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日本編50 神獣降ろしの結界勝負


その紅蓮の巨腕が振るわれる。


畳み掛けてくる魑魅魍魎など蠅を叩くように一気に蹴散らす。叩き潰し、振り払い、掴み潰し、殴り飛ばし、弾き飛ばす。やはり彼女には悪魔の名がふさわしい。狂気的な笑みを浮かべながら、返り血を喜々として舐める。


「邪魔だ雑魚どもォ!!死ねェ!」


『✖✖✖◁#○⊗♡ぴん保♡✖0✖✖✖』『ギィィィャァァァ!?』「バウッ!バウッ!」『ポポポポポポポポポポポポ」

『ppppppgpppg@』


「やっかましゃあ!全員漏れなくぶっ殺してやるから、ベラベラ喋ってねぇでそこに並べや!」



ブゥオン!!!

マーリンが巨腕を振るう。爪で引き裂かれ、熱で溶かされ、呆気なく死んでいく。雑魚どもを蹴散らしながら進み、そして神獣白沢の顔面を捉えた。


『―――――――!!!!』


「ぐはっ!?ぬぬぬぬぬ!!!」


白沢が咆哮を放ちマーリンの進撃を止める。しかし、負けじとマーリンも衝撃波を耐える。受けながら突き進み、右の巨腕の拳を握りしめて、


「っらぁ!!」


『―――――!?』


チュドンッッ!!

会心の一撃が白沢の脳天に突き刺さった。久しく感じる『痛み』に苦悶の表情を見せる。神獣とは言え獣、即ち生き物。ならば抵抗するのは必然。身体を大きくうねらせマーリンを弾こうとする。


「おっと、そうはさせねぇぜ?」


マーリンはガシッと白沢の鼻先を掴み、巨大戦艦ほどあろう巨体を引っ張る。ふんぬぅ!という掛け声と共に地面へと叩きつけた。


『――――――――!!!!』


「っは。そんなに鳴いちゃって、常に無敵バリアがあるから痛みに耐性がないのかよカミサマ。おらまだまだいくぞォ!!」


もぐら叩きの感覚で白沢の全身を叩いていく。続けて、手首を捻らせ指を曲げ、巨腕でドリルを作り上げる。そして―――!!


「その腹ぁさばいてやるぜ!」


『―――――――!?!?!?』


ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギギギギ!!


湯水の如く血が吹き出て、マーリンの体をあっという間に赤く染め上げていく。これには神獣も大悶絶。身体をうねらせ、更に神気のレベルを上げマーリンを弾き飛ばす。


「うおととと………!?ふぅ、こんなん私じゃなかったら即死やぞ。あれ、なんか焦げてね?神気でやられたか……」


『――――――――!!!』


「うるさいうるさいっての。楽になりたかったらさっさと元に戻りやがれ神野郎。………しかし、神獣が正気を失うことなんてあるのか?たかが人間に?」



どれだけ高位の魔法使い、いや魔法使いに限らず呪術師、錬金術師、その他諸々だろうと神の位に位置する存在を無理矢理使役するなど不可能だ。それはいくらマーリンでも例外ではない。


それができるとしたら、ただ一つ。


「確実に魔法使いを全滅させた奴と関わりがある………。だが、あのヘンテコ呪術師はそんなヤベェ奴と接点があるとも思えん。やはり、『反魔法協会アンチ・キャスター』が一枚噛んでるか………」


呪術師共に話を聞くか、白沢本人から事情を聞くしかないな。そうマーリンが思った時だった。


「ん?」


『――――――――――――』


「…………この感じ。なんかヤバいな」


徐々に空間が『何か』に侵食されていく。白沢を中心として、マーリンを閉じ込めるようにそれは形どった。ついに白沢が切り札を使ったのだ。


「―――まさか、『神域』か!!」



######



状況は一変。辺りは瓦礫散らばる武陵源 (だったもの)ではなく、全く違う異様な風景へと移り変わっていた。


『神域』


神気を持つものの伝承や存在そのものを結界として構築し、それを攻撃として転じる、『神秘』の力の中でも最上位に位置する技。神域の前ではこれまでの常識、世の中の理が一切通じない術者本人が絶対の世界。


神域の中では発動した神のルールに沿って世界が回る。それを回避する方法はなく、ただ抗うことしか許されない。マーリンは舌打ちをして、


「………チッ、クソが。神域を突破する方法なんてさすがの私も知らないぞ……。神域を破壊するか、ひたすら耐えるか………来るか!」


ゴーン、ゴーン、と鐘が何処からともなく鳴った。それは、始まり(終わり)を告げる鐘。マーリンの眼の前に現れたのは……


「……………子ども?」


「―――ねぇ、お姉さん。遊ぼ。遊ぼ」


「………なぁん?」


マーリンは眉を潜めた。現れたのは不気味な子ども。遊ぼう遊ぼうとせがみ、マーリン、袖の代わりに腕をクイクイと引っ張る。


(怪しい………これなにするのが正解だ?遊びに付き合う?そしてら遊びというなのデスゲーム的な、ホラゲー展開になるんじゃないか?かといって断っても似たような展開になりそう………)


腕を引っ張られながら長考し、マーリンが出した答えは………


「悪いが、今は遊んでやれないんだ。すまんな」


童には優しくすべし。直感に頼り優しい手付きで子どもを引き離す。すると、


「…………あ?」


子どもはコロッと倒れ込んでしまった。まるで死んだように眼球がガン開きである。


いきなり。一体。何故?


