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烙印戦記 ー破滅エルフと棄てられた箱庭の英雄ー   作者: 弌黑流人
箱庭の国

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第37話 共鳴する烙印

 衝突の余波で荒野の土が舞い上がり、視界を遮る。

 カイルの腕には、漆黒の大剣越しに伝わる「拒絶」の振動が残り、背中の烙印は焼けるような熱を持って脈動し続けていた。


「使徒の使い……執行官。今まで降りてきた騎士たちとは、何もかもが違いすぎる」


 澪が震える声で呟いた。彼女の術式が、執行官の周囲に漂う魔力の質を解析し、絶望的な結論を導き出す。彼が纏っているのは、地上の魔力でも、騎士たちが使う光の魔法でもない。存在そのものを無に帰す、根源的な「抹消の理」だ。


「個体識別カイル、排除を継続。システムの不備を修正する」


 執行官の男は、再び無機質な声を上げた。その瞳は依然として深い闇を湛えた黒であり、どこか遠い場所を見つめているかのように虚ろだ。

 彼が細剣を正眼に構えた瞬間、背後の空間が鏡のように割れ、そこから漆黒の霧が溢れ出した。


「来るぞ、構えろ!」


 カイルの叫びと同時に、執行官の姿が視界から消えた。

 次の瞬間、カイルの背後――守られるべき澪のすぐ目の前に、黒い刃が突き出される。


「澪っ!」


 カイルは考えるよりも先に、フェンリスの加護を爆発させて跳んだ。背中の烙印が、かつてないほどの翠の閃光を放ち、カイルの肉体を限界を超えた速度で突き動かす。


 キィィィィィィィン!!


 金属音を通り越した、精神を削るような衝撃音が響く。


 カイルの大剣が、澪の喉元に届く寸前で細剣を弾き飛ばしていた。だが、その接触の瞬間、カイルの脳内に異質な光景がフラッシュバックする。


 ――見たこともない高い建物。夜を照らす色とりどりの光。そして、自分によく似た面差しで笑う、黒髪の幼い弟。


「な、んだ……今の……」


 カイルの動揺を突くように、執行官が追撃を繰り出す。しかし、その剣筋は一瞬だけ、わずかに迷ったように揺れた。


 執行官の男は、自分の右手に伝わる「震え」を怪訝そうに見つめる。彼の首筋の黄金の回路が激しく発光し、強制的に思考を塗り潰そうとしていた。


「……バグ……。ノイズを検出。抹消を再開……」


 男の纏う空気が、さらに冷たく鋭くなる。それはバーサーカー状態へと追い込まれた、理性のない「殺戮機械」のそれだった。


「待って、カイル、あの人の剣……!」


 澪が必死に叫ぶ。


「あの人の魔力、あなたの烙印と……まるで同じ歌を歌っているみたいに、響き合ってる! 敵なんかじゃない、本当は……!」


 だが、澪の言葉は執行官の放った漆黒の斬撃によって遮られた。


 理を断つ刃が荒野を裂き、逃げ場を奪う。カイルは烙印がもたらす激痛に耐えながら、正体不明の懐かしさと戦慄を同時に抱え、再びその剣を振り上げた。


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