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ナーランド市街地戦〜終結〜

「また逃げたくない。だから今度は私の全てを吐き出す!」


 そんな言葉と共にカーマは球状のオブジェクトを取り出しそれに魔力を込める。


 オブジェクトは昏き輝く。それと同時に辺り一帯に重苦しい空気が支配する。


「…準備は出来たよ」

 魔術の負担が大きいためか苦しそうに告げてきた。

「後はクーの出番だよ、チャンスは一回きりだから覚悟しといてよ」

「分かった…」

 

 覚悟を問われた。だが俺にそんなものがあるのかと自問自答してしまう。そもそも軍に入ったのも確かな理由などない。逃げずにここにいるのも自分の感覚に従ったからだ。


 俺はこんなにも自己犠牲の精神に満ちた男だったろうか。俺は何故こんなに死が怖いのだろうか。だが、心の奥底で確固たる意志が渦巻く。


 何か忘れてる?


「クー!」

「ッ!」

「今からが勝負なのにしっかりしてよ」


 カーマの呼び掛けに意識が戻る。

「悪い、だ、大丈夫だ!」

 何を考えることがある。こんなにもカーマがお膳立てをしてくれているのだ。後は俺が貢献するだけ。


「そう?なら今から十秒後に魔術を行使するからさっき伝えたとおりにやってね」

「了解!」


 耳打ちされた事を反芻する。

(よし、問題ない)


「10,9,8,7,」

 カウントダウンが開始される。

「上等:剣王」「【ウィンディスト】」「【サーチスト】」「【アップ・フレイム】」

 同時に魔法と魔術を行使する。


「6,5,4,3,2,1」


カウントダウンも終盤となる。仮想も行い動きを洗練させる。


「0!」


 時が来た。そして、駆け出す。


「特等:加重(かじゅう)軋轢(あつれき)!」


 カーマの叫びに似たトリガーの次にパァンとオブジェクトが割れた音がすると世界が一変する。目の前の景色がぐにゃりと変貌する。


 瓦礫はあまりの衝撃ゆえかほぼカスへと、地面も抉られ走りにくいことこの上ないだろうな。肝心の化け物もあまりの威力にか地に膝を付けている。


 隙だらけだ。ならば俺はどうだ、全く重力を受けていないのだった。


 カーマが事前に魔術を行使しない道を作り見事実現させた。

 俺はそこをひたすらに突き進むだけなので安全と言うわけだ。ただ、もしもその道を踏み外したらバカみたいな重力をモロに受けてしまい終わりだ。


 なので迷うことなく目標を斬り捨てる。


 最初は赤。青、黃、緑、紫、白

 問題なく6体を殺した。もう勝ったも同然だ。少しの慢心を感じながら先程と同じ様に斬り捨てようとした。

 

「…硬い!」


 だが、斬れない。


 そう、奴らには個性がある。攻撃特化、素早さ特化。


 ならば防御特化がいてもおかしく無いだろう。ゆえに、斬れないのだ。そう判断した時には剣が耐えきれず壊れてしまう。


(まずい。このままコイツを殺れないとまた分裂されてしまう!)


 そうなれば終わりだ。

 また同じ作戦を取ろうにもカーマの切り札はとうに壊れているし、俺の剣ももう…。

 

 ならばここで抗うしかない。


「ここで終わらせるー!」

 剣を投げ捨てる。俺にはまだ手立てが残っている。


「【ブレイブスト】!」「【ル・ブレイブスト】!」「【リスレクト】!」「【バリアスト】!」


 思い付く限りの魔法を唱える。威力上昇、威力倍増、身体機能限界解除、防御上昇の付与を掛ける。


「俺の目の前から消えやがれぇー!」

 叫びながら渾身の拳を化け物に叩き込む。


 激しい破裂音がすぐそばで鳴り響く。


 一体それは魔物からだったのか、それとも俺の体からだったのかは未だに謎であった。

 

 ▲

 次に意識を戻した時には、荒れ果ててしまった街では無く病院の白い天井か見えた。


 全ての魔力を使い切ってしまうだけでなく全身使い物にならないほど酷使してしまったため一ヶ月近く入院することになる。

 どうやら俺が魔法を使えることが軍にバレてしまったようでかなりのピンチかと思いきや、ミナス中将という女性軍人が俺の身元を預かることを提案してくれ何とかなってしまった。


 さらには、俺の魔法の件は上層部だけに留まり他の国や軍人達に情報が広がることは無く普通に暮らすことが出来た。


 ミナス中将から彼女が室長をしているという特殊捜査室へ配属するように助言されたが丁重に断り今のフリーランスなやり方を選ぶことにした。

 

 肝心のカーマというと、突然サナレス辺境地帯の支部へ転向するよう要望があったらしい。そこは魔法使いが支配する土地と隣接しており2年以内の生存率は40%と言われる程の危険な場所だ。


 俺の元には一通の置き手紙があった。


「ごめんね。また会おう」


 それだけだ。モヤモヤとした何かを感じながらも俺は各地で軍人として貢献したのだった。


 そして彼女と再開した。だが、彼女は俺に対して他人行儀となり鬱屈した気分がよりのしかかる羽目となった。



「教えて下さい少尉。貴方の事を知りたいんです」


 時は戻り、彼女は俺の瞳を必死に見つめている。


 ここでまた同じ関係性に戻したい。そんな願望を胸にし久しぶりの対話を始めるのであった。 

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