マーリンは蓄えた膨大な知識の中から検索する。白沢、神域、子ども、突然死………


「お姉さん、いじわる」


「ま―――」


直後、マーリンの半身が吹き飛んだ。比喩ではなく、文字通り腰の上から先が綺麗にふっとばされたのである。

ケタケタと子どもは不気味な笑みを浮かべ、「次は頑張ろうね」と言い残して黒い霧となり消える。


「…………………」


「…………………」


「…………………」


「…………………………………っだ!?はぁ、はぁ、クソ!何だありゃ!初見殺しにも程があるだろ!」



血液を消費して『夢』の力を使い、瞬時に肉体を再生させる。珍しく荒い息を立てながら、マーリンは今の状況を考察する。


(今、情報が頭の中に流れ込んできた。あの子どもは『溪囊ケイノウ』!白沢図に記された妖怪の一体!)


白沢図とは、1万1520種類の妖異鬼神、つまり病魔や天災、妖怪の類といったものについて記された本である。白沢の持つ魑魅魍魎の知識を記した、いわば防災マニュアルのようなものだ。


溪囊ケイノウは白沢図に記された一体で、子どもの姿をした森の精的な存在であり、その場から引き離すとコックリ死んでしまう。



(つまり、つまりだぞ。奴は次は頑張ろうねと言った。次?次ってなんだ?まさか、あと残りの1万1519体を相手にしなくちゃいけないってことか!?)


「―――正解だ、勘がいいな魔術師。ここは我らが領域、『白沢図解界怪帳』。1万1520体すべての物怪もののけを葬るまで決して出られぬ神域」


「!?。…………次はオメェか。今度は誰だぁん?」


「それは――――自分で考えろ!!」



2体目の妖怪が襲いかかる。マーリンにとっても地獄の時間が遂に始まった。そして、マーリンは切に、本当にこう思った。


神って、やっぱクソだわッッッ!!!!!!!!



#######



「んー、こりゃ流石に想定外だね。神域を出さられたらどうしようもないよこれは」


ボロッボロに破壊されまくった武陵源の瓦礫の山の上で。一人の女が目の前のドームを見ながら呟く。その細腕で、自分の体積の何倍もある玉藻の前とその上に乗る白髪の少女を持ち上げている。


「いくらアーシでも、所詮は幻獣・・。神様に対抗できる手段なんて…………片手で数える程度しかないんだけどね?」


「――――なんじゃ、神へと対抗手段があるだけ十分では?あるのならはよぉ実行せい。でないと………まぁ、非力な朕は何もできんのじゃが」


「おやおやおや?徐福おじちゃんじゃーん!どしたん?」


「誰がおじちゃんじゃ。てか誰じゃぬしは。お前みたいな幻獣は初めましてのはずじゃが………」


不死身の少女………いや、もはや性別という概念は彼女に無いに等しい。うっかり不死身ご老人こと徐福がカタカタと下駄を鳴らしながら現れた。


女のことを疑いながら、徐福もまた目の前の巨大ドームを見据える。



「なんかヤベェ気配がすると思って急いで飛んできたら……あれはなんじゃ?雰囲気的に結界っぽいが……」


「あれはね白沢だよ白沢。白沢の神域。あそこに例の魔法使いさんが閉じ込められてるんだ」


「は?はく、は、白沢?お主は何を言っとるんじゃ。朕だって一回しか見たことないのに………え、うそ、マジ?」


「マジマジ。じーまーでマジ」


「じ、じーま?」



突然のナゾ語に戸惑う徐福だが、今はそこを気にしている場合ではない。あの白沢が現れ、マーリンを閉じ込めているという異常事態緊急事態。

中では一体どんな光景が繰り広げられているのか彼女らは知る由もないが、それでも分かることが一つある。それは、そう―――


―――ヤバい。


「おい、お主」


「んー………これをこうして、あーして……何?」


「お主がどこの何者かは知らぬが、力を貸せい。この惨状、おそらく奴が大暴れしたのであろう?その火の粉が村までに及んだらとんでもない。奴をどうにかする手段があるんじゃろ?後で朕の肉を喰らわせてやる。さすれば、不死身とは言わぬが………幻獣としてのグレードアップくらい図れると思うが?」


