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技術使い  作者: 中間
一章:技術使いと元王女
13/23

12話


一人の男が獣道を走っていた。シンに一度は拘束されたが取引をして解放されたのだ。二人はそのまま人質として拘束されたままだ。

シンから持ちかけられた取引は簡単だ。残された刺客の二人と、カナの妹を交換する、というものだ。男は取引に応じたが、男は実際に取引するつもりはまったくなかった。

男は残りの仲間と合流して、人質の少女を使ってもう一度仕掛けるつもりだった。彼にとって、捕まっている二人のことはどうでも良かった。

獣道を進み、森の奥に来たところで男は立ち止まった。


「ここまで来ればいいだろう」


男は、口の中から、紫色の珠を吐き出した。これは『転移珠』といって、かなり値の張る魔法具だ。しかも使い捨て。『転移珠』は位置を記録して、そこに瞬間移動することができる。男が持っているのは、『転移珠』の中では、あまり質の良い物ではないが、ひとつの領地内程度なら何処へでもいける。

男が『転移珠』に魔力を注ぐと、『転移珠』光が溢れ出して男が光に包まれた。光が消えたとき、そこに男はもういなかった。


男が強い光に包まれた際に閉じていた目をあけて目の前に広がるのは、すでに別の森だった。以前に記録した場所だ。


「これで、化け物じみたあいつも追ってこれないだろう」


男はそう言って、また走り出した。しばらく走っていると、ボロ小屋が見えてきた。アジトだ。男はボロ小屋に入っていく。中には、4人の男と縄で縛られた少女が居た。男達は何処にでもいそうな村人の格好をしている。少女の容姿は、マナと瓜二つで、服はマナと色違いの青いワンピースだった。


「失敗したようだな。何があった?」


4人の内の1人が、入ってきた男を見て、尋ねてきた。


「かなり強い奴がいた」

「強い?」

「ああ、かなりできる。実力はおそらくAクラスだ」


男の言葉に、周りの男達が息を飲んだ。男は、少女に目を向けて


「正攻法は無理だ。そいつを使って、もう一度罠を張る。」


そう言いながら男が少女に近づくと、少女が恐怖で体をビクッと震わせる。女の子の顔には恐怖に彩られていた。

男が少女に触れようとした瞬間、突然壁が吹っ飛んだ。その穴から鎖が伸びてきて、少女に巻きついた。


「きゃあ」


少女が鎖に引っ張られて宙を飛び。破壊されてできた新しい出入り口に立っていた誰かに抱き止められた。


「なっ!?お前は」


そこにいたのは、先ほど男がAクラス以上と評したシンだった。


「お前、つけられたのか!」

「お、俺は『転移珠』を使った。つけられてなんかいない。・・・はずだ」


そういう男の裾から、短い鎖が出てきた。


「この鎖は特別でね。これが居場所を教えてくれた」

「な!?だ、だが、居場所が分かっても、ここまでかなり距離があったはずだ。こんなに早くつくなんてあり得ない」

「実際に俺はここにいる。」


シンは電歩を使えば1つの領の中ならすぐに移動できる。シンには男が転移先から小屋までの移動時間内に追いつくことは造作もなかった。


「お前の言った通りだ。こいつは危険だ」


小屋の中にいた四人の男が、一斉に武器を取り出した。女の子を抱えていることに勝機を見出したようだ。長剣が2人、ナイフが3人、全部毒つきだ。プリムの話では、かなり強力な毒らしいが、問題はない。男達がシンに襲いかかろうと身構えたとき、ベキベキと木が割れるような音が聞こえてきた。男達に動揺が走る。

この音はシンの鎖が小屋に巻きついて、小屋を破壊する音だった。


「じゃ」


バキバキバキ


シンが小屋から出てすぐに、四方の壁を破壊され小屋は一瞬で倒壊した。中にいた男達は、もちろん屋根の下敷きになった。


「し、死んだ?」

「多分大丈夫だよ。あいつら殺しても何も進展しないからな。それよりカナが待ってる。」

「カナは無事なんですか!」

「ああ、無事だ。」

「よかった~」


マナの顔がうれしそうに綻ぶ。


「マナちゃんでいいんだよね」

「はい」

「ちょっと失礼」


シンはそう言うと、突然マナをお姫様抱っこした。


「きゃっ」

「ちょっと急ぐから」

「え?」


シンは『合力』で脚力を強化して、もうスピードで走り出した。


「キャーーー」


一般人のマナには速すぎたらしく、可愛らしい悲鳴をあげてシンにしがみついた。


それから数刻後


「カナーーー」

「マナー--」


シン達の目の前で、瓜二つの二人の少女が、感動の再会を果たしていた。帰りは『電歩』が使えなかったので、少し時間がかかった。それでも、残った者たちからすれば、相当早く解決しているのだが。


