プロローグ
輪廻転生という考え方をご存知だろうか?
形態はいくつもあるが、その中に成神輪廻というものがあった。六道輪廻の天道の先に、神道なるものが足されたものである。 神道へ辿り着いたものは神となり、全てのものに干渉できるものになる。そして、神に干渉できるのは、神のみである。どんな経緯で仏教に神が融合したのかはわからないが、唯一わかることは、今俺は成神輪廻の中にあるということである。
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「えっと、君にはスキルがありません」
神殿が観衆のどよめきで満たされた。
この世界に住む人々は、創造神ハルスによって15歳の時に何かしらのスキルが貰える。正確には、十五歳で迎えた十月一日、今日この日である。そして、そのスキルが農業系であったりすれば農家、頭脳系であったりすればギルドの受け付けになったりと、貰えるスキルによって人の人生というのは大きく変わる。いや、決定すると言っていいだろう。
そしてここには15歳の少年少女が集まっている。そう、ここは鑑定の儀が行われる神殿である。ちなみに神殿名はヘルス神殿らしい。
「は?え、何かの間違いですよね?」
そう思わず聞き返してしまった俺は、アレル・スコートだ。
「いや、こんなこと今までになかったんだけどなぁ。もう一度そこに手をかざしてみてくれないかな。」
優しげな神官に言われた通り、俺はもう一度スキル鑑定の水晶に手をかざすが
「なにも、出てこない、だと」
「こんなことがあるなんて思いもしなかったけど、やっぱりスキルが何も無いみたいだね。次の子も待ってるし、あれだ、まあ頑張って生きなさい。」
「そんな、これから俺はどうすれば、、、」
俺は絶望に暮れる。俺は貧しい田舎の村で産まれたが優しい両親に育てられ、一週間前だって「いいスキルが貰えるといいねぇ」なんて、お金も全然無いのにごちそうを作ってくれて、この神殿まで送り出してくれたのに。しかもスキル無し?あのいつの物語でも馬鹿にされるあのスキル無しって、、、、
「おいおい、さっさと退けよ。俺様のスキル鑑定を邪魔する気か?」
性格の悪そうな男が俺を見下ろしながら言った。そう、こいつは俺のことを小さい頃から、ことあるごとにいじめてきたやつだ。この男、レイクは体格もよく、村長の息子でもあったから俺は何もできずただサンドバックになるしか無かったんだ。俺も強いスキルでも貰えたら少しはやり返せたのだろうか。
「お前、、、」
「ん?何だ腑抜け。そこを退かないってんなら、、」
「ちょっと待ってくださいよアニキ、こいつアニキのスキル見たいんじゃ無いんですかね?自分にスキルが無かったから。」
そう、村にいる頃からレイクの横にいつもいるマイルが俺を煽る。
「そうか、そんなに俺のスキルが見たいのか“スキル無しのアレル“」
レイクの発言で神殿がどっと笑いに包まれる。
「俺のスキルはどんなもんかな?誰かと違ってあるといいなぁ?」
そう言ってレイクが水晶に手をかざした時、浮き出た文字は
「こ、これは、特別スキル『白金の剣王』!?」
瞬間神殿が熱気に包まれた。特別スキルというものは、世界に一人だけしか持っていないスキルで、どれも超強力だ。そしてこの特別スキル『白銀の剣王』はかつて最強と言われた、三代前の騎士団長の持っていた特別スキルなのだ。
「ふっ。まあこんなもんか」
「さすがっすアニキ!将来はSランク冒険者か、騎士団長ってとこですかね!!」
そういつものやり取りを繰り返すレイク達。しかし今回は神殿にいるほとんどの人がレイクを褒め称えている。
「くそっなんでこんなやつに」
俺は悔しさの余り心の声を漏らす。俺は戦闘系のスキルも貰って、騎士団に入り。いずれ近衛騎士団にでもなって、その給料で貧しい暮らしから、その安定した給料で豪華な暮らしへと変えようと思っていたのに。
「あ?誰がこんなやつだと?ぶん殴るぞスキル無し!!」
そう言い、レイクが拳を振りかぶる。
その時、
「こんなところで喧嘩なんて起こすのはやめた方がいいですよ。」
そうレイクを諭すような声で言う少女が目の前に現れた。
美しい、それが俺の最初にその少女を見て思ったことだった。長く伸びた美しい黒髪に、しなやかな肢体。そして、美しく、悠然とした顔。気付けば俺は見入ってしまっていた。
「何だ女、この特別スキル持ちの俺を止めるのか?」
「そうですね、ではあなたが止まってくれてるその間に鑑定しますね」
そういって彼女が水晶に手をかざすと
「なっななななななななんということだぁぁあ!!!固有スキル『霊験の聖女』だと!!!あぁ、固有スキルを持っていらっしゃる方を見るのはこの人生六十年でも初めてでございます。しかも聖女でいらっしゃるなんて」
特別スキル持ちで盛り上がっていた神殿内はさらに盛り上がりを見せた。固有スキルというのは、特別スキルのさらに上、固有スキルを持った人間がいなくなれば、そのスキルはもう誰にも授けられないと言う、創造神ハルスがその人間の為だけに創り出したスキルなのだ。その希少さは半端ではなく、少なくとも神殿の記録に残っている限り五十年前が一番最近の固有スキル持ちの人間になっている。
