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ガランドゥ『仮想現代戦記』  作者: 扇屋
ガランドゥ 7話 『悪の証明』

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41/220

7-6

【12】


「何だって……!?」

「こっちからじゃ見えないんですけど!」

「おい、どうなってる」

「人形の目で見てるが……ミールメーカーじゃない」

 それは映画監督にとって完全な予想外だった。彼はここにミールメーカーが居ると確信していた。彼ならばそうするだろうと確信していたのだ。しかし、その予想は一瞬で裏切られてしまう。

「えっ、駄目じゃないですか!」

「……いや、何か変だ」

 映画監督がそう言うと人形が動き出し、ピザを放り投げると男を部屋から廊下に引っ張り出す。よろける男の首にチョップを叩き込むと、がら空きの背中に肘打ちを当てて倒した。それは一瞬の出来事だった。

「よし」

「良くないですよ!」

「こいつの体をコピーして中に入るとしよう」

 あまりの無茶苦茶さに止めるべきかと思う粳部うるべだったが、経験豊富な谷口が何も言わない以上はやるべきではないと判断する。粳部は彼が蓮向かいの規則を破ることはないと理解しているが、それでもこの混乱した状況では不安だった。

 三人が倒れた男に近寄っていくと、倒れた男のある異常に気が付く。

「ん?こいつ……」

 倒れた男には背中の首筋に刺青のような、ファスナーのような物が付いている。谷口が違和感を覚えた瞬間、そのファスナーが勢いよく開かれると中から白い怪物が飛び出した。大きな虫のような生き物が現れたことに驚愕し彼らの動きが止まるが、その隙を突いて虫は部屋の奥へと逃走した。

 抜け殻となった男は、抜け殻のようなゴム状の皮しか残っていない。

「ひっ!?何です今の!?」

「分からない……だが、家主はもう死んでいたようだね」

「今のは概怪だぞ。何がどうなってる」

 白い虫のような概怪。人間の中に巣食って体を皮だけにし、生きた人のように振る舞う特性。おぞましさにゾッとする粳部だが、今一番気にするべきなのはそこではない。何故彼が概怪によって殺されていたのか、どうして人通りの多い場所に現れない概怪がここに居るのか。

 大きく開かれた扉の向こう、明かりのない廊下の先に何が居るのか。

「ハッキリしないが、行ってみるしかない」

 映画監督がしゃがみ込むと男の頭髪を引き抜いて飲み込む。すると人形の姿は倒れていた男のものに変化する。人形はそのまま部屋の中に入ると、奥の扉へと向かって行く。白い虫が向かったその先に何が居るのか。

 三人が後を追うと人形が扉を開けた。

「……おかしい、これはおかしい」

「どうし……ん?」

 扉の先は長く続くコンクリートの廊下。どう考えてもあるべきなのは小さなマンションの居間だというのに、そこにあるのは冷たく息苦しい謎の施設。前後が繋がらない。居間に入って謎の空間に辿り着くというのは辻褄が合わない。

 谷口が察する。

「概怪による空間の歪曲か……!」

「で、でも何でこの部屋でこんなことが……?」

「分からないが……私達が当たりを引いたことは事実なようだ」

 火のない所に煙は立たない。人が概怪に乗っ取られることも空間が異常になったことも、ミールメーカーの目撃情報が挙がったことも偶然などではない。それら全てに理由があり、元を辿ればそこに真実がある。




【13】


「……やっと来たか。早く置け」

 ソファに座り体重を預けるミールメーカー。廊下から入って来た男がピザの箱を置き、その場に直立不動となる。彼はおもむろに箱を開けると、めちゃめちゃな中身を気にせず食べ始めた。原因は映画監督が放り投げたからなのだが。

 無言でピザを食べ続ける男は一心にピザを見つめる。味などの感想を持つことはなく、ただただ無心に腹を満たすことを実行する。だが、いつまで経ってもその場を離れない男が気になったのか、彼の方を向く。

「元の場所に戻れ、二番」

「二番というのは概怪の名かな?元の人間の名かな?」

「……何も!?」

 ミールメーカーが異常に気が付くも遅かった。男をコピーした人形は彼に襲い掛かるとソファに押し倒し、部屋に突入した粳部達三人が取り囲む。三人の司祭に囲まれて生き延びることなど、普通に考えて不可能だ。

 突然の襲撃に驚くミールメーカー。

「動くな。何の罪かは分かっているな」

「ここまで来たということは……噂の蓮向かいか?」

「……情報が洩れてますよ!?」

 機密を何よりも重視する蓮向かいが一番恐れていることは機密の漏洩。世界中から収集した情報の価値は莫大なもので、少しでも漏れれば組織の運営に関わる。一体どこから漏れたのか誰が流したのか、調べなければ損害が出かねない。

