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技術使い  作者: 中間
一章:技術使いと元王女
2/23

1話

シンとサリナは市場からギルドに向かい、そんなに時間もかからずにギルドに着いた。

ギルドの外観は、レンガ造りで広い出入り口の上に『ギルド・青竜の爪』という大きな看板が掲げられている二階建ての建物だ。

シンとサリナは、ギルドに入る。

ギルドの一階は一つ大部屋になっていて、長いカウンターが部屋を二つに分けている。出入口側に『メンバー』が、反対側にギルド職員がそれぞれ動き回っている。カウンターには窓口が8つあり、それぞれにギルド職員の受付嬢が一人か二人就いている。『メンバー』は、そこで依頼の受注や、報酬の受け取りなどをすることができる。

依頼は大きな掲示板に、ランクごとに貼り出されている。掲示板に張り出されている依頼は、『ギルド・青竜の爪』に所属している『メンバー』なら誰でも受けることができる。依頼と所属している者にはクラスがあって、上からS、A、B、C、D、Eクラスまであり、クラスの中にA、AA、AAAランクとさらに三段階ある。Eが最低ランクで、SSSが最高ランクだ。基本的にBランク依の頼を受けるのには、Bランクの『メンバー』3人以上が望ましい。

ちなみに依頼を遂行するのが『メンバー』、ギルド内の事務を取り仕切るのがギルド職員だ。ギルド職員は受付嬢は二十代前後で、それ以外は30代から40代が多い。『メンバー』は、10代と20代が多かった。これは昔大きな戦争があり、当時の人間は戦いを避けている傾向があるためだ。一応『メンバー』にも、30代、40代の者は少ないが何人かいる。

ギルド職員は、男と女の違いこそあるが似たような青い制服だ。『メンバー』は、各々好きな格好をしている。法衣を着た者や皮鎧を着た者、甲冑を着て大盾を持つ者と様々だ。持っている武器も剣、斧、銃、杖など色々なものを持っている。ギルド職員は女性が多く、『メンバー』の男女比は同じくらいだ。ギルドの依頼には戦闘力が必要なものが多いから、男のほうが多くなりそうなものだが、男は兵役についていたり、家督を継ぐために家の仕事を手伝ったりしているので、意外に数が少ないのだ。そのため男女比が同じくらいになっている。


シンとサリナはカウンターには向かわずに、部屋の右端にある階段に向かって歩き出すと、ギルドに居た『メンバー』の何人かが、シンに鋭い視線を向けてきた。彼らの中のシンは、サリナを利用してマスターに取り入った、ということになっている。

シンがほとんどギルドの依頼を受けないが原因だ。『メンバー』でありながら依頼を受けもせず、いつもダラダラしているのに、マスターと懇意にしているので疎まれているのだ。あとシンが若いのも誤解の原因の一つになっている。高ランクの『メンバー』なら、マスターに会うのも不思議ではないのだが、シンはまだ20歳ぐらいで、いつもやる気がなさそうで、まともな武器も持っていない。とても高ランクには見えなかった。はっきり言って弱そうだった。彼らは、自分達はこんなにギルドに貢献しているのに、なんであんな奴がマスターと、っと思っているのだ。まあ、要するに嫉妬されていたのだ。

それは間違いで、依頼は受けているし、ランクもかなり上なのだが、シンは面倒がって誤解を解こうとしなかった。かといって普段から、忙しいギルドマスターが誤解を解くとなると、個別に誤解を解く時間は無いので、たくさんの『メンバー』をギルドに集めて誤解を解くことになる。『メンバー』一人のためにそんなことをすれば、それは特別扱いになってしまい逆効果になりかねない。

利用されていることになっているサリナには、あまりその話題が入ってこないので、サリナにはそもそも誤解を解く機会があまり無い。それに騙されていることになっているサリナの言葉は、あまり信じてもらえないらしい。実害が無いし、サリナもシンに対しては不信感を持っていたので、サリナも誤解を解くのを諦めてしまった。なので誤解はずっと放置されたままになっている。長い誤解は彼らの中で、当たり前のことになり、シンに対して敵意を向けること自然だと思っいる。