この、スキル無しで落ち込んでる俺を嘲笑うかの展開に耐えきれなくなった俺は気づけば走り出し、盛り上がる神殿を尻目に、このヘイル神殿を抱える町「キャンズ」町を駆け抜けていった。
そして、無様に泣き喚きながら走り続け、俺は転んだ。そう、盛大に、そして目の前には石の椅子
「いっだぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁ」
ゴンっという鈍い音をたて俺の頭は石の椅子へ衝突した。
衝撃が強すぎて意識が――――――
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危なかった、転んだなんてくだらない理由で死ぬところだった
「やっぱスキルをひとつも持ってないやつなんてどうせ最期はこんなもんなのかな」
「え?」
いや、ネガキャン発言は良くない。俺はさっきとは打って変わってめちゃくちゃ冷静だ。そう、思い出したのだ、俺は確か輪廻転生を繰り返し、ついに6回目を終え、
「俺は今、神だ」
「ええ!?」
まあこんなこと思い出して考えてみても、神になっても何も起こらなかったな。それどころか、六つの前世があったのは覚えてるが、前世以外の内容が全く思い出せない。ほんとうに今回が7回目だったのかも疑わしくなってきた。
というかさっきから俺の近くでで驚き続けてるやつは誰だ?と思い、俺は立ち上がり目の前を見る。
「ひっっっっっ」
そこにいたのは今にも悲鳴を上げそうな美少女だった。小柄な体型ながら大きな胸をしており、それでいてかわいらしく小さな顔を持っている。素直にかわいいな、てか何で驚いてるんだ?
自分で言うのも何だが今世の俺はそんなに酷い顔ではないと思う。
「キミ、何を驚いているんだ?俺の顔が変とか?」
「あの、その、倒れてて心配だったので声をかけようと思ったらいきなり喋り出して、しかも顔も血だらけだったので、その、顔が良くないとか、そういうのじゃ、ない、です、、、」
確かに、俺の顔は今血で汚れてるのか、それは怖がらせてしまうかもしれないな、
「あー、顔を洗える場所とかってあるかな?俺この町に昨日来たばっかだし、宿とか取ってなかったから」
「いや、私も、鑑定の儀があったからって理由で、一昨日来たばっかりだから、あんまりよくわからない、かな。」
「そうか、キミも俺と同じで鑑定の儀でこの町に来たのか、、、、俺は鑑定の儀はあんまりいい思い出にならなかったかな。キミはどだった?」
そうすると仮称、驚きまくり美少女ちゃんは気まずそうに
「私はね、、、、」
ははーんこの態度はあれだ、俺がスキルが何一つないっていう醜態を晒してたのを見てたから、自分の持ってるスキルを言うのが申し訳ないんだな?心配してくれたり、同情してくれたり、驚きまくり美少女ちゃんはいい人だなぁ
「私は、特別スキル『極寒の女王』、だったよ」
「へー。ってえぇぇ!?」
今度は俺が驚いてしまった。この驚かせてくる美少女ちゃんが特別スキル持ち!?話した人間が三連続特別スキル持ちなんてどんなけ運を使ったんだ俺は。いや、でもスキル無しで帳消し?いや、スキル無しはそんなもんじゃないな、うん。
「いや、でも私、自慢したい、とかじゃなくて。私、戦うとか、全然したことないから、こんなに強い戦闘スキルを貰っても、、、」
「たしかにな、極寒の女王なんてスキル、優しいキミにはあんまり似合わないなぁとか思ったよ。」
スキル無しの俺を気遣ってくれるなんて、神殿にいた大体のやつはしてくれなかったことだ。
「優しい、ですか。そう言ってもらえると嬉しいです。」
そういって驚かせてくる美少女ちゃんが頬を赤らめる。
ほっぺたに手を当ててるけど熱でもあるんだろうか?ずっと引き留めるのもあれだし、一旦はお別れかな。俺も状況を整理したいし。
そんな俺の意図が通じたのか
「そ、それじゃあ、失礼します!!!」
焦ったように言って彼女は去っていった。
少女、急ぐのだよ病院へと
「はぁ、憂鬱だ。今日は明けても暮れても気が沈む出来事ばかりだな」
何故か彼女と離れた途端気分が沈んだ。このまま無能力を告げに村へ帰るのか、きっと村のみんなも無能力と知った瞬間、今まで以上に酷い扱いをするのだろうか。せめてこの町のお土産でも買って帰るか。
どこの店で買うべきかな?あそこの座ってるおっさんにでもきいてみるか
「なあなあおっさん、ここの近くでお土産とか売ってる場所無い?」
そういうとおっさんは訝しむような視線を俺に向けて
「いきなりおっさんとはひどく無礼なやつだな?いいスキルでももらって浮かれてんのか?」
おっと、痛いところをつくおじさんだな
「いや、俺にはスキルが無いみたいでさ、その報告を誤魔化すためにお土産を買いたいんだよ」
「ハハハハハハハハハハ!!!!!!!!スキル無しだと!!!ハハハハ!!きいたぞ!前代未聞、現実のスキル無しが神殿で大恥かいたってなぁ!ハハハハ!!!そんなスキル無しの子供がいるだけで恥ずかしいのに、しかも自分の金でお土産を買って誤魔化そうなんて考えてるなんてなぁ。お前の親が可哀想だなぁ!ハハハハ!!」
おい、なんだこのおっさん。ゲラゲラと俺のことを笑いやがって、人の気持ちを察することもできねぇのかよ!しかもこいつは、俺だけならまだしも、俺の親まで!
