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ガランドゥ『仮想現代戦記』  作者: 扇屋
ガランドゥ 4話 『拒食の女王』

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4-5

【11】


 司祭の人間離れした聴力、そして空気の流れを肌で読み取る触感。司祭の中でも最高峰の性能を持つ藍川であれば、視界に頼らずとも敵の動きを探知できる。彼の下にじわじわと近寄る敵は姿を未だに見せず、二十メートルほど離れた場所に居た。だが、藍川が横目でその場所を見ても姿を確認できない。車の影に隠れているのかと注視するも、今もゆっくりと移動するそれを確認できない。

 そして、ある一つの結論に辿り着く。

「なるほど……俺の方で良かったよ」

 見えない敵は細心の注意を払いながら進み続け、ゆっくりとゆっくりと藍川に接近する。彼は未だに目視できていなかったが、もうそれはどうでもいいことだ。敵が藍川の十メートル圏内に入る。

 藍川が動く。彼から半径十メートルの範囲は、例え見えなくとも壁があろうとも相手の心を感知する。既に祭具は薬指にあった。

『権能解除』

 そう藍川が呟いた瞬間、彼に近付く司祭の透明化が解除される。彼から十メートル程の距離に居た相手は何が起こったのか理解できず、駆け出した藍川に遅れて反応するも既に遅かった。

 腹に拳が叩き込まれた相手はよろめきつつもラリアットで反撃しようとするが、動きを読まれ顎に拳を叩き込まれる。脳が振動で揺れて悶える相手に、藍川はダメ押しで両手を組むとすれ違い様に頭を殴った。

 相手が意識を失って地面に倒れるが、藍川も膝を曲げて地面に手を付いた。

「くそっ……反動が」

 権能を使用した反動が頭に流れ込む。彼の弱点は権能で相手を操るとその反動を受けてしまうこと。概怪相手に自害させる分にはまだ反動は少ない方だ。彼らは頑丈で簡単に死なない為、自害させたとしても死なず反動は少ない。しかし、人間は違う。人によっては本当に死ぬ可能性もある為に藍川はそれを使えない。

 彼が最強の存在であるのは『理論上は一度だけ、どんな相手でも自害させることができる』からだ。

「……全く、クソみたいな弱点だよ」

 荒い呼吸を整えながら再び立ち上がった彼は相手を見下ろし、もう一度権能を使用して心を探る。こうして相手の計画を全て把握することができれば、もう相手の策について何時間も考える必要がなくなるのだから。

 計画についての記憶を漁っていた時、藍川はあることに気が付く。

「こいつら……どういうつもりだ!?」

 彼は咄嗟に耳元の無線機に触れると粳部達に呼びかける。事態は既に彼らの想定とは違う方向に向かっていた。当初は爆破テロを行うテロリストという認識だったが、今の彼らはそれとは全く異なる存在に変わっていたのだ。

 声を荒げる藍川。

「粳部グラス!あいつら司祭を追加で三人も貰ってやがる!」

『えっ三人ですか!?』

「あと、司祭の数は合計で五人だ!」

 元から所属していた一人と、後から提供された二人。そして今回追加された三人。一人は藍川が既に倒したが、それでもまだ相手は五人も司祭を保有していたということになる。彼の足元で伸びている一人についてはもうどうでもいいが、それでも相手にはまだ四人もの司祭が居るのだ。

 落ち目のテロリストには過ぎた玩具だ。

「その中の複製の司祭が爆弾と車両を複製した!俺達が追ってたのは囮だ!」

 その時、一般職員からの通信が入る。

『報告!Nシステムに例の車両のナンバーが記録されてますが、六台居ます!』

『こちら例のトラックを目視で確認!』

「やはりか……確かにあったんだ」

 トラックの後ろに駆けていく藍川。積み荷を確認しようとしたその時、トラックの扉が吹き飛んだかと思うと中から二人の司祭が飛び降りる。煙の中から現れた司祭には余裕が溢れており、まるで藍川のことを待っていたかのようだった。

「司祭二人で俺の足止めか……爆弾は他のトラックだ!ここにはない!」

『それじゃあ私達が追っていたのって……』

「当然囮!敵を倒して他のトラックを追うぞ!」




【11】


「だ、そうですけどグラスさん……」

「してやられたということか……」

 物陰に隠れながら話すグラスと粳部。先発のトラック二台はまさかの囮、それを追っていた粳部達三人はまんまと嵌められたわけである。一度蓮向かいに襲撃されたことから学習し、二度目の襲撃を恐れて対策を練ったのだ。しかし、そこにはどうやって戦力を補充したのかという問題が付きまとう。

