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日本編46 不死身の猿神(人)

如月視点


拳が飛び交い、炎が吹き荒れ、鉄鞭が振るい狂う。岩石をも簡単に破壊する鉄鞭が私の顔をスレスレで通った。


「あっぶね!?」


「油断するのは早いでござるよ!」


避けたはずの鉄鞭の先端でクイッと急旋回。ホーミング魚雷のように私の頭を的確に捕らえる。咄嗟に私はそれを掴んだ。


「ちょ、ま、強い!?何なんだこの鞭は!?」


「くぅーはっはっは。この鞭は『打神鞭』!対神性特攻の呪具でござる。使い方は簡単、狙いを定めてぶん投げるだけ!自動で相手を追撃し、頭蓋骨を粉砕玉砕大喝采!確実に相手を死に至らしめます」


「へぇー、確実に相手を殺すという割には私を殺せてませんけど?欠陥品なんじゃないですか?」


「うん、そうなんだよね」


「え」


ハンターはコクリと頷き、潔く認めた。


「本来の打神鞭は神性を持つものにしか効果がないんでござるねぇ。しかーし、これは打神鞭の『レプリカ』!必中性と火力を引き落とすことによって神性を持たないものにも効果を発揮するでござる。そしてー?火力は落としたと言っても、人間がまともに直撃すれば肉が吹っ飛ぶ威力でござる。故に!」


「ちょ、うわぁ!?」


「心配は無用ぉ!」


ハンターはその細腕で鉄鞭を振るい、私を宙へ持ち上げる。そのまま壁に打ち付けられ、今度は逆方向に吹っ飛ばされる。


『人間!』


「わふ。た、助かった……ありがとう、玉藻の前さん。うわ、めっちゃモフモフ。持ち帰りてぇー」


『今はそんなこと言ってる場合か!何か策はないのか人間』


「策って言われても……今までグーパンで殴るしかやってこなかったし……」


『人間のくせに獣みたいなこと言いおって!ええい、我が炎で奴を閉じ込める。合図の後に挟み打ちだ!』


「安直だけどいい作戦!分かりました!」


『一言多いわ!』


私と玉藻の前は左右に跳んでからハンターへと距離を詰める。玉藻の前は九つの尾の先端から、紫色の炎球をつくりハンターの周りを囲むように撃ち出す。


瞬間、ボワッ!!とガスバーナーのように炎が吹き出した。


「なぬ!あ、熱いでござる!だがこの程度、我が真・義和拳法ブレスで消し去ってくれる!すぅぅ、はぁーーーー!!」


「させない!『念動力サイコキネシス』!」


「うが!?あ、顎ふぁ………!?


