表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰ヵ之半妖物語 平成への道のり  作者: アワイン
誰ヵ之半妖物語 名前と記憶を忘れた彼女と無表情な彼
2/34

1 直文

 まだ江戸は徳川幕府により治められている。流石豊臣よりも土台がしっかりしているな。

 遠くから声をかけて、彼女を呼び寄せた。光があればどこでも俺は伝達ができる。階段を上って、懸命に上ってきている白い巫女の少女。あの子が俺の仕事の相手か。頑張って神社まで戻ってきたようだ。目を瞑って息を荒くして顔を俯かせている。労いの声はかけておこう。


「お疲れ様」


 彼女は顔をあげて、目を丸くしていた。見惚れているのだろうか。よく同僚からお前の容姿は整っていると言われる。女を落とすのにいいなと言われるが、俺は口説きは得意ではない。


 表情に感情が出ないからだ。能面の直文と言われているほど、感情が表情に出ない。何故なのかは、自分がよく知っている。


 俺は挨拶と自己紹介をして、彼女に色々尋ねた。

 わからない。自分の名前もわからないときた。これには俺も驚く。顔には出ていないだろうが、驚いている。俺は彼女に記憶の喪失の旨を教えると傷ついた顔をした。


 わかっていたのか、わからなかったのか。俺はわからない。喪失の要因をあげていくけれど、彼女は困った顔をする。


「直文さんは、何者なのでしょうか」


 何者か、か。彼女はとっくに死んでいるのだ。明かしてしまおう。


「俺は貴女を救い守る者だ」

「えっ」


 赤い顔になる。どうしたのだろう。


「仕事の一貫で貴女を救いに来た……って、項垂れてどうしました?」


 急に項垂れてしまった。何処か悪いのだろうか。


「何処か痛いのですか? さっきまで顔が赤かったのはどこか調子でも悪いのですか?」

「大丈夫……自分の単純さに呆れただけです」


 大丈夫ならよかった。でも、何故単純さに呆れるのだろう。不思議に思うと彼女が聞いてきた。


 ここはどこなのかと。本題だ。記憶を失っているなら、教えてあげるべきだろう。


 富与佐津(とみよさつ)村。昔は沢山の作物に恵まれていた村。彼女がいた富与佐津神社は山の神を祀ったものだ。この神社と彼女に用があって俺はきたのだ。ああ、ここに三百年間いたとは哀れだ。

 話終えると、彼女は三百年前のことを不思議そうに聞いてくる。


「貴女は三百年前に人として亡くなった者です」

「……えっ」


 目を丸くする。ああ、この表現はよくなかったな。


「失敬。貴女は死者ではありますが、中途半端な存在なんです。俺は貴女を成仏させる為遣わされました。しかし、ここまで曖昧なものとは」


 そうだ。まさか、幽霊と妖怪に近い状態だとは思わない。これは、一体。彼女は気が動転して俺に食いついて聞いてくる。


「……私はどういう状態なのですか!?」

「死んでいますが存続している。俺にもわからない中途半端な存在なんです」


 申し訳ないがこういうしかない。

 これは、簡単に成仏できない案件だ。俺はあの人に命じられて、この村にきたが厄介な問題にぶち当たる。情報も見てきたが、彼女がここまで酷い状態だとは思わない。これは組織に助けを呼ぶしかないか。

 声が聞こえた。

 嗚咽を噛み締める声。顔を向けると、目からボロボロと涙が出てきている。俺は驚愕してしまった。泣いている女性を励ますなんてあまりしたことない。彼女は膝をついて、泣き顔を両手で隠す。


