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技術使い  作者: 中間
一章:技術使いと元王女
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プロローグ

人里離れた場所にある山小屋で、一人の男が目を覚ました。見た目は二十歳くらい、体型は中肉中背、髪は短い黒髪で、覇気の無い目と左腕に変わった六芒星の刺青が特徴の男だ。この男の名前はシン。この山小屋の家主だ。

欠伸をしながらベッドを降りたシンは、寝巻きからに紺色の無地のシャツと黒いズボンに着替える。着替えて終わってから、まだ朝早いことに気づいた。普段は昼まで寝ているのに寒くて目が覚めてしまったようだ。シンは机の上から、黒いコートを取る。コートを取った際に、机の上にあったものが床に落ちた。

床に落ちたのは、二つの指輪だった。コートを着終えてから二つの指輪を拾う。二つの指輪は、片方が金製、もう片方が銀製で、同じ紋様が刻まれていた。


「こんな所にあったのか」


指輪は机の上にあったのだが、彼は指輪の存在に気付いていなかったらしい。

この指輪は、以前受けた仕事の報酬の中に混じっていたもので、町の鑑定士に鑑定してもらうと『不別の指輪』という魔法具だと判明した。

この『不別の指輪』は大昔の結婚指輪だったらしい。しかしこの指輪の実態は、結婚指輪というより、呪いの指輪というべきものだった。具体的には

①付けたら、いかなる手段を用いても絶対に外すことができない。

②付けてから、48時間経つと大爆発する。即死の威力。

③魔力か氣力を注ぐことで時間をリセットできる。

④リセットにはお互いの存在が必要。

⑤身体から離れた場合にも爆発する。

結果、『不別の指輪』を付けた二人は、一生を共に過ごすことが強制される。

夫婦に爆発が必要なのかは疑問が残るが、大昔は永遠の愛の誓いの証として扱われていて、これが普通だったらしい。

そんな物騒なものが続くはずも無く、大昔に廃れ、今では『不別の指輪』を知らない者がほとんどだ。知らずに付けたら二日後には、ドカンだ。

売り払うわけにもいかず、自分で適当に処分するつもりだったのだが、すっかり忘れて放置してしまっていた。


「まあいいか」


そう言ってシンは、『不別の指輪』を机の上に戻してしまった。めんどかったのだ。

その後、家にある食べ物を適当に食べる。面倒だったので食材のまま食べた。食べ終わったシンが部屋を見回して、碌な食べ物が無くなったことを確認した。


「食い物がなくなったか。また町に買いに行かないといけないな。・・・・・・面倒だなあ」


この男、かなり物臭な性格をしているようで、自分が食べる食べ物を買いに行くことにすら、面倒に感じていた。

シンはノロノロした動きで、壁にかかっている袋から硬貨を数枚取り出して、それをポケットに突っ込んでから、山小屋を出る。


シンは山道を一時間ほど歩いて、クルセウスという町に着いた。クルセウスは、バーミア地方では最も大きな町になる。バーミア地方とは、グンダーラ王国の南の端のほうに位置する地方で、果樹園を中心とした農業が盛んな土地だ。

グンダーラ王国は、商業の盛んな国で経済大国として知られていて、貴族の多くが商いをしていることで有名な国だ。そのため、お金と情報が多く集まる国でもある。クルセウスは、果樹園と商いを一体化させている。新しい食材を開発したり、需要に合わせて果樹園を運営しているのだ。


シンは町についてからすぐに、市場に向かった。田舎といってもクルセウスは、バーミア地方では最も大きな町なので、市もそれなりに栄えている。シンが市場に着くと、シンに気付いた果物屋のおばちゃんに話しかけられた。


「おや?シンくんじゃないか。なんだい、もう食べ物が無くなったのかい。」


果物屋のおばちゃんが大きな声でシンの名前を口にしたことで、シンが市場にきたのが、市場の商人たちに広まった。


「シンくん、ちょうどパンが焼き上がったところなんだ、買っていってくれよ」

「坊主、いつものがあるぞ。あと腸詰めなんかどうだ?」


主に食べ物屋がシンに、商品を進めてくる。シンは10日に一度くらいしか来ないのに、名前覚えられている。名前を覚えられたのには二つ理由がある。一つは手ぶらで市場に来たシンが、帰る時はいつも背中に大きな荷物を背負って帰っていく姿が目立ったこと、もう一つの理由は