気付くと俺は拳を振りかぶっていた。
「あ?スキル無しがこのスキル『頑丈』持ちの俺を殴るのか?お前の腕が壊れないといいなぁハハハハ!!」
「ほざけ、雑魚が!」
そして俺は拳を振り下ろす!
ドゴッッッッツ
「ぐおおぉおぉぁぁぁぁぉぉあぉぉあ」
俺の拳が当たった瞬間、おっさんは吹っ飛びながら叫んだ。おっさんの肉体は近くの店の壁を貫通し、そして止まる。あそこまで吹っ飛ぶとは、、、
そして俺はおっさんの元へゆっくりと近付く。
「おっさんの叫び声なんて聞いてても気持ち良く無いな。まあ女のもなんだけど、」
おっさんは怯えながら
「や、やめてくれぇ!!」
「もういい、それ以上喋るな、耳障りだ。でも叫びだとしても、断末魔なら聴き心地いいかもなぁ!!」
「う、うわぁぁぁぁぁあああああ」
おっさんのズボンがたちまち濡れていく。
「いい歳して失禁か、恥ずかしいやつだな」
俺はおっさんを見下していう。
ん、後ろから一人気配がするな。
「言いたいことがあるなら聞くぞ?」
そういうと、びっくりするほど美人な赤髪の女が出てきた。あれ、今日は二人の女の子と話せて幸運な日だな。どっちもかわいいし。
「あんた、さっきスキル無しって言ってたけど、これどういうこと?そんなの信じられるわけないわ!一体あんた何者!?」
そんな捲し立てるように言われてもなぁ、
「何者か聞くなら、君から自己紹介してほしいものだが。まあ、答えてやろう、さっき六前世を思い出した」
赤髪の女が息を呑む。
「ただの通りすがりの神さ」
「神、ですって、頭がおかしいのね?この世界には創造神ハルスをおいて他に神はいないわよ!」
赤髪の女は信じられないという風に言う。
「そう思うのも無理はない。創造神ハルス以外に神がいないと言うのも間違っていなかった。しかしそれは、さっき俺が神となるまでの話」
「な、何を言ってるのよ!」
「まあ、まだ前世の力までしか取り戻せて無いがな」
これでもわからないか、自分の勘違いを一生信じ続けるようだな。まあ、強情な女も嫌いじゃない。
ん、また新しい気配
14歳ほどの女の子か、
「あ、あの、店の壁の修理代ってもらえますか?」
あ、やべ、俺にそんな金ないぞ。どうしたもんか
「おい、そこの赤髪女!俺の代わりに払っといてくれ、いつか返すから!」
俺はあんまり目立ちたくないからな、ここは逃げておくに限る。
「は?え、何言ってんのよ!逃げるな犯罪者ーーーー」
赤髪女の声を背に俺は颯爽と街を駆け抜ける
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実際のところ俺は最初から七回目の人生だと分かっていた。しかし能力が覚醒するのは十五歳だとわかっていたから、間違っても死なないように、
あえて無能を装っていた
「しかし、今回はスキル無しか」
街を駆け抜けながら俺は呟く。しかし、走るだけでわかるのだ、過去六回の人生のなかでも、これほど動きやすかったことはない。
スキル無しは、おそらくスキル持ちの人間より身体能力が高くなる。それがスキル無しのデメリットを上回るかはおいといて。
おそらく、スキルが絶対であるという常識を染み込ませたのは、創造神ハルスだろうな。俺が神となったタイミングでするのは狙ったとしか思えない。
そうだな、今回の人生、いや、神生は。
前世六回の力と今世の力を持ってして、創造神ハルスが創り上げ、スキル無しを無能認定、さらには最悪な人生ルートを強制する、この世界を蹂躙し、再構築する。
どんなスキルでも受け入れ、皆好きに働き、好きに遊んでいた世界。スキルで人生が決定しない世界に!!
そう、無能認定された今日この日から、俺は
slayer of god
として、この世界に降臨する!!