シンはその敵意の視線を無視して、二階に向かった。


二階は、一つしか部屋が無い一階とは違い、部屋がたくさんある造りになっている。二人はその中の一つであるギルドマスターの執務室に向かい、扉をノックする。


「どーぞ」


中から返事があったので、シンとサリナは扉を開けて入室した。


「よっ、久しぶり」


「シンくん、よく来てくれた。サリナもありがとう」


二人を迎えたのは、若い男だった。記憶が正しければもう40を過ぎたはずだが、見た目は20代後半に見える。サリナより少し濃い水色の髪を肩まで伸ばした美男子だった。白いスーツ姿で椅子に腰掛けている。ギルドマスターのアルフレッドだ。


「後はご勝手にどうぞ。」


サリナが不機嫌そうに部屋を出ようとする。

シンとアルフレッドが話をするとき、サリナには外に出てもらっていた。そのことがサリナには不満だった。しかし、今日はいつもと違い、アルフレッドがサリナを呼び止めた。


「サリナ、待ってくれ。今日は一緒に話を聞いてくれ」


「・・・・・いいのですか?いつもは、部屋を追い出すのに。」


サリナの返事に棘を感じる。サリナは今まで何度も部屋を追い出されていて、不満がたまっていた。


「内緒話が気になっているのだろう。」


「それは、もちろん気になります。」


シンさんは父に対して軽い感じで話すし、父もシンさんを対等に扱っている。世間ではバーミア地方領主と同格扱いされるギルドマスターの父と、その父が対等に扱うシンの会話をサリナが気になるのは、当然といえば当然だった。普段、父に会いに来る偉い人でもガチガチに緊張していることも珍しくないので、サリナはいつも不思議に思っていた。


「そうだろう気になるだろう。といっても今日の話はサリナにも関係がある。シンくんが誤解されている件だ。」


「俺がお前に取り入ったってやつか。別にいいんじゃないか、ほっといて」


シンがソファーにだらけるように座った。


「そうもいかないのだ。問題が起こってからでは遅い。君についての陳情がいくつか上がってきいている。中にはシンくんをギルドから除名しろとまで、書いている者まである始末だ。誤解を早く解くためにも、当事者のサリナに聞いてもらった方がいい。そこで、シンくんのことをサリナに少し話したいのだが、いいかな?」


シンが、立ったままのサリナを凝視する。少し黙考してから、シンはOKを出した。


「まあ、いいんじゃないか」


「ありがとう。さっそく話を始めよう。サリナ、唐突だが大戦のことは覚えているか?」


「はい?」


突然の話題の展開に驚くサリナ。


「だから大戦だよ。覚えてるかい?」


アルフレッドに急かされて、サリナは昔のことを思い出して答える。


「まあ、少しだけ。大人達がピリピリしてて、山に逃げたのと、町がボロボロになっていたのくらいしか。」


「お前はまだ小さかったからね。それだけ覚えていれば十分だよ。」


大戦とは、今から30年前に始った長い戦いのことだ。最初は当時最も力を持っていた三つの大国同士の、統制の取れた戦争だった。しかし想定外のことが起きた。その戦争中に三つの国の国王が連続で崩御したのだ。さらに当時の権力者は、戦争中にもかかわらず権力争いを始めた。軍は国からの指示受けることができなくなり、勝手に作戦行動をするようになった。他にも様々なことが重なって、本来無関係だったはずの他国にも戦争は伝播していき、世界のいたるところで大きな戦争と小さな戦争が乱立した。戦いと無縁だった人は世界中にいなかったのでは、というほどの大規模なものなった。

その結果、多くの人が死に、いくつもの国や町が地図から無くなり、そしていくつかの新しい国ができた。その大戦が一応の終戦を迎えたのが今から10年ほど前だ。戦いは始まりと終わりを繰り返しながら20年もの間、戦争は続いたのだ。

終戦のきっかけは、どの国も兵士が減り、子供を戦争に駆り出すしかない、というところまで来ていた時、一つの国が魔物の大群に襲われ滅ぼされた。この魔物の襲撃が終戦のきっかけになった。

20年という長い戦争で戦える者が減り、人の住んでいないところが増えた。その結果、人がいない地域で魔物が異常増殖し、大量の魔物が生息する地域、『魔窟』ができていたのだ。『魔窟』で魔物はさらに数を増やしていき、溢れた魔物が住処を求めて国を襲い、滅ぼしたのだ。この時になって、ようやく人は人同士の争いを止めた。

しかしこの頃には、『魔窟』はすでに世界中のいたるところにできていた。現在、各国は『魔窟』の対策と国の復興に力を入れている。大戦は『魔窟』という課題を残して終結したのだ。