「やっと山から降りてきたんですね。」


リクトが声の聞こえた方を振り返ると、水色の髪が綺麗な美少女が果物屋に前に立っていた。


「サリナか、何か用か?」


サリナは、水色の髪を腰の辺りまで伸ばした長髪の少女で、青いローブに身を包み、整った顔には知的な眼鏡をかけている。背はシンより少し低く、歳は確かシンより少し下だったはずだ。鋭い眼差しと落ち着いた雰囲気があって、大人びて見える。かなりの美少女なのだが、胸は残念なほど真っ平らだった。本人もそのことを気にしていたりする。


「ちょっと一緒に来てください。父があなたと話したいことがあるらしいので。」


サリナの父親は、シンが所属しているギルド『青い竜の爪』のギルドマスターだ。

ギルドとは、簡単にいうと何でも屋だ。国や商会などからくるさまざま依頼を、ギルドに所属する者が解決して、対価としてお金を手に入れる。ギルドはその仲介料などが収入源となる。ギルドに所属する者は『メンバー』と呼ばれる。依頼は、清掃活動から魔物の討伐、要人警護と幅広い。『メンバー』にも色々な者がいる。討伐依頼を主にする者、護衛依頼を主にする者、依頼はあまり受けないで宝を探す者と様々だ。世界には無数のギルドがあり、シンが所属しているギルド『青い竜の爪』は中堅クラスで、バーミア地方では最大のギルドだ。

サリナの父親とは旧知の仲だが、会うと良く面倒事を頼まれることが多い。


「・・・面倒」


シンが断ると、サリナはにっこり笑って


「・・・・・・・・何か言いましたか?」


恐っ

笑顔で聞きなおしてきたよ。


「・・・わかったよ。行けばいいんだろ行けば。」


「早く行きましょう、父が待っています。」


それでシンが市場の商人に覚えられた原因だが、サリナの父が関係している。

基本的に中堅以上のギルドマスターは世間から、地方領主と同じくらいの扱いを受ける。何故なら、魔物や賊の討伐といった危険な依頼は、軍ではなくギルドが引き受けることが多いからだ。害悪を取り除くために、命を賭けて戦う者達の地位が高くなるのは自然なことだった。サリナもマスターの娘という意味でクルセウスではそれなりに有名だった。

サリナが、自分の父親(ギルドマスター)が呼んでいることをおおっぴらに口にするせいで、シンはギルドマスターに近しい者だと思われて、市場の商人に名前を覚えられたのだ。まあ実際に友人であるのは確かなのだが。


昔はギルドの下っ端がシンを呼びに来ていたのだが、一度むかつく下っ端を追い返してからは、何故かサリナが来るようになってしまった。サリナのシン連行成功率は100%だ。何故かサリナは俺が市場に来るのがわかるようなのだ。それにしても、いつもどうやって俺が来た事を知っているのだろう?今度聞いてみようかな。

初めてサリナに声を掛けられた時は、全方位から奇異の視線を向けられ、とても居心地が悪かったのを思い出した。シンは嫌なことを思い出してしまい一瞬顔を顰めそうになるが、何事もなかったようにサリナに言葉を返した。


「買い物が済んでからな。」


「それくらいは構いませんが、できるだけ早くしてください」


「あ~はいはい。」


シンは適当に返事をしながら食料品を買い始める。何を買おうか、手軽に食えるのがいいな。

サリナは、しばらくその様子を見ていたが、退屈に耐えられなかったのか


「・・・・・・手伝いましょうか?」


「いや、いいよ」


シンが遠慮すると


「手伝いましょうか」


サリナが近づいてきて同じ言葉を繰り返す。

どうやら手伝いたいらしい、素直に手伝うと言えばいいだろうに


「じゃあ、頼む」


「任せてください。それでは、私は野菜類を買いますね。どうせあんまり買わないつもりなのでしょう。偏った食生活は、身体を壊しますよ。」


サリナはそう言って、楽しそうに野菜が売っている場所へ歩いて行った。サリナは人の世話を焼くのが好きらしく、人の世話を焼いているのをよく見かける。今も八百屋の前で、シンが食べる物なのに栄養を考えながら野菜選びをしてくれている。

サリナのおかげでいつもより早く買い物が終わった。野菜がいつもより多いのはしかたない。買ったの食料の量は、麻袋二つ分になる。麻袋も市場で買った。その重量は、二つ合わせると80キロ近いはずだが、シンはそれを軽々と背負う。

サリナはその食料の量を見て、それを買うための金額を思い浮かべ、シンに疑問を投げかける。


「シンさんは何のお仕事してるんですか?」


サリナは、シンが働いているところを一度も見たことが無いし、聞いたことも無い。どこからお金が出てくるのか不思議だった。


「秘密」


シンは、答えをぼかしてギルドがある方向に歩いていってしまう。サリナは、シンに探るような眼差しを向けていたが、すぐにシンの後を追ってギルドに向かった。



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