「初めましてだねミールメーカー。君の作品を観たよ」

「……」

「二作目までは評価に値するよ。本物は迫力が違うね」

「ちょっと!そんなこと聞いてる場合じゃ……」

「だが、三作目からは駄目だね」

 冷ややかな態度に切り替わる映画監督。彼が処刑中毒の異常者であることは揺るぎない事実だ。しかし、同様に職員に選ばれるような能力の持ち主であることも事実だ。

「駄目だと?」

「君、スポンサーが居るね?ここまでお膳立てをした支援者が」

「何だと?まさか、概怪もその支援者がか?」

 重大な事実に気が付いたその時だ。ミールメーカーの影が蠢く。

「離れろ!」

 一早く気が付いた谷口が警告し、二人は咄嗟に後ろに跳ぶ。その刹那、ミールメーカーの足下から現れた何体もの概怪が部屋を埋め尽くす。粳部は少し反応が遅れていれば潰されていたと冷や汗を搔く。

 概怪に守られたミールメーカーは後ろに降り、概怪が肉の壁となる。

「理解者が居ることは嬉しいが、ここは逃げる」

「マズいですよ!この数じゃ間に合いません!」

 ミールメーカーが奥の扉から逃走を図る。だが、粳部から離れた場所に居た谷口が圧倒的な速度で彼を追う。概怪が壁となったことで粳部と映画監督は手出しができなかったが、彼だけはすぐに動くことができた。

「俺が追う。お前たちは後から来い」

「わ、分かりました!」

「何、そんなに時間はかからないさ」

 粳部は襲い掛かる老婆の概怪を鎖で捕らえ、他の概怪に向けて投げ飛ばす。しかし、彼女の背後から現れた概怪への反応が遅れ、海坊主を出して共に受け止めるがパワー負けして押されていく。そんな中、空中に浮かぶ鈴の形をした概怪が鈴の音を鳴らすと、粳部の全身が穴だらけになる。

「があっ!?何が何だか!」

「そうだね、撮影には少しギャラリーが賑やか過ぎる」

「あん!?」

「ならば、グラス・ガルグリス」

 聞き覚えのある名前に彼女が反応を示した途端、人形の姿が男から少し懐かしい女の見た目に変わる。どこからどう見ても寸分違わずグラス・ガルグリスと同じ見た目をした人形は、聞き慣れた声でこう言った。

祭具奉納さいぐほうのう、底なし沼にただ一人』

 彼女の周囲が光り始めた瞬間、粳部が大きな概怪に捕まって縛り上げられる。海坊主が引っ張るものの性能がランダムな為か運悪く非力らしく、どう力を入れようと脱出できない。内臓が壊れる痛みに叫びながら、彼女は必死にもがく。

「あがあああ!」

井戸底知いどそこしらず

 瞬間、流星のように輝き跳び回るグラスによって粳部を縛る概怪が切断される。鈴の形の概怪も撃ち落され、着地した概怪を足で薙ぎ払うと彼女は静止した。等級に恥じない桁違いの性能、着地した粳部は本物と遜色ないと確信する。

 映画監督はグラスの人形と駆け出し、共に概怪へ貫手を突き刺す。

「さあさあ尺を縮めるぞ!」

「な、何でグラスさんが!?」

「『現代劇場げんだいげきじょう』は過去に飲んだ毛でもコピー可能さ!何度でも!」

 現代劇場にコピーできないものは一つの例外を除き存在しない。司祭だろうと完全に模倣可能で、一度毛を飲んだ人間には何度でも姿を変えられる。故に彼はΩ最強の評価を受け、その危険さ故に幽閉されているのだ。この権能はあまりにも無法過ぎる。

 監督達が概怪を真っ二つに引き裂く。

「司祭のストックはまだあるぞ!天童裕てんどうゆう

祭具奉納さいぐほうのう、高所絶壁退路なし』

 人形がグラスの姿から粳部の知らない男に変わる。粳部は海坊主に腕を伸ばさせると概怪を締め上げ、振り回して他の概怪を薙ぎ払う。弾き飛ばされ跳ね回る概怪を彼女は先回りし、追い打ちで更に蹴り飛ばす。再び弾き飛ばされた概怪が空中で姿勢を戻し着地した。

 その時、人形の手に祭具が握られる。

みね

 人形の男がその手の錫杖を地面に叩き付けた瞬間、周囲の概怪が転倒する。着地したばかりの概怪も姿勢を崩して転倒し、粳部は再びできた隙を逃さず概怪を蹴り飛ばした。空中で映画監督が更に蹴り飛ばして地面に叩き付けると、人形は再び錫杖を叩き付けて周囲の敵を転ばせる。

