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日本編51 神獣白沢の質問コーナー


ペチ。

ペチペチ。

ペチペチペチ。


意識が覚醒するのと同時に、右頬の優しい刺激を白亜は感じ取った。ゴツゴツした地面に不快感を覚えながらムクリと起き上がる。


「あ………?えーと、ここは……?」


「やっと起きたか白っ娘。というか、よくあの戦いが横で起こっていたのに無事でいられたものじゃ」


「え?徐福……さん?ここはどこ?私は一体………」


「武陵源じゃよ武陵源。いや、元武陵源というべきかの。地球が誇る大自然はたった今さっき、フザけた神と魔術師のせいでハチャメチャに破壊された」


「…………ぶりょうげん?これが?いやいやいや、私の気のせいでなければ目の前には、核爆弾でも降ってきたのかっていう殺風景な瓦礫の山しか写っていないのだけれど………」


「……………………………」


「あの、黙らないで徐福さん!?本当!?本当なの!?嘘!?」


ブンブンと徐福の肩を揺らし、目の前の光景の理解を拒む白亜。しかし現実である。数分かけて徐福から事情を聞いた白亜は、ポカンと口を開けてまたしても理解拒否を始めた。



「何言っているのか全然わからないわ………」


「分かる。朕もできればこんなこと分かりたくない」


「ま、まぁ。とりあえず、白沢っていう神様が暴れてこうなったのは分かったわ。それで、魔里は!?魔里は無事なの!?あと師匠は!?」


「あの小娘は無事じゃよ。いや、傷が酷すぎて無事ではないが……にしてもどんだけタフなんじゃあの小娘」


「よ、良かった………!魔里に何かあったら、私、私………!!」


「わーわー泣くな泣くな!大丈夫じゃ死んでおらん。まぁ死んでないだけなんじゃが。とりあえず移動しよう」


うおんうおんと泣く白沢を徐福が介抱しながら移動していく。数分歩くと、馴染みのある顔が見えてきた。


「し、師匠!」


「よー白亜。悪いけど今から消えるから後のことは頼むわ」


「え?師匠なんか透けて……あれ?触れない!?師匠、師匠!?大丈夫なの!?」


ぐったりと横たわったマーリンは、光の粒子を放出しながら消滅しかけていた。白亜は手を握ろうとするとするが、スルッとすり抜けてしまう。


「安心しろ死にやしねぇよてか死ねねぇよ。『夢』が足りないから補充しにいくだけだ。つっても、二週間くらいはいねぇから弟子の世話は任せたぞー」


「ちょ、師匠!?」


「じゃなー」


そしてヒラヒラと手を振って消滅した。死んでいないとは分かっていても、目の前で師が消えるというちょっとしたショッキングな出来事に白亜は呆然としてしまう。


「おーい白っ娘。大丈夫かー?」


「っは!?だ、だだ大丈夫よ……心配かけてごめんなさい。師匠は死んでない……死んでないわよね?」


「そんなに心配しなくても大丈夫だよー心配性だな白ちゃんは。白沢との戦いで何でもありの『夢』の力を消耗しすぎたんだよ。夢魔は夢が無いと肉体を構成できないからねー」


「あの………あなたは?」


たははーと笑いながら現れたのは見知らぬ少女。上のボタンが二つ空いたTシャツに閉まりきってないネクタイを結び、ギリギリまで丈を短くしたスカート。いわゆるJKスタイルの服装の上に、適当に着物を羽織っている。