「いや、いいよ。もとよりあいつは止める予定だし。肉とかいらない。チョー不味そうだし」


「え………不味そう……。そうか、ならなんとかしてくれい」



女は手をごちゃごちゃ動かしてプランを立てる。そして、ポン!と掌を叩き……


「よし、チョベリグな案を思いついた!」





######




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、い、今何体目だ………?」


神域が展開されてから何分、何時間、いや何日過ぎただろうか。神域の中は物理的に世界と切り離されているため、時間の流れはグッチャグチャ。外での数時間が神域内の何日、もしくはその逆だってありえる。


1万を切った辺りから数えるのをやめた。流石のマーリンも、これだけの連戦を強いられれば摩耗する。


(『夢』の力を使いすぎた………あと全身を吹っ飛ばされても再生できるのは、一二回ってとこか。これ以上死んだらマジでマズイぞ。肉体が消滅して意識だけが神域内に閉じ込められて、『夢』を補充できずにそのままなんてオチも………)


マーリンの場合、肉体が死のうが夢不足で消滅しようが完全な死にはならないので、神域が消えない可能性がある。そうなれば本当に詰み。外部のやつが白沢を倒すことを願うしかなくなる。


しかし、残りの妖怪達はおよそ8000体は残っている。すべてを死亡無しで捌ききるなるて不可能だ。もう無理か………そう諦めかけていたその時。


『あーしmシも?ききききg聞こえてる?』


「……………は?」


マーリンしかいないはずの空間に、別の声が聞こえた。声、というには少々機械的で、合成音声のようにも聞こえる。声の主はマーリンの戸惑いを無視して話を続ける。


「妖怪………じゃない?誰がお前」


『悪いけどアーシが誰か説明してん暇はなiンだ。つかそっちの声はキャッチゃーできずから。時空をニ段階くらいすっとばシて無理矢理声を届けてるからバグって聞こえると思われスマソン!』


「は、はあ………」


『今からそのs界にドデカイ(・・・・)の送るから、頑張ろって神域の間に挟まって(・・・・・・・・・)!!』


「はぁ?何言って…………」



マーリンが首をかしげた次の瞬間、神域の壁がむわんむわんと水面の波紋のように歪んだ。どうやら本当にドデカイ何かが送られてくるらしい。


(そうか!神域内から外に出るのは不可能だが、外からやってくる(・・・・・・・・)ことは容易い!だって、わざわざ外から入ってくるメリットなんてないからな!盲点だったぜ!)


結界術は主に『閉じ込める』『外敵から守る』という二つの効果があるが、神域には『閉じ込める』しかない。何故なら入ってくるメリットがないからだ。自ら死ににいくようなものである。むしろ、入ってくるような輩は敵でしかない。


(で、間に挟まる………?あぁ、そういうことか。シンプルな話だができるなー。てか何がでてく…………る!?!?)


「うおぉぉぉぉ魔術師ー!速くするのじゃーー!!!」


「く、クジラ?」


結界の外から出てきたのは、世界最大の生物シロナガスクジラだった。しかも、クジラからは人の声がする。


「まさかその声……徐福!?なにしてんのお前!?」


「いいから早くしろ結界が閉じる前に!!シロナガスクジラのデカさでも一瞬で閉まるぞ!!」


「!?。クソっ!」


急いで走り出し、徐福シロナガスクジラが出てきたところへ。と、その瞬間。


「きひひひ………まだまだ楽しみはこれからだというのに。逃さんぞ……?」


「このタイミングで出てくるな妖怪チクショウめ!!離せっこのっ!!」


ガシッと手を捕まれ、逃さんとばかりに妖怪が行く手を阻む。


「きひひひ………さぁさぁもっと―――ぐえ!?」


「うわ!?なんか潰した!?」


「徐福ナーイス!!今だ!!」


妖怪は落ちてきた徐福シロナガスクジラに押し潰された。邪魔者はもういない。残った力を振り絞って結界の狭間へ飛び込む。


「――――はぁぁぁぁぁ!結界展開!!」


そしてその場で球状の結界を張った。


神域の絶対的な力が働くのは、あくまで内側にいる場合。外でも内でもない神域の狭間で別の結界を張り、さながら膨張作用で破壊を起こす無音爆弾のような状態を作り出すことで神域の破壊を目論みる。


「ぐっ………!流石神域、一筋縄ではいかないか!」


だか、所存は理論上の話。神の力を跳ね除けるほど強力な結界を張れたらの話だ。マーリンの卓越した魔法と膨大な魔力を持ってしてもそれは不可能。


「―――けど、不可能を可能にするのが『夢』だろう?」


残った血を全て使い、『血染めの夢装(ブラッディドリームズ)』を発動。マーリンの結界が赤黒く染め上がっていく。と同時に、神域に押し潰れそうになっていた結界がぐんぐん広がった。


ピキ、パキ、と卵の殻が割れるようにヒビが入っていく。小さかったヒビがどんどん広がって、神域全体にヒビを入れたら………


「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


バキィンッッッ!!!!と。その時世界が消滅した――――






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