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技術使い  作者: 中間
二章:侍と鬼山
20/23

2話

アルフレッドに王都に行くように頼まれた次の日の朝。

シンは眼が覚めてもなかなか動こうとしなかった。というよりベッドから出たくなかった。とんとん拍子で話が決まってしまい。今日の午後王都に出発することになったのだ。


「はあ~」


天井を見つめたまま、ため息を吐く。顔を横に向けると白い猫耳が視界に入った。少し視線を下ろすとライラがスヤスヤ寝息をたてていた。寝顔があどけなくて可愛らしい。

服装は寝巻きではないので、二度寝のようだ。観察していると目の前で猫耳がピコピコ揺れた。

シンは手を伸ばして猫耳を掴んでモミモミしてみる。気持ちいいなあ。


「う、う~ん。あっ、おはようございます」


猫耳を触っているとライラが眼を覚ました。


「なんでここで寝てるんだ?」

「その、いい匂いだったのでつい」

「・・・・・まあいいが」


そう言ってシンは猫耳から髪を撫で、頬に持ってくる。ライラはシンの手を自分の手で包み、えへへ~と嬉しそうに恥じらう。その時、部屋の扉が開かれた。


「ライラさん、何しているんですか?シンさんを起こすのにどれだけ時間を・・・・・・・本当に何をしているんですか?」


入ってきたのはサリナだ。嬉しそうに恥らっていたライラを見たのだろう、剣呑な雰囲気を漂わせている。


「いや、なんでもない。今から行く」

「そ、そうよ。気にしないで」

「・・・・・はあ~、早く来てくださいね」


二人が言い訳すると、サリナはため息を吐いた後、一人先にリビングに向かった。その背を見ていると、突然頬に柔らかいものが当たる。ライラの唇だ。


「先に行ってますね」


頬を少し赤くしたライラが部屋を出て行った。ライラが出て行った後、その扉からプリムがこちらを涙目で睨んでいた。シンが無視して着替え始めると、シンの裸に驚いて慌てて引っ込んだ。

食堂に行くと、この時間に居るのは珍しい人物が三人いた。孤児院から朝早くにこちらに来たマナ、カナ姉妹と、孤児院の先輩であるキリだ。キリは転移珠が一人分余っていたので、マナとカナが誘ったのだ。


「シン兄、やっと来た。さっさと朝ご飯食べて」


キリがそう言ってシンを急かす。そのキリも王都が楽しみらしく笑顔が浮かんでいる。

朝食を食べ終わった頃、王都に行く残りのメンバーも到着した。サリナのチームメイトのミュリンとジル、それとギルドで働くケイトの三人だ。来る途中で一緒になったらしい。


「それじゃあ行きましょうか。シンさんに任せていたら、どんどん遅くなってしまうので、強制的に連れて行きましょう」

「しゅっぱーつ」

「さあさあ、お兄さん早く転移珠使ってくださいな。じゃないと皆が安心して王都に行けないじゃないですか」


他の奴らが行ってから、転移珠を使わずにすっぽかすのは無理らしい。

シンの周りをプリム、サリナ、ライラ、ミュリン、ジル、ケイト、マナ、カナ、キリが囲む。この10人が王都行きのメンバーだ。


「はああ、じゃあ、行きますかね」


シンは微量の魔力を転移珠に注ぎ込む。すると、転移珠が光を発して、シンを包み込んだ。光が消えたときには、シンは居なくなっていた。残りのメンバーも転移珠を使って、王都に転移する。


はずだったのだが、シンたちが転移した場所は、少なくとも王都ではなかった。少し離れたところに高い街壁(おそらく王都の街壁だろう)が見えるところで、それ以外特に何も無い場所だった。つまりここは王都の外なのだ。


「え~、転移珠で直接王都に行けるんじゃないの?ねえサリナ~」


ミュリンがサリナに説明を求める。


「王都の中に不審人物を簡単に入れないようにするためですよ。ですよねシンさん」

「ああ、もし王都内に直接転移したら、即効で警備隊が駆けつけて逮捕されるぞ」

「た、逮捕されるんですか?」

「毎月数人捕まっているらしい。故意かはともかくな。まあ、身分が証明できれば、三日ぐらいで出られるんじゃないか」

「は、はあ、それじゃあ気を取り直して王都にレッツゴー」


それから30分後


「やっと着いた~~~」

「これ、くらいどうってこと、はあはあ、ないわ」

「ふう~~キリちゃん、息あがってるよ」

「マナもね」


子供達がちょっと疲れ気味だった。あれだ近いと思ってはしゃいでいたら意外と遠くて体力が持たなかったのだ。王都は中も広く、城までかなりの距離があるのだが、大丈夫だろうか?いや王宮には入れないだろうからついて来る必要はないか。どこかで休憩するか、もうお昼も近いし、ここは甘味も豊富だ。


「思ったより時間がかかりましたね?転移した場所から、そんなに離れているようには見えませんでしたが?」

「王都の街壁がでかすぎるんだ。それで遠近感が狂ったんだろ」


ケイトが不思議そうにシンに訊ねると、シンが街壁を見上げながら答える。王都の街壁は、10メートル以上の分厚い石造りだった。他の国では類を見ないほどの高さだ。

ケイトも納得の高さだった。この街壁が、商業大国の都市をグルッと囲っているのだ。建造は並み大抵の労力ではなかっただろう。

外壁には大門が東西南北の四箇所に作られていて、多数の兵が外壁内の屯所に詰めている。シン達はさらに街壁沿いにもう少し歩いて、東門から王都に入ろうとする。


「ちょっと待て」


すると門番をしていた兵に止められた。プレートアーマーを着て、斧槍ハルバートを携えている。他にも多数の兵が確認できた。


「何か身分の証明できるものはあるか?」


そう言われて、サリナがクルセウスの住民証明書を出す。兵士がそれを見た後に頷いて、住民証明書を返してくる。


「ご協力感謝します。あちらに女性の兵がおりますのでそちらで身体検査を受けてください。その後いくつかご質問に答えていただくことになります。他の方は何か証明できるものはありますか?」