「うっ……ひっぐ……!」


 なんで泣いているのかはわかる。俺の配慮が足りなかった。この子は自分が何者なのかわからない。名前すらも忘れて、家族すらも忘れているのだ。

 そして──。脳裏に思い出した情報が過り、拳を握りしめる。彼女に近づいてしゃがむ。背中を優しく撫でてあげた。


「……ごめんなさい。傷付けてしまってすみません」


 彼女は俺をみる。顔に出てないだろう。自嘲を込めて自分の顔をさわった。


「気を悪くさせて、すみません。俺、感情が顔に出ないんです。……声色では気持ちは出せるようになったのですが、何故か顔には出なく能面のようだと言われ。……そのせいで、人との交流がうまくできなく、こういう物言いをしてしまいます。……申し訳、ありません」


 言い訳がましく聞こえて嫌になる。けど、傷つけた分、優しくしたい。出来ることやれることをしてあげたい。


「できることはします。俺が嫌なら代わりの者を呼びに行きます。……泣き止めとは言いません。俺が泣かせてしまった責任はとらせてください。……どうか、貴女を救わせてください」


 彼女は黙る。嫌だっただろうか。不安になっていると、彼女は泣きながら口を開く。


「お願いです。どうか、私を救ってください」


 驚いた。嫌じゃなかったのようだ。ああ、よかった。言われて、俺は心の中で頷く。

 助けるよ、俺は貴女を。


「……ありがとうございます。誠心誠意貴女をお救いします」


 俺は(ひざまづ)いて頭を下げた。


 ──彼女を落ち着かせたあと、俺は話せる範囲を話した。俺の属している組織と役目を。平安時代の四天王のように思えるだろう。彼女は凄く楽しそうに聞いていたけど、次第に表情を(くも)らせる。


「直文さん。私は成仏できますか?」

「貴女を三途へ導くのが俺の役目です。してみせます」


 それが俺の役割であり、今回与えられた仕事だ。……いや、仕事だからやるんじゃないな。俺の意志でこれをやりとげたいと思っている。彼女から声がかかった。


「あの、直文さん。素の口調で話していただけませんか?」


 ……出会って間もないし、失礼にならないか? 聞いてみよう。


「何故ですか? 貴女は俺より年上なのです。年上は敬い丁寧に接しないといけないでしょう?」

「……えっ、直文さん。何歳なのですか?」


 驚かれる。ああ、なるほど。俺をまだ人間だと思っているのか。半妖の見た目の年齢なんてあてにならない。霊体である彼女は死んだ時の年齢で止まっている。そうか、俺より若く死んだのか。……一応打ち明けてはおくか。


「俺は百五十歳の若造です」

「……ええっ!? 百五十歳!? 何処が若造なの。お爺ちゃんじゃあない!」


 おっ、お爺ちゃん……。半妖の中では若い方だけど、人としては寿命を余裕に越えている。でも、三百年もここにいる人にお爺ちゃんと言われたくはない。


「……普通俺がただの人なわけありません。それに、人のこと言えないでしょう」


 顔に出ないのに、分かりやすく拗ねてしまった。大人気ない。彼女は謝ってきた。


「ごめんなさい。直文さん。私が死んだのはたぶんまだ若いときだと思うのです。ですので、私を年下扱いして素の口調で話してくれませんか?」


 ……もう若くして死んだと理解しているのか。彼女は頭がいいようだ。彼女の記憶が戻らない限り、成仏は難しい。思い出すためにも、精神的な幇助(ほうじょ)も必要か。あまり思い出していいものでもないとは思うけれど、彼女の為にも必要か。

 息を吐く。


「……わかった。君の要求は飲もう」


 俺の口調が砕けると、彼女の雰囲気が明るくなる。顔にも出ている。そんなに嬉しかったのかな。彼女はおずおずと言葉を向けてくる。


「私も出来る限りお手伝いはします。それまで、名前を忘れた幽霊と仲良くしてくれますか?」


 瞬きをする。今、この子は何て言ったの? 俺と仲良く。えっ。


「……えっ、仲良く? 君と俺が?」


 彼女は明るい笑顔で頷いた。その笑顔は江戸の花火の明るさがあって、眩しさを感じる。幽霊のような存在なのに、この子は前を向こうとしていた。それに、無表情な俺とも仲良くしようとしている。

