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日本編40 恐怖!真・義和拳法


「くははははははは!!!ぎははははははは!!!どうしたへんてこ呪術師どもぉ!!逃げ回るだけか!?」


「ギャー!?この魔法使いめちゃくちゃでござる!?」


「ホーリーシット!?なんという攻撃範囲アタックランジ、周りをまるで考えてない!!」


「んだんだ!!すげぇな魔法使い!だが、我が筋肉はその程度の攻撃では傷一つつかぬ。もっと来い!」


「ほぉ、中々度胸のあるやつだな。気に入った、まずはお前から殺してやる」


空から稲妻を落としまくってたマーリンは地上に降りて、筋肉チビの三男、利子文に立ちはだかる。あの稲妻も猛攻をも何とも思わない彼の度胸に、マーリンは興味を惹かれた。


「おい白亜、残りの二人の相手は任せる。私はこいつとちょっくら遊んでくる(・・・・・)から」


「え!?は、はい……」


「ふっ。遊んでくるとは舐められたものよ。んだ。兄者達、この魔法使いの相手は任せろ、んだ。その内に兄者達は幻獣を」


「うむ。そこは任せたでござる!ぶっちゃけそいつ相手にしたくない」


「激しく同意アグリー


スタタタタタ!とその場を去る二人。白亜はそれを慌てて追いかけた。残された二人は岩石だらけの世界で相見える。彼らはベテランの呪術師だ。マーリンは魔法に関する知識は膨大だが、呪術に関する知識は疎い。


