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技術使い  作者: 中間
一章:技術使いと元王女
12/23

11話


昨日の夜、シンが怪しい人影を見たにも関わらず、シン達は何の対策も取らず、次の日朝食を食べてすぐに宿を出た。それもそのはず、シンは怪しい人影のことを、同じ部屋にいたライラにしか話していなかった。そのライラが、宿の出入り口付近で聞いてきた。


「いいんですか?皆に話さなくて」


「ああいう手合いは、うろちょろしてる時が一番うっとうしいんだ。おびきだして、潰した方が楽なんだよ。他の奴らに話したら、サリナはともかく他の三人は普段通りにできないだろ。そしたら敵が出てこないかもしれない。」


負ける気はしないが、いつまでもうろちょろされるのは面倒だし、気を張っているのは疲れる。それと、シンはあわよくば黒幕も始末できないかと考えていた。

シンはプリムのためにも早めに黒幕に対処したいと考えていた。プリムが自由に外出できないのは、命を狙われているからだ。大元である黒幕を潰さないと、プリムはいつまでも狙われ続ける。今回のような外出は、そうそうできないだろう。逆に黒幕を潰すことができれば、プリムも少しは自由になれるだろう。

誰にも話さないのはさすがに危険かもしれないから、ライラにだけは話した。特にシンが手の届かないところのフォローを頼んだ。ライラもシンに頼られて嬉しそうだった。

何となくライラの頭を撫でると、ライラは幸せそうに微笑んだ。それを少し離れたところで話していたミュリンが見かけて、近くに寄ってきた。


「いつの間にそんなに仲良くなったの?」


シンとライラ以外には個々に部屋が用意されていたので、ミュリン達はシンとライラにもそれぞれ部屋が割り当てられていたと思っている。シンとライラが昨日一緒の部屋に泊まったは、思いもしないだろう。


「そういえば、朝からずっと一緒にいますね。何かあったんですか?」


サリナまで加わってきた。プリムも話が気になるのか、近くに来ている。ちょっと不機嫌そうだ。

ライラは昨日のことを思い出して、喜びと羞恥心で顔を赤くする。


「い、言えません。」


そう言ってシンの後ろに隠れてしまった。その姿がシンの嗜虐心を刺激した。


「じゃあ、俺が代わりに教えよう」


「シ、シンさん!?」


ライラが慌てて止めようとするが、間に合わない。


「俺がライラを飼うことになった。従者として仕えるみたいなものらしい」


少しの間、静寂が場を支配した。


「シンさんのいじわる」


涙目のライラが、シンの後ろでうるうるしながらもたれかかる。

朝になって聞いたのだが、獣人には自分を捧げるに足りると思った相手に仕える風習があるらしい。それがペットになるということらしい。獣人にとってペットになるということは、飼い主に仕えるという意味の他に、相手の所有物になるということでもあるらしい。余程主のことが好きじゃないとペットにまではならない。要するに飼い主大好きということだ。それを知られるのは、ライラには恥ずかしかった。

サリナ達は、飼うという言葉に少し引いたが、仕えるという言葉を聞いて、二人の仲に進展があった、という程度に感じた。どちらかというと


「ライラは可愛いな」


シンがそう言いながら、ライラを撫でて可愛がっている。


「お、お兄さん変わったね~」

「サリナさん、シンさんが」

「まあ、害は無いですし、放っておきましょう。」


サリナ達はシンの変わりっぷりの方に驚いていた。もみくちゃにされているライラは満更でもない様子だ。


「あーあ、それにしても、昼には出発かあ~」


予定では明日クルセウスに帰る予定だったが、ライラが用事を思い出したといいだして、昼前にはトリムを出ることになった。

用事を思い出したというのは嘘だ。シンがライラにそう言うように頼んだのだ。敵に襲われるなら、相手の準備時間は短いほうがいいからだ。トリムにもう一日滞在すると、敵に準備する時間を与えることになる。

自分で用事があるとは言わずに、ライラに頼んだのは、シンが用事かあると言ってもサリナとプリムが信じないと思ったからだ。普段のシンを知っているサリナとプリムは、シンが用事があると言っても、普段の自堕落っぷりを知っているので色々勘ぐってくると思ったからだ。まあプリムは大丈夫かもしれないが、サリナは間違いなく気にする。

