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技術使い  作者: 中間
一章:技術使いと元王女
16/23

15話


シン、プリム、サリナが帰った後、ミュリン、ライラ、ジルはクルセウスで遅めの昼食を取っていた。


「シンさんに置いてかれた~」


その席でライラが、いじけていた。


「う~ん、なんだったっけ・・・・・」


ジルは、一人何かを悩んでいた。一人だけ普段どおりだったミュリンが、ライラを慰める。


「ライラ、小屋が狭いんだから仕方ないわよ。」

「う~ん」(←ジル)

「でも、折角シンさんのペット(従者みたいなの)になったのに、それにサリナはついて行った」

「う~ん」(←ジル)

「お兄さんもいつでも来いって言ってたんだし」

「そうだけど~」


ミュリンはライラの愚痴を聞いて苦笑する。あんなにお兄さんのことを嫌っていたのに、今では置いていかれたことで愚痴を漏らしている。変われば変わるものだな~、と思っていると、その隣でジルが


「う~ん」


とまた唸る。


「ジルさっきからうっさい!さっきからなんなの?」


ジルは店に入ってからずっと、唸っていた。正直耳障りだった。


「なんか引っかかってるんだよな~」

「だから何がよ?」

「・・・・・あっ、思い出した。なんで、あいつらプリムさんを連れて帰るって話だったのに、毒を使ってきたのが引っかかってたんだ。」

「は?」

「だって、さっきの話だとプリムさんが『再生術』が使える状態じゃないといけなかったんだろ。なのに、俺達を襲ってきた奴らって、致死性の毒を使ってただろ。だから不思議でさ」


確かにモルデル侯爵は、プリムを連れて帰ることを目的に話を進めていた。胸糞悪い話だったが、それはお兄さんが解決してくれた。


「連れて帰るっていうのが嘘だったんじゃない?」


いじけていたライラがそう言うと、ジルが


「でも俺達は毒のことを知っているんだから、今更殺意を隠す意味がわからん」

「も、もしかしてモルデル侯爵と山賊風の男達の黒幕は・・・・・別」

「それだ!」


お兄さん達は解決したことで、今は安心している。今何か仕掛けられたら、お兄さんでも危ないかもしれない。


「二人とも、お兄さん達のところにいこう」

「行く!」


お兄さんに会いに行くと聞いて、ライラが急に元気になった。状況に合った反応ではなかったが、まあいっか?

その後、すぐに三人はシン達を追いかけた。


お兄さんの小屋への道はこの前行ったばかりだから覚えてる。プリムが一緒だから移動は遅いはず、家につく前に追いつけるかも、と考えていたのだが、お兄さん達は中々見えなかった。お兄さんの姿が見えたのは、私達がお兄さん達が家に着いたのとほぼ同時だった。一足先に小屋に着いたお兄さん達が、家に入って行く。


「良かった。まだ」


ミュリンが安堵した時、シン達が入って行った家が爆発した。家は木っ端微塵に吹き飛んだ。あの爆発に巻き込まれたら、たとえSランクのお兄さんでも、無事ではすまないと理解できてしまった。


「・・・・・えっ、あ」


三人が呆然として、その光景を見ている。


「シン、さん」


ライラがその場に座り込み、涙を流した。その時、森から男が1人出てきた。

その男をミュリン達は知っていた。ミュリンがその男の名前を口にする。


「ガーラ・・・伯爵」


そこにはプリムの元先生であり、キルマイア王国の貴族でもあるガーラ伯爵が、ほくそ笑みながら燃える山小屋を見ていた。ミュリンに名前を呼ばれて、ガーラ伯爵は初めてミュリン達に気づいたようだ。


「うん?君たちは、プリムの後ろにいた。人がいるとは思わなかったよ。少々迂闊だったな。」

「これはてめえの仕業か!」


ガーラの言葉を聴いて、ジルが問い詰める。


「ああ、そうだが」


ガーラ伯爵はあっさり肯定した。


「なっ!?」

「どうして、あなたが、プリムの先生だったんじゃあ」

「順番が逆だ。軍事利用の話が先で、先生になったのが後なんだよ。私がプリムに魔術を教えたのは『秘術』を会得させ、軍事利用するためだ。」

「なっ!?あなたは!」


ミュリンの強い怒りを覚え、声を荒げる。


「まったく、この私自らが魔術を教えてやったというのに、あれは王宮から逃げるとほざいた。平民の分際で、恩を仇で返しおって、おかげで王宮での私の評価が下がってしまった。」