「「シンさん、ありがとうございます。」」


マナとカナが、シンにお礼を言ってきた。


「どういたしまして、君たちはこれからどうする?」

「これから、ですか」


マナとカナの表情が暗くなってしまった。


「どうした?」

「私たち孤児なので、行く場所がないんです」


カナが答えてくれた。マナも頷く。プリムがシンに期待の眼差しを向ける。


「シンさん、どうしましょう?」

「なんで、俺に聞くんだよ」

「シンさんなら、何とかできる気がしたんです。」


それをシンが面倒そうな表情を浮かべた後で、ちゃんと解決策を口にした。


「・・・・・できなくもない、と言っても施設だぞ。まあ真っ当な施設ではあるが」

「孤児院ですか?」

「ちょっと違うが、似たようなものだ。・・・・・どうする?」

「「お願いします。シンお兄ちゃん」」


マナとカナから即答で答えが返ってきた。その言葉の最後にシンが驚く。


「お、お兄ちゃん!」

「「ダメ?」」

「いや、まあ、いいけど」

「「やった」」

「じゃあ、行こうか」


「シンさん!」


出発しようとしたら、プリムがシンを引き止めた。


「どうした?」

「シンさんは私を妹のようだと言ってくれました。マナちゃんとカナちゃんはお兄ちゃんで、私はシンさんでは、おかしいと思うんです。」

「あ、ああ、そう、かもな?」

「だから、え~と、兄さんと・・・呼びます」


最初は強気だったのに、だんだん声が小さくなり、最後はお願いになっていた。このお願いはシンにとっても嬉しい申し出だった。その方がなんだか家族っぽい。


「わかった」

「ありがとうございます。兄さん」


ちょっと照れくさかったがそれはプリムも同じだったようで、少し顔が赤かった。


「それじゃ今度こそあ出発しようか」

「何処に行くの?」


そういえば、行き先を言っていなかったな


「クルセウスだよ」


シンが口にしたのは自分たちが帰る町の名前だった。




夕方頃に、目的地に着いた。着いた場所は、クルセウスの西に隣接された果樹園だった。

目の前には様々な果樹や、最近広まってきたビニールハウス、取れた果物を保管する倉庫などが見える。この果樹園はクルセウス直営で、小さな村くらいの広さがある。

馬車は果樹園の中に進んで行った。しばらく進むと、白い建物が見えてきた。白い建物は、煉瓦造りの2階建てで横に大きな造りになっていた。

白い建物の前で数人の子供が遊んでいた。近づいていくと、子供達こちらに気付いた。


「あっ、シンだ!」


馬車から降りたシンを見つけた子供が、シンの名前を口にする。すると


「シン兄だ」

「シン兄シン兄」

「シンさんだ~」


何人かの子供がシンの名前を連呼しながら馬車に集まってきた。


「おう、元気にしてたか?」

「「「うん!」」」


子供達は元気な返事をして、シンにじゃれついてきた。シンに会えたのが嬉しいらしく、みんな笑顔だった。そこに建物の中から、20代くらいの女性が出てきた。


「シン君だ~~久しぶり~~」


のんびりした口調の女性だった。その女性を見た、シン以外の全員が息を呑んだ。

胸がとても大きかったのだ。

それはもう巨乳と呼ぶにふさわしい胸だった。白いブラウスと黒いロングスカートを着ている。

対してこちらは、ミュリンが平均より少し大きいかな、というぐらいで、プリム、ライラは貧乳で、サリナ、マナ、カナに関しては綺麗に平らだった。まあ、マナ、カナはまだ幼いから、将来に期待できるが、そろそろ成長が止まる頃のサリナは、巨乳を見て軽く絶望していた。