『今だ、人間!』


玉藻の前の念話を合図に炎の中へ突っ込む。ギュッ、と拳を握りしめてフルパワーで挑む。


「『はぁぁ!!』」


「―――ぬん!!」


「なっ……!?」


しかし、二人の攻撃をハンターは器用に受け止めた。そして地面に落としていた何かを蹴り上げる。


「伸びろ、『如意棒』!!」


「がっ……!?」


ハンターが蹴り上げた物は、赤いバトンのようなものだった。ハンターが叫ぶと、ビヨン!!と勢いよく伸びて私のみぞうちを的確に撃ち抜く。


そのまま伸びる棒に押し出されてゴロゴロと転がる。みぞうちに食らって、口から体液が零れ出る。


「がはっ、ごほ、っづ!!」


「ふー、危ない危ない。知ってるでござるか?如意棒。まぁめちゃくちゃ有名な武具でござるよね。伸縮自在の真紅の棍。上手く使えばこんなこともできるでござる」


「………っ?」


「下でござる」


「ッッ!?」


ガゴンッ!!と如意棒が岩石を突き破って下から飛び出してきた!咄嗟に背筋を反らして回避する。


「―――いや、これはチャンス!」


如意棒をガシッと掴んで叫ぶ。


「『念動力サイコキネシス』!!」


「ふぁ?何を……あばばばばばばばばば!?!?」


念動力サイコキネシスの振動とエネルギーを如意棒を伝えてハンターに食らわせる。


「今です!玉藻の前さん!!」


『ガァァァァァァ!!!』


「ぐあっ!?」


ハンターがブルブルと震えている隙に、背後から忍び寄った玉藻の前が彼の肩にガブリと噛み付く。振り解こうとするが、ガッシリと噛み付いた玉藻の前はびくともしない。


『人間!』


「分かってます!!―――『転火イグニッション』!!」


高速で体内の魔力を循環させ、魔力のエネルギーを肉体のエネルギーへと転換する。蒸気が吹き出て、皮膚は赤く染まる。


強化された身体で一瞬で距離を詰め、そして―――


「ッッラァ!!!!」


「うがぁぁぁぁぁ!?!?」


炎を纏った拳がハンターを打ち砕いた!!!



######



「はぁ、はぁ、はぁ………」


『やったか!?』


「ちょまそれフラ…………ん?あれ?」


うつ伏せに倒れたハンターをひっくり返して状態を確認する。息はしているが、バッチリ白目を向いて泡吹いている。ま、まさかの一撃ノックアウト………攻撃力は高かったけど防御力に欠けていたか。まぁこのヒョロガリ体型だしねぇ。あれ、じゃあなんであんなパワーはあったんだろ……


「ま、いっか。とりあえずこいつを連れ出そう。まずはマーリンさんと合流して………」


『人間』


「はい?なんです?」


『その………あの時は疑って悪かった……』


「あの時?」


『お前をそいつらの仲間かと思って疑ったことだ……勘違いとはいえ、毒霧で拘束し、拉致し、命を奪おうとまでした……。なのに、見ず知らずの我を助けてくれた。だから、その、あーと……』


「…………?」


『………がとう』


「はい?なんて?」


『あ、ありがとうと言っているのだ!言わせるな!あとニヤニヤするな馬鹿者!」


「まったくもー玉藻の前さんったら、可愛いところあるじゃーん!このこのー!」


肘でツンツンとつつく。極上のモフモフ感触が肘を通して伝わってきた。玉藻の前は恥ずかしそうに声を震わせている。やだ可愛い、モフモフ具合といいお持ち帰りしたいくらいだわ!


「いっそのこと家に来ません?武陵源ここって観光名所ですから人とか結構くるし、またハンターもキちゃうかもしれませんよ?」


『に、人間の手を借りるのはこれっきりだ!自分のことは自分でどうにかする。フン!』


「そうですか……ま、いいですけど。またピンチになったら私を呼んでくれればいいだけですから」


ビシッ!も親指を突き立てて言った。また照れちゃって、やーもう可愛いー。


「とりあえず、ここから出ましょう。玉藻の前さん、出口ってどこらへんですかね」


『出口ならあそこの道を……』


玉藻の前が先導しようと歩き出した、その時だった。


「!?」


ドギン、ドギン、ドギン、ドギン!!!!!


謎の爆音が響き渡った。それは一定のリズムを刻み、まるで鼓動する心臓のようだった。音量はどんどん増していき、リズムも早くなっていく。


何だ、なんの音だ、どこから聞こえる!?


私は辺りを見渡すした。しかし、それらしき物は見当たらない。ドギンドギンいう音と被さるように、私の脳が警鐘を鳴らす。


こういうときはいつもヤバいことが起きる合図だ。今すぐにこの場を離れなければ。


「――――あ?」


そして、今気づいた。爆音過ぎて気付かなかったのだ。発信源には私が一番近くにいたはずなのに。


『人間!!いますぐそいつから離れ――――』


玉藻の前の念話は光と音によって揉み消され、私の世界が消失した。



######



「――――っは!!??」


ビヨンとバネが跳ねるように跳び起きた。

あの後どうなった!?玉藻の前さんは無事か!?というかここはどこだ!?