 二人は物陰から顔を出してトラックを見る。

「あの中に司祭が居るわけですか……どうします」

 グラスは暫くの間無言で考え、耳元の無線機に手を当てた。

「各自トラックを追跡。本部に爆弾処理班とα+相当の職員の派遣を要請」

『了解』

「……私達はあれを倒して他のトラックを追う。それしかない」

 息を飲む粳部。完全に立ち上がったグラスはトラックを見据え、逃がすつもりはないと睨みつける。既に両者共に臨戦態勢。彼女の様子を見て覚悟を決めた粳部も立ち上がり、トラックの中に居るであろう敵を見る。

 彼女はもう覚悟をしなければならない。

「やります……というか、やるしかないです」

「その調子だ」

 グラスがそう言った途端、トラックの扉が蹴飛ばされて飛んでいく。跳ねながら転がるそれを目で追っていた粳部だったが、すぐにそれよりもそれをやった人物の方を気にするべきだと気が付く。グラスの視線の先には二人の司祭が居た。

 一人が中から飛び降りる。

「思ったんだがよ、昔より配達が遅いと思わねえか?昔は早かったのによ」

 トラックの中に居る司祭に関しては粳部とグラスも見覚えがあった。攻撃を反射する反射の司祭。二人から逃げ切った男が再び二人の前に現れたのだ。だがしかし、もう一人に関してはテロリストの容疑者リストにも居なかった。

 あれは補充された新しい司祭だ。

「昔は高速道路で速度超過しまくりだったからなあ!そりゃ今より早いわ」

「……何の話だ」

「ドライバーの奴速度落としやがって……納得いかねえよなあ!おい!」

「会話不能か……」

 飛び出した謎の司祭がグラスに蹴りかかるが、彼女は圧倒的な速度で回避すると彼から距離を置く。粳部も離れながらトラックから動かない反射の司祭を監視する。何もせずにいる相手が不審でしょうがなく、何をしでかすか分からないことから粳部は出方を伺う。

 グラスを追う敵。彼女が祝詞を唄い始めた。

祭具奉納さいぐほうのう、底なし沼にただ一人』

「それを待ってた!」

井戸底知いどそこしらず

 祭具が現れ、出力の限界を超えた彼女が加速する。アスファルトを大きくへこませて飛び出した彼女は敵の脇腹をその手で抉り、急旋回するともう一撃与えようと駆け出す。圧倒的な速度に対応できず驚愕する謎の司祭。

 しかし、その表情はすぐに笑みに変わる。

「速度超過だぜ」

「ん?……なっ!?」

 瞬間、急激にグラスの速度が落ちる。三分の一以下まで減速し隙を晒した彼女に、謎の司祭はラリアットで腹に腕を叩き込む。突然の緊急事態に困惑するグラスは距離を置き、再び殴り掛かろうとするも完全に速度で敵に負けていた。

 先手を取った敵が背後から殴り掛かり、彼女が瞬時に対応するも拳を捌ききれずに攻撃を受けてしまう。

「違反切符を切らなきゃだ!女あ!」

「グラスさん!?」

「よそ見」

 急襲した反射の司祭。彼が近付いた途端に彼女は弾き飛ばされてしまう。しかし、彼女は海坊主を呼び出すとその腕を伸ばして地面に突き刺し、バネのようにして縮むと再び接近する。弾性力を活かした飛び蹴りを叩き込む彼女だったが、反射の壁を破れずに足が折れてしまう。横に回った反射の司祭が回し蹴りを繰り出すが、粳部はギリギリ海坊主でガードさせて威力を殺した。

 一方、相手に速度で負けているグラスは苦戦を強いられていた。高速で接近する相手が間合いに入った途端に蹴りを放つも、相手は瞬時に反応して躱し横から殴る。グラスは咄嗟に片腕で防ぐ。

「制限速度じゃちと遅いぜ!」

「お前の権能、一定の速度を超えた敵に制限を課すのか!」

「俺は速さにうるさい男だぜ!」

 反射神経は変わらないものの速度で大幅に不利な状況。相手に攻撃を当てることすらままならない中、グラスは相手と距離を取りながら策を練る。遠くの相手に攻撃を当てる手段は何か。せめて接近するまでの足止めができれば何とかなるが、粳部は反射の司祭の相手で精一杯だった。