サリナに大声で問い詰められでもしてたら、敵にこちらが気づいていることを、悟られるかもしれない。それはあまりよろしくないのだ。シンとしては、敵は早めに潰しておきたいのだ。


「皆、ごめんね」


ライラが申し訳なさそうに謝っている。ライラには少し嫌な役回りをさせてしまった。何か侘びをしないとな。人付き合いを避けているシンには、贈り物くらいしか思いつけなかった。

シンは、昨日行った魔法具店に、いい物があったことを思い出す。


「ちょっと行きたい所があるんだが、いいか?」


「今日は一人で行かないんですね」


サリナから多分に棘の混じった言葉と、冷たい視線が向けられる。まあ、日ごろの行いが悪いのだから仕方ない。


「時間がないからな。頼むよ」


「・・・わかりました。」


元々反対していたわけではないし、シンが素直に頼んできたのでサリナは渋々了承した。ほかの者からは特になかったので、シンの希望で、みんなで魔法具店に向かった。


魔法具店に着いてすぐに目当てのものは見つかった。シンが買ったのは、黒いチョーカーだった。それを買って、ライラにプレゼントした。ライラはシンからのプレゼントに感激していた。


「ありがとうございます!一生大事にします!」


はっきり言って首輪みたいなのだが、ライラに気にした様子はなく嬉々として、チョーカーを巻いていた。

シンがプレゼントしたチョーカーは簡単に言うと、シンから力を受け取るための『受信機』だ。正確には、『受信機』という魔法具のチョーカータイプで、対になっている『発信機』から力を送ることができる。『発信機』は、シンの手首についている黒い皮の腕輪だ。

喜んでいるライラを、プリムがうらやましそうに見ていた。すぐに顔を背けてため息を吐いた。ため息を吐くプリムを見たサリナが、心配そうに話しかける。


「ため息なんか吐いて、どうしたんですか?」


サリナが心配そうに、プリムを見ていた。プリムは一度、シンを見てから、小声で話した。


「ライラさんとサリナさんが、ちょっと羨ましかったんです」


「私、ですか?」


「熊さん」


「あ~」


サリナは得心がいったようだ。プリムは続けた。


「ライラさんはチョーカー。私は金貨でした。それが、ちょっと」


これは、私にはどうすることもできませんね。私は貰った側ですから。シンさんにしか、解決できないことです。

その頃のシンは、昨日魔法具店で買ったものをプリムに渡しそびれて、いつ渡すのか悩んでいたりする。


「気にしないでください。大丈夫ですから。」


プリムがサリナを安心させるためにそう言ってから、半刻後シン達はトリムを出てクルセウスを目指した。



シン達は馬車で揺られながら街道を進んでいると、突然馬車が止まった。


「どうしたんだ?」


ドアの近くにいたジルが、外を確認するために馬車の外に出る。するとそこには、見慣れない御者風の男と、シン達の馬車を牽いてくれていた御者が会話をしていた。ジルに気づいた御者風の男が、ジルに近寄ってきた。


「た、助けてくれ!」


御者風の男が、必死の形相で、助けを求めてきた。


「山賊が出たんだ。助けてくれ」


男が指差した方向にある馬車の御者台には、山賊風の男が乗っていた。その周りにも何人か山賊風の男がいる。


「助けに行きましょう。」


そう言ってサリナが立ち上がる。ライラ、ミュリン、ジルがサリナに続いて立ち上がった。こういうときに、どうすればいいかわからないプリムは、一人オロオロしていた。シンだけが、まったく動いていなかった。


「シンさん?」


オロオロしていたプリムが、シンが動いていないことに気付いた。シンに助けられたことがあるプリムは、シンがすぐに助けに行かないことを不思議に思った。プリムの言葉を聞いても、シンは動こうとしなかった。その代わりに