しかも女性は、シンに抱きついてきた。巨乳がシンの体に当たって、もにゅっと変形する。これにはプリムとライラが騒ぎ出す。


「な、なにしてるんですか!?」

「は、離れなさい!」


プリムとライラが二人を引き離した。


「どうしたんだ?」


シンが意味がわからない、といった体で質問してきた。


「え、えと、こ、子供達の教育に悪いです」


ライラが早口でまくし立て、プリムはうんうん頷いていた。シンが首を傾げる。シンには意味が分からなかったようだ。


「フローラ、この二人を綺麗にしてやってくれ」

「はい~~」


フローラが間延びした声で返事をしたと思ったら、フローラがマナとカナに近づき、ひょいっと脇に抱えた。


「「えっ・・・・・わわわ」」

「子供たちを頼む」


二人はそのまま白い建物に連れていかれた。残った者に子供達の相手を任せて、シンも建物に入っていった。


シンは、ここで一番偉い人物がいる部屋、院長室に向かった。院長室の前に着くと扉をノックをして、返事を待たずに中に入った。中には老人が椅子に座ってシンを待っていた。


「今日は何の用だい。」

「二人、預かって欲しい」

「わかった」


二人は、これだけのやり取りで大体の意思の疎通ができた。それだけ、いつも通りのやり取りだったのだ。シンは懐から、金貨を6枚取り出して机に置いた。


「二人の教育費だ。二人には内緒にしといてくれ」


ここは、孤児院と学校が一緒になったような施設だ。ただ教育を受けるには、お金がかかる。普通は、孤児院に入った後、果樹園のお手伝いをして、お金を貯める。シンも普段は置いていかないのだが、今回はシン達の事情に巻き込んで、怖い思いをさせてしまったから、罪滅ぼしのつもりだった。


「わかった」


それで二人の会話は終わり。フローラがマナとカナを連れて来るのを待つことにした。

しばらくすると、さっぱりしたマナとカナがフローラに連れられて現れた。


「髪結んでもらったの、見て見て」

「どう?お兄ちゃん」


そっくりな二人の見分けがつくようにだろう。マナが右に、カナが左にそれぞれ髪を結っていた。それにより二人の愛らしさが増していた。


「似合っているよ」

「「えへへ」」


シンの言葉に、二人は少し照れの混じった様子でうれしそうに笑った。


「二人ともちょっといいかな?」

「なんですか?」

「今日からここに住めるように頼んでおいたから、明日からはここで暮らせる」


二人の顔が笑顔に変わる。


「「ありがとう、お兄ちゃん」」


二人はシンに向かって、可愛らしくお辞儀をした。


「詳しい話はわしがしよう。シン君はフローラに夕食の準備を頼んでおいてくれ」

「ああ、わかった。二人とも、また後でな」


シンが部屋を出ると、マナとカナは少し心細そうな表情を浮かべたが、すぐに緊張した面持ちで老人を見た。


「そう緊張しなくてもいい」

「「は、はい」」


マナとカナの返事はまだ固かった。


「君たちは明日から果樹園で働いてもらうことになるのだが、いいかい?」

「「はい」」


働かざる者食うべからずだ。それくらいマナとカナにもわかっていた。


「よろしい。あとやる気があるなら、学ぶこともできる」

「学ぶ?」

「ああ、ウチには戦技科、従育科、商業科、農業科がある。」

「あの、お金がかかるんじゃあ。私たちお金ないんです」

「それは気にしなくていい。これは内緒と言われたんだがね。シン君が学費を出してくれた。」

「お兄ちゃんが?」


マナは喜んだが、カナは浮かない顔をだった。


「お兄ちゃんに、そこまでしてもらうのは」


カナは脅されていたとはいえ、一度はシンの命を狙ったことがあるのだ。カナは援助を受けるのを、幼いなりに後ろめたく感じたのだ。

脅された云々についてはわからない老人も、浮かない何かあったのだと察し、老人が質問をした。


「君たちにとってシン君は、どんな人だい?」

「恩人です」

「とっても強い人」


二人の返答から老人は、シンが自分のことを二人に詳しく話していないことがわかったので、言葉を選びながら話し出した。


「大戦があったのは知っているよね。彼の年代は戦時の真っ只中だったから、小さい頃は色々苦労したらしい。だからかはわからんが、あいつは子供に対して色々世話をやきたがる。」