「な!?」


プリムの話を聞いて、プリムにとって王宮はとてもつらい場所だったのはミュリン達も知っていた。それなのに、軍事利用のために近づいたとはいえ、これが一番近くにいた者の言葉なのか、と耳を疑った。


「王宮はプリムにとって」

「どうでもいい。私の顔に泥をぬったのだから、死は当然の報いだ」


ガーラは傲慢の塊のような男だった。

(こんな男にシンさんが、私の主が)

ライラが立ち上がって、魔法陣を展開する。魔方陣の前に直径三メートルの氷塊ができあがった。それを見たガーラ伯爵は懐から魔符を取り出した。


「召喚『フレイムゴイル』」


ガーラ伯爵がそう発声すると、魔符から魔法陣が瞬時に浮かび上がり、魔法陣の中から炎を纏った悪魔のような魔物が現れた。体は人型で顔は尖った鼻面、長い尻尾と背中にコウモリのに似た翼を持つ。


「『飛氷山』!」


フレイムゴイルの召喚と同時にライラが『飛氷山』を放った。炎を纏った石像のフレイムゴイルが、口から大きな火球を吐き出して『飛氷山』を迎え撃った。

火球と『飛氷山』が、ぶつかる。結果は相殺。

ギガント・ゴーレム戦で使った『飛氷山』に比べれば小さかったが、それでも直径3メートルの氷ををフレイムゴイルはノータイムで迎撃した。


ライラは今ので敵わないことを悟り、顔に悔しそうに顔を歪める。それを見たガーラ伯爵が得意気に説明してきた。


「こいつはフレイムゴイル、ランク〔A〕の召喚魔だ。君らが勝てる相手ではないのだよ。フハハハハハ」


そう言ってガーラ伯爵が高笑いを上げる。ギガント・ゴーレムの件でAクラスの強さは身に染みている。ギガント・ゴーレムより1つランクが下とはいえ、ミュリン達が勝てないことは明らかだった。


「ミュリンとライラは逃げろ!ここは俺が食い止める。」


ジルが悲壮な表情を浮かべながら、ハルバートを構えて前に出た。

それを見たガーラ伯爵がニタァと笑って、さらに懐から魔符を二枚取り出した。


「召喚『ガーゴイル』」


ガーラ伯爵がさらに2体の召喚魔を呼び出した。フレイムゴイルに似ているが、炎は纏っていない。石像の召喚魔だ。ガーゴイルは背中の翼を一度羽ばたかせて、三人に襲いかかった。

ジルが防ごうとするがガーゴイル一体を止めるのが精一杯だった。もう一体のガーゴイルがライラとミュリンに襲いかかる。魔術師のライラを守るために、ミュリンが前に出る。だが、ミュリンのレイピアはガーゴイルを傷つけることはできなかった。スピードはなんとかついていけていたが、攻撃力も防御力も劣るミュリンは手も足も出ず、何度目かの攻撃を受け流し損ね、ミュリンは数メートル弾き飛ばされた。

そこでライラが『氷結波』を放ち、ガーゴイルの胴に命中させるが、無機物のガーゴイルには効果が薄く胴の表面が少し凍っただけだった。胴に氷を張りつかせたまま、ガーゴイルがライラに殴りかかった。

