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烙印戦記 ー破滅エルフと棄てられた箱庭の英雄ー   作者: 弌黑流人
箱庭の国

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第25話 招かれざる「選定者」

 「力量測定、フェーズ2。新兵装の適合率、および連携精度の確認を開始する」


 観測者の声と共に、金属の床が震動した。現れたのは、先ほどの幻影とは比較にならない密度を持った、漆黒の騎士たちの軍勢。それは不湯家の精鋭騎士のデータを、断層の技術でさらに強化した「理の番人」だ。


 澪の鋭い指示が、全員の脳内に響く。


 「カイル、シュライン! アルヴァス殿、ボルグ! 全員、イヤーカフを抑えて! 連携回路を繋ぎます!」


 カイルは黒い蔦に浸食された腕を掲げ、刃のない柄を強く握りしめた。アルヴァスは血に濡れた籠手を構え、ボルグは黄金の鉄甲を嵌めた拳に力を込める。シュラインは痛みに耐えながらも、その澄んだ瞳で敵の動きを観測しようと集中していた。


 「……下の下だって言われたままで、たまるかよ!」


 カイルの叫びが、反撃の狼煙となるはずだった。その時、突如として、彼らがいる領域の外側から、空間そのものを切り裂くような一閃が走った。


 「何だ!?」


 観測者たちの単眼が激しく明滅し、解析不能な事態に陥っていることを示している。箱庭を構成する堅固な金属壁に、音もなく巨大な亀裂が走り、そこから眩い光が溢れ出した。


 開かれた光の先に立っていたのは、一人の男だった。古びた外套を羽織り、見るからに疲れた様子で、あくびを噛み殺しながら、男はのんびりと歩を進めて近づいてくる。その存在感は、漆黒の騎士たちとも、無機質な観測者たちとも全く異なる、異質な人間の気配だった。


 「ようやっと当たりを引いたようやね。ここで10カ所目やったから、疲れたわぁ」


 男の独り言のような言葉に、その場にいた観測者たちが一斉にざわめいた。


 「識別不能。……事象の特異点。警戒レベル、最大値。因果律への干渉を検知」


 澪の顔からは血の気が引いていた。


 「まさか……この断層に、ここへ辿り着く者がいるなんて……!」


 男はカイルたちの目の前まで来ると、にこやかに微笑んだ。その顔には一切の悪意が感じられない。


 「はじめまして。ぼかぁ、君たちを抹殺するよう頼まれたもんです。ま、ご愁傷さん」


 男がそう言い終わるやいなや、その場にいた誰もが反応できないほどの速度で、アルヴァスの目の間に一瞬で距離を詰め、その脇腹を蹴り上げた。


 「ぐふぉっ!」


 アルヴァスは血を吐きながら、遠くの金属壁に激しくぶち当たった。籠手を嵌めた腕はだらりと垂れ下がり、蹴られた腹は肉が抉られ大量の血を垂れ流している。意識があるのか、ここからははんべつできない。


 「アルヴァス!」


 カイルが叫び、大剣の柄から伸びた漆黒の刃を形成しながら、ボルグと共に男を挟み撃ちにする形で攻撃を仕掛けた。


 「遅いねぇ。こんなんじゃ、話にならんわ」


 次の瞬間、凄まじい衝撃波が空間を揺らした。カイルは、気が付けば百メートルはある天井の壁に、文字通りめり込んでいた。骨が砕ける不快な感触と共に、口から血が噴き出す。


「ガハッ!」


 逃れることのできない高い壁。カイルは蜘蛛の巣状に亀裂の入った天井に身体を埋め込まれ、指一本動かすことすらできない。


 一方、ボルグはその場の床に、力任せに叩きつけられていた。黄金の鉄甲が金属の床を虚しく叩き、彼は頭蓋を割られ意識を失い、物言わぬ肉塊のように地べたに転がっている。


 残されたのは、エルフの澪と、恐怖に震える巫女の素養を持つシュライン、そして分析不能な事態に混乱する観測者の群れだった。


 男は、天井に張り付いたカイルや地に伏すボルグを一瞥もせず、澪へと向き直った。その目は品定めするように、澪の全身を舐め回す。


 「エルフはやっぱ美人やなぁ。そそるわぁ。きみは生きたまま連れ帰るように頼まれとるけど、あいつらにいじられる前に、ちょっと味見してからにするかなぁ。そっちのシュラインは育成機関ゆきやて。死ぬことはないでよかったなぁ。まぁ、なんや将来的には地獄かも知れんけど」


 男の言葉は、この空間の全てを支配する、新たな絶望として響き渡った。


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