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05,友達、ベルナデット

「...以上で始業式を終わりとします。生徒は、各校舎に戻って下さい。クラス分けは、廊下に貼ってあります。」


 始業式がやっと終わった。アドリアンが話しかけてくる。


「僕は初等部で、校舎が違うから、休み時間とかにまた会おう。」

「うん、わかった。」

「あとさ、ちゃんと令嬢っぽい喋り方にしろよ。そのアホ面もやめろ。」

「え...。アド、どうすればアホ面じゃなくなるのかな?」

「アホ面ってことに、否定はしないんだな...。そうだな、顔を隠すのが良いかもしれない。制服に付属の扇子があっただろ。」

「うん、何の為かと思ったら、こういう事だったんだね。というか、扇子にも校則があるんだね。」

「ああ、指定の扇子じゃないと違反だ。」


「なあ、アドたちは何の話をしているんだ?」

「ニコラ!」


 急に背後から声がした。そこには黒髪で琥珀色の瞳の少年がいた。歳はアドリアンくらい。アドリアンの肩に肘を置いている馴れ馴れしい様子から、アドリアンの知り合いだろう。クリステルはスッと顔を扇子で隠すと、なるべく落ち着いた口調で言った。


「アドのお友達かしら?」

「は、はい!アドのお友達です!」


 アドリアンが小声で囁く。


「緊張するなよ、ニコラ。気を使うような相手じゃないぞ。」


 クリステルはその声を遮るように、少し大きな声で言った。


「アドは口と性格が悪いから、友達がいるかどうか、姉として心配だったの。」

「大丈夫ですよ!アドには俺という友達がいますし、安心してください!あっ、俺は『ニコラ・ボソン』っていいます!」


 黒髪少年が少し息んだように言う。


「そうですよ、友達がいないのは、姉上の方では?」


 アドリアンが嫌味たっぷりに言う。

 うっ、反論出来ない。でも、記憶ないし、いても知らないだけかも。


「じゃあ、僕たちはこれで。高等部の校舎は、あっちにまっすぐ行けば着きますよ。」

「ありがとう、アド。」


 言われたとうりに行くと、無事に高等部の校舎に着いた。なんだかんだ、頼りになる弟だ。

 廊下に貼ってあるクラス分けの紙を見ると、ヴァランティーヌ、エリックとは、同じクラスだった。まあ、貴族だし、小細工はあるのかもしれないが。

 教室に入るなり、2人の令嬢がクリステルに話しかけてきた。黒髪に緑の瞳の少女と赤毛に琥珀色の瞳の少女だ。


「遅いじゃない、クリステル・シャトラン!」

「ヴァランティーヌ様が大変なのよ!」


 クリステルは慌てて顔を扇子で隠す。誰だコイツ、という顔をしてしまいそうになったからだ。


「申し訳ありません、乗り物の手配が遅れたもので。それで、ヴ...大変な事とは?」


 ここで、もう一つ困ったことに気付いてしまった。ヴァランティーヌを噛まずに言える自信がない。「ヴァ」と上手く発音出来ない気がする。ヴァランティーヌの名前を忘れていたのも、多分それが原因だ。


「ヴァランティーヌ様が、私達との関係を切りたいとおっしゃっているの!」


 あー、転生、春休みだったかー。秋休みとか冬休みが良かったなー。


 そこへ、ヴァランティーヌ本人がやってきた。クリステルよりも少し赤みを帯びた金髪を、クルクルと巻いていて、ルビーのような赤い瞳をしていた。かなりの美人だ。


「悪いけど、そういう事ですの。今後一切、私と関わらないでちょうだい。」


 ふと、クリステルは、ナタリーの言葉を思い出す。〈ヴァランティーヌ様が公爵に、クリスが態度が悪かったとか、クリスと仲があまり良くないと言われたら...うちは破滅よ!!!〉

 このままでは、うちが破滅してしまう。


「ヴァランティーヌ様なぜ、私達との関係をお切りになりたいんですか?」


 赤毛の少女が聞く。ヴァランティーヌがポツリと呟いた。


「...取り巻きなんかいたら、悪役令嬢っぽさがアップするじゃない...」


 そんな理由で?こっちは破滅の危機にさらされているのに。誠に迷惑だ。

 ヴァランティーヌは大きな声で、白々しい嘘をつく。


「あなたたちには、本当に申し訳ないと思っていますわ!ごめんなさい。」


 そして、深々と頭を下げる。


「でも、あなた達の学園生活を制限するのは、良くない事だと思いますの。わかってちょうだい。」


 いやね、わからなきゃいけないのはあなたの方だよ、ヴァランティーヌ。

 クリステルは、深呼吸をして、覚悟を決めた。

 扇子を閉じて顔を見せると、ナタリーを真似てニコリと微笑む。


「ヴァランティーヌ様、後でお時間を頂けますか?」

「え、ええ。」


 よっしゃ!噛まずに言えた!


