事故って?」

「説明してもいいけど、面倒だな~」

「話して」

「じゃあ俺の頼みを1つ聞いてくれるなら話す」

「頼みの内容にもよるけど、いいわよ」


実を言うとシンは、モルデル侯爵とした約束をまだ遂行していなかった。シンの言った王族の知り合いとは目の前のニーナ王女のことで、シンから連絡するふんぎりがつかなかった。良い機会だからこの場でお願いしてみることにしたのだ。

シンはプリムを助けたことから始まった、『不別の指輪』、キルマイア王国との悶着などの話を色々省略したり、すっ飛ばした感じで説明した。元々諜報機関からいくつか情報を得ていたニーナ王女は、そこから保管して大まかな流れを把握することができた。一緒に聞いていたコーネリアは情報が無いことと考えることが苦手なため、半分くらいしか理解できなかった。


「同棲しているとは、聞いていましたが、そんな理由が・・・・・(よかった)」


密かにニーナ王女が安堵した。


「そろそろ用件を聞かせてくれないか?」

「わかったわ。ちょっと言いづらいんだけど、シンにヤマト国に特殊戦力として行ってほしいのよ。あそこ浄化戦をするで」

「断る」


突然シンがニーナ王女の話を遮る。いつもとそう変わらない声音だったのに、強い意思を持って拒否された気がした。


「・・・・・どうして?ヤマト国に住んでいたことがあるでしょう。適任だと思うのだけど」

「そこまで知っているなら、俺がヤマト国で何て言われているのか知っているんだろ」

「知らないわ。なんかムカつく報告が多かったから、途中で聞くのをやめの」


ニーナ王女は、お抱えの諜報機関にシンのことを調べさせたことがある。自国のグンダーラの報告、キルマイア王国の報告、それ以外の多くの国の報告でも、シンは浄化戦に参加していたり、盗賊を征伐したりと、基本的に善行を働いているものばかりだった。そして唐突に行方をくらませている。

ただ、ヤマト国の報告だけはシンが悪人のように記されていた。それにムカついたニーナ王女は報告書を途中で閉じてしまったのだ。


「どうしても駄目?」

「行きたくない。それに俺が行かなくてもあそこには、キリツグがいるだろ」

「キリツグってヤマト国の皇太子よね」

「あっちでは皇太子とは言わないが、間違ってはいないな」

「・・・・・あなた知らないの?そのキリツグが死んだから、浄化戦なんて大事になってるんじゃない」

「・・・・・・え」


シンは頭の中が真っ白になった。言葉の意味を理解できない。脳が理解を拒否していたのだ。


「どうしたの?」


シンが動揺していた。ニーナ王女はシンがここまで動揺しているのを始めてみた。震えた声で確認してくる。


「誰が死んだって?」

「だからキリツグよ。ね、ねえシン大丈夫?」

「・・・・・・」


シンは黙り込んだ。

キリツグ、ヤマト国の次代の王になることを周囲に望まれた王の息子。剣の達人で幼少の頃から魔物と戦っていた。AAランクの実力者だ。そうそう遅れを取るような奴じゃなかったはずだ。


「あいつが死んだ?なんで?」

「シン、顔色が悪いわ。この話は少し時間を置きましょう」

「待て!」

「待たないわ。ちゃんと後で話すから、気持ちを落ち着かせて」

「・・・・・・わかった。ただコレだけは答えてくれ、あいつはどうやって死んだ」

「有角族を守って死んだそうよ。死体はなんとか回収できたらしくて、数週間前に葬儀が行われたわ。それじゃあ少ししたら戻るわね。コーネリアついて来て」

「は、はい」


ニーナ王女とコーネリアが部屋を出て行った。

部屋に一人っきりになったシンは、キリツグのことを思い出していた。

シンがヤマト国に居た頃は、ヤマト国がある島ではヤマト国、有角族、鬼が三つ巴の戦いを繰り返していた。ヤマト国は統一ができたばかりで、一枚岩ではなかったし、反発する者も多く不安定な情勢だった。

そんな中、シンは歳が近いこととその腕を見込まれ、王の嫡子であるキリツグやケイジ、それとコユキ姫の護衛兼遊び相手を務めることになった。シンが十歳くらいの頃の話だ。

シンは三人全員と仲良くなったが、特にキリツグと仲良くなった。ケイジは本を読むことが好きで一人になることが多かったし、コユキ姫はまだ幼かった。

キリツグとは、一緒に魔物と戦ったり、一緒に稽古したり、一緒に王様に怒られたりしていた。兄弟のように思うこともあった。

シンにとって唯一親友と呼べる相手、それがキリツグだった。そのキリツグが死んだ。


ニーナ王女とコーネリアが出て行った部屋で、シンはひとり静かに涙を流した。シンは初めて大事な者の死を経験だった。



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