「ちょっと待ってくれ」


シンが慌てて止める。身体検査や、質問に答えるなんて面倒なのはごめんだ。


「何でしょう?」

「これ」


シンが召喚状を渡した。王族からの召喚状だ。その兵士は、最初訝しげに召喚状を眺めていたが、上司と思われる兵士に話を伺いに行って戻ってくると


「どうぞお通りください」


審査などをパスして王都に入ることができた。王女の召喚状の万歳だな。王都に来たのもこの召喚状の所為だが。

王都は東西南北の門から大きな道が都市の中心に伸びている。その中心にお城が建っている。城の周りは街壁の1.5倍くらいの高さの城壁に囲まれている。出入り口は北と南に門がある。

建っている建物のほとんどで何らかのお店をやっている。普通の商店から飲食店、宿泊施設など様々なお店がある。大小様々な市場も各所で開かれており、小さな国が買えるくらいのお金が毎日動いていると噂されるほどだ。

王都の中心地の方が高価な物や上等なサービスが多くなる。建物も高くなっていくので、街壁の上から見ると円錐のような形にも見える。

王都の街並みを上空から見ると、お城を中心に三段階に円で区分けされている。さらに内側を4つに、真ん中を8つ、外側を12つに区分けされている。お城と地下街5区を入れて、王都は全部で30のブロックで構成されている。内側はA1~4区、真ん中はB1~8区、外側はC1~12区、地下街はD1~5区、お城はS区と名付けられている。

とにかく人が多い、シンが辟易とする中、他の奴らはキョロキョロ見回していて、いつまでも歩き出さない。まあ無理も無い、ここは余程の物でないかぎり、何でも買える街だ。当然珍しい物も多い。

サリナは来た事があるらしいが、そう何度も来てはいないだろう。自発的に動くしかないようだ。


「はぐれたら大変だから、気をつけろよ。もし迷子になって合流できそうに無いときは、この大通りに出て門まで戻って待ってろ」

「「「は~い」」」


いい返事が返ってきた。


「よし」

「お城ですね!」

「飯にしよう」


意気込むサリナに、シンが気の抜けた提案をする。反対意見は出なかった。お昼が近いことと、予想外の移動で皆おなかが空いていたようだ。

シンたちは東門エリアのC5区から、飲食店の多いB3区に移動した。

適当な飲食店に入る。B3区は中級層なので、変な店はまず無い。10人という大所帯なので、二つのテーブルをくっつけた席に通された。テーブルについて、メニューを見て各々好きな物、興味を惹かれた物を注文する。

数分後、良い匂いのする料理がテーブルに並んだ。


「「「いただきま~す」」」

「「「いただきます」」」


それぞれ自分が頼んだ料理に口をつける。


「おいしい~」

「うまいな」

「お兄ちゃん、これおいしいですよ」


マナがグラタンをシンにあ~んする。それぞれ好みの物を頼んだので外れは無かったようだ。


「本当に王都は人が多いんだねえ」


ミュリンが店の外を見ながら言う。外の通りを大勢の人が行き交っていた。

ん?

シンが外の通りに異常者を見つけた。外套をすっぽり被っていて顔が見えない。胸の盛り上がりで辛うじて女だとわかる程度だ。それだけならまだいい。不気味だがいい。問題は手に持っている物だ。手に持っているのは抜き身の長剣だった。

外套の女は、店内をキョロキョロ見回す。一瞬視線が合ったと思ったら、外套の女がこちらに近づいてくる。そしてテーブルを挟んでシンの反対側に来ると、突然剣を振り下ろした。

テーブルが真っ二つに割れ、乗っていた料理がぐしゃぐしゃになる。シンと同じ席に座っていた。ライラ、ミュリン、マナ、カナが悲鳴を上げる。

シンは太刀筋で女の正体がわかった。


「コーネリア、やりすぎだ」

「王都に来たなら、姫様に会うのが先だろう!」


相当怒っている。


「腹が減ったんだよ。というかテーブルとかお前が弁償しろよ」

「う、うるさい!さっさと城に来い。さもないと今ここで叩き切るぞ」

「いや弁償は大事だろ。少なくともこっちの四人は完全なとばっちりだし」

「わかった!後で私が弁償しておく!そっちの4人も申し訳なかった!だからお前はすぐに姫様の所に来い!腹立たしいことに姫様はお前が来るのを楽しみにしているんだ。さっきなんか王都に来た知らせがあってから中々王宮に来ないから、不安なって泣きそうになっていたんだぞ」

「泣く?」


それが激怒の理由か、でもあの王女が泣くのが想像できなかった。


「い、言い間違えた。どうやってお前を泣かすか考えておられた」

「おい!!今いっきに行きたくなくなったぞ」

「あ、あの~」


シンの外套の女が言い争っていると、ライラが話しかけてくる。


「なんだ?」

「なんです?」

「えと、そちらの方は?」


ライラがおずおず外套の女の招待を訊ねてきた。


「ああ、こいつはコーネリア、ニーナ王女の専属騎士だ」


シンが紹介すると、コーネリアは外套のフードの部分を脱いだ。出てきたのは少しつり上がり気味の目元と肩まで伸ばした栗色の髪が特徴の、気の強そうな相貌の美人だった。


「お騒がせして申し訳ありません。ニーナ王女殿下の騎士、コーネリア・ルブランドです」


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