その後 平は成る時代
河川敷から見る花火も悪くない。俺は団扇を扇いで、寒色の浴衣を着ている。帯はもっくんが結んでくれた。下駄でアスファルトの上を歩き、花火を見る人混みを通り抜けていく。
遠くに見えるいくつかのビルと、空を突き刺す赤い鉄骨の電波塔。ああ、東京タワーと言うんだったな。
休日を利用して、花火を見に来てきた。
時代は平成10年。
江戸時代からも変わらず、花火は打ち上がっている。一時花火は上がらなかった時期もあるが、今はこうして打ち上がっている。打ち上げられてよかった。
色とりどりの光が、放たれて空の闇へと消えていく。
その光景はいつ見ても変わらない。
俺の年齢はもう四百歳は余裕で越えているだろう。あの時から姿が変わらない。
変わったと言えば、俺が変わったぐらいか。表情がだいぶ豊かになり、人と交流をするようになった。まだ人付き合いは勉強中ではあるが……。
あと、花火の時期になると必ずこうして鑑賞をする。
……彼女を思い出す為だ。切ないが忘れていいものではない。俺が彼女を好いていた記憶。今では大切な思い出。
俺は空から花火を見るより、地面から見るのが多い。
理由は三つ。
人が空を行き来するようになった。また、地面で見た方が人の楽しんでいる雰囲気が分かる。
最後は、生まれ変わった彼女と会えるのかもと微かな期待。
転生したと、あの人は言っていた。名付けられて、親から愛を受けているらしい。けど、場所までは聞いていない。彼女には彼女の人生がある。俺が深く関わってはならない。見つけたら、関わらないように彼女の凶を祓おう。あの子が死ぬまで、俺は影から見守っていればいい。考えている内に、花火のフィナーレが近くなっていた。
……ああ、見届けないと。
「たーまやー! かーぎやぁー!」
元気な女の子の声。まだ三歳の子供だ。父親に肩車されて、はしゃいでいた。
「おとうさん、はなびきれいだよ! パァンだよ。すごいよ!」
「興奮しているなぁ。花火、好きになったか?」
「うん、だいすきになった! たーまやぁー! かーぎやぁー!」
興奮気味の女の子にお父さんは大変そうだ。
思えば、彼女も花火を好きになってくれたのか。
「……わからないや」
声に出して笑い、空を見る。
空に咲くのは儚い大輪の花。花火を見ながら、俺は空へ願い祈る。
何処かで彼女が生きているのなら、どうか日々を楽しんでほしい。どうか、幸せに生きてほしい。どうか──あの子の眩しい花火の笑顔が失われませんように。