「それがどうかしたのですか?」


サリナは大戦のことを思い出しながら首を傾げる。大戦時、子供の多くは疎開していて、実際に体験した子供はほとんどいない。サリナも田舎で何も知らずに過ごしていた。それに大戦を体験した子供が、生きているとは思えないので、大戦がシンにどう関係するのか想像できなかった。サリナやシンの年代にとっては、『魔窟』のほうがなじみが深いはずなのだ。なのに、父は大戦・・と言った。それをサリナは不思議に思っていた。そこに父から、とんでもないことを言ってきた。


「シンくんは、大戦に参加していたんだ。」


「えっ!?ちょ、ちょっとまってください。その頃のシンさんって子供のはず。」


「そうだな。終わったのが十年前だから、実際に大戦参加していたのは6、7歳ぐらいのはずだ。どうだい、すごいだろう」


何故か、アルフレッドが得意気に語る。


「6、7歳って本当に子供じゃないですか・・・・・ほ、本当なんですか?」


唖然としていたサリナが、シンに詰め寄って問いただす。


「一応」


「しょ、証拠はありますか?」


「無いな」


「それでは、本当かわからないです。」


そう言って詰め寄っていたサリナが、シンから離れる。

十年前のことを証明する証拠なんてどんなのがあるのだろう?


「・・・・・まあそうだな。それでアルフレッド、本題は何なんだ?」


現実を受け入れないサリナのことは放っておいて、シンがアルフレッドに話を進めるように促した。サリナは、ムッとするが今は二人の話を聞くことにした。


「ああ、少し前に、隣のキルマイア国の王が変わったのだが、知っているかい?」


キルマイア王国とは、グンダーラ王国から南側にある隣国で、医術と薬術の盛んな国だ。キルマイア王国出身の医者は、どの国でも重用される。大戦時では、幾つかの国が医術と薬を求めて攻め込んだ。その戦いでは、軍医がとても活躍した国でもある。

キルマイア国は、シンがいるバーミア地方から近いのでいろいろ噂が入ってくる。王の変わった等の大きなこと話は、まず間違いなく流れてくるのだが


「知らん」


シンは即効で知らんと言い切った。当たり前のようにシンが言うので、アルフレッドとサリナは、呆れるのを忘れてしまった。


「まあ、シンくんならそう言うと思っていたよ。そこでなんだが、新しい王が即位する時に色々揉めたらしくてね。隣国は今かなり不安定な状態になっている。『魔窟』も活発になってきている。ここ最近きな臭くていけない。終戦から10年がたって、馬鹿をする余裕ができてきたのか、大戦を知らない若者が好き勝手し始めたのかはわからないが、その内いろいろ頼むかもしれない。」


「つまり、火消しか」


大事になる前に、潰せということだろうな。簡単に言うがそれって、単純に戦うより面倒なんだよな~。


「まあ、そんなところだ。もう戦争なんて起こさせるわけにはいかないからね。今は『魔窟』を無くすことが先決だ。」


「確かにな。まあ、俺も戦争は二度とごめんだが、できるだけ他の奴らで対処してくれよ。面倒事はごめんだ。」


「ああ、わかっているよ。」


そう言って、アルフレッドはにっこり頷いた。一応了承はしているが、長い付き合いだからわかる。あの顔は面倒事を頼んでくる気満々の顔だ。シンは内心でため息を吐く。


「それだけなら俺は帰るぞ。」


「待ってくれ。もうひとつある。」


「なんだ?」


「好きな人はいないのかい?」


アルフレッドが悪戯っぽい顔で、そんなことを言ってきた。


「は?」


あまりに変なことを言うので、素っ頓狂な声を出してしまった。


「ほら、大戦の所為で人がかなり減っただろ。今では市民にも重婚が許される世の中だ。で、好きな人はいないのかい?」


「なんで俺にそんな話を」


「重婚が許されるといっても、実際のところ経済的に難しいだろう。でも君なら、経済的に余裕だろうし、複数の女性を相手にすることもできるだろう」


「なんでそう思うのか、わからないんだが。」


シンは呆れた表情を浮かべて言うが、アルフレッドはこちらの言葉は無視して、さらにとんでもないことを言ってきた。


「サリナなんかどうだい?」


「な、なな、なにを!?」


いきなり嫁候補に上げられたサリナが、動揺して面食らう。シンも何も言えないでいる。サリナが驚いている隙に、アルフレッドがサリナを売り込んできた。


「サリナは器量も良しで、将来性もある。さらに家事全般もできる。何より君の濃い青の『蒼雷』とサリナの水色の髪は絵になると思うんだ。まあ、胸はあまり無いが・・・・・」