綺麗な紅色の髪で右目を隠し、ルビーのように妖しく光る左の瞳は見る者を吸い寄せる。そしてなりより……


「九つの尻尾………耳………あなたまさか、玉藻の前?けど雰囲気が少し、いや全然違うような……」


「違うよー全然違う。てかお姉ちゃんはそこでノビてるよ」


そう言って指を指す。そこにはぐったりと横たわった玉藻の前と、その上に乗っかった魔里が眠っていた。魔里の姿を見た瞬間、少女のことなど放って白亜は魔里に駆け寄る。


「魔里!魔里!良かった生きてて………!魔里ーー!!」


「ぐ……うぅ、苦しい……やめ……」


ギュー!と強く抱き締めると魔里は苦しそうに呟く。


「あ、ごめんなさい!けど私嬉しくって……つい強く抱き締めてしまったわ」


「やめたげなー。魔っちゃんは傷こそ治したけど、あの魔術師ほどの治癒は出来なかったし呪いの後遺症で一、二週間はぐったりしたまんまだから」


「そ、そうなの……。あの、魔里を助けてくれてありがとうございました。この恩は一生忘れません」



白亜は深く頭を下げて少女へ感謝を伝えた。だが、少女は「お礼なんかいいよー」とニタニタ笑い、玉藻の前に手を置いて、


「お礼を言うならお姉ちゃんに言ってあげて。お姉ちゃんがいなかったら、魔っちゃん死んでたと思うし。口では人間殺す殺す言ってるけど、本当は人間と仲良くしたいツンデレちゃんだからさ」


「………………玉藻の前。いや、玉藻の前さん。ありがとうございました」


聞こえているか分からないが、白亜はきちんとお礼を言う。ピクッと玉藻の前の耳が動いたのは、誰も気付くことはなかった。



######



「ところで……あなたは誰なのかしら?」


「あぁ、自己紹介が遅れたね。アーシの名前は妲己だっき。気軽にだっきーって呼んでね☆」


パチンと可愛くウインクする少女もとい妲己。そして白亜は『妲己』という聞き覚えのある名前にまたも驚いた。


「妲己って、もしかしてあの妲己!?」


「そうそう、もしかしなくてもあの妲己でーす。そしてお姉ちゃん、玉藻の前の妹でもあるんだなー」


「玉藻の前の妹!?あぁ……さっきから情報量が多くて混乱してくるわ……」


「あぁそうそう。言っておくと、もっと混乱する要素がもうすぐ来そうだから注意してね」


「え?」


と、次の瞬間。ゴゴゴゴゴゴゴゴ………ッッッ!!!!と。言葉で言い表すことが出来ない、おぞましい何かの存在を白亜は感じ取った。


「……………ッッ!?!?!?」


全身が硬直する。指の一本だって動かせやしない。圧倒的な存在感の前に肺が詰まって呼吸すらできない。心臓も止まりそうだ。ガタガタと震えながら、まだ正気を保っていられるのは自分が普通の人間ではないからか、と白亜は思う。



「だ、…………だ、きさん………」


「はっくん駄目だよ驚かせちゃ。気を失ってるそこの二人やアーシはいいけと、白ちゃんは人間なんだから。神気レベル下げてほらほら」


『――――――――――』


すると、謎の圧から解放され少し楽になる。止まっていた心臓が動きだし、白亜はハァハァと荒い息を立てた。


「はぁ、はぁ、はぁ、妲己さん………これは一体?」


「あれ?見えてなかったの?こんなクソデカいのに。白沢だよ白沢。アーシははっくんって呼んでるよー」


「ま、まだ倒せてないじゃないですか!!どどどどうにかしないとまた………!!!」


慌てて臨戦状態に入ろうとしたその時、キーーーン!!と頭の中でノイズが走った。その雑音は徐々にまとまっていき、言葉となって白亜の脳に伝わる。



『――――あらやだ!!ごめんなさいねェ。どこか痛くない?だいじょーびー?』


「…………………………へ?」


『安心してよォん。アチシもう暴れたりなんかしないから。でもどうしましょォー!!こんなに土地荒らしちゃって、しかも人間にいいようにされちゃったなんて、神審議にかけられたりしたらアチシ終わっちんぐー!』