『目が覚めたか、人間』


「た、玉藻の前さん………!」


『まずはアレをみ


「良かったー!!無事だったー!!」


『なっ!?やめろ抱きつくな!顔をうずくめるな!モフモフするな鬱陶しい!』


ペチン、と足で弾かれた。だが、痛くないように配慮してくれているのに玉藻の前の優しさを感じる。


『いいから、アレを見ろ』


「あーん………?」


玉藻の前の前足の指す方向に視線を向ける。正面には灰色の岩石でできた崖があって、その上に巨大な光の柱が天地を穿っていた。


「なんですかありゃ………というか、あの後どうなったんです?」


『突如ハンターが発光し、爆発した。洞窟が崩壊して埋まりかけたが、何とか脱出できた。そして外へ出てみたら、あれだ』


「なるほど………って、まさかその傷……」


玉藻の前の身体には私が意識を失う前よりも傷が増えていた。恐らく、爆発や崩壊する洞窟の中で私を庇っていたのだろうと、すぐに分かった。


『フン、借りを返してやっただけだ。礼などいらぬ』


「でも………!」


『この程度、大したことない。謝られる方が不愉快だ。今はそれより、アレをどうにかするのが先だろう』


「……そうですね。玉藻の前さん、アレ、何だと思います?」


『分からぬ。だが、アレの中心にハンターがいるのは間違いないだろう。呪術の謎は深まるばかりだな……』


私の思い描いてた呪術と違う……呪術って、普通黒い炎とか遠隔で殺す呪いとか死霊を操ったりするもんじゃないの?

顎に手を当て、んーと唸りながら考え込んでいると、


ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


「じ、地震?」


『いや、そんな偶然………来るぞ!!にんげ―――』


人間、そう言い切る前に玉藻の前の身体がパァン!!弾かれた。人間の何倍もある巨体がボールみたいに吹っ飛んでいく。その余波で私も飛ばされた。


「な、何!?玉藻の前さん!?」


「――――なんてことだ」


「っ!?誰だ!!」



先程まで玉藻の前のいた位置に、一人の大男が立っている。二メートル近くある身長、ムッキムキの体格。猿のように毛深くて、胸元を除いて毛で覆われていた。赤色のカンフー服は、その溢れ出る筋肉で破れている。そして、鬼も裸足で逃げ出しそうな強面顔。というか、


「………え、さ、猿?猿人?」


「この姿になるのは人生で三度目でござるな……弟達もやられたと言うのか」


「そのキショい喋り方……お前、まさかあのハンターか!?」


「いかにも」


大男……ハンターが重低音の声で頷く。おちゃらけた口調に減り、厳格な声で一人称も『私』にもなっているが、状況的に見てハンターその人だろう。


「けど、その姿は一体………」


「真・義和拳法には、神々や過去の英雄の力をその身に下ろしパワーアップする奥義が存在する。そして、この姿は最強の猿人『孫悟空』の力を宿したもの……。弟のクラウス、利子文、そしてこの私小林猟緑の三人が同時に意識を失うか、命の危険にさらされた時のみ発動する防衛装置のようなもの。いわば今の私は、『超伝説の超スーパー猿人孫悟空』状態へと変身したのだ!」


「超伝説の超スーパー猿人孫悟空………だと………!?」


ダサ!!!!!!


しかし、スーパー含めて超が三回もついてるのに不本意ながら納得してしまう程の、圧倒的な覇気。暴走した白亜と戦った時よりも身の毛のよだつ『圧』。


鳥肌が立つ、全身が震え、筋肉が緊張で硬直する。だが……


「――引くわけには、いかない」


「―――来い」


「―――『転火イグニッション!!たぁぁぁッ!!」



転火イグニッション』を発動し、最初から全力で飛びかかる。地面を砕き割る勢いで踏み込み、拳を振るう。しかし、



「なっ………!?」


「残像だ」


「こっち!!」


「遅い」


「ぐあっ……うおっ!?」


目にも止まらぬ速さで足を弾かれ宙に浮く。だが、顔面が地面とガッツんこする寸前で脚をガシッと掴まれ、


「うおぉぉぉぉ目が、回るぅーー!?!?」


「―――ふん!」


バビュンッッ!!!とハンマー投げのようにぶん投げられる。武陵源に連なる岩々を貫きながら、少なくとも三百メートル以上は飛んだ。


「っがっあ……いづ……!!」


「油断するのはまだ早い」


「ん……?ってうおお危な!?」


息を休める暇もなく、赤い棒が伸びて私の額を貫かんとする。頭を九十度近く曲げて避ける。が、


「なんか来た………!?」


「来たぞ」


赤い棒―――長く伸びた如意棒が縮み、それに捕まってハンターが高速でこちらに近づいてくる。その速度は凄まじく、一瞬で5メートルまで距離を縮めた。


やばい!これは間に合わない!!


