06,悪役令嬢、ヴァランティーヌ
昼食を食べ終わるまで、ベルナデットは泣き続けていた。あとで、アドリアンに聞いたのだが、友人になることは、家同士の仲も意味しており、嘘をつく事は、何かあったときの裏切りに繋がる大層なこと...と考えている家も多いそうだ。
ベルナデットは先に教室に帰戻っていった。
「あの時、なぜニコラは隠れたの?」
「姉さんとは仲が悪いんだ。」
「えっ、ベルの弟って、ニコラだったの?」
「苗字が同じだっただろ、このバカ姉貴。」
「人の名前覚えるの、苦手なんだよ。」
「ククッ...。いやぁ、アドのところは仲良くて羨ましいよ。」
「おかしいな、ベルはとても可愛いがっているような事を話していたけど。」
話は変わるが、昼休みは昼食の時間も含まれるので、3時間ある。前世でもそれぐらい欲しかった。(20分だった)
「あ、そう言えば、ヴァランティーヌ様との約束、忘れてた!」
「え、姉ちゃん、呼び出されたの?」
「ううん、呼び出した。」
「な、なんでだよ!」
「関係切りたいって言うから、ちょっと仲良くしてもらおうと思って。そうだ、アド、私にその悪魔っぽい笑い方を教えて!」
「は?僕は天使の微笑みしかしないが?」
「いいから!」
「はぁ。口は普通に笑って、目だけは笑わないで...そう、良い感じじゃん。」
「ありがと、じゃ!」
クリステルは食堂の中で、ヴァランティーヌを探す。真ん中の方で、エリックと一緒に昼食を取っている。クリステルはヴァランティーヌめがけて、歩いていった。扇子も準備満タンだ。
「ヴァランティーヌ様、少しお時間、よろしいですか?」
「えっと...」
エリックが口を挟む。
「シャトラン子爵令嬢。」
「そう、シャトラン子爵令嬢、良いわよ。」
「ヴァランティーヌ様、こっちが下の名前呼んでいるのに、少々おかしいんじゃないですか?」
「シャトラン子爵令嬢、身分を弁えてください!」
「良いのよ、エリック。シャトラン子爵令嬢、前は何で呼んでいたのかしら?教えてくださらない?」
「さあ、覚えいません。」
周りがザワザワと囁く。
「まあ、何てお心が広いの!」
「やはり、改心なさったと言う噂は、本当だったんだ!」
ヴァランティーヌが、呟く。
「何でこんなに目立っているのかしら?」
「姉さんがとても美しいからですよ。」
春休み中だけで、よくこんなにもべったりになったものだ。
「食堂のど真ん中だからではないですか?それより、場所を変えましょう。」
クリステルたちは、食堂の近くの音楽準備室に移った。誰もいなかったからだ。
「ヴァランティーヌ様だけで結構なのですが、エリック様。」
「いえ、僕もいます。」
「いらっしゃらない方が、ヴァランティーヌ様の為ですよ。」
エリックが一向に出て行く様子がないので、クリステルはヴァランティーヌにこっそりと囁く。
「ヴァランティーヌ様、転生って、信じますか?」
ヴァランティーヌはぎくっと顔を歪ませると、エリックに教室を出て行かせ、扉を閉めた。
「乙女ゲームって、聞いた事はありますか?」
「な、無いわ!」
クリステルは、はぁ、とため息を着いた。なぜこんなにも、わざとらしく嘘をつけるのだろうか。
「27歳OL、独身、トラックに轢かれ、ハマっていた乙女ゲームに転生して今にいたる。違いますか?」
「な、何でその事を...。」
「さあ。」
「さあって...あなた、何がしたいの?」
クリステルはニヤリと悪魔の笑みを浮かべる。この為に、アドリアンから習っておいたのだ。
「とりあえず、私と友人になりませんか?そして、あなたのお父様に、伝えてください。私と仲が非常に良いと。この件に関しては、今日はこれで以上です。」
「そう。わかったわ。お父様にはそう伝えておくわ。」
