04,攻略対象者1、アーサー
等々、春休みが終わってしまった。
この1週間、ナタリーに散々扱かれた。学力は、成績優秀だった、理沙子が転生する前のクリステルには、到底敵わないが少しは上がった。
でも、ナタリーは、今のクリステルが全然勉強が出来ないという事がわかると、礼儀作法に力を入れていた。特に、ヴァランティーヌとのことは細かく言われた。
「良い、クリス。『ヴァランティーヌ・タレーラン』様の機嫌は絶対に損ねないようにね!絶対よ!そのお父様のタレーラン公爵には、本当にお世話になっているのよ。もし、ヴァランティーヌ様が公爵に、クリスが態度が悪かったとか、クリスと仲があまり良くないと言われたら...うちは破滅よ!!!」
それはかなり困る。頑張らなければ。
クリステルは制服を着ると、鏡をみた。髪は三つ編みにし、横に垂らしてある。我ながら、中々可愛い。
最終確認が終わると、クリステルは廊下に出た。学校には、アドリアンと行くようにナタリーに言われている。
丁度、リサが知らないメイドとともに通りかかったので聞いてみる。
「リサ、アドはどこかしら?」
「アドリアン様は先に学校に行かれましたよ。」
「えっ、私、学校どこにあるか知らないんだけど!」
すると、知らないメイドがリサの代わりに答える。
「申し訳ございません、私どもは奥様から用事を預かっているのです。どうか、他の使用人にお聞きください。」
リサは、泣きそうな顔して言う。
「うぅっ、申し訳ありません...クリス様ぁ...。」
「う、うん...ええ、大丈夫よ。他の人に聞くわ。」
クリステルはリサと別れて玄関に向かう。リサにはああ言ったが、誰かに話しかけれるだろうか。
玄関に行くと、使用人たちがセカセカと忙しそうに歩き回っていた。『たち』と言っても、5人くらいなのだが。どうやら今日、クリステルの父、シャトラン子爵が帰ってくるらしい。
「あ、あのぅ...。」
駄目だ、話し掛けれない。誰か1番暇そうな人を...。その時、同い年くらいの、銀髪長髪をポニーテールに結んだ少年と目が合った。あっ、あの人暇そう。
「あの、すみません!学校ってどこですか?」
「えっ、あー、外に馬車が待ってるのでは?」
「確かに!...ありがとうございます。」
すごい単純だった。確かに住宅街でもあるまいし、歩いて行けるわけが無い。当たり前だ。恥ずかし過ぎる!
クリステルは慌てて外にでた。わぁ、庭広い!
すると、さっきの暇そうな銀髪少年が走ってきた。
「申し訳ありません、デタラメ言ってしまって!御令息が先に行ってしまわれたので、馬車がないそうです!」
後ろからナタリーも走ってきた。
「お母様、スカートで走られるのはどうかと思いますわ。」
「あなたの為に走って来たんでしょうが!そんな事より、ごめんなさいね。あなたの事を忘れていたわ。歩いては間に合わないわね。どうしましょう。」
忘れるなよ。
すると、銀髪少年がおずおずと提案してくれる。
「あの、良ければ俺が馬で送りましょうか?」
「まあ、そうして下さる?あ、でも、アーサー様のお手を煩わせるのは申し訳ないわね。やはり、今日は学校を休んで1日お勉強を...」
まずい、地獄が見える。
「ア、アーサー様、送って下さいますか!?」
「はい。」
すぐにアーサーが馬を用意してくれた。美しい白馬だ。そういえば、アーサーもとても美形だ。犬は飼い主に似るというが、馬も飼い主に似るのかもしれない。
アーサーがクリステルを馬へ引き上げけくれた。馬の上は、思ったよりも高い。すぐに、馬は学校に向かって走り出す。
アーサーはクリステルを抱えるように腕を回して手綱を握っているので、クリスタルの背中にアーサーがぴったりと触れている。クリステルは少しドキドキしてしまう。
でも、本当の年齢を考えると、妹と兄っぽいかもしれない。ちょっと嫌だ。というか、シンプルに友達になりたい。
「あと20分ぐらいで着きますよ、...えっと、申し訳ありません、名前を存じ上げず...。」
「『クリステル・シャトラン』です。どうぞ、クリスとお呼び下さい。」
「では、クリス様、俺に...私に対して敬語は不要です。名前も呼び捨てで結構です。」
「じゃあ、私の名前も呼び捨てで!」
「えっ、えーとー...わかりました、クリス。」
ちょっと息んじゃったけど、私にしては良くやったんじゃない?友達っぽくなったかな?クリステルは思わず、ニンマリと笑みを浮かべそうになった。慌てて、話を進める。
「それにしても、素敵な銀髪ね。初めて見た。」
「え、あ、はい、少し遠くから来たもので。」
あ、なんか驚いてる。もしかして、私があまりにも子供っぽいから?口調には気を付けたつもりなのに。
「あの、何か不快にさせちゃいました?」
「いえ、全然。ただ、クリスはとても気さくな方だな、と思いまして。」
つまり、礼儀作法なってないってこと?
