日本編35 不老不死……?
「寒い!!」
ビュゥゥーと風が突き抜ける中、布団を蹴飛ばして叫んだ。そして布団にまたくるまる。オルトロス君に運んでもらってる間も寝てたけど、1時間あるかないか程度だったので昼寝をしていた。
けど寒い。寒すぎる。まず窓がねぇ。ダイレクトに冬の風が私を襲う。そして布団が薄すぎる。夏用やろこれ。更に床が硬ぇ。背中とか首が痛いんじゃ。
こんなんで寝れるか。クソ、日本が恋しい。ここまであの狭いアパートに戻りたいと思ったことはねぇぜ!横で寝てる白亜だって、そう思ってるはず。
「…………すぅー………すぅー………」
「嘘やん」
うわー寝顔可愛い。得した。許す。写メ撮っておくか。
美少女の寝顔を写真に収めたところで、私は布団から出る。眠れないし、寒いし、せっかくだからランニングで体を温めながら観光でもしよう。ブルブルと身を震わせながら、廃屋の玄関を潜る。
そう言えば、マーリンさんや徐福は何処へ行ったのだろう。まぁ、あの自由人達のことは気にしないでおこう。さて、どこへ行くかな。
「ん?」
「ウグゥ……アァ……」
「ダァァァァァァァァァ!?!?何してんのあんた!?」
玄関を出た先には、ナイフを首にぶっさしてピクピクと痙攣する徐福の姿があった。血生臭さが鼻の奥を刺激する。やっぱり私、血って苦手だ!
そんなことより、私は急いで徐福を抱きかかえてナイフを引き抜く。ええーと、白亜がまだポーションを持ってるはずだから急いで………!
「いや………いい。こんな致命傷、すぐ回復するからの」
「え?あ、そっか不老不死だったんだこの人………」
「お主は優しいの。不老不死の朕のことを心配してくれるなんての。およよよよ、涙が出てきたわい。年寄りになると涙脆くなるのぉ」
「いや、不老不死だろうとなかろうと、人が倒れてたら心配しますよ………」
徐福は私の腕から離れ、よっこらせと立ち上がる。すると、首の傷がみるみる再生していった。なんか、ちょっとキモイ。
「ていうか、なんでまた死んでたんすか?まさか、そんな気分だったとか言いませんよね?」
「ピンポーン」
「心配して損したクタバレ老害」
「辛辣!?まぁまぁ聞けって。不老不死にもなると、そりゃあもうながーい時間が経ってて、気が狂いそうになるんじゃ。だから定期的に痛みを感じて『あぁ今私生きてるー』って感覚をえるんじゃ。不老不死あるあるじゃな」
「んなあるあるあってたまるか。はぁ……とにかく、もう目の前で自殺しないでください。びっくりしますんで」
「善処しまーす」
「改善しろ」
疲れるなこの人。マーリンさんを相手にしている時とはまた別のベクトルで疲れる。だが、ここで徐福に会ったのはラッキーかも。せっかくだから、この町の案内でもしてもらおうかな。
と、提案をしようとしたその時。向こうから、すごく慌てた様子で走ってくる子供が二人。『徐福さーん!』『徐福ばぁちゃーん!』と叫んでくる。
『なんじゃお主ら。何か朕に用か?』
『大変だ大変だだ大変だだだだ!?』
『徐福ばぁちゃん!大変なんだ!』
『おうおう落ち着け。どうしたんじゃ、小僧達』
『ムーヤンが!ムーヤンが湖に落ちた!それを助けに行ったターが溺れた!それを助けに行ったユンユーが魚に喰われそう!』
『どういう状況なんじゃそれは……。とにかく、助けに行くぞい』
よく聞き取れないけど、多分子供達がピンチなんだろう。子供達に続く徐福に続いて私もついていく。
『がぼ、がぼぼぼ助けがぼぼぼ』
『お尻が!お尻がぁぁぁぁぁ!?!?』
『耐えろ!耐えるんだター!ユンユー!お前達ならやれる!』
『がぼ、耐えるとかいいから、助けががぼぼぼ』
『ムーヤンの言うとおりだ!頑張れ!』
『頑張れー!』『そこだ!やれ!トドメをさせー!』『これSNSに上げたらバズるかしら………』
待って状況が斜め上にカオスだ。助けてやれよ鬼かお前ら。ていうかムーヤン普通に湖から上がってきてない?ター君が無駄死になんだけど。
『徐福ばぁちゃん!なんとかして!』
『どっちをどうにかすればええんじゃこれ?朕分からない』
「激しく同意」
『とにかくどっちもなんとかしてぇ!!』
『ったくしょうがないのぉ………おい、ちょっと服もっとれ」
「え?おっとと」
服をバサッと脱ぎ捨て、湖に飛び込む徐福。湖を泳いでユンユー君とター君を救出に向かう。………と、突然動きが止まった。
「…………朕も泳げないんだった。ガボボボボボ」
「オメェも泳げねぇのかよ!!ちょっと待って、今助けるから!」
「いや、その必要はなガボボボボボ」
「はぁ?」
どう見ても助けを求める人の動きなんだが。アイルビーバック場合じゃないだろ。徐福の体が完全に沈みきると、水泡がピタリと止まった。
え?嘘だろ?不老不死だから死なないとは思うけど………!