「お前、御者か?」


「あ、ああ」


男は尋ねられて、つっかえながらも肯定する。


「・・・・・嘘だな」


「・・・な、なにを」


「積んでいるのは何だ?」


「え、えと」


「即答できないんじゃあ、話にならないな。」


「く、くそ!」


男は懐に手を入れて何か取り出そうとしたが


「『鎖縛さばく』」


いつの間にか男の周りを浮遊していた鎖が男を縛り上げた。反対側の窓から、馬車の外に鎖を伸ばして、捕縛の準備していたのだ。


「なっ!?」


身体を拘束されて、身動きが取れなくなった男が地べたに転がった。その頃になって、サリナ達は状況を理解した。男は人攫い側だったのだ。


「どうして、わかったんですか?」


「昨日から変な奴らが周りをウロチョロしていたからな。それにそいつの手、御者の手じゃなかった。」


確かに男の手は、ごつごつしていて所々切傷のようなものがあった。


「ジル、ミュリン、手伝ってくれないか?」


そう言いながらシンが、鎖を『武器庫』から切り離す。


「何をですか?」


「俺達が狙いらしいから、あいつらを始末する。」


シンが御者の方を見ながら過激なことを口にする。


「手伝ってくれないか?」


「は、はい」

「お、おう」


三人で、馬車に向かった。シンは合力を、ジルとミュリンは氣力を足に集中して、脚力を強化して走り出した。


「見えた。(敵の数は、1,2,・・・5人か。)」


シンは『武器庫』から刀を取り出しながら走った。手始めに鎖を飛ばして、一番近くにいたひょろっとした男に鎖を巻きつけて、吊り上げてそのまま地面に叩きつけた。その際の衝撃でその男はあっけなく気絶した。残り四人。山賊を装った暗殺者の男達もさすがにこちらに気付いた。いや、気づいていない振りをやめたのだろう。

シンが一番近い暗殺者に、刀で斬りつける。暗殺者が盾でそれを受けようとする。シンの攻撃を防ぐかに見えた盾は、その役割を果たさなかった。シンの斬撃は、盾ごと男を切り裂いた。シンは刀が青く光っていた。シンは切れ味を最大まで上げる『刃雷』を刀に纏わせていたのだ。


「なん、だよ・・・それっ」


男は肩から斜めに切られて、血を噴出しながら倒れた。人を斬るのは久しぶりだ。あまり気分のいいものではない。あと三人。シンはこの時、倒した男の武器に毒が塗られていることに気づいた。


「ジル、ミュリン、気をつけろ。こいつら毒を使ってくるぞ!お前らは二人で一人にあたれ」


「は、はい!」


ミュリンの返事を受けて、シンは残りの二人の内の蛮刀を構えた男に斬りかかる。シンが盾ごと斬ったのを見ていたのだろう。『氣力』を蛮刀に集中して、かなり強化しているようで、『刃雷』を纏った刀でも、蛮刀を破壊することはできなかった。一度見ただけで、『刃雷』に対処してくる所から見て、かなり戦いに慣れている。

だが、身体にまわす氣力が少なかったのだろう、動きは鈍かった。何度か刃を交えると男に小さな隙が生まれた。そこに、シンが『武器庫』から新たにナイフを取り出して投擲する。男は反応できずに、ナイフは太ももに突き刺さった。激痛で男の動きが止まったところを、シンは斬り捨てた。

ミュリンとジルも、なんとか敵に対処しできていた。幼馴染なだけあって、いい連携ができていて、ジルの重い攻撃に気を取られた隙を突いて、ミュリンが男の肩をレイピアが突き刺していた。だが、決定打にはならなかった。


「お前ら、動くな!」


残りの一人が、黄色いワンピースを着た小さな女の子を人質にとっていた。蛮刀を首に添えている。わざわざ人質を用意していたようだ。準備のいいことだ。


「お前ら武器を捨てろ」


「ひっ」


男が蛮刀を女の子の首に近づけると、小さな悲鳴をあげる。子供だけでなく、ジルとミュリンも助けを求めるように、こちらを見てくる。本来俺達とは関係ない子供だが、そう非情になれるものでもないよな。