「あ、もうすぐ着きますよ。」
そんな事を考えているうちに、着いてしまった。
「あ、あれはアド!」
アドリアンが、ゆうゆうと校門へ歩いている。少し手前では、シャトラン家の馬車が止まっていた。アーサーは器用にシャトラン家の馬車や他の家の見送りの馬車をよけて、アドリアンの前に、ぴったりと馬を止めた。そして、スルリと馬から降りると、クリステルに手を差し出す。クリステルはアーサーの手を取ると、少々危なっかしく降りる。
「大丈夫か、姉ちゃん。」
「う、うん。」
アドリアンはアーサーを見ると、ニヤリと笑い、アーサーに詰め寄る。
「それにしても、お二人さん、仲がよろしいのですねぇ。あんなにくっついちゃって。」
「も、申し訳ありません!俺、貴族の礼儀とか全然知らなくて...。」
「あなたも一応、騎士爵という準貴族の位を持っているはずですが。」
うちの弟怖すぎる。
「なにアーサーを脅しているの!元はと言えば、アドが私を置いて行くのが悪いんじゃ無い!」
「で、では、俺はこれで。また会うことがあるかもしれませんが、よろしくお願いします、クリス、アドリアン様!」
アーサーは礼儀正しく一礼すると、逃げるように去って行った。
「私よりも礼儀正しいじゃん!」
「姉ちゃん、あいつに呼び捨てさせてただろ。バカか、このクソ姉貴!そんな事してたら、一生婚約者出来ないぞ!」
「つまり、うちは一生貧乏!?」
「そう、一生貧乏!!」
それは非常に困る。もう、絶対アドリアンに置いて行かれないようにしないと。
「そういえば、アド、アーサーのこと知っていたの?」
「まあな、あいつは『アーサー・バーナード』。
異国の英雄、『エイデン・バーナード』の一族で、今は代々王国騎士団の団長を務めているんだ。騎士爵ながら、その地位は子孫にも受け継がれ、今も貴族界で勢力を持っているんだ。」
「ごめん、アド。よくわからない。」
「あーもう!簡単に言うとだな、貴族の位は、
公爵>伯爵>侯爵>子爵>男爵
の順であるのは知っているだろ。それは、僕が子爵の位を受け継ぐように、子孫が位を受け継ぐ。だけど、騎士爵のような準貴族は、功績を上げたものに与えたれる位だ。1世帯だけの位だから、子孫に受け継がれる事はない。だけど、バーナード家は、連続して騎士爵を与えられた過去があるから、騎士爵という位が受け継がれているんだ。」
「なるほど?」
『アーサー・バーナード』聞き覚えがある。銀髪、長髪、あのルックス。もしかして、[乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまいました!]の攻略対象者かもしれない。あの小説は、全5巻だ。しかし、実は理沙子は3巻後半と4巻を丸々1巻読んでいない。よく思い出してみれば、4巻の表紙に、アーサーがちょこっと載っていた気がする。表紙に載るくらいなら、攻略対象者かも知れない。
「姉ちゃん、始業式、始まるよ。早く行こう。」
「うん...。」
4巻は主人公ヴァランティーヌと婚約者ナントカのイチャイチャしか書いていないと思ったのに。攻略対象者が増えるということは、結構重要な巻だったのかもしれない。そのせいで、ヴァランティーヌへの情報提供が失敗するかもしれない。
「クリステル・シャトラン、大金持ちになれないかもしれません。」
クリステルはポツリと呟いた。