ライラは恐怖に目を瞑ったが、いつまでも衝撃は襲ってこなかった。

目を開けると、ガーゴイルの腕が半ばから切断され宙に舞っていた。


「シンさん!」


ライラが歓喜の声を上げる。ライラの目の前には、いつもと変わらないシンが刀を肩に担いで、ライラを守るように立っていた。


「シンさん、よかった。よかったよ~」


ライラがシンに抱きつく。


「お~よしよし」


シンが頭を撫でると、ライラは安心したように目を細め、白い猫耳と尻尾をうれしそうに動かした。


「お兄さん、良かった。でもどうして?確か小屋に入って」

「山小屋に入ったのは幻影だ。」

「でも、ドアを開けて中に」

「それも含めてだ。ちなみに俺達はサリナの『隠身』で隠れていた。」


そこにガーラ伯爵が、否定してきた。


「デ、デタラメだ。私は音拾いの魔法具で、お前達の声を確認していたんだぞ。幻影は視覚しか操作できないはずだ。」

「それもサリナに『音源転移』の術を使ってもらった」


シンがそう言うと、サリナとプリムが何もない空間から現れた。

プリムは悲しそうではあったが、落ち着いた様子でガーラ伯爵に視線を向けていた。

対照的にサリナは落ち着かない様子だった。その顔は上気し、息も荒かった。体に力が入らないのか座り込んでいた。誰から見てもサリナは発情していた。


「サ、サリナ、大丈夫?」


本当は裏切られたプリムの方が辛いはずなのだが、ライラはついサリナの心配をする。


「大丈夫、じゃ、はあはあ、ない」

「あー、実はな『幻影』、『隠身』、『音源転移』の3つに魔術を同時に使うのは、サリナの魔力量的に難しくてな。俺の『合力』を与えたんだ」

「あ~~」


ライラが納得の声を出す。

シンが使う『合力』は、練るのは難しいが、運用は比較的に楽だ。それに他者への貸与も容易で、貸与された側も楽に運用できるというハイスペックなのだが、催淫効果のようなものがある。貸与された経験のあるライラには、サリナが上気した顔をしているのが理解できた。

つまりシンの『合力』の貸与はこの一時的な仲間の強化することができるのだ。これは仲間の特徴を最大限に使えるという利点があるが、貸与した『合力』は数時間で霧散してしまうのと、馴れていないとサリナのように足腰が立たなくなってしまうのが欠点だ。


「何故わかった」

「暗殺者とモルデル侯爵は別口だと最初から思っていたからな。」


それを聞いて、シンが危ないと思ったことをミュリンは恥じた。やっぱりお兄さんは別格だ。


「そこにあんたが爆薬を大量に手に入れた情報を得たんでな、こうして待ち構えていた。黒幕に会えると思ったからな」

「何故私がここに来ると思った。部下が来るとは思わなかったのか」


確かに部下が来ていたら、この件の黒幕はわからずじまいだったが、シンは黒幕が来ると思っていた。


「モルデル侯爵と接触する前にプリムを殺そうとしたところから見て、国益云々ではなく、私怨だと判断した。折角近くまで来ているんだ。憎んでいる奴の最後くらいは、見に来ると思ってな。」

「ぐっ」


図星だった。そのためにガーラは大量の爆薬と音拾いの魔法具を準備したのだ。


「ぐっ、召喚『ガーゴイル』」


ガーラ伯爵は懐からさらに召喚符を二枚取り出して、ガーゴイルを2体追加した。


「こ、殺せ」


ガーゴイルは空高く飛び上がり、フレイムゴイルは低空を飛びながらシンに向かって突撃してくる。


「〔A〕ランクのフレイムゴイルと〔B〕ランクのガーゴイルが4体か」


シンは近くのライラを後ろに下がらせてから、腕の刺青を光らせて、『武器庫』から鎖を取り出し、フレイムゴイルに向けて放つ。鎖はフレイムゴイルに巻き付き拘束したかに見えたのだが、フレイムゴイルがの体が赤く光ったと思ったら、触れている部分の鎖が溶け出して、脆くなった鎖をフレイムゴイルが引き千切った。

フレイムゴイルはシンに向けて、口から小さな炎弾を吐き出す。シンが炎弾すべて避けたとき、フレイムゴイルが接近していた。シンが『刃雷』を纏わせた刀で胴を薙ぐが、フレイムゴイルの胴体に少し入ったところで、刀が折れてしまった。刀身が溶けて、脆くなってしまったのだ。

フレイムゴイルが赤く光った拳でシンに殴りかかる。鎖の盾でこれを受け、その反動を利用して距離をとった。そこにガーゴイル2体が、上空から襲い掛かる。シンはこれを地面を転がって避けた。

それを見たガーラ伯爵が高笑いを上げた。


「ふっ・・・・・ふはははは、いくら、Sランクでも相性が悪かったな。フレイムゴイルには半端な武器は通用し、おわ!?」


気持ちよくガーラ伯爵が喋っていると、フレイムゴイルがガーラ伯爵の前まで吹き飛ばされてきた。それを見て、ガーラ伯爵が驚く。ガーラ伯爵がシンの方を向くと、シンの手にはいつの間にか赤と黒の大槌が握られていた。シンが持っているのは『赤鎚せっつい』といって、不変の鎚だ。


