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俺たちの日常

 世界は、イーガルタウンの終末事件を機に一変してしまう。


 これまで御伽噺や伝承の中でしか存在しなかった魔法を扱いし者、所謂「魔法使い」が俺の故郷であるイーガルタウンにて破壊行動を起こしたのだ。


 それを皮切りに、いないとされていたはずの魔法使いが集団をなして人類に牙を剥いた。


 あの事件から12年後、人口は当時の7割弱まで減り、穏やかに衰退の一歩へ進んでいた。


 ▲


「クーナレド少尉、カーマ1等軍曹。御足労感謝いたします。私はマウンス支部長補佐のアルベルト・アーマー大尉と申します」


 外見としては年齢五十程のやや痩せ型の男が、現場に到着したばかりの俺たちに挨拶をしてきた。

 

「ええ、宜しくお願いします。俺…こほん、私がクーナレド・アシュレスです。後、大尉の方が階級は上なので敬語じゃなくて良いですよ」

「いやいや、ナーランド市街地戦を始めとして数々の功績を上げてきたクーナレド少尉殿にそんな事出来ませんよ。軍は実力主義ですから近いうちに私なんて越されてしまいますからね。早めに媚びを売っておいて損はしないでしょう、ははは!」

「そ、そうですかねー」

  

 アルベルト大尉のユーモアある会話になんと返そうかと困っていると、カーマが助け舟を出した。


「私からも一つ挨拶を。カーマ・クイーンネス1等軍曹です。唐突で申し訳ありませんが戦況を教えて貰えないでしょうか」

「そうでした。えー…まずですね」


 大尉からの情報によると、今から一時間前ほどに、一人の魔法使いが、マウンス支部の管轄内の街に攻撃を仕掛けたそうだ。

 

 結果として、16棟の家屋全焼と34人の死傷者の被害が出た。

 一頻り暴れた後は、魔法使いは魔物を顕現し去った。

 その魔物の処理に支部の軍人が総出で対処し、最低限の被害で抑えたようだ。


「このやり方は、些か思慮にかけますね。多分魔法機関から除外でもされた崩れの仕業だと思います」


 カーマは大尉の話を聞き終わったあと、暫し考え込みそう断じたのだった。


「でしょうな。そんな輩がもう一度徒党を組んで襲うとは到底思えないのですが、一応緊急シグナルを送ったというわけです」


 それで近くにいた俺たちがそのシグナルを受信したというわけか。

 

 こんな事態はそう珍しい事ではない。


 俺たちのような統合軍に加盟してはいるが、フリーランスに活動している軍人だと、このような時に救援を求められるのは仕方がない事だ。

 

 他の支部に応援を求めるとなると非効率なのだ。なぜならそれなりの移動距離ゆえタイムロスが大きく、その割に大した人員を割いてもらえないためだ。


「じゃあ問題は解決した事ですし俺たちは帰還しても?」

「ああ、一つお願いが。被害にあった街周辺の森を探索してもらいたいんです。もしもまだ魔物の生き残りがあると大変なので」

「了解です。森の偵察を任務ということで受理させて頂きます」

「ええ、では偵察が終わりましたら支部の者に報告、現地解散という事でお願いします。報酬金は後日、本部を介して支払わせて頂きます」

「了解です」


 大尉と手短く別れの挨拶を済ませてから森の偵察のために移動をした。

 

 ▲


「と言っても其処まで大きい森でもないし簡単に終わりそうだな」

「そうですね。周囲に荒らされた跡も無いようですし」

「…だな」


 昔のような会話を出来ないことに少し心がざわついたがその事を押し殺して散策することにした。

 

 しようとしたがどうしてもざわつきが収まらない。ここ半年俺たちの関係はこんな形だ。婉曲に敬語を辞めろと言ったこともあるが上司だからと丁重に断られたこともある。


 今は人類の危機ということで、昔のような厳しい上下関係が横行していた軍とは違っているにも関わらず、カーマはこのスタンスを変えたりしない。

 

 先程の大尉との会話だって形式上は相応しいものにしようとしたが、結局は軟派な雰囲気へと変わっていた。これが現状の当たり前なのだ。

 

 いつ死んでもおかしくないという理由で一つや二つ、あるいはそれ以上の階級の差など気にしても仕方ないとし、上下間のフランクさが寛容とされている。

 勿論、それを良しとしない昔気質な軍人もいるが大凡はそういったものだ。


 ただ、昨今の入隊条件は実力さえあれば良いといった具合なので、チンピラモドキのような輩も入ってしまうのが厄介だった。

 軍内での揉め事はしょっちゅうで、そういった荒事を回避するために、俺たちのようなフリーランスな軍人は増えてきている。


 このような様々な事情により上司の命令は絶対なんて価値観はないに等しいというのに、後ろを従順についてきている我が幼馴染は頑なに、お堅い態度を変えないのだ。


「…!カーマ、避けろ!!」


 思い切って問い詰めてやろうと思い立ち、振り返ると距離10mに狼型の魔物がこちらへ襲い掛かろうとしていた。


「大丈夫か!?」

「問題無いです!」


 二人共魔物の攻撃線上から転がるように避けたことで、間一髪助かった。

 

「この至近距離で気付かなかったってことは気配遮断系の付与魔法がされていたのか?ちっ、崩れの癖にメンドくさいことを…」

「すみません、油断をしていました。すぐに迎撃に当たりましょう!」

「ああ!」


 魔物は雄叫びを上げてこちらに爪を振りかざす。俺たちの日常はいつもこんな感じだ。

 

 死と隣合わせ。同僚は簡単に死んでいくし、一般住民も魔法使いによって殺されてしまう。


 せっかく建てたマイホームだって、機嫌が悪いだけで破壊されてしまう。


 ただ慎ましく生きているだけなのに、あり得ないほどの理不尽が一生付き纏ってくる最低の毎日だ。


 こんな腐った世界を変えるために、俺たちは今日も戦うのであった。


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