鬼と化した男の末路 一寸の虫にも五分の魂
絶対にあいつ等を天国にいかせてなるものか‼
相模に沸き上がってきた力。
それは、怨念だった。
その燃え上がる怨念によって、恐ろしい事に相模は三途の川の水面に浮かび上がったのだ。
相模の血走る眼は逃げる二人を捉え、煮えたぎる血潮は三途の川を蒸気と化した。
相模の姿は鬼と化していたのだ。
「太牟田ぁ!! 徳子ぉ!! お前等だけ幸せになれると思うなーーー!!
お前達こそ不義の関係じゃねえか!! お前達、絶対に地獄に堕としてやる!!」
蒸気の中から伸びた相模の鬼の手が太牟田と徳子を掴みかけた。
だが、相模は頭上から落とされた何らかの大きな力によって、また三途の川底に沈められた。
「ゴオダッデブ!? ゴボジデ!!」
三途の川底の中で藻掻く相模。
その相模の前を、優雅に手の指先ぐらいの緑色の虫が泳ぐ。
そして、その虫は蹼を持った誰かの大きな手により掬われていった。
相模がその手を目で追っていると、奪衣婆の声が聞こえてくる。
「お前さん。なぁーんにも、分かっておらぬようだから、教えてやろう……。
あの小さな虫はな、お前さんが意味もなく殺した虫じゃよ。
一応、お前さんは勉学にも励んどいた自分もあったみたいじゃから知っておろう?
一寸の虫にも五分の魂という言葉ぐらいはな?」
奪衣婆の話を聞いた相模が水面を見上げると、そこにゆらゆらと揺れる懸衣翁の満面の笑みが見え、
その所々、歯が無い口から声が聞こえてくる。
「つまりじゃな……。ここでは、どんな生き物も同じと言う事じゃ。
そして、仏様は、えろう慈悲深い御方じゃ。じゃから、あの哀れな虫を助けたという訳じゃな」
「!???!!」
「お前さん……。まぁーだ、分からぬのか? はぁ……、仕方がないのぉ……」
懸衣翁は水面が揺れる程の深い溜息をついた。
すると、その揺れに伴い相模の目の前の光景は変わった。
そして、これから相模は地獄のような光景を目の当たりにする事となる。