「……………………………」


「たははー!その反応が見たかったよぷっはははは!!」


『何よだっきー、人を道化みたいに扱っちゃって!これでもヴァタクシ、神様なんだぞ!プンプン!』


「たははー、メンゴメンゴ!」


「……………………………………………もう何も考えたくないわ」



状況がカオス過ぎて理解を放棄した。これは理解不能、いや理解したら負けみたいなところがある。二人の謎会話を横目に数分呆気に取られていた白亜だったが、徐々に理性を取り戻す。


「………あの、えーと、白沢……さん?様?」


『もぉう水臭いわね。アチシと白ちゃんの仲でしょ、はっくんでもはっちゃんでも好きに呼んでちょうだい☆』


「さっき会ったばかりよね!?」


『ちっちゃいことは気にするなーそれワカチコワカチコー!』


「はっくん古ーい!」


『「たはははははは!!」』


「もう嫌…………」





『――――さてと、改めて自己紹介しなくっちゃね。アチシの名は白沢。この地を治める神獣の一角にして知恵の獣。アチシが知らないことはないわ。助けてくれたお礼になーんでも教えてあげる。宇宙の成り立ちから気になる男の堕とし方まで………なーんでも聞いて頂戴な』


「ほ、本当に何でもですか?」


『うん、本当に何でもよ。何か聞きたいことはある?』


「えと、その前に。白沢様を助けたのは私じゃなくて師匠……マーリンです。お礼なら彼女に言ってください。私は何もできませんでしたので」


『あらそう健気ねー』


ごほん。と咳払いを挟んで、白亜は質問の内容を頭の中で吟味した。何でも知っている、と豪語する神様なのだ。そんな神様が質問に答えてくれるなんて滅多にない。冷静に、迅速に、最も最適な質問をするべきだ。


「……では、一つ目の質問なのですが。白沢様はどうして暴れていたのですか?あのハンター達に操られていたのですか?」


『それがねー、実はアチシもさっぱりなのよー』


「………何でも知っているんじゃなかったのですか」


『それはアチシの意識があった範囲よ。記憶が無い状態のことなんか分かるわけナッシーング!』


「記憶がない?」


『そう。ここ最近のこと全くなーにも覚えてないのよ。最後の記憶は、チョー久しぶりぶりに人間とお話ししててね、お茶会してたら意識プッツン。そして今目覚めたってわけ』


つまり、白沢と接触した人間がハンター兄弟だった訳だ。


『あーでもね、どんな人間と会話とどんな会話をしたのかすら覚えてないのよね』


「それは多分、変な格好をした怪しい三人組だと思いますよ。幻獣ハンターを名乗っていましたし、恐らく白沢様を狙って……」


『ん?三人組?あまり覚えてないのだけれど、会話した人間は一人だったわ。これだけは確かだと思うの』


「一人……?」


まぁ、三人組の内の一人なのだろうと白亜は納得した。そして、うーむと考え込んで次の質問の準備をする。


「では、2つ目の質問です。これがすっごく大事なのですが、白沢様は魔法使いを滅ぼした者の正体をご存知ですか?」


『知ーらない!』


「即答!?」


さっきから質問の答えが聞けず、本当に知恵の神様なのか疑いたくなる白亜。だが白沢は『ちがうのよぉ』と弁解し、


『アチシってほら、知恵の獣なわけでしょぉ?この世で起こったことは全て地球の意思的なアレから頭の中に勝手にデータが入り込んでくるのよぉ。いくら正気を失ってたとはいえ、データは後から流れ今度来る。だからよくよく考えたらアチシが知らない(・・・・)ってのはあり得ないのよ』


「けど、そのデータが流れ込んでこない………?」


『そゆことー。つ・ま・り、その魔法使いを滅ぼした黒幕って奴は、地球の内部システムにまで干渉して証拠を隠滅できるし、そいつに関連するものは何一つ覚えていられない。この神獣アチシさえも手駒にするレベルのヤバい奴ってことー!ヤバーイ!』


