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烙印戦記 ー破滅エルフと棄てられた箱庭の英雄ー   作者: 弌黑流人
箱庭の国

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第26話 蹂躙の果てに

 白銀の観測者たちは、この場に現れた闖入者がもたらす因果の崩壊を、刹那の間に演算し終えていた。彼らにとって、カイルたちの生死や、今まさに汚されようとしている澪の純潔などは、保存すべきデータに比べれば塵に等しい。


 「介入は無益。本個体との接触を棄却し、データの保全を優先する」


 無機質な宣言と共に、周囲を囲んでいた幾百もの白銀の個体たちは、霧が晴れるように別の領域外へと一斉に転移した。


 そこには、自分たちを守る盾も、道標となる叡智も、もはや存在しない。


 残されたのは、圧倒的な暴力を愉しむ男と、抵抗の術を奪われた二人の乙女だけだった。


 男は、まず震えるシュラインの元へ歩み寄った。その足取りは、これから獲物をいたぶる子供のような邪悪な無邪気さに満ちている。


 「ひっ……あ、ぐ……っ」


 シュラインが後ずさる間もなかった。男の大きな手が、シュラインの細い首を無造作に掴み、そのまま軽々と持ち上げる。万力のように食い込む指が、少女の細い喉を物理的に押し潰した。


 「かぁー、な、なんて脆いんやろ。この脆さが、たまらんわぁ」


 呼吸を完全に奪われ、小さな手で男の手首を虚しく叩いていたシュラインは、わずかながらの抵抗を見せた後、すぐに白目を剥いて意識を失った。男は、事切れた小動物を捨てるように、彼女を冷たい金属の床へと無造作に放り投げた。


 「堪忍な。これからすることは、子供のきみにはちぃ~と見せられんよって。……おまたせ、そひたら次はきみの番やね」


 男は、必死に魔力を練ろうとしていた澪へと向き直った。その目は獲物の美しさを称賛するどころか、ただ消費されるべき物品を眺めるような卑俗な光を放っている。


 澪が魔法を放つよりも早く、男はただ一振り、手を横に薙いだ。それだけで、空間を切り裂くような不可視の衝撃波が発生する。


 「あ……っ!」


 鋭い風の刃が澪の全身を襲った。それは肉体までをも深く切り裂く殺傷の刃ではなく、彼女の身を包んでいた衣服だけを、まるで紙細工のように無惨に、かつ精密に引き裂くための辱めの刃だった。


 粉々に散った布切れが空間を舞い、露わになった真っ白な肌に、男の汚らわしい視線が這う。


 「ほぉ、なかなかどうして。ええ乳しとるやないの……、よだれ出てまうわ。あっ、そうそう、逃げてもええんやで〜。追いかけるほうが、屈服させる愉しみがぁ増えて、ぼかぁ好きなんよね」


 男は愉悦に目を細め、言葉が終わるよりも早く、澪の足元に影のように現れた。抗う間もなく、彼は澪の左足首を剛力で握りしめた。


 「や、めて……!」


 その嘆願さえ、男には最高のスパイスに過ぎない。男は、まるで硬い鞭でも振るうかのように、澪の細い体を高く振り上げ、そして金属の床へとぞんざいに叩きつける。


 ドォォォンッ!!


 激しい衝突音が空間に反響し、床の金属板が澪の背中の形で大きく凹んだ。肺の中の空気をすべて吐き出させられ、澪の意識は暗転する。全身の力が抜け、糸の切れた人形のように横たわる彼女の姿を見て、男は満足げに鼻歌を口ずさんだ。


 男は横たわる澪の両足を、欲望を隠そうともせずに、乱暴に左右へと広げた。


 「ほな、お楽しみといこか。エルフの感触、存分に味あわせてもらうで」


 男が下劣な笑みを浮かべ、澪の無防備な肌に手をかけようとした、まさにその刹那。


 ――グシャッ、という、生々しく硬いものが砕ける音が空間を震わせた。


 「……が、はっ……!?」


 男の顔から、余裕の笑みが消え失せた。自分の視界の端、腹部の中央から、血に濡れた銀色の異物が突き出していたからだ。


 それは、先ほど自分が粉砕し、放置したはずの男、

――アルヴァスが、命を削って具現化した空間の楔だった。


 「……貴様、のような……外道を……逃がすわけには、いかない……」


 地に伏していたアルヴァスは、片目を血で塞ぎながらも、自らの骨を砕いて食い込んだ籠手をさらに深く突き立てていた。意識を失ったふりをして、彼はこの瞬間、男がもっとも油断するこの一瞬だけを、地獄の底から這い上がるような意志で待ち続けていたのである。


 その執念は、空間全体に響くノイズとなった。百メートル上空、天井の壁に深くめり込んでいたカイルの指が、ピクリと動く。その瞳には、先ほどまでの絶望を焼き尽くすような、紅い復讐の炎が宿っていた。


 「おい……その汚い手を……澪から離せよ……!!」


 天井から、黒い蔦に浸食された腕が伸び、実体のない大剣の柄が、男の命を刈り取るための漆黒の刃を編み上げ始めた。下の下と蔑まれた反逆者たちの、死に体からの逆襲が今、幕を開ける。


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