 チャイムが鳴った。皆それぞれ席に着く。様子を見た限り、自由席のようだ。赤毛て琥珀色の瞳の少女が席に着くと言った。


「クリステル、一緒に座らない?」

「は、はい。」


 仲が良いのだろうか。なら、記憶が無いということを、話した方が良いのかも知れない。


「あの、申し訳ないのですが、あなたの事を覚えていないのです。春休み中、記憶を無くしてしまったもので。あなたとは、仲が良かったのですか?」

「えっ?...えっと...、良かったですわ!」

「少し悩まれるということは、微妙な関係ということですか?」

「い、いえ、そんな事はありませんわ。ただ、記憶をなくされたということに少し驚いただけですわ。」

「ということは、仲は良かったと?」

「え、ええ、とても。ヴァランティーヌ様をお慕えしていますし、爵位も同じ子爵家ですし。」

「そうなんですか、なら、私に敬語はいりませんよ。私も敬語を使わなくても良いでしょうか?」

「も、もちろん!私は『ベルナデット・ボソン』。」

「ベルナ...」


 長いな。


「ベルって呼んでもいい...かしら?私のこともクリスって読んで。」

「いいわよ、クリス!」


 ベルナデットは、心做しか嬉しそうな気がする。あだ名で呼ばれるのは、初めてだろうか。クリステルも、前世で早希に「理沙子だから、リサちゃんね!」と言われたときは、友達って感じがして嬉しかったものだ。


「あだ名を付けられたのは初めて?」

「あだ名?」

「愛称的な?」

「えっと、初めてよ。」


「シャトラン子爵令嬢、少しお聞きしたいことがあるのですが...」


 顔を上げると、見覚えのある顔があった。黒髪にオレンジがかった瞳、整った顔立ちをしている。


「僕は、『エリック・タレーラン』。姉のヴァランティーヌに、何かおっしゃいました?」

「御本人にお聞きになったらいかがですか?」


 クリステルは突き放すように言う。ベルナデットがクリステルの声を遮るように言った。


「クリスには少々事情がありまして、礼儀作法がなっていないのです。友人の代わりにお詫びいたします。」


 そして、クリステルに向かって囁いた。


「クリス、この方は、爵位が低い者にも丁寧に話して下っているだけで、公爵家の御令息なのよ。」

「なるほど?えっと...ヴァランティーヌ様には、なぜ急に私どもとの関係を切られたいのかを、後でお時間がある時に詳しく教えていただきたい、と申しました。」

「そうですか...。」


 そんなに丁寧に言ってないけどね。


 先生が教室に入ってきたので、エリックは席に着いた。その後は、ほとんど、校則の話だった。気づくと、昼休みになっていた。

 ベルナデットが教室を出たので、クリステルもついていく。ベルナデットは、始業式を行った方へ歩いて行く。

「昼は、全学年共通の食堂で食べるのよ。」

「ということは、弟にも会えるかな?」

「ええ、クリスも弟がいるのね。私もいるのよ。」

「そうなんだ。可愛い?」

「それはもう。とっても可愛いわ!」


 クリステルはすっかり令嬢っぽい言葉づかいを忘れていた。弟の話をしていると、いつの間にか、食堂に着いていた。全学年共通というだけあって、かなりの広さだ。沢山の出入り口が付いていて、あちらこちらに丸いテーブルと椅子があり、その間をウェイターやウェイトレスが駆け回っている。食堂というより、レストラン的な感じだ。


「姉上、ご無事でしたか?」


 後ろを振り返るとアドリアンがいた。ニコラも一緒だ。


「アド。無事とは何、無事とは。」

「どなたかのご機嫌を損ねて、八つ裂きにされているのではないかと、心配していたのです。」

「そう、それは余計な心配ね。私を何だと思っているの?それはそうと、私、友達が出来たわ。あなたの心配事が、色々と減ったわね。」


 クリステルは、嫌味を込めて言った。


「げっ...姉上、友達とは、ボソン子爵令嬢のことですか?」

「ええ、そうよ。私の友人、ベル。」


 さっきまで、2人のやり取りを、笑って聞いていたニコラが、ビクッとアドリアンの後ろに隠れる。


「ボソン子爵令嬢とは仲が悪かったじゃないですか?」

「クリス、行きましょう!」


 ベルナデットは叫ぶと、クリステルの腕を掴んで、食堂の端の方のテーブルに座る。


「ごめんなさい、クリス。あなたと仲が良かったっていう話、嘘なの。本当はすごく悪かったのよ。」

「どうして嘘ついたの?」

「昔は仲が良くて...高等部に入ったのをきっかけにまた仲良くできたらって思って隣の席を進めたの...。そしたら、あなたが記憶を失くしたって言うから、私...私...チャンスだと思って...ううっ...ぐすっ...。」


 ベルナデットは泣き出してしまった。


「どうして泣いているの?」

「ごめんなさい...。」

「謝るのはこっちの方だよ。あなたがなぜ泣いているのか、全くわからない。」

「だって...嘘つきとは仲良くしたくないでしょう?そしたら、私...また...1人になっちゃうから...。」

「ごめん、やっぱりよくわからない。嘘ついたくらいで、友達辞めたりしないよ?」

「クリス...ううっ...。」


 ベルナデットはまた泣き崩れてしまった。

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