彼が一体どのような戦いをするのかは未知数。だが、


「んなもん私の魔法の前には関係ねぇ。粉微塵にしてやるぜ」


「んだんだ!やれるもんならやってみろ魔法使い。味わえ、我らが編み出した最強拳法、『真・義和拳法』を!!」


ドバッ!!と利子文が飛び込む。一息で10メートル以上の距離を跳躍。見た目通りの高い身体能力フィジカルのようだ。あっという間に距離を詰めて、神速の拳を突きつける。


「ふんっ」


マーリンはそれを片手で受け止める。だが、


「無駄無駄ぁ!!」


利子文の凄まじいパワーはマーリンの重心を崩し、押し出す。ズガガガガガ!!と地面がマーリンの足で抉られた。


「んだだだだだ!!」


すかさず利子文は連続で拳を撃ち出す。その速度は、まるでマシンガンのようだった。受け止めるのは面倒だと思ったマーリンは、それらをすべて体を揺らして避けた。


ボコボコベコォ!!と拳の先の石柱に拳型のクレーターができる。拳に乗った圧が大気を切り裂き石柱を砕いた。


「ほぉ……」


その様子にマーリンは感心した。思ったより楽しめそうだ、と頬が緩む。


「んだぁ!!」


利子文は身体を空中で回転させて、強烈な蹴りを打ち込んだ。今度はそれを両腕で受け止める。それでもマーリンは後方へ押し出された。


「気が変わった。その拳法、興味がある。私も魔法も武器も使わずに拳で闘ってやる。知ってるか、魔法使いにとって格闘術は必須科目なんだぜ」


「メルヘンの欠片もない新事実だ、んだ。だが面白い!オレに体術で勝とうなど笑止千万、その腕へし折ってくれる。てぇりゃあ!!」


利子文は大振りに脚を振るうと、脚から斬撃が射出される。圧倒的筋力と速度からなる、刃物を使わない斬撃。文字通り大気を切り裂いてマーリンに襲いかかる。


「ほぉ。こんな感じかな?おりゃ」


「んだ!?」


マーリンは見様見真似で利子文の技を習得してみせ、ドカン!と空中で斬撃同士が爆ぜた。


「な、き、貴様ぁ………!!」


プルプルプルと身体を震わせ、力強く拳を握りしめる利子文。


「なんだ、ご自慢の技を一瞬でコピーされて怒ってんのか?安心しろ、んなこと出来るのなんて世界にただ私一人だからな!はーはっはっは!」


「違う。素晴らしい!貴様のような武人は初めてだ!久しぶりに滾ってきたぁぁぁんだぁ!!」


「お、おう」


どうやら利子文は筋肉バカでもあり、戦闘狂バーサーカーでもあったようだ。てっきり起こっているのかと思えば、突然感激しだしてマーリンは少々困惑の表情を見せる。


利子文はクワッ!!と目を見開き、今までとは違う構えを見せる。一瞬で彼の『何か』が変わったことを、マーリンは理解した。


「ならば、準備体操はもう終わりだ。見せよう、我らが真・義和拳法の真の力!

―――歴史と文明の波に消え去った失われし呪法。武人が追い求め、夢見た強さの体現。究極の武、無限の呪、掛け合わせ、遂に完成した最強拳法。『真・義和拳法』の恐怖の真髄を味わうがいぃぃぃ!!んだ!」



######



白亜は手脚を獣化させ石柱を蹴り渡っていた。本気を出せば相当な速度がでる白亜だが、それでも中々あの二人を捕まえられない。


あの栄養の無さそうな細い身体のどこにそんな脚力があるのか、あの脂肪しかなさそうな身体のどこにそんな俊敏性があるのか。白亜は首を傾げていた。


「待ちなさい!」


「待てと言われて待つ奴がいるでござるか!遅い遅い、遅すぎるでござるよ白き少女よ。その程度の速度で拙僧らに追いつこうとは笑止千万。弟よ、このまま振り切るぞ」


「了解だ兄者。この豊満なボディから生じる圧倒的スピードを見るがいい」


二人はスピードを上げ、さらに白亜との距離を離す。


「止まってくれないなら、止まらせるまでよ!」


「ふん、何を……」


「兄者、前!ストップ!」


「ふえ?ぶっ―――」


白亜は二人の進行方向に向かって巨大な氷壁を形成した。突然の障害に阻まれた二人は盛大に激突。兄の小林はクラクラと目を回しながら倒れた。


「逃さないわ!」


すかさず白亜は氷の弓を形成し万力の力で弦を引いて、放つ。同時に三本、まともに当たれば木を容易くぶち抜く威力だ。


だが、それを―――


「―――カモンベイビー」


「え?」


「脂肪、バリア!」


小林を守らんと立ちはだかった次男、クラウスがふん!とお腹を張って氷の矢を受け止める。その腹に当たった瞬間、パリン!と砕け散った。


「ふむ。中々良い攻撃アタックだね、レディ」


良い攻撃、と言っているもののクラウス当人は涼し気な顔だ。こんなのかすり傷にもならない、と言わんばかりに鼻を鳴らす。


「嘘………今ので無傷?」


「私に生半可な遠距離攻撃は無意味だよ。情けない兄者に変わって、ここは私が相手をしよう。兄者、起きろ」


「っは!?ここはどこ?拙僧は菅田○暉!?」


「自分をイケメンだと勘違いしてるとこ悪いが、早く玉藻の前を追いたまえ。このレディの相手は私がする」


「そうか。なら任せたぞ弟よ。スタコラサッサぁーー」


「あ、待ちなさい!――『氷爆アイスボム』!」


背を向ける小林に氷の爆弾を投げる。しかし、それはあっけなくクラウスによって防がれた。

氷爆アイスボム』は文字通り氷の爆弾で、被弾した物体を氷漬けにする。だがクラウスは全くの無傷。氷膜ひとつない。


「言っただろう?私にその手の攻撃は無駄と」


「なら、直接叩く!」


長めの氷槌を作り出し、ブンブンと大振りに回してぶん殴る。


「ええぃ!!」


「その程度………フンッ!」


常人が喰らえば一撃でミンチの攻撃。だがクラウスはそれさえも防ぐ。


「これで終わったと思わないで!」


だっ!と飛び出しクラウスの懐まで潜り込む。獣化した四肢で殴り蹴り倒しと、氷魔法をこれでもかと打ち込む。攻撃は激しさを増していき、大気は揺れ地面は抉れ、周囲の石柱は攻撃の余波で破壊されている。


