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ガランドゥ『仮想現代戦記』  作者: 扇屋
外伝3話『ウルベニウス』

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外伝3-3

【5】


「私達ってー法律に違反した存在じゃないー?」

「この組織は適用外でしょ?確か、上層部主導の計画なんだから」

「そ、そういう強権的なところが……いっ言われてるんじゃ」

 アサの主張にスミレが同意する。確かに、彼女らが属する組織のやり方は強権的と言えるだろう。四姉妹全員が大切にされているとは言え、それは組織の都合でしかない。組織に都合が悪ければ扱いはもっと悪くなっていたかもしれない。

 長女のユリは全員分のコップにティーバッグを入れる。

「でも組織の目的は世界の安定でしょ?その為にクローンを……」

「量産して兵器にー?それは身勝手だよ」

「何よ。勝つ為なら手段は選ばないでしょ」

 シランが口を挟む。

「そりゃそうだけどさあー私は物騒なのは嫌だなー」

 他人から死ねと言われて死ねる者が少ないように、彼らもまた死ぬことはできない。組織に作られたからと言っても彼らは独立した一つの命だ。何者も彼らを従わせることはできない筈だ。だが、それもまた理想の話でしかない。

「死にたくないもーん」

「でも手っ取り早く戦力を用意しようと思ったら、やるじゃない?」

「……だからって正しさを放棄するのは」

「でも、理想だけじゃ何にもならないでしょ」

 ユリの言うこともまた事実だ。彼女らの属する組織は慈善事業をしているわけではない。多額の予算を投じて計画を進めたからには、必ず何かしらの成果を出さなければならない。彼らは権力を用いて合理的に、正しく世界を守ろうとしているのだ。

 彼女が電気ポットからお湯を注ぐ。

「私達の研究が終わった後に、何をするかは分からないけど……」

「……」

「少なくとも、私達をそのまま量産はしないんじゃない?」

「何でそー言えると?」

「……いや、ごめん。言語化できなかった。勘ね」

 長女としての勘が彼女にそう囁いている。だがこの先、計画がどう転ぶのかは誰にも分からない。本来の想定と異なる事象が起きており、先の出来事を想定しようにも霧が掛かっている。

 ティーバッグから紅茶の赤が滲みだしていった。

「……もっもし、計画の後で自由になれたら……どうする?」

 ふと、スミレがある仮定の話をする。それは叶わぬ夢の話でしかないのかもしれないが、このまま結論の出ない話し合いを続けるよりはマシかもしれない。この快適だが自由のない家を出た先で、彼女らは何を選ぶのか。

 ソファに寝転んでいたシランが立ち上がり、紅茶のカップを手に取る。

「私は学校ね!勉強して一番になって、研究者になるわ!」

「夢のある話だけどねー欲張り過ぎじゃなーい?」

「いいのよ夢なんだから。生物の研究して世界を回るの」

「シランはホント上昇志向が高いね」

 この狭いどころか広い家よりも、ずっと広い世界で自分の望みを叶える。自分に自信のあるシランはどこまでも羽ばたいて見せるのだ。ここを出られたらという話ではあるが、希望は大きい方が良い。

 今度はアサが紅茶のカップを手に取る。

「私は楽しけりゃどうでもいいしさ。適当に日銭稼いで生きてるよー」

「今度は夢のない話ね……」

「んー?外に出るってだけで夢のある話だよ」

 彼女はゆっくりと紅茶に口を付ける。現実主義でのんびり屋なアサにとっては、それだけで十分生きている意味を感じられる。そもそも意味などなくても生きていられるのかもしれない。幸せかどうかを決めるのは自分なのだから。

 スミレがゲーム機から手を離し皆の居るテーブルへと向かう。

「わっ、私も普通が良い……周りの人と同じことがしたいっ」

「んー?それ息苦しくないー?」

「スミレちゃんは昔からそういう子でしょ」

「当たり前の人間で居たい……それだけ」

 安定というよりは適応。彼女の目的は世間に溶け込み、ただの人間として当たり前の生活と扱いを受ける。特別扱いでも金持ちになりたいわけでもない。きっと、アサよりは消極的な願いなのかもしれない。