「ジル、ミュリン、武器を捨てろ」


シンの言葉を聞いてジルとミュリンは決心が付いたらしくそれぞれの武器を手放した。シンも武器をその場に落とす。


「よし、それでいい」


ミュリンとジルが戦って肩を怪我した男が、それぞれの武器を遠くになげる。山賊風の男は子供から蛮刀を放してミュリンに向ける。


「おい、お前・・・」


勝ち誇った表情の男が、喋っている途中で男の足下の地中から鎖が飛び出した。

鎖は瞬く間に男を二人を拘束して地面に転がし、女の子を引き離した。

ミュリンがシンを見ると、鎖が左足の裏側を伝って地面に潜っていた。敵には陰になっていて、鎖は見えなかっただろう。

(やっぱりお兄さんはすごい)

ミュリンは、シンの実力を再認識した。


人質に取られていた女の子は、男が拘束されて呆然としていた。その子の腕は今にも折れそうな程細く、ろくに食べていないのが見てとれた。後腐れ無いように、適当に孤児を拉致ってきたか。


「君、大丈夫?」


ミュリンが心配そうに、女の子に近づくと、ビクッと身体を震わせた。ミュリンは、よほど恐かったのだろうと思い。安心させるために笑顔を向けてみたが、女の子は俯いてしまった。

このままでは埒が明かないので、一先ず仲間達のところに戻ることにした。山賊風の男達はジルが引き摺って行った。


「ご苦労様です。怪我はありませんか?」


「全然大丈夫。と言ってもほとんどお兄さんがやったんだけどね。」


ミュリンが、余裕といった感じで振舞うが、シンから指摘をされた。


「無理するな。対人戦になれていないだろ。腕が震えている」


「えっ」


ミュリン自身、指摘されるまで、腕が震えていることに気付いていなかった。その腕は男の肩を突き刺した腕だ。ミュリンにとって人を刺したのは、始めての経験だった。

ギルドには賊討伐の依頼はあるが、シンのような例外を除いて、基本的に年配の者が受けることになっている。大戦を経験した年代は、戦いを避ける者が多いのだが、中には彼らは若者に対人戦をさせないためにギルドに残った者もいる。彼らは、『護人もりびと』と呼ばれ尊敬されている。

『護人』のおかげでミュリン達の年代は人と戦わなくてすんでいた。今までの依頼のほとんどは、魔物の討伐だった。ミュリンは、人の体を貫いた感触に、恐怖したのだ。


「あ、あれ、なんで」


誤魔化そうとするミュリンにシンが話しかける。


「大丈夫だ。もう終わった。」


「・・・・・はい」


「頑張ったな」


シンがミュリンの頭をポンポンと叩くと、ミュリンは少し顔を赤くした。そこにミュリンを心配したサリナが近くに来たので、ミュリンのことをサリナに任せて、シンは捕縛した男たちに近づいていった。


3人は鎖で縛られて地面に転がっていた。1人は気絶している。鎖で拘束された2人の男が、忌々しそうにシンを見てきた。


「何なんだ貴様は!」


彼らにとってシンは想定外だったの同時に、得体の知れない存在だった。シンの戦闘力はもちろん、若いのに戦いの手際が良すぎる。


「そんなことより、お前らなんで俺達を襲ったんだ。」


「言うと思っているのか?」


「いんや。でも、お前らがキルマイア王国からの刺客なのは、わかってる」


「・・・・・・・」


まあ、認めないよな。認めたら外交問題になりかねない。認められても困る。元々、下っ端に大した用もなかった。

シンは、ずっと俯いている女の子に近づいて、少女の目の前に膝をついて、目線を合わせる。


「俺は、こいつらより強いよ。だから手に持っている物を捨てて、俺を頼ってみないか」


女の子が驚いたように面をあげる。女の子は、しばらくシンを見ていたが、次第にそのあどけない顔が歪んでいき、目尻に涙が浮かんだ。少女の右手が開き、中から針が滑り落ちた。その針には妙な光沢がある。毒針だった。


