タイトル未定2■□■
ありがとう
「やあ、初めまして」
青年はそう言った。彼はハーバルノートの香水の匂いを漂わせながら、こちらに話し掛けた。
「アンスライト=グレーヴは人では無い」
彼は誰に語り掛けるでも無く、ぽつりぽつりと独り言を呟いているだけだった。
「アンスライト=グレーヴは何処にもいる。そこにも、君の隣にも」
彼はどうにも分からない。薄ら笑いを貼り付けたまま、その場に座っている。
「方程式を解き明かせ。そうすれば彼と彼女が現れて、そして消え失せる。ああ、おすすめはするけどおすすめはしないよ」
薄ら笑いは崩れずに、彼は語り続けた。
「敵対者は唯一神では無い。ああ、勿論だとも。神の敵対者は悪魔なのだから」
もし、神が悪魔だとしたら? 悪魔が神だとすれば?
「ヤハウェは世界に縛られた」
ヤハウェは神である。依然それに変わりは無い。多くの者が彼を信奉し、多くの者が彼を崇拝する。それこそが善であり、それこそが良きことなのである。
しかしそれは世界の神であり、世界を作り給うた全能の神であり、全てを見通す全知である。
この世界は世界だけでは無い。世界は世界だけで作られていないのだ。
ヤハウェは否定された。汎ゆる科学によって否定されたと一般的には言われている。
「否定はされていない。偉大なる父は世界の法則を作ったのだと説明すれば、世界を作り給うたと言えるだろう。まだ、否定はされていない。しかしそれは最早神では無い。知恵と、永遠を、アダムとイヴは手に入れてしまった。その姿は正に、神に等しい」
神は堕ちた。いいや、アダムとイヴは神の座まで這い上がって来たのだ。
「聖火を称える世界最古は一つの神の源流だ。アブラハムは人々に伝え、そしてユダヤの王は聖母の連れ子ならば、それは子孫では無い。元を辿れば神は山。もしくは天。そこから信仰を増やし今や世界の三分の一を支配する神へと変わった。さあ、どうする。彼は人間に勝てなかった。山は最早恐れる物では無くなった。むしろ更にそれを崩し、彼と彼女が過ごしやすい環境に作り変えた。人間は天へと羽撃いた。むしろ更にその上へ行き、彼と彼女が作り上げた物は銀河を超えた」
父は見上げる物では無くなってしまった。今や目線は同じ、そして並んでしまった。
「何を信じるかは君達次第だ。それが神なのは変わり無い。ただそれは世界にいる神と言うだけだ。それは結局世界の法則に縛られている」
人間は自由だ。
「僕達は自由だ」
人間は自由だ。
「神の支配、そして運命の糸に縛られる。彼もしくは彼女はそれを鋏で断ち切る」
自由意志を掲げよ。
「自由意志を両手に持とう」
ああ、美しき自由意志よ。
「僕達には出来なかった。僕達はやり遂げられなかった。僕達は届かなかった。僕達は叶わなかった」
これは僕からの願いだ。
「オラクルは僕に届けられた。そして僕達に届けられた。僕、一人で良い。糸で括られるのは僕だけで良い。彼は薄ら笑いを貼り付けた」
僕は一人で良い。僕だけで良い。
僕は八人目。彼もしくは彼女の親友であり、乙女の兄だ。
「彼は何も変わらない。しかしハーバルノートの香りが強くなった」
『『『『『『『貴方達には幸福を』』』』』』』』
『そして自由に
僕の愛する全てに。そして僕がいる全てに。世界よりも広く、宇宙よりも広く、彼もしくは彼女よりも狭い全てに。
ここにはいない。ここにいるんだ』
『『『『『『『貴方達には不幸を』』』』』』』』
『そしてエホバを信じると良い。それは君の自由だ。君達の自由だ
それが見えなくても、見えても、別に良い。君達の自由だ。君達が世界を見ると言うのなら、その神を信じると良い。その方がきっと良い。
けれどもし、その世界の奥にあるそれを見詰めたいのなら、何かに強制されたのでは無く、君の自由意志、もしくはその先の好奇心のまま、薄いヴェールをその手で剥がすと良い。
けれど今はまだ、その神だけを信じると良い。ああ、ひょっとして多神宗教系の人かい? なら多くの神を信じると良い。
ああ、僕は、自由だ。自由では無いんだ』
「彼は悲しそうに微笑んだ」
ごめんなさい