そう思った瞬間、突如、徐福が沈んだところから巨大な魚影が現れる。魚影はみるみる大きくなっていき、その体の一部が見えた。ヒレだ。斜めった三角形のようなヒレ。それも、一度見れば恐怖で身が竦んでしまうような、世界的にも映画で有名な。
「―――サメ?」
『ガボボボボボたすけ………ぷは!た、助かった…………」
『お尻が!お尻が噛まれ………い、いなくなった。助かった!わーい!』
子供達はイルカのようにサメの背中に乗せられて、陸まで運ばれる。陸で心配(大嘘)していた子供達が、彼らに寄り添う。待て、待ってくれ。そこじゃないだろう。それも大事だが、それよりも重要視することが………
「ふぅ、大事になる前でよかったわい」
「ダァァァァァァァァァ喋ったァァァァァァ!?!?!?ていうかその声、徐福さん!?」
「そうじゃよ。ふぅ、よっこらせ。あー、久しぶりに変身したから疲れたわい」
「うわなんだそれ気持ち悪!?」
サメは陸に這い上がると、ニョキニョキミュルミュルと姿を変えていき、徐福になった。非常にキモイ。徐福は自分で肩や腰を叩きながら、当たり前のように服を着始めた。
あれが、徐福の魔法……!?変身魔法なんてあったのか。
「んいや、別に魔法じゃないぞい。これはの、体質じゃ」
「は?体質……?」
「――――不老不死とは、いわば生命の完成形じゃ。生物の頂点にして原点、完璧にして不滅の究極生命体。ありとあらゆる生物の力が使える。翼を生やして空を飛んだり、モグラになって地中を移動したり、腕を蜂の針のようにして毒を盛ったり、単細胞生物のように分裂したり、の」
「なんじゃりゃ………」
馬鹿げている。不老不死って、そういう意味なのか?マーリンさんの不死身体質とは全然別物だ。
「実はこの姿もその力のおかげなんじゃぞ。朕って最初は男じゃったし。今はこの姿が気に入っとるが、昔は少年だったり老婆だったりしたこともあるぞ」
「え!?そうなのか。やけに白亜が不思議そうにしてたのはそういう事か……」
「ふぅ。さて………オイ!ガキ共!そこに並べ!』
『あだ』『いで』『ぐへ』『あで』『あが』『だが』『うで』『ひぎ』『うご』
徐福は順番にポコポコポコと子供達の頭を殴りつけていく。フルコンボだドン。そして子供達を座らせて説教を始めた。
『子供だけで湖の近くで遊ぶなと、昔から言いつけておるではないか!ムーヤンは落ちるな、ターは泳げないのに助けにいくな、ユンユーはもっとケツを鍛えろ!他の奴らも変に煽るな!』
「ケツを鍛えろって何………」
『分かったな!』
『『『『『『『『『『ごめんなさい………』』』』』』』』』
『はぁ、ったく。………おい、ガキ共』
?、と一斉に首を傾げる子供達。まだ説教は続くのかと身構えていたが、徐福はそれとは逆に頬を緩めて、
『おやつでも食ってくか?』
子供達はにぱぁと笑って徐福の後に着いていった。彼らを引き連れる徐福の後ろ姿を見て、自分がちょっと勘違いしてたことに気付いた。
まず、魔法使いと聞いていた時点で変な奴なんだろうな、とは思っていた。マーリンさん曰く、魔法使いは魔法の為なら何でもする倫理観に欠けた集団であると。
実際に変な奴ではあった。しかも不老不死ときた。実質マーリンさんだ。けど、そうじゃなかった。子供達と触れ合う彼女(彼?)の姿を見ていると、彼女はどうやら、不老不死なだけの、ただの優しい老人のようだ。
「私もおやつ食べよ」
子供達に続いて私も歩く。少し、他の魔法使いに会うのが楽しみになってきたな。生き残りがまだいるといいな。
『よし、ガキ共!この日本人の姉ちゃんが日本の美味ぇもん作ってくれるからな!すげぇ期待しとくんじゃぞ!(ニヤニヤ)』
「前言撤回クタバレクソジジイ」
目を明るく輝かせて期待する子供達に聞こえないよう、親指の下に向けながら日本語で呟いた。
#######
「ほれ、ここじゃ。ここに魔力を通すと……ほれ」
「火がついたわ!すごい!どういう原理なのかしら?」
「それはのぉ…………」