「こいつの権能は何だろうと転ばせる!周囲の相手だけだがな!」

「め、めちゃくちゃ過ぎる!」

 その時、部屋の角で静止していた概怪が光線を映画監督に放つ。彼はそれを避けることなく真正面から受け止めると、そのままその概怪の下へと歩いて行く。高まった概念防御によって光線は受け止められ、直撃せずに防がれる。司祭のトップ層である彼だからこそできる芸当だ。

 途端に映画監督が全速力で概怪へ接近すると、敵は光線を止めて格闘戦に切り替えようとするが既に遅かった。懐に入った映画監督の乱打で概怪の体が凹み変形していく。あまりにも格が違うのだ。

「まとめて片付ける!三好辰みよしたつ

祭具奉納さいぐほうのう、望み望まれ生まれ来る』

 人形が更に別の男へと姿を変え、祝詞を唱え始める。粳部は不安定な身体能力に悩みながらも概怪を殴り飛ばし、邪魔をする海坊主の拳を避けながら刀を作り出す。概怪に斬りかかるが、掠り傷を付けただけで刀は折れてしまった。

 彼女の背後に概怪が迫る。

根源領域こんげんりょういき

 人形の手にトランペットの祭具が握られた瞬間、周囲の概怪が一か所に瞬間移動する。根源領域は周囲の敵の位置を操作する権能。発動により部屋中の概怪が中央に集められ、状況を理解できない概怪達が隙を晒す。

「今だ粳部君!やれ!」

「あーもう!無茶させないでください!」

 任された粳部は大きく跳び上がるともう一度海坊を呼び出し、形を大きくすると全身に針を出させる。そして、その巨体を彼女が蹴り飛ばし直撃させた。圧倒的な質量と加えられた粳部の蹴りを前に耐え切れる筈もなく、下に居た概怪全てを押し潰して粳部は着地する。

「君のスペック、時によって変わり過ぎじゃないか?」

「悪かったですね……どうせ私はオンボロのシャワーですよ」

「そうは言って……いや、早くミールメーカーを追おう」




【14】


「随分と足が速い奴らだね。どこまで行ったんだか」

「そもそもここどこですか!いくら何でも広過ぎますよ!」

 コンクリートに囲まれた廊下を駆ける粳部と映画監督。逃げるミールメーカーを追って先を急いだ谷口の姿は見えず、二人は出口すらない空間を駆け抜ける。どこまで行けば出られるのか、奴はどこへ消えたのか。

 走る二人に状況は分からない。その時、曲がり角から映画監督の人形が現れる。彼が人形だけ別行動させていたのだ。

「あっ、戻って来た」

「やはりマンションには繋がってないよ。彼を捕まえるしかない」

「だから鈴先輩と連絡が取れないんすね……」

 耳元の無線で彼と連絡を取ろうとした粳部だったが、その無線は誰とも繋がることがない。そもそも、恐らく地下だろうこの場所の電波状況が悪いのは当然で、コンクリートの壁ならばなおさら悪い。その影響か彼らは谷口とも連絡が取れずにいた。

 二人はひたすら先に進む。

「空間をいじって逃げられたら最悪ですよ!」

「あり得るな」

 彼らが入って来たマンションの部屋は、概怪の空間を捻じ曲げる力によってこのコンクリートの空間に繋がっていた。そして二つの空間の繋がりが切断されてしまい、帰る手段を失い藍川は干渉することもできない。粳部達の側から現在地を教えない限り、援軍はここに駆けつけられないのだ。

 だが、その空間をいじっているのは一体何なのか。

「接近して分かったが、ミールメーカーは人間だ。司祭じゃない」

「えっ、じゃあこの空間は?」

「彼の裏に居るスポンサーがやってるんだろう。概怪を貸与したね」

 藍川でもない限り、概怪を自らの手足のように操ることはできない。当然普通の人間では彼らの餌になるだけだが、彼は概怪によって守られ逃がされている。生まれた場所から離れず集団行動をしない筈の概怪が何故ここに居るのか。

「今までの犯行もそいつが協力してたり……?」

「第三のビデオ以降は関与しているだろう」

 今まで彼が見つからず犯行を繰り返し、誰の目にも見つからずに潜伏できていたのはスポンサーによる協力が原因なのか。多種多様な概怪を用いて拠点を隠すことができればここまでできたのも頷ける。

「あくまで彼は貸し与えられただけ。お膳立てしてるのは別人さ」

「……概怪を貸与って……あの地区と関係あるんですかね」

「ん?どうし……」

 その時、二人の背後に突然一体の概怪が現れる。気配に反応した彼らは咄嗟に振り返るも概怪の方が一手早く、概怪が両手を組んだ瞬間に二人は別の空間に飛ばされる。粳部が気が付いた時には周囲は鳥居だらけの謎の空間になっており、視線の先に居る人型の概怪が襲い掛かった。

「見覚えがある!あれは『双頭そうとう』という名称だ!」

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