第零回桜花──
『かんぱーい!』
ビールジョッキをぶつけ合う音と三人の声が響く。
彼らがいるのは、組織が経営している居酒屋だ。
それぞれ機会があって連絡をし、集合した。
夜空の化身とも言える眉目秀麗な男性。無表情であれば冷たく見えるが、今の笑顔は朗らかである。
ガタイがよくスポーツ選手に間違われそうなほどに長身な眼鏡の男性。眉目秀麗な彼に負けないほどに男前だ。
一人は空に浮かぶ雲のような穏やかさを持つ優男。ピンで髪の一部を留めている。あざとく、陽キャと言われそうに見えるが、彼の持つ柔らかな雰囲気ですべてが無効化される。
「三代治。本当に久しぶりだな」
久田直文は嬉しそうに話し、山下三代治は可笑しそうに笑う。
「久しぶりって。僕が子供から組織に通ってるの、何度も見かけてるだろ」
「声をかけづらいよ。それに、子供の頃の三代治と八一に話しかけるのはまだ早いって」
苦笑いをする直文に、佐久山啄木は頷く。
「中身が成人していても、その時の見た目の差がありすぎて声かけづらいって……」
「あー、確かに……」
腑に落ちたらしく、ビールを一口飲む。
180cm以上の身長を持つ二人と子供の差では、明らかに声をかけづらい。今の三代治は大人であり180cm以上はある。
頼んだ枝豆を一つ手に出し、直文は豆を出していく。
「けど、今の時代厳しくなったよな」
啄木は同意をし、漬物を箸で取る。
「そりゃ、医学的にも子どもが摂取しちゃいけないものもあるし、倫理も道徳も柔らかなものになっただろうな。これがいいことかどうかは、この先の時代次第だけど」
漬物を口に放り込んで、食べていく。
啄木の言う事にそれぞれの同意した。戦国や江戸時代に比べて、思想や倫理、独特など色んなものが混ざり合うようになった。先立に比べて彼は長生きしているわけでらないものの、それでも人の世を長く見てきた時間はある。
三代治は面白そうにビールジョッキを見る。
「そうだね。でも、僕はこんな面白いものが入ってきているんだから、案外悪いものじゃないかもとは思うよ。啄木」
「三代治は心広いなぁ……」
感心する啄木の横で、直文は枝豆の豆を無心に出している。出し終えたのか満足そうにお皿の上を見ていると、三代治は安心したように言う。
「直文。無表情でなくなったとはいえ、相変わらずの天然で安心したよ」
「俺は俺だと思うけど……俺はそこまで天然か? ある程度、人工物だと思うが」
「そこなんだよ。直文」
「え、どういうことだ? 三代治」
きょとんとする直文に三代治は呆れて見せ、啄木はビールジョッキを手にして一口。
「っはぁ! やっぱ、ビールはたまに飲むといいな!」
「けど、顔本当に赤いぞ。大丈夫か?」
直文に言われ、啄木は赤い顔のまま笑う。
「酔ってるな! けど、飲むのはこのビールジョッキ一杯だけにするよ。九州生れのくせに酒弱いから」
「個人差だから、僕は気にしなくていいと思うな」
「おっ、三代治。一品おごるぞ?」
「いいって。なら、次来る料理の味見だけはさせて」
三代治の言葉を受け、啄木は咲いながら頷く。直文は枝豆を食べて、ビールを飲む。枝豆の塩気がよいとか満足そうに息を吐き、天井を見る。
「……目的。ちゃんと果たせるかなぁ」
呟きを聞いて、啄木は顔を横に向ける。
「目的? もしかして、お前が影から守ってる。あの女の子か? 直文」
「……ああ、四年ほど動きがない」
「なら、もう少し待て。お前ならできるだろう?」
「そうする。そうでないと、俺の恩返しが果たせない。……啄木も、俺と似たような目的だもんな」
「……まーな。少しでも早く見つけたいけど……流石に組織の情報網を使うのはズルのような気がしてな」
「わかる。俺の方は運良く早く見つけられたといえど油断はできない。お前も無理するなよ」
真剣に話す二人をじっと見つめたあと、三代治はフライドポテトを手にしながら聞く。
「二人とも話には聞いていたけど、本当に好きなんだね。君たちの話してた名前のない巫女の子とまゆみさんって人が」
指摘すると直文はほおを赤くして照れ、啄木は複雑そうな顔をする。直文はともかく啄木は失恋のようなものであり、好きな相手に好意を伝えてない。二人の反応を見つつ、三代治は笑う。
「僕は、君たちに大好きな人ができたのがうれしい」
にこやかに笑う姿に2人はホッとするものの雰囲気がガラリとかわる。直文と啄木はびっくりするが、三代治の笑みは保たれる。
「でも、もし、僕の大切な子をまた殺すような奴がいるなら先に殺す。あの子と僕を殺し、良介を一人にさせたあいつが生きていたら同じ目にあわせるか。先に殺す。許させると思っているならば、甘いことをその身で教えてやる」
恨みつらみ嫉みがまだこもっているならいいだろう。淡々とした殺意が声色にあるからこそ、二人は何も言えなくなった。季節の分かり目のように、急激に変化をする。だが、その天気の変化、三代治の感情の起伏は読みづらい。
啄木は三代治の肩に手を置いて、声をかける。
「ほどほどにしておけよ。三代治」
「……うん、そうだね」
言われ、普通の穏やかな彼に戻った。
気を取り直して、直文は咳払いをするとビールジョッキを手にする。
「それは、ともかく、もう一回。乾杯しないか? どちらかというと、この場にいない三人の分をも含めて」
直文の意見に異議はなく二人は頷いて、ビールジョッキを手にした。
「じゃあ、もう一度。今は俺、啄木、三代治の三人だけど、あの問題児三人を含めた六人で揃う日を願って!」
『乾杯!』
再び乾杯をし、和かやな飲み会へと移行していく。
後に、この飲み会は任務お疲れ様の反省会になるとかなんかとか。
それは、また別の話なのであった。
(完)
平成之半妖物語へ