ヴァランティーヌはそそくさと逃げるように扉を開けた。早くこの場を立ち去りたくてしょうがないようだ。扉の向こうには、エリックが立っていた。ヴァランティーヌはエリックに倒れ込む。
「姉さん、何か言われたの?」
「い、いいえ...。」
クリステルはカツカツとエリックに歩み寄ると、また、悪魔の笑みを浮かべた。エリックに囁く。
「エリック様、あなた、跡取りになれないでしょう。」
「何をおっしゃっているのか、よくわかりませんね。それより、もうすぐ休み時間が終わりますよ。」
姉と違って、表情が読めない。
クリステルは扇子で顔を隠すと、目だけ笑ったように細めた。
「では、また。」
「はい、また。」
意味ありげな顔をしてくるエリックが怖い。そう思いながら、クリステルは教室へと急いだ。
「姉ちゃん、どうしたの?ヴァランティーヌ様と、何かあったのか?」
馬車の中でぐったりと横たわっているクリステルに向かって、アドリアンが言う。ちゃっかり、アドリアンに膝枕させている。
重いだろうに、文句も言わず心配してくれるなんて、良い弟だ。
「ううん、違う。昼休みの後の、実力調査テストが全然わからなかった。」
「姉ちゃん、毎回90点以上取ってたし、元の点数取り戻すの難しいだろうね。最低ラインは?」
「0点。最高ライン50点。」
「低いな!実力調査テストって、ほとんど復習みたいな問題しか出ないよ。平均点、70点はいくと思うけど。」
「うっ...アドは?」
「まあ、80点は硬いな。どっかのバカとは違ってね。」
むかつく。クリステルは無言でアドリアンの頬を引っ張った。
「ひゃへほ(やめろ)!」
アドリアンがギャーギャーと叫ぶので、アドの方がバカっぽいな、とクリステルは思った。
「クリス、何をやっているのかしら?」
怒りを押し込めた声が聞こえた。馬車の扉の方を見ると、にっこりと笑ったナタリーがいた。いつのまにか家に着いたようだ。
「えっと...アドの頬を引っ張っています。」
「全く...あなたって子は...。それより、今日はお父様が帰ってこられるのよ。さっさと着替えて来なさい。」
『はーい。』
自室に戻ると、ドレスを選ぶ。普段着のワンピースが3着、よそゆき用のドレスが1着、運動用のズボンとシャツが1セット、ネグリジェ2着と制服1着。しかもこれ、冬に上着やマフラーなどは追加されるが、春夏秋冬兼用らしい。
「うん、いつ見ても少ない。前世の方が持ってた。」
迷うまでもなく、よそゆき用ドレスを選ぶ。色はターコイズで、金髪と合っているのだが、スカートが少しヒラヒラとしている以外、無地で飾り気がない。髪だけでも見栄えを良くしたくて、もう一度結い直そうかと思ったが、面倒なので、やめておいた。アクセサリーはどこにあるのかわからない。
扉の向こうが、リサの声がする。
「クリス様、旦那様がもう少しでお帰りになるで、玄関に行きましょう!」
クリステルは廊下に出ると、リサと一緒に玄関へ急いだ。玄関には赤いカーペットが引かれており、その横には、10人にも満たない使用人たち、そしてナタリーとアドが立っていた。
「クリス、遅いわ!早く隣に来なさい。」
ナタリーはかなり張り切っているようだ。
「お父様は、いつぶりにお帰りになられるのですか?」
「1ヶ月くらいかしら?」
「娘が倒れて記憶を失くしたというのに、1回見舞いに来ないとはどういう神経しているの?」
「まあまあ、父上にも事情があったでしょうし。」
アドリアンが宥めてくるが、クリステルは騙されない。
「そういえば、アドを見舞い、来なかったよね?」
クリステルとアドリアンが言い争いをしていると、外からも馬車も何人かが言い争いをする声が聞こえてきた。
「お父様はお一人ではないのですか?」
クリステルは聞いてみたが、ナタリーも困った顔をしている。
扉が開くと、貴族っぽい男性が2人と使用人や護衛っぽい人たち、そしてなぜか、ヴァランティーヌとエリックがいた。