 スミレがカップを手に取る中、ユリは角砂糖を加える。

「私はここの職員として働きたいな。組織には共感できるし」

「ユリももの好きねえ」

「じ、人生の無駄だと思うよ……高給だけどさ」

 シランが言うようにそれはもの好きの選択だ。ユリの場合は待遇よりも自分が何を成すかという点に重点を置いているのだろう。若い彼女の感性はある意味普通とも言えるかもしれない。むしろ、スミレやアサの方が特殊なのだろう。

「無駄じゃないって。誰かの為に戦えるなら」

「無駄死にしたらどうするつもり?」

「そうなったらもう、笑って死ぬよ」

 できることはそれくらいだ。そうならないように最善を尽くした果てにそうなるのであれば、もう笑って死ぬしかないだろう。ユリのこの思考は楽観ではない。

「何かを犠牲にしなきゃ、何も変わらないんだから」

 その言葉が後に彼女らを変えることになるとは、今はまだ誰も知らない。




【6】


「ああっ……疲れたあ」

「スミレちゃん頑張ったね!」

「そんなに疲れることしてないでしょ」

「私達を基準に考えちゃ駄目さー」

 今日も四人は実験を終え、白く無機質な廊下を歩いて自分達の部屋へと向かう。彼らの生活は基本的に自分達の生活区画と、実験などを行う区画を行ったり来たりするだけだ。広さ自体はかなりのものだが、それでも一般的な人間の生活範囲と比べれば大したことはない。

 地下深くにあるこの場所に窓はなく、空も見えない。

「にしても、ここって息苦しいよね。地下深くだしさ」

「地下数百メートルだっけー?これじゃあ私達地底人だ」

「ふっ地底人。面白いこと言うわねアサ」

「も、モグラは見たことないかな……」

 本物の空を見たことのない少女達は、人工の太陽光と無菌の環境で育てられている。外での生活と変わらない育て方をされてはいるものの、閉塞感のある世界に居ることは事実だ。ストレスケアでは消せない何かがある。

 四人が並んで進み、扉を開けると順番に手を洗う。

「本物の空ってどうなんだろう」

「コンピューターで再現したやつでよくねー?」

「絶対本物の方がいいって!」

「本当に見るとこっ、後悔しそうだけどね……」

 普通の人間からすれば大したものではないが、一切の閉塞感のない普通の世界を知らない彼女からすれば重要なものだろう。一度見ればもう満足する程度の小さなことであるが、それを経験するとしないとでは大違いだ。

 順番に手洗いを終えていく。

「後でマッサージのサービス頼もうー」

「私もやろっかなー」

 そんな何気ない会話をしながら四姉妹はリビングへと向かうと、扉を開けた瞬間にクラッカーの音が彼女らを出迎える。驚く彼女らと同様にリビングに居たドクターライも驚いていた。クラッカーを使ったのは白岡だ。

 机の上には誕生日用の豪勢な料理が置かれている。

「何でドクターがビビってるんです?」

「い、いや急に来たら誰だって驚くだろう」

「えっ?先生達何で……」

「ああー誕生日だったねー十月二十日」

 アサが日付から思い出す。今日は十月二十日であり、彼らが人工子宮を出てから丁度一年の日であった。生まれて初めての記念日くらいは、彼ら研究員とて祝ってくれるのだ。それくらいの気遣いはできる。

 部屋の端では実験に同席していた竜胆や女性の研究員も祝っていた。

「あ、ありがとうございます!」

「おーおー思わぬサプライズー」

「ほらドクターライ、何か祝いの言葉を」

「し、白岡君……だから私はこういうことは向かな」

「あなた年長者なんですから……!」

 年下と言い合う珍しいドクターライの姿が見られるのも、もしかしたら誕生日プレゼントなのかもしれない。皆がドクターライの言葉を待つ中、アサは一人で料理を皿に取っている。

