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僕たちの日常

 遥か古代には魔法があった。

 

 おおよその代償も無く、現実に干渉を与えてしまう。

 そんな都合の良いものだ。

 

 少し呪文を唱えるだけで、自分よりも一回りも二回りも大きい魔物だって地に伏してしまう業火を顕現させてしまう。

 

 なんと夢物語な存在だろうか。


 ただ、現代でそんな魔法の話を鼻高々に語っていたら、きっと馬鹿にされるに違いない。

 

 つまらない。


 魔法の有無を確実に証明する方法だってないはずなのに、他人はあからさまにこちらを下に見て、くどくど説くのだ。


 こんな風にな。

「いいかい、魔法はおとぎ話だ。幻想なんだよ」

「ばーか!現実を見ろよ」

「ど、どうだろうね…あるのかな…」


 言い方はどうであれ、僕の言葉を真に受けた者は一人だっていない。

 

 でも信じない。信じたくないんだ。


 じゃあ、現実にある魔術のようにそれ相応の代償を払わなくちゃ奇跡の一つだって起こせないほど人間は不器用なもんなのかよ。



「…そんなの詰まらない」

「まだおじさんに言われたことに対して拗ねてるの?」

「あ、ああ」


 どうやら隣で座っていた幼馴染に、独り言を聞かれてしまったらしい。


「本当クーって懲りないよね。別に魔法に憧れるのは勝手にすればいいけどさ、周りに言いふらさなきゃいいのに」


 それはそうだ。

 

 きっと余計な事を言わなければ父さんに長々と説教をされる必要も、幼馴染に嫌味を漏らされることも回避できてしまうのだろう。


「やっぱりカーマは魔法を認めないのか」

「そりゃもちろん。大体都合良すぎるでしょ。ちょっと呪文唱えただけでね、必死こいて生み出した魔術を凌駕しちゃったら、最高位魔術師たちの立つ瀬がないじゃんか」


 我が幼馴染であるカーマは目を細め、淡々と嫌味を溢していく。


 昔から、こいつの正論を振りかざすところは嫌いだ。


「もういいよ。カーマの言いたい事は、ずっと前から理解してるつもりだって。でも諦めたくないんだ。昔見たあの魔法のような光景をもう一度自分の手を叶えたいんだよ」

「それってクーが小さい頃の話でしょう。私としては特等魔術か何かを見て勘違いしただけにしか思えないんだよねー」

「ほんっとお前さ僕の喋ること信じないよな」

「私としては、魔法なんか忘れて魔術のことだけを考えればいいのにって思うんだ。クーは、才能はあるんだから」


 どうやら、カーマなりに僕のことを認めてはいるらしい。


「僕に才能は無いよ。ただ魔法に近づけそうだから魔術の勉強してるだけだし。人の何倍も努力してるだけ」

「そうなのかな?」


 カーマは、腑に落ちないようで体をゆさゆさと揺らしていた。


 これ以上の才能の有無を語っても答えは見つからないだろうと感じて、言葉を引っ込めたのだろう。

 無駄な話を嫌がるのは、昔っからのこいつの習性だ。


 それならば僕の魔法についても流してしまえばいいのに。

 何故かこの件については毎回しっかりと言葉を変え手を変え否定をしてくるのだ。


「はあ…。もういいよ、僕そろそろ行くから」

「また魔術の特訓?この私が手伝っちゃう?」

「別にいらない。前みたいに口うるさくされてもウザいし」

「う、ウザい…?クーの癖に何を偉そうに。分かりました、私は何もしませんよーだ」


 捨て台詞のように言い放って、手入れの行き届いた金色の髪を振りまきながら、ずかずかと足音を立てて帰ってしまった。


 少し言いすぎてしまったと罪悪感を抱えながら、僕も椅子から立ち上がりいつもの場所へと向かう。


 歩いている最中、暇なので見慣れた田舎の景色をぼーっと眺める。 


 何も変わらない。


 自然豊かなんて都合の良い言葉で、本当は小さい虫がまあまあ飛んでいたり、華やかさの欠片もないおじさんやおばさんが田んぼいじりをしてるだけだ。


 見ていて楽しいなんて感情が湧くはずもない。


 これが僕の日常で、世界。


 価値はあるし幸せではないなんて言えるはずもない。

  

 心のどこかで変革を求めてはいるが、あくまで空想でだ。起きてしまえば、拒否反応しまくりで以前の生活を貪欲に求めてしまうだろう。


 魔法を会得するのが最終目的ではあるが、逆に叶えてしまえば僕が次に生きる意味を失ってしまうであろうことも予想はついている。


 それくらいに僕の自我というものは希薄なものだと分かっている。


 変わらないものはない。


 なんてありふれた言葉があるくらいには、現実は非情であるはずなのに、僕は一切の覚悟が無かった。


 だが、それで僕が責められる理由にはないだろう。


 そうなんだ、きっと僕は平凡だ。

 これから何も為せないだろう。


 怠惰までいかないが、平々凡々と暮らしていくのが、僕の身に合った生活だったはずなのに、そんなありきたりだったはずの人生はある事件を際に壊れてしまう。


「イーガルタウンの終末事件」


 これを機に僕は変わってしまう。

 それが良いのか悪いのかは今は分からない。でもきっと、分からないながらも進むしかないのだ。


 それが僕の宿命だ。


 ◆


「少尉!本部から任務です。マウンスにある支部にて魔法使いが現れたそうです。至急向かいましょう」

「そうか、分かった」 

 

 今の俺にとって変わらない日常が始まる。


 俺は、また戦うのだろう。


 嫌味を漏らしながらも、いつも付き添ってくれた大切な幼馴染とは上下関係が生まれ、ここ数年距離を置いた態度を取られてしまっているが、これが現状の俺の日常なんだ。


 また新たな変革が起きないか夢想しつつも、ロージランド王国魔術軍部クーナレド・アシュレス少尉のつまらない一日が今日も始まる。

 読んで頂きありがとうございます!


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