「『瞬間移動テレポート』ォォ!!!」



瞬間移動して一秒も満たぬ間に、さっきまでいた場所の岩石が砕ける音がした。危ねぇぇ!!アレ喰らってたら流石に―――


「そこだ」


「は?―――ぐえっ!?」


横から来た如意棒に肩を砕かれた。咄嗟に受け身を取ったが、ダメージは免れない。


「ぎ、あがっ………!?はぁ、はぁ、嘘だろ!?瞬間移動した直後だぞ!?なんで………」


「そんなもの、勘だ」


「くっそー!一度は言ってみたいセリフ!!強者ってのはいつも勘だのセンスだのなんとなくだの言いやがってー!」


「…………おかしいな。肩の骨を砕くくらいの手応えはあったはずだが、随分と喋る余裕がありそうだ」


「やせ我慢だよこんちくしょう……本当だったら泣き喚きたいところだけど、そうもいかないからね」


「なるほど……ならそのやせ我慢、どこまで続くかな?」


来るッ!!


私はすぐに『メモ帳』から短剣を取り出し、逆手持ちで構えた。


あのハンターのスピードとパワーは異常だ。今まで戦ってきたどの相手よりも、色んな意味で強い。疲労とダメージが蓄積したこの体じゃ奴のスピードについていくのは不可能だ。


なら、待ち構えてカウンターを決めるしかない。一発でも致命傷を与えれば、隙ができる。その内に撤退するか追撃するかはその時次第だが…


「とにかく、やるっきゃない―――!」


「―――ッ!!」


バァン!!のハンターの足元が爆発する。と同時に、全神経を反射神経へと集中させた。目だけで見るな、感じろ。肌で、耳で、経験で、魂で感じろ!


「今だッ!!!」


無駄なモーションのない、我ながら最高の動きで短剣を振りおろした。


「―――っあ?」


パキン、と。

まるで木の枝で鋼鉄の箱を叩き割ろうとするような愚行だった。短剣は確かにハンターの身体を切り裂いた。しかし、それはほんの数センチだ。すぐに短剣の方に限界がきて、木の枝が折れるようにパキッと折れる。


一滴の返り血さえ、私には届かなかった。


「―――惜しいな」


「え?……あがっ、がぁぁぁぁぁぁ!?!?」


ゴリラのような大きい手で、私の頭を文字通り鷲掴みにし持ち上げる。頭がかち割れそうな鋭い痛みが、脳をザクザクと切り刻んでいく。


「お主が一流の剣士であれば………もしくは、山をも切り裂く名刀であれば、致命傷を与えれたであろうが、お主にはそのどちらもなかった」


「……ぎっ……さ、才能もないし伝説の武器も持ってないのは、重々承知ですよこちとら………!」


「まぁ、それでも―――」


「……………え」



ジュクジュク、ジュクジュクと。


たった数センチの切り傷が、血液が蒸発するような音を立てて再生した。



「―――ぁあ―――」


「この孫悟空の不死身の力の前ではいかなる攻撃も無力だが、な」


「化け物か………!!!」


「さて、そろそろチェックメイトといこう。お主に恨みはないが、まぁ、喧嘩を売った相手が悪いと思え」


「ぎっ、がぁぁぁぁぁぁぁ!!??!?」


メキメキ、と更に力が加わった。頭蓋骨から出ちゃいけない音が木霊する。激痛が一点に集中して、意識どころか命が吹き飛びそうだ。そして、鋭い指が肉を貫き、骨へと到達せんとしたその時―――



「―――そこまでだ」


「ぬ?」


「だーれーのー、弟子にー、手ぇー出してんだスイング!!!」


「ぐおぉ!?」


突如、巨大な謎の塊がハンターの体に直撃、ふっ飛ばした。そして、カタっとヒールの音を立てて着地した白い魔女は、ニカッ微笑んでこちらに目を向ける。



「おう、死んでないか?弟子」


「マーリンさん………!!!」






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