「あーえー……今日で一歳の誕生日だ。ここまで病気もなく……」

「お堅い話みたいね?」

「ぐっ……!健康で何よりだ!気にせず好きに飲め食え!」

「おー!」

 やけになった彼の挨拶で誕生日パーティーが始まり、皆が一斉に料理や飲み物の方へと向かう。日々の疲れを騒ぎで発散する中、一人どうすれば分からないスミレの手をユリが引っ張っていく。

「アサおめえ取るのが早いぞ」

「健とかに合わせてたら餓死するってー」

「だから下の名前は……まあ、今日はいいか」

 今日だけは何をしても許されるような、そんな特別な日。普段の食事では出ない栄養価の偏った食事もここでは出てくる。自由のない少女達の為に用意されたささやかな自由は、彼女らの気を紛らわせてくれた。

 飲み物の前で研究員の竜胆とシランがバッタリ会う。

「お嬢さん何飲むかい。アイスティーかそれ以外か」

「アイスティーと言っても色々あるじゃないですか」

「アッサムとセイロン。お嬢さんには前者が合いそうだ」

「紅茶詳しいんですね!」

「長く生きただけさ。仕事してるとよく飲むのさ」

 その言葉を聞いてシランが頬を赤らめる。惚れっぽい彼女の悪癖が出たのか、また同じ過ちを繰り返そうとしていた。遠くでアサとスミレが呆れている。

「まーた惚れてるよー懲りないねえー」

「な、何回やれば諦めるんだろう……」

 シランの性格は恐らく一生治らない。その惚れっぽさを活かせるような結婚相手が見つかれば解決するのだろうが、この様子では当分は苦労することだろう。巡り合わせに願うしかない。

 ユリは楽し気な様子の姉妹を眺めていた。

「……良かった」

「君も輪の中に入ればいいじゃないか」

「あっ先生」

 ドクターライが彼女の傍に立つ。皆から少し離れた場所で料理の皿を持って一人で食べている彼女は、いつものようなハキハキとした雰囲気がない。長女だなんだと言い出す彼女はここには居ない。

「いや……私が居る意味もないかなって」

「君らしからぬネガティブ思考だね。何かあったかい?」

「……この前、みんなと話したんです。もしここを出たらって」

「仮定の話は、時に自分を見つめ直す鍵になる」

 長く生きているドクターライだからこそ、人生の先輩としての助言ができる。まだ生まれて一年しか経っておらず、基本的な知識は生まれつきインプットされていても経験は足りない。彼女らはまだ子供だ。

「みんなちゃんと考えていて……もう、私は必要ないみたい」

「ああ、長女としての役割か……」

「……本当の長女でもないですけどね」

 本当の長女である1号機はここには居ない。六姉妹の内二人は行方が開示されておらず、ユリはただ長女を自称しているだけだ。そもそも、同時に生まれてきた彼女達に生まれ順の概念はない。

「確か、君が言ったんだったね。自分が長女だと」

「頼れる姉になりたかったんです……能力は足りないけど」

「君は上手くやっていたさ」

「どうでしょう……」

 彼女に自信はない。姉として虚勢を張っていても実力は伴っていなかった。パッとしないというのが精々で、失敗する姿だけを見せてきた姉だった。

 だが、それら全てが無意味だったわけではない。

「相談できる相手が居るのは良い事さ。例え解決しなくとも」

「……それだけでいいんですか?」

「精神的な支えがあることが何よりも大切だからね」

「ユリお姉ちゃーん!こっち来て!」

 シランがユリのことを呼ぶ。姉として、妹達が彼女のことを読んでいる。

「後は君がどう折り合いをつけるかさ。できるかい?」

「……はい!」

 そう返事をして彼女は妹達の下へ戻っていく。長女はこれからも長女として振る舞い、長女として死んでいく。例え何もできなかったとしても心を支える姉であり、守る姉なのだ。

 ふと、ドクターライのポケットにある携帯電話が鳴る。

「ん?……こんな時に何だい」

『ドクターライ、緊急の連絡だ』

「君達か……手早く頼むよ」

『粳部クローン計画を一時凍結する。詳細はメールを見ろ』

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