「・・・・でも」


カナはまだ迷っていた。


「君がシンに恩を感じておるのなら、色々なことを学び、学んだことを活かしてゆっくり恩返しをするとよい。」


これでカナも決心がついた。


「わかりました。いつかお兄ちゃんの役に立てるように、今は勉強します」

「何を学ぶかはフローラにでも話を聞いて決めるといい、胸のでかい娘だ。すぐに分かる。」

「「わかりました」」


その頃の厨房では、シンに頼まれたフローラとサリナが、夕食の準備に取りかかっていた。


「じゃあ、ここはシンさんが建てたんですか?」

「正確には~、領主さまとギルドマスターとシン君の~共同出資です~」

「それでもすごいんですけど」

「でも~経営は私達に任せっきりなんですよ~」


口にしている内容とは裏腹に、フローラはとてもうれしそうだった。


「フローラさんは、昔のシンさんを知っているんですか?」

「ふふ、内緒です」


き、気になります。サリナが気を揉んでいると、フローラが


「ここは果樹園と同時期に設立したので~、設立時のシンさんは、15くらいだったはずですよ。」

「すごい」


父の言っていた、バーミア地方の恩人というのも納得ですね。

この前の戦いで、戦闘力を確認することができましたし、そろそろ父の話を信じてもいいかもしれませんね。まあ、信じたところで何かが変わる訳ではありませんが。

しかしサリナは、父の話の真偽を確かめる、という同居の目的を達成したことに気付いた。同居の理由が薄くなった。


(いいえ、まだまだプリムさんには教えることがあります)


サリナはそう思うことで、自分を納得させようとしていたら、そこにプリムが手伝いにやってきた。


「何か手伝えることはありませんか?」

「それでは~お皿を運んでください~」


フローラがすかさず頼んだ。


「はーい」


プリムがテーブルの上に置かれていたお皿を、食卓に運ぼうとする。

ちなみプリムは今でも家事を失敗する。それに狭い山小屋では、お皿を運ぶことなんかなかった。サリナがとめようと持った矢先。

パリン

案の定、段差に躓いたプリムが皿を落として割ってしまった。


「ご、ごめんなさい、すぐに片付けます」


普段は部屋が狭いため、皿を持って移動することがなかった。プリムは初めて皿を割ったので、勝手がわからず破片を素手で拾おうとした。素手で破片を拾おうとするのを、サリナが慌て止める。


「ちょっと待って、素手は危ないですから、塵取りと箒を使いなさい」

「あ、はい。ありがとうございます。サリナさん」


プリムはいつの間にかフローラが持ってきていた塵取りと箒で、破片を片付け始めた。

それを見て、サリナはまだまだプリムのお世話をする決意をした。ついでにシンのお世話もすることにした。

その後、シン達とマナ、カナと老人とフローラで食事をすませると、風呂に向かった。シンの山小屋には井戸はあるが風呂はない。精々、湯を沸かして体を拭うぐらいしかできなかったので、プリムは大喜びだったらしい。

久しぶりにさっぱりしたシンが割り当てられた部屋に行く。出資者なのでそれなりにいい部屋が割り当てられた。シンは知らないが、ここはシン用に作られた部屋で華美さはないが、備え付けのダブルサイズのベッドは羽毛製でかなり質のいいものだ。

今日は色々あって疲れたので、早々に寝ることにして、ベッドに倒れ込むと、予想とは違う感触があった。

シンは布団を捲ると、無地の黄色いパジャマを着たマナとカナがそこにいた。シンが無言で二人を見ている。


「お兄ちゃん」

「なんだ?」

「一緒に寝よ」


カナが、そう言ってシンの袖を引っ張ってくる。二人は明日にはシンが帰ってしまうことを、フローラに聞き少しでも一緒にいたくてこうして押しかけてきたのだ。


「・・・・・どうしたんだ?」

「寝ようよ~」


マナが反対の袖を掴んで同じことを言う。


「一緒に寝よう~」


二人とも少し寝惚けているようで、自分の願望を口にするだけだった。駄々を捏ねているようなもので、会話は成り立たなかった。


「一緒に・・・・・」


二人の目はもう閉じそうだった。それでも二人は袖は放さない。二人がもぞもぞ動いて、二人の間にシンの寝るスペースができる。

寝れば袖を離すかもしれないな、と思いシンが二人の間にうつ伏せになると、二人は満足そうに袖を離した。その代わりシンが仰向けになると、今度は腕に抱きついてきた。起き上がるには、振り払うしかないのだが、寝ている子供を起こすのは憚られた。

いつまでも離してくれないので、仕方なくシンもそのまま寝ることにした。羽毛布団は寝心地が最高ですぐにシンも眠ってしまった。



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