たらたらと白亜に魔導具の講義を行う徐福。白亜は魔導具に興味しんしんなようで、カキカキとメモを取りながら頷いてる。確かにすごいと思うけど、それガスコンロで良くね?と言うのは我慢しよう。
私も私で、徐福の家の奥にあるガラクタコーナー、もとい魔導具エリアを散策してみる。そこら中に魔導具が転がっていて、剣だったり銃だったり、ぬいぐるみや箱、ドクドクと不気味に拍動する………なんだこれ?もはや言語化が難しい造形の物まで。
本人曰く、ほとんど失敗作だそうだ。だからこんな雑に捨ててある。その中で、ピンときた物が一つ。
「何これ、インフィニティ・ガントレ○ト?」
私はそれを持ち上げて、まじまじと観察する。長さが肘までの辺りまであるグローブ(?)で、ゴッツい。掌部分には噴出口のような丸があり、何が吹き出すのか分からない。
とりあえずはめてみるか。
「おっも………。ふむ、しかし、中々カッコイイな……!」
ちょっとポーズとか取ってみる。クソ、ここに鏡とかあれば良かったのに……。指パッチン、パチン!相手は死ぬ!
「ふむ。それに目を着けるとは中々見る目があるの」
「うわぁ!?いいいいいたんですか!?いるなら言ってくださいよ………恥ずかしい」
「お主今日叫んでばっかじゃな。しかし、別にそれは指パッチンしたら全宇宙の半分の生命が消える代物ではないぞ。それは………まぁ、実際に使ってみた方が速いの。ちと表に出い」
と、言うわけで裏庭から出て近くの山に入った。目の前に広がるのは、断崖絶壁の崖。さてここに来てどうするのだろうか。
「そのインフィニ……じゃない、まぁ、仮称『壊腕』とでも呼んでおくか」
「かい『な』は?」
「うるさい。とりあえずそれを腕にはめて魔力を流し込んでみ」
言われたとおり、両腕にはめて魔力を流し込んでみる。すると、機械の電源が入ったみたいに掌の穴が青く光った。
「で、ここからどうすればいいんです?」
「もっと魔力を流し込め。プシューって音がなったら、この崖を殴りつけてみ」
「了解っと」
もっと魔力を流し込む。すると腕がプルプル震えてきて、プシュー!と隙間から煙が吹き出した。なんかヤバそう爆発しそう!とりあえず、
「オラァ!!!」
ドッッッッッッ!!!!と。
掛け声をあげながら、大振りで拳を崖に叩き込んだ。瞬間、大音量と共にとてつもない破壊が巻き起こった。崖が、何千年かけて硬く丈夫に積み上げられた崖が、子供が砂のお城を壊すように、粉々に粉砕された。
殴った張本人である私でさえ、その膨大なエネルギーに耐えきれず全身がビリビリする。
「………とまぁ、めちゃくちゃ強く殴れるっていう魔導具じゃ。欠点は、火力が高すぎるのと………」
「うぎゃぁぁぁ肩がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!???」
「反動が脱臼どころじゃ済まないってところじゃな。腕がすぽんって飛ばなくて良かったの」
「先に言って!それ先に言ってよぉ!!」
い、痛いぃ……腹を刺されたり腕を喰われたりするのとは、また別な、肉体の構造そのものが傷ついたみたいな。あとでマーリンさんに癒してもらおう。
しかし、欠点を除けば中々良い魔導具だな。火力、やはり火力こそが全て。魔法は使えず、超能力も決定打とはならない私にとって武器はこの肉体だ。壊腕、こいつがあればあのクソ硬いケルベロスだって一発KOよ!あのマーリンさんにだってダメージを与えられるかもしれない。
「徐福さん、これ私にくれませんか?」
「ええけど、そんな欠陥品使えるのか?」
「慣れです!慣れれば何とかなる!とにかくちょっと練習してきまーす」
「そうか、あまり壊しすぎるんじゃないぞー」
そして、練習と称してそこらへんを破壊しまくった。反動は痛かったが、なんか、この壊れる感覚が気持ちよかった。破壊神になった気分だった。ちなみに、村の人からは、何をやっているだとめちゃくちゃ怒られました。本当にごめんなさい。今度からはマーリンさんを練習台にしようと思いました(小並感)