「へぇ………白ちゃん、君達の敵はどうやら想像を遥かに越えたスケールで行動するやつらしいね」


「なんだか、凄さ加減というかヤバさ加減が桁違いすぎて実感しにくいわ………頭痛くなってきた……」



白亜は話のスケールの大きさにふらふらと頭を抱えた。ヘラヘラとしている妲己だが、実のところ驚愕の事実に驚いている。だが白亜の前では頼れるお姉さんを装ろうと「たははー」と笑い、


「黒幕の正体ははっくんでも分からない……けど、絶望するのは早いんじゃないかな?別のアプローチをかけてみよう」


「別のアプローチ?」


「変だと思わない?はっくんを捕まえたとは黒幕なのに何でそれをあのハンター達が持っていたのかな?」


「た、確かに………。強かったとはいえ、神様を捕まえて地球の内部システムにも干渉できるとは流石に思えないわ。つまり、黒幕が白沢様をハンター達に手渡したのね」


「それもそうだけど、アーシはその間に仲介業者なるものがあるんじゃないかと思うよ」


「仲介業者?」


「――――『反魔法協会アンチ・キャスター』」


聞き覚えのある単語に、白亜は獣耳をピーンと立てた。

反魔法協会アンチ・キャスター』。マーリンに多額の懸賞金をかけたり、白亜を襲撃したペストマスクが所属している謎多き組織。


分かっているのは、名前通り非魔法主義を掲げた連中であること。科学技術も相当なものであること。世界中の錬金術師や呪術師と接触していることのみ。


「魔法使いをぶっ殺す主義の『反魔法協会アンチ・キャスター』と黒幕の魔法使い根絶は、理由は違うかもだけどやってることはいっしょだ。繋がりがあっても不思議じゃないし、なんなら『反魔法協会アンチ・キャスター』の親玉が黒幕って可能性もある」


「なるほど……。じゃあ白沢様、『反魔法協会アンチ・キャスター』について教えてくれませんか」


『オケマルー。それなら知ってるわよぉん。『反魔法協会アンチ・キャスター』は設立と解散を何百年もの間繰り返しててね、特に全盛期だったのは19世紀後半から20世紀前半。アレイスター・クロウリーとかメイザースとかが所属してた『黄金の夜明け団』とかがやりたい放題やってた時期かしら』


アレイスター・クロウリー、メイザースなどは20世紀前半頃の有名な魔術師である。光があるところには当然闇が存在し、魔法の技術が発展すればするほどその恩恵と比例して理不尽な被害がもたらされる。


そういった『魔法へと憎しみ』を持った人間が集まった組織が『反魔法協会アンチ・キャスター』なのだ。



「では、『反魔法協会アンチ・キャスター』の拠点の場所とかは分かりますか………?」


『それわねー……………んー?』


「?。白沢様?」


白沢の動きが急に止まった。うんうんと電話をしているかのように相槌を打ち、するとひどく切羽詰まった表情へと変化した。


『ごめんなさい白ちゃん!ガチギレ上司にお呼ばれしちゃった!今すぐにでもいかないと殺されるじゃ済まないかもー☆』


「え?上司、え?」


『神の世界にも序列があるってことよ。本当に悪いんだけど、アチシが教えられるのはここまでよん。次の会える機会があったら、その時はそこの魔っちゃんとマーリンちゃんと一緒に女子会でもしましょ☆。それじゃ、バイビー!』


「えぇぇぇぇぇぇぇ!?白沢様待ってぇぇぇーーー!!!」


アハハハハー☆。という白沢の笑い声と共に空の彼方へ消えていった。有力な情報は手に入れたものの、一番重要な手がかりは掴めずに終わってしまったのだった。


「なんか、もう、疲れたわ…………」


白亜はもうぐったりで、隣で爆笑している妲己など目もくれなかった。





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