死出の旅立ち そして、辿り着いた場所
相模 龍三は、八〇歳で、瞳を閉じ、
大病院からこの世を去った。
そんな相模の記憶には走馬灯が走る。
教養ある両親に恵まれ、三男だったが英才教育を受ける事が出来、
両親の期待に兄弟で一番答える事が出来た、子供時代。
文武両道であり、誰からも慕われ過ごした、学生時代。
そして、国内トップクラスの国立大学卒業後、有名企業に就職し、
羽が生えたように出世街道を駆けのぼった、サラリーマン時代。
さらに、三八歳という若さでその企業をも超える大企業を創立し、
そのトップに居続けた、栄光の時代。
次々と、相模の心には栄光ある輝かしい日々が流れ、相模の目から、キラリと光る涙が流れた。
そんな相模が次に瞳を開けると、そこは、河原だった。
その河原を見て、相模はここが三途の川である事に気付いた。
そして、自身の姿が若かりし姿である事にも気づいた。
さらに、ある事にも気付いた。
ここが、噂に聞く三途の川。遂に、来てしまったか……。
相模の目の前の川は岩をも砕く、ごうごうと激しい音がする激流だった。
さて、僕は生前の行いが善かったから、ここは間違えている。
相模は一つ頷き、三途の川岸を歩く事にした。
三途の川には、生前の行いが善かった者が渡れる橋があると言う。
もしくは、渡し船があるとも聞く。
相模はこのいずれかの方法で、自分が三途の川を渡れると疑わなかった。
相模は、自分の死に装束の袖に入っている六文銭を確認し、歩き続けた。
自分のような善人が天国に行かずして、誰が行ける!
相模はその自信を胸に、三途の川岸を歩き続けた。
しかし、一向に川の流れは収まらない。
おかしい……。道を間違えたか? 逆に行ってみよう!
相模は足を止め、道を戻る事にした。
だが、相模はその場に立ち尽くした。
何故なら、そこには見た事のない男女二人組がいたからである。




