表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

異世魔酒房 その5

掲載日:2023/03/13

賑やかな酒場だ。ガヤガヤと活気付き、仕事終わりの者や友人との気のおけない時間を過ごしに来た者。

はたまた一人で晩酌がてらやって来た壮年の紳士やら、様々な人種、種族で溢れかえっている。


カウンターに座り、ミムルとザッハとグレアはメニュー表を眺めている。ようやく全員が揃い、今まさに食事会が始まろうとしている所だ。


ミムルはメニューを食い入るように見つめ、その煌びやかな料理の写真の数々を入念に吟味し、


「すみません、お子様セットをひとつ」


と、女性店員に注文する。


私はカシスとブラックベリーをきつめの洋酒で割ったものを頼む。それと軽めのつまめるような物を。


「ザッハ、あなただけよ。何にするの?」


ミムルが真剣な面持ちで言う。


「ちょっと待ってくれ。今めちゃくちゃに悩んでるから」


ザッハも食い入るようにメニュー表を凝視し、


「姉ちゃんは何を頼んだんだよ」

「私は、これよ」

「…マジかよ。信じられねぇ」

「マジよ…」


ザッハが意を決して、店員を呼ぶ。


「すみません、お子様セットをもうひとつ」


私は思わず吹き出しそうになるが、この姉弟の真剣な様子を見ていると、どうにも冗談ではないらしい。

真面目に議論を交わし、メニューについての評議をしている。


やがてうやうやしく旗の付いたプレートを二つ、店員が運んでくる。姿勢を正して待つ姉弟。それぞれのカウンターのテーブルの前に料理を置かれると二人は感謝の意を店員に伝えて、目の前の宝物に対峙した。


キラキラとしたプレートに乗せられ、運ばれてきた料理を愛でる。二人は目を輝かせながら、


「見ろよ、旗だ。旗がついてる」

「ザッハ何これ。初めて見ます。赤いお米?トマトの風味がする」

「ハンバーグだ。ハンバーグもあるぜ、ねーちゃん」

「わぁー」

「わぁーー、すげえ」


さて、今日は大人同士の気のおけない飲み会と聞いていたものだが、どうしたものか…。

私は運ばれてきたカクテルに口を付け、隣できゃっきゃっとはしゃぐ二人に正直、手を持て余している。


「あの…」

「見てみて!ザッハ!中にチーズが入っているわ!」

「うあー!ほんとだー!」


「その、ミムル殿…」

「おい!姉ちゃん!この黄色の粒々!甘いぞ!」

「わー!お菓子みたい!美味しい!」


「……。」


カウンターに肘を付き、頭を抱える。

これは二人が料理を食べ終えるのを待つべきかと悩んでると、


「ほう、手を焼いておるのか。赤髪の女よ」


と、聞き覚えのある声と共に暗闇からにょきりと骸の王が姿を現した。


「骸!?」


私はビックリして席から立ち上がると、王は悠然といている席に座り、店員からおしぼりを受け取っている。


「どうした?女。我が手を拭くのはそんなに珍しいか。我だって汚れを気にする。さぁ、席に座るがよい」


「あ、骸の王様だ。こんばんはー」

「うむ」

「王様も何か食べます?これ、メニュー表」

「うむ」


王はメニュー表を受け取ると、食い入るように凝視する。

そして、メニューとカウンターに置かれたお子様セットを交互にじっと眺め、


「すみません、我もお子様セットをひとつ」

「あ、すみません…。大人の方はちょっと…」


「はあっ!?小娘!何故、我の邪魔をする!」


何故、我の願いを叶えぬ!聞き届けぬ!と王は憤慨ふんがいするが、店の女性店員は気にもせず、


「規則ですので」


と、取り付く島もない。この娘…、強い。


「王よ、えたとて此処ではこの娘が摂理です。諦めなさい」


私は進言する。


「摂理…摂理か。ならば、仕方ない」


スン…と真顔でそう言った。それでいいのか、王よ。

だが、諦めきれないのか、口惜しそうにメニューの写真を凝視する王。それを尻目にトロリとしたチーズを垂らしたハンバーグを口に運び、ミムルは美味しそうに頬張っている。


「あー美味しい♡美味しいなぁ。王様はこんなに美味しい物を口にする事が出来ないのですね。残念だなぁ」


「ぐぬぅ…」


「はー美味しい美味しい。おかわりしてしまおうかしら♡」


もんのすっごく不満そうな王。しかし、気付いてはいけない何かに気付く。

私はそれを察し、止めようとする…その前に。


「おい、娘。お前、自慢気にしておるが、その…子供に見られてるって事だぞ?」

「はっ!?」


スプーンをカラーンと落とすミムル。プルプルしながら


「そんな…、私だって、私だって…立派なレディなんですよ!?」


と、ほっぺにケチャップライスを付けて力説する。


隣の席で大爆笑しながらザッハは実の姉を揶揄からかっていた。


「だははは!言われてやんのっ!ねーちゃんそういうとこだぜ?ほら、ほっぺに付いてるし!もう、じっとしてなよ」

「う、ううう…」


私はじっと聞いている。だが、この空気を読めない骸のお化けは続ける。


「だが坊ズ、お主も同じ物を頼めるというのなら、きっとそういう事じゃぞ?」


ザッハが一瞬硬直、フリーズする。



そして…小刻みに震え出し、


「はあっ?オレはだって…、あ、ああ!?いや、そんなっ!…ぁぁああああああああっ!!?」


酒房に二人の絶叫がこだまする。


寒空の下、空っ風だけが夜のとばりを吹き荒んでいた。

ほろ苦い酒を身体に流し込み、全て忘れよう。

これは夢、夢なんだ。

現実なぞ…、


「てっめぇ!骨ェ!!言っていい事と悪い事があんだろぉがー!!」

「ぬかせぇ!小童っ!!」


嗚呼、無情。嗚呼、無情、也。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