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烙印戦記 ー破滅エルフと棄てられた箱庭の英雄ー   作者: 弌黑流人
箱庭の国

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第48話 四季の葬列

 空中都市の中央、天を突くクリスタルの巨塔「編纂室」。その入口に広がる白磁の回廊は、今や地上の軍勢と空中都市の最終防衛線が激突する、修羅の巷と化していた。


 カイルと澪の前に、三人の男女が立ちはだかる。彼らは不湯家と共にこの世界を数千年支配し続けてきた四聖家の末裔――葉瑠家、菜津家、そして亜樹家の当主たちだ。彼らは白兵戦の武装こそ持たないが、その手に握られた「書」から放たれる因果の力は、物理法則そのものを歪めていた。


「思い上がるな、地を這う虫けらども。我が『葉瑠はる』の書が命じる。貴様らの時間は、ここで『芽吹く前』へと巻き戻るのだ」


 葉瑠家の老婆が枯れた声を響かせ、書を掲げる。瞬間、カイルたちの周囲の空間がぐにゃりと歪んだ。一歩踏み出そうとした足が、まるで時間が逆流したかのように元の位置へと引き戻される。存在の因果を強制的に退行させる、箱庭の管理権限。さらに菜津家の若き当主が追い打ちをかけるように書を開く。


「『菜津なつ』の書よ、焼き尽くせ! 存在の熱量を限界まで引き上げ、魂を灰にせよ!」


 空間の温度が瞬時に数千度へと跳ね上がり、呼吸さえも炎を吸い込むような激痛に変わる。兵士たちが次々と膝をつく中、聖獣乙女となった澪が白銀の聖槍を床に突き立てた。九本の尻尾が扇状に広がり、神々しい翠の魔力が回廊を吹き抜ける。


「……季節が巡るのは、それが自然の摂理だから。あなたたちの書に記されているのは、命を縛るための『凍りついた言葉』に過ぎない!」


 澪の放つ高次魔力が、三家の術理を真っ向から中和し、歪んだ空間を強引に平定していく。その圧倒的な神気に三家の当主がたじろいだ瞬間、背後の影から銀光が走った。


「書を読み上げる暇があるなら、自分の影の深さを測っておくべきだったな」


 アルヴァスだ。実体を持たないかのような速度で三家の死角を突き、菜津家当主の腕を浅く斬り裂く。集中を乱された術式が霧散し、熱波が収まる。そこへ、黄金の鉄甲を打ち鳴らすボルグが突進した。


「難しい理屈は知らねえ! 俺が知ってるのは、殴れば壊れるっていう『真理』だけだ!」


 葉瑠家が作り出した重力の壁を、ボルグは肉体が軋む音を無視して突き破った。放たれた渾身の鉄拳が老婆の盾を粉砕し、絶叫と共に彼女を吹き飛ばす。三家は術者としては強大だが、命を懸けた泥臭い実戦の経験など皆無だった。


 最後に残った、ひ弱そうな外見の亜樹家の当主が、震える手で最後の書――『亜樹あき』の書を開こうとした。


「させ……させんぞ! これこそが、この世界を繋ぐ記憶の根幹……」


「その名は、俺の弟のものだ。汚らわしい手で触れるな」


 頭上から降り注いだ漆黒の衝撃が、亜樹家の書を文字通り粉々に打ち砕いた。

 現れたのはヨルだ。その手には、折れたはずの細剣が、彼の黒い血を吸って不気味な光を湛え、完全な刃として再生していた。


「ヨル……! 無事だったのか!」


 カイルの声に、ヨルは静かに頷く。その黒い瞳は、目の前の当主ではなく、その背後にある編纂室の深淵を見据えていた。


「カイル、行け。ここから先は、俺の……そして、お前の血に刻まれた因縁の場所だ。……シュライン、アルヴァス、ボルグ。この者たちの相手をしてやってくれ。俺は、弟に会いに行く」


 ヨルの言葉に、仲間たちがそれぞれの武器を構え直す。シュラインは聖なる光を放ち、傷ついた兵士たちに再び立ち上がる勇気を与えていた。


 カイル、澪、そしてヨルの三人は、崩壊し始めた三家の絶叫を背に、編纂室の最深部へと足を踏み入れた。そこには、巨大な水晶の核の中で眠る、カイルと瓜二つの顔をした少年――アキの肉体が、システムの部品として永遠の眠りについていた。


「……アキ。ようやく、迎えに来たぞ」


 ヨルの震える声が、静寂に包まれた世界の核に響き渡る。だが、その時。システムの防衛機構が作動し、アキの肉体を触媒にして、巨大な「神の影」が形作られ始めた。


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