「助、けて」


か細い声だったが、確かに言った。助けをシンに求めた。それを聞いた刺客が


「お前、妹がどうなってもいいのか!」


どうやって言うことを聞かせているのかと思ったが、こいつら女の子の妹を人質にとっていやがったのか


「ひどい」

「最低」


プリムとライラが憤る。それを見た人質を取った男が、プリムに蔑んだような視線を向けて嘲笑った。


「お前が言うなよ。お前の所為でもあるんだからな。お前が逃げさえしなければ、こんなことにはならなかったんだ。お前の所為で、関係のない者が巻き込まれた。お前は何処に行っても、邪魔者なんだよ!」


プリムが、耳を塞いで座り込んだ。目は固く閉じているが、隙間から涙が溢れていた。

それを隣で見ていたライラが、男に近づいていく。しかし、ライラが何かする前に、その男が吹っ飛んだ。シンが蹴り飛ばした。男は数メートル宙を舞って、木の幹に激突して気を失った。ピクピク痙攣しているから生きてはいるようだ。


「うるさい」


シンの低い声でそう口にして、残りの二人に据わった目を向けると、残りの二人は目を逸らした。

シンは、オロオロしている女の子に、ちょっと待ってて、と言ってからプリムの近づいていった。


「わたしの所為で、関係のない人が、シンさんにも迷惑が、でも、わたしは」


プリムが虚ろな表情でなにか呟いている。かなりのショックを受けていた。シンが近くに来ても反応がなかった。王宮から逃げた後、滞在した村は焼かれ、王宮から助け出してくれた兵士やメイドも死んでしまった。今回は幼い少女に毒針を持たせ、その妹が人質になっている。その原因は、自分にあると言われた。プリムには否定できなかった。自分がいたから、村は焼かれ、いろんな人が傷ついた。自分がいたら、シンやサリナに迷惑がかかる。それをはっきりと告げられたのだ。

でも、シンとサリナとの生活は、プリムにはとても居心地が良かった。あの山での生活は、辛い王宮暮らしから逃げ、シンさんに助けられて、偶然手にした安息なのだ。初めてだったのだ。あんなに安らかな時を過ごせたのは。

(今の生活を手放したくない。でも、シンさん達に迷惑はかけたくない。)

二つの思いがプリムの中でぶつかり、プリムには答えが出せなかった。プリムは思考のどつぼに嵌りかけていた。


「プリム!」


シンが大きな声を出してようやく反応があった。


「シンさん、私はどうしたら」


泣きながらが問いかけてくるプリムに、できるだけ力の篭った声で話しかけた。


「俺の所にいればいい。」


「それは・・・・・指輪があるからですか?」


プリムは、シンの言葉を『契約の指輪』があるからだと思った。面倒を嫌うシンが、進んで面倒事の種である自分を背負うとは思えなかった。その問いをシンは首を横に振って否定した。


「違う。俺は・・・・・親の顔を知らない。仲間はいたが、家族はいなかった。お前が初めてできた身内で、だから、俺は、お前を・・・・・家族みたいに思ってる。」


「家族?」


「そうだ。お前が妹で、俺が兄だ。嫌か?」


プリムにも家族と呼べる者はいなかった。王宮の人間には嫌われていたし、親しかったメイドや兵士は、プリムに良くしてくれたが、少し距離を置いていたのは確かだ。だからプリムも家族に憧れのようなものを抱いていた。返事は決まっていた。


「嫌じゃ、ないです」


泣きながら、プリムが頷いた。


「よし、今日から俺がお前の兄だ。」


「はい!」


「これをやる」


シンが綺麗に包装された細長い箱をプリムに渡した。トリムで買ったものだ。


「あの、あ、ありがとうございます。」


「できれば、敬語もやめるようにな」


「はい!あの、開けても?」


「ちょっと待ってろ。あの子の妹を助けないと」


「そうですね。頑張ってください!」


プリムの声援を受けながら、少女に近づいていった。


「待たせて、ごめんな。名前を教えてくれるかな?」


「カナです」


「よろしく、俺はシン。妹さんの名前は?」


「マナです。お願いします。妹を助けてください。」


カナが必死の様子でシンに縋ってきた。


「任せろ。」


シンは力強くそう言って、刺客に近づいていく。


「取引しないか?」


「取引だと?・・・・・条件はなんだ?」


「逃がしてやる」


「「・・・・・はあ!?」」


その場にいる全員がポカンとした。



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