だがクラウスはそれでも余裕の表情を崩さない。白亜は咆哮を上げ、全身に力を込める。


「ガァァァァァァ!!!」


「無駄ぁ!!」


「キャン!?」


子犬みたいな声を上げて、でっぷりお腹に弾き返された。二三回地面を跳ね横倒れる。


「くっ………なんで攻撃が効かないの?」


「驚いたかね?これこそ我らが完成させた最強拳法『真・義和拳法』だよ。特殊な呼吸ぶれす筋肉操作マッスルコントロールにより攻撃を全て吸収、全身に拡散させダメージをゼロにする。そして、それの応用で攻撃にも転換する。この脂肪は我が鎧にして矛、というわけだね」


「何よその反則技……!けど、義和拳法?何故かしら、聞き覚えがあるのだけれど」


「ほぉ、これは博識。なら、そうだね。義和団事件をご存知かな?歴史の授業で習っただろう」


「――――え、嘘。も、もしかして義和拳?」


義和団事件。

中学校に通った者ならば、歴史の授業で聞いたことがあるだろう。1900年に起こった、『扶清滅洋』をスローガンとして唱え、義和団という団体が起こした反乱だ。


で、この義和団の義和とは何なのだろうか。それは、義和拳と呼ばれる呪術的な特殊拳法のことだ。身体を鍛えれば鉄砲も通じぬ鋼の肉体を得れると信じ、極めれば過去の中国の英雄の霊さえもこの身に宿せると信じられていた。


だが、そんなものは迷信に過ぎず文明の利器と時代の波にあっけなく敗れ去った。


「―――だか、それも無理はない。何故なら当時の義和拳は未完成であったからだ。だが、日露戦争が集結し、中国が革命を遂げ、第二次世界大戦が終わり平和な世が訪れた後も、義和団の意志を受け継いだ者達が未完成の義和拳を完成させようと藻掻いた」


「そして、完成したのが………」


「イグザクトリー!その通りでございます。呪術と体術、その両方を掛け合わせ、更に研究を重ね完成した究極拳法『真・義和拳』、特とご覧あれ―――レディ?」



######

如月視点


「…………………………」


私は、呆けていた。口を開いたまんま、ポケーっと何も見えない天井を見上げていた。


「クソ、あんな記憶もん見ちまったら今後どう玉藻の前と向き合えばいいものか…………」


儚く、寂しく、悲しい記憶だった。妲己の中に刻まれた記憶、そこで見た玉藻の前の姿。自分の事じゃないのに、悲しいほど涙が出た。


きっと彼女は、彼女は、は―――


「―――いや、というか。ってことはだよ?この妲己の身体は…………」


彼女の記憶を通して、妲己のこの魂の抜けた生きた屍のような状態についての謎が解消された。だが、それは、しかし……


「何も話さないのは玉藻の前(あの人)に悪い気がする………」


「いやホントね?お姉ちゃんには悪いと思ってるよ?けどさー、あの人頑固だからさー話なんて聞いてくれないよ。しかもこんな方法だし」


「うわぁお!?だだ誰じゃ!?」


カツ、カツ、カツと足音が狭い洞窟内に響き渡る。私と妲己以外にいないこの場所で、訪れる人間などいない。玉藻の前の声でもない。ましてやマーリンさんや白亜でもない。


けど知っている。私はこの声と存在を知っている。いや、今知ったのだ。


「久しぶりに里帰りと思って来てみたら、なんかバイヤーなことになってるね。君の力が必要なんだ。そこから出してあげるからさ、お願い?」


その女は、ペロッと下を出して可愛らしくおねだりして見せた。





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