「SランクとAランクには大きな隔たりがあるんだよ。今からそれを見せてやる。よく見ておけ。」


シンは赤鎚を右腕を前に出して、青い雷球を作り出した。そして、シンはその雷球を両手で包み込んだ。


「『蒼天雷装そうてんらいそう』」


次の瞬間、シンの身体が蒼い雷に包まれた。髪の色も青白く光り、まるでシンそのものが雷になったかようだった。周りがシンの変化に驚いていると、急にシンの姿がそこから消えた。ガーラ伯爵が周りを見渡していると、二つに切断されたガーゴイルが空から落ちてきた。


「な、なんだ、何が起こったんだ」

「だから言っただろ。よく見てろって」


声が上から聞こえてきた。蒼いシンが空中の鎖の上に立って、ガーラ伯爵を見下ろしていた。何てことはない『電歩でんぽう』を使って高速移動しただけだ。『電歩』は本来制御が難しく使い勝手の悪い移動術なのだが、『蒼天』モードのシンは『電歩』を自在に使うことができる。シンは1秒に満たない時間で上空のガーゴイル4体に接近して、雷のみでで形成した『刃雷』で両断したのだ。


「い、いけ!あいつを殺せ」


フレイムゴイルがシンに向かって飛翔する。シンはそれに対して『武器庫』から槍を取り出した。槍に雷を纏わせ、巨大な蒼雷の槍を作り出した。


「『蒼槍そうそう』」


そして磁力を使って高速投擲。雷の槍は、常人には目視できない速度で放たれ、フレイムゴイルの上半身を蒸発させた。下半身は地に落ちて砕けた。


「これでわかっただろう。自分が手を出した相手がどんな奴なのか」


シンはそういいながら、右手をガーラ伯爵に向ける。それだけで、ガーラ伯爵は恐怖で体をガクガク震わせる。ガーラ伯爵に向けた右手から、ガーラ伯爵に向けて放電した。雷はガーラ伯爵を取り囲むように、落ちて土煙を上げた。土煙が晴れた時、ガーラ伯爵は情けな表情を浮かべて、気絶していた。戦いは一方的な形で終結した。


「『蒼天雷装そうてんらいそう』解除」


シンがそう口にすると、体から雷が消え、髪も元にもだった。そして普段のやる気のなさそうなシンに戻った。そしてプリムの方を向いて


「本当に殺さなくていいのか?」


シンが少し離れたところにいるプリムに不満そうに尋ねた。雷を当てなかったのは、戦いに入る前にプリムに殺さないでくれと頼まれたからだ。


「先生が恩師であることに違いはありませんから」


そう言ってプリムが悲しそうに笑った。シンとしては、この手の奴は殺したほうが安心できるのだが、キルマイア王国の貴族を殺すと後々面倒になるかもしれないし、狙われている本人が見逃してくれと頼むので、仕方なく見逃すことにしたのだ。まあ、次は殺すが。


「さてどうするかね」


ガーラ伯爵の処遇に悩んでいると、森から声が聞こえてきた。


「ではそれは私が預かりましょう」


森からゴラン少佐が出てきた。ギルドでの話し合いの場で、モルデル侯爵に手を引くように進言してくれた男だ。

ガーラ伯爵が大量の爆薬を手に入れた情報をくれたのは彼だ。理由は簡単。


「あの時の恩返しが少しでもできれば幸いです。」


彼の言っていたシンが魔窟の浄化に協力したという戦場に、彼もいたのだ。

軍縮傾向にあったキルマイア王国軍は、軍の意見が分かれていたこともあって、軍は魔窟の浄化戦で窮地に陥っていた。そこにシンが参戦して、最終的に浄化は成功した。その時に、シンは覚えていないのだが、彼を助けたらしく。今回はその恩返しらしい。良いことはしておくものだ。


「それでは失礼します。」


そう言ってゴラン少佐は、ガーラ伯爵を担いで去って行った。

それを確認したシンは、


「終わった~~~」


シンはそう言って、倒れるようにその場に寝転がった。『蒼天』の力は絶大だが、燃費が悪い。だがこれでプリムの件には一応の区切りがついた。


「プリム、改めてこれからよろしく」


傍に来ていたプリムが、とてもいい笑顔で答えた。


「はい。末永くよろしくお願いします。兄さん」

「一先ず、クルセウスに戻るか、家吹っ飛んだし」

「はい」


シン達はクルセウスに戻って行った。


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