その辺りで、サリナがアルフレッドの頭をぶん殴った。その顔は羞恥と怒りで赤くなっていた。


「少し黙ってください!」


頭を抑えて、机にうつ伏せになったアルフレッドに向かって怒鳴りつけた後、サリナがシンのほうを向いて、顔を見ると

カァァ

とさらに顔を赤らめて、顔を背けた。

とても居心地が悪くなったので、シンはひとまず逃げることにした。


「あ~~それじゃあ、俺帰るわ」


「痛たた。あ~、シンくん、なにかあったら、教えてくれ」


アルフレッドが頭を押さえながら、顔を上げて言ってきた。


「ああ、わかったよ」


シンは、そう言って立ち上がり、部屋を出て行った。



サリナは、シンがギルドから出て行くのを、二階の執務室の窓から確認すると


「父さん、さっきの話、本当なんですか?」


「本当だ。」


「シンさんって何者なんですか?」


「そうだな~・・・・・サリナ、バーミア地方は3年で、グンダーラ王国は5年で復興することができた。それは何故だと思う?」


アルフレッドがまた突然、娘にそんな話を振った。サリナは、困惑しながらも、自分達の過ごしている地方について考えてみる。


「それは、やっぱり皆が頑張ったからでしょう。」


サリナが優等生な答えに、アルフレッドは苦笑してしまう。


「どこも復興には力をいれているさ。その中で、この国の、特にバーミア地方の復興の早さは目覚ましいものがある。」


「知りませんでした。何故、早かったのですか?」


サリナは、ギルドがあるバーミア地方内からはあまり出たことがない。そのため、国全体についてはあまり知らなかった。


「まずバーミア地方についてだが、復興には理由が必要だ。王様のお膝元、交通の要所、何でもいい。さて問題です。この地方の良い所はなんでしょう?」


いきなりクイズ形式になった。明らかにこの父は楽しんでいる。無視するとこの父親は拗ねるので、仕方なくサリナはクイズに付き合うことにした。


「え~と・・・・・果樹園とか?」


「果樹園ができたのは5年前だ。果樹園は、どちらかというと復興の過程でできたものだな。」


「それでは何が?」


「もうギブアップかい?」


「さっさと答えを言ってください」


さすがに付き合いきれないので、サリナが全く笑っていない笑顔を浮かべた。


「わ、わかった。この地方の良い所、それはね、治安だよ。」


「治安、ですか?」


サリナが疑問系で言葉を繰り返す。確かに治安が避ければ、復興はスムーズに進むだろう。しかし、どういう意味だろう?これはシンの話だったはずだ。サリナの中ではシンと治安が結びつかなかった。


「そう、治安が良ければ人も物も集まる。特に十年前は何処もかしこも荒れていた。大戦で酷い目にあった者達には、この地方はとても魅力的に見えたことだろう。そして、治安を作り上げるのに大きな貢献をしたのが、シンくんなのだ。シンくんがこの辺りの盗賊や危険な魔物を駆逐してくれたおかげで、この町は早期の復興できたんだ。」


サリナは開いた口が塞がらなかった。


「次にこの国のことだが、この国は他国と比べて『魔窟』が極端に少ない。これもシンくんの特殊な移動術で各地を回り、シンくんをこの町がバックアップしたおかげなんだ。」


「・・・・・・信じられません。個人でどうにかなることなのですか?」


「シンくんには、それができる。ところで、シンくんの評価はどうなったのかな?」


「それは・・・・・」


シンさんがグンダーラ王国の復興に貢献したと言われてもピンと来ない。サリナにとってはバーミア地方以外は、気付いたら復興していたようなものなのだ。でも、それが事実ならシンは、この国に住む人達全員の恩人ということになる。


「・・・・・わかりません。すべて父さんから聞いた話でしかありませんから。これから私なりに見極めたいと思います。け、結婚相手ということはないですからね!」


そう言ってサリナも部屋を出て行った。サリナが部屋を出た後、アルフレッドはサリナの答えが望みどおりだったらしく、一人で満足そうに頷いていた。


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