 その時、あることを思いつくグラス。

層展乱雷そうてんらんらい!」

法術ほうじゅつか!」

 例え体の動きの速度を制限されたとしても、法術の速度までは制限できない。グラスから放たれる幾多もの雷は敵の司祭まで向かっていく。いくら相対的に今のグラスより早いとしても、圧倒的な範囲に広がる雷を避けられる筈がない。

 だが反射の司祭が雷の前に立ちふさがり、その電撃を全て跳ね返す。

「何っ!?」

「しまった!」

 電撃を浴びるグラス。司祭は概念防御がある為に威力をかなり抑え込むことができたが、それでもダメージはある上に足止めをされた。グラスが動けない隙に接近した男が腹にドロップキックを叩き込む。防御体勢も取れずに彼女はその攻撃を受け止め、地面に転がり起き上がる。

 状況はかなり悪い。だが、できないことがないわけではない。

「……こうなれば、やるか」

「制限速度を守って俺に勝つ気か!その意気や良しッ!」

 諦めるつもりのないグラスは再び構えを取り、突っ込む制限の司祭の拳を弾くと縫うように貫手を繰り出す。しかし速度の差は残酷で、彼女を速度で凌駕する相手は躱すと背後から殴りかかった。それは今の彼女には避けられない。

 しかし、その拳は空を貫いた。つまり当たらなかったのだ。

「何っ!?どこへ……!」

 制限の司祭が辺りを見渡した時、迫りくる拳が顔に当たって吹き飛ばされる。壁を突き破って転がる彼の先にグラスが回り込むと、思い切り蹴飛ばして元の場所まで彼を戻した。明らかに、制限速度を超過している。

 グラスはただそこに佇むだけで周囲の水分を蒸発させ、人を焼き付くすような熱量を発生させる。これがΩ-の本気だ。

過食オーバーロード

 限界を超えた過剰な出力は制限を超過する。目には目を、速度には速度を。




【12】


 一方その頃、粳部の戦闘は上手くいっていなかった。反射の司祭には攻撃が殆ど届かず、粳部が一方的に蹂躙されるだけの最悪の状況だったのだ。それもその筈、敵の持つ反射の壁を突き破ることができるのはグラスか、相手に権能を解除させられる藍川。全員がここに居ないのだからどうしようもない。

 後退しながら海坊主の腕を伸ばして鞭のように叩く粳部。しかし、やはり意味がなく弾かれるだけに終わる。

「この人無敵なんですか!」

 腕を更に伸ばして反射の司祭を縛り上げようとする海坊主。だが、反射の壁はそれすらも弾いて海坊主ごと霧散させる。塵になった海坊主を見てどうすればいいのか困惑する彼女だったが、まだ何かできることがあると考えを巡らせる。

 反射の司祭から必死で逃げ回る。彼女は廃工場の窓を飛び込んで壊すと止まらず進み、パイプを駆け上がって上を目指す。しかし、それを察した反射の司祭はドロップキックで飛び込むとパイプを破壊したのだ。壁から外れたパイプは大きく揺れ、空中に投げ出された粳部は情けなく落ちていく。

「うわあああ!」

 地面が近付く中、粳部は姿勢を戻すとやけくそで踵落としを叩き込もうとする。反射の壁を破ることはできないことは粳部にも分かっていたが、できることが思いつかない以上はそれしかなかった。上を見上げる反射の司祭は弾けない筈はないと棒立ちで上を見上げる。そう構えていれば問題ないのだ。

 だが、落ちていく踵は反射の壁をすり抜けて男に迫る。

「ん!?」

「あれっ!?」

 男は咄嗟に腕を出して受け止めるが、その威力故に膝を曲げる。地面にひびが入り、耐え切れなくなった敵は粳部を跳ねのけて距離を取る。今まで反射の壁を破ることができなかった相手が突然破ったことに驚いたのか、手を見つめて握っては開くことを繰り返していた。粳部も自分のしたことに驚いている。

「何で反射が……」

 その瞬間、粳部は初めて彼と対敵した時の出来事を思い出す。あの時も原因不明であったが一度だけ攻撃が通ったことがあった。原理が分からない為に考えることを止めていたが、もうこれしか逆転の方法がないことを理解する。

 このまま痛め付けられれば精神的に根を上げるのは彼女の方だ。彼女は自分がどこまで我慢強いかが分からなかった。

「ええい!」

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