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烙印戦記 ー破滅エルフと棄てられた箱庭の英雄ー   作者: 弌黑流人
箱庭の国

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第45話 バベルの鼓動

 澪が掲げた白銀の聖槍が、塔の重厚な門扉に触れた瞬間、荒野に地響きのような重低音が鳴り響いた。

 門を閉ざしていた不浄な黒い結界が、聖獣乙女の放つ純白の魔力に焼かれ、ガラスが砕けるような音を立てて霧散していく。


「……起動ブート、開始」


 澪の声は、これまでの彼女のものとは異なっていた。エルフの叡智と聖獣の威厳、そしてかつて日本で生きた魂の意志が混ざり合い、幾重にも重なる鈴の音のように響く。


 彼女が掌を門へとかざすと、膨大な翠の魔力が奔流となって塔の内部へと流れ込んだ。数千年の間、空中都市からの供給のみで生きていたバベルの心臓が、外部から注ぎ込まれた「未知の魔力」に驚喜するように、ドクン、と大きく拍動した。


「門が開いたぞ! 全員、突入せよ!!」


 カイルの号令が響く。生き残った兵士たちは、聖獣乙女の神々しい姿に恐怖を忘れ、歓声を上げて塔の内部へと雪崩れ込んだ。


 塔の内部は、外観の石造りからは想像もつかないほど無機質な、金属と回路に覆われた空間だった。螺旋状に続く階段の先、遥か高みからは、侵入者を排除せんとする冷徹な機械音が響いてくる。


「……来たわね。天上人の操り人形たちが」


 澪が黄金の瞳を細める。

 上層から降りてきたのは、純白の鎧に身を包んだ天上人の防衛騎士団だった。彼らは人間としての感情を去勢され、システムの命令に従うだけの処刑マシンと化している。


「ここは俺たちが引き受ける! カイル、お前は澪を支えて先へ行け!」


 ボルグが黄金の鉄甲を叩き合わせ、先頭の騎士を殴り飛ばす。アルヴァスもまた影の中に消え、騎士たちの死角からその喉元を正確に貫いていった。シュラインの祈りが兵士たちを包み、聖獣乙女の加護を受けた彼らは、かつて神と恐れた天上人の騎士たちを圧倒し始めた。


 カイルは、階段を駆け上がりながら、時折隣を走る澪の横顔を見た。

 白銀の獣耳を凛と立て、九本の尻尾を揺らめかせるその姿は、あまりにも美しく、そして遠い存在に見えた。


「……澪、無理はしてないか?」


「大丈夫。フェンリスが私に力を貸してくれている。……それに、この塔のシステムが私の魔力を拒絶できずにいるわ。今の私は、この箱庭せかいにとっての『バグ』そのものだから」


 澪が槍を振るうたび、塔の壁面に刻まれた因果の回路が次々と翠色に上書きされていく。

 彼女はただの魔力源ではない。エルフとして培った術理を用い、塔そのものを「空中都市の所有物」から「自分たちの道」へと書き換えているのだ。


 一方、塔の最下層。

 殿を務めるヨルの前には、数十体もの「執行官」たちが立ち塞がっていた。かつての自分と同じ、仮面を被り、意志を奪われた無機質な人形たち。


「……数千年、俺もその列に並んでいたわけか」


 ヨルは折れた細剣を静かに構えた。

 背後でバベルが力強く鼓動し、カイルたちが上層へと突き進んでいくのを感じる。


「さらばだ、兄弟ドールたち。俺は一足先に、人間へと戻らせてもらうぞ」


 黒い閃光が走り、殿の戦いもまた、苛烈を極めていった。


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