 顔に熱さを感じる。高揚していて、胸が踊った。嬉しい。笑えないけど、言葉にありったけの思いを込める。


「うん、よろしく頼むよ」


 彼女はまた微笑んでくれた。他意もなく笑ってくれるこの子に何が出来るだろうか。少しでも彼女を救ってやりたいと思った。






 一旦本部に戻って状態を報告した後、本部にある書庫に向かう。

 俺がいる場所は、大きな日本の武家屋敷が多くある。たくさんの半妖が住んでいる場所だ。時が過ぎれば、また本部全体建て直すかもしれない。


 いや、そんなのはどうでもいい。棚には幾つかの紙の本があり、富与佐津(とみよさつ)村についての情報をまとめたものを出した。


 行く前に見たとはいえ、確認しておきたい。調べるのに時間がかかるだろう。自室に向かって机の前に正座をして、分厚い本を開いた。

 資料として、いくつかの紙を紐でまとめられたもの。

 富与佐津(とみよさつ)村──いや、本当の名前は(とみ)を与えて殺すと書いて頓与殺(とみよさつ)村。



 あそこは農作物が豊富にあったから、あの名がついたと思うだろう。

 実際は違う。あそこの土地は農作物が育たない。人の手を何十年何百年とかけて、まともな土地となる場所だ。

 粗悪(そあく)な土地であったことから、頓与殺村と名付けられていあ。

 頓は【苦しむ。困り果てる】意味を持つ。与は与える。殺は殺す。苦しみ与えて殺す村。名の通り、頓与殺村。その村名では良くないと考え、文字を変えたのか。頓与殺から富与佐津と。


「とみよさつ、頓与殺、とみよさつ、富与佐津。……なるほど」


 言霊か。言葉に力があり、魂が宿ると考えられる。俺達半妖は言霊を使わないと力が使えない。厄介ではあるが慣れている。

 ……あそこには神社がある。富与佐津神社。豊穣の神を奉っているとされている。しかし、頓与殺村の神社の本当の祭神は豊穣の神ではないだろう。

 行く前に、いくつか神社に赴いて聞いてみた。

 富与佐津村の祭神は知らない。だが、頓与殺村の神は知っている。あそこの山の神は悪食(あくじき)だと皆が言っていた。また中にはあれは神ではないと言われている。

 悪食とは、神ではないとは。

 そこの疑問を辿るには、村の始まりに遡る。

 同じ半妖の安倍晴明先生が活躍していた時代。あの村は一人の男が作ったとされている。

 一人は山から湧き水を見つけてそこに神社をたて、村人を呼び寄せて村を作った。巫女と言う役職は神社が作られて、すぐのようだ。

 ……富与佐津と変えたのは男が亡くなった後だ。何故、悪い名をつけたのか。気にはなるが、まだわかっていないこともある。

 まず、巫女について見直そう。頓与殺の巫女は。


「なーおくーん。考え事ー?」


 背後から聞こえた声。俺は驚いて振り返る。無邪気を満たした笑顔があった。そいつの目には俺の驚いた顔はない。けれど、俺の心の臓はばくばくしている。


「驚いた」

「相変わらず、そんな顔しているようには見えないよ。直文」

 

 長い濃い茶髪で童顔でにこにことしている。俺と同い年の同僚の茂吉(もきち)だ。暖色系の柄がある着物を着ている。動きやすい着物の着方をしており、意外と伊達男なのだ。

 興味津々に俺の隣に座る。


「ほんとー性格も相変わらず真面目だねぇ」

「……今回の任務について見直したいことができたから」


 俺の読んでいるものをみて、茂吉は納得した。


「ああ、なるほどね。いつもより直文が真面目になるわけだ。この任務。俺も手伝ってあげる」

「ありがとう」

 

 感謝をすると、こいつは可愛いげのある微笑みを作る。……明るい顔をしているくせに、抜け目ない奴。何処で俺の任務の報告を聞いていたんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