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日本編21   伝説の不良の噂



 突然だが不良に絡まれた。



「テメェがそいつの彼氏か!ふざけやがって!」


「舐めたことしてんじゃねぇぞこの野郎めぇ!どうしてくれんだ、アッ君が怒り過ぎて頭から蒸気がボッ、だぞボッ!」


「急に語彙力下がったな………てか、私はこいつの彼氏でも何でも無いんだけど………」


「そうっスよ!先輩は自分の…………夫です♡ぐぇ!?」


「違うわボケせめて妻にしろ妻に。私は女だっつーの!ていうかなんで男のお前が女側やねん!」



 ある日の夜のことだ。


 マーリンさんが卵を切らしたと言うことで買ってきてくれとお使いを頼まれた帰り道。妙に聞き覚えのある声がするなと思って駆けつけたら、トラブル種マシンガンこと後輩――――水面鏡史郎が不良に絡まれていた。


 一応助けてやろうと思っていたが…………



「なぁこれお前が全部悪そうな感じするんだけど。何したのお前」


「別にぃ?暇だからそこら辺の奴をからかってやろうと、占い(・・)を使って知られたくない恥ずかしーい個人情報とかでハチャメチャ言ってたら相手の恥ずかしさと怒りが限界突破してぶっ倒れたとかじゃないっスよぉ?」


「全部テメェのせいじゃねぇかぁ!!」


「痛い!痛いっス先輩!!特に最近の先輩のゲンコツは痛いっス!!」


 硬い拳を鏡史郎の脳天に打ち込む。


 なんでこいつはいつもいつも自分からくっかかってくんだよ!占いの力をしょうもないことに使いやがってもぉ…………。そして何故毎回私が頭下げにいかにゃならんのだ。鏡史郎と初めて会ったときもそんなんだったな………あんときのあいつの目はすげぇ死んでたけど。


 私は鏡史郎の薄赤い髪をガシッと掴んで頭を下げさせる。当然、私も同じ体制だ。



「えっと、ウチの後輩がすみませんでした。こいつの水晶はいくらでも割っていいんで許して下さい」


「え!?ちょ待って下さいっスあれは婆ちゃんから貰った特別な………」


「うるさいお前は黙ってろ。ほら、行くぞ。帰ったらみっちり説教アンドお仕置きだからな。水晶の命が惜しかったら黙って退散するぞ」



 ワァワァと叫ぶ鏡史郎の襟首を摑み引きずるように運んでそ場から去る。すると、「待てぇい!」と知らない男の声が聞こえた。振り返って見ると、さっきまでぶっ倒れてた不良、アッ君が立ち上がっていた。



「頭一つ下げた程度で返して貰えると思ってんじゃねぇぞこの野郎………!せめて一発殴らせろ、こちとら怒髪天通り越して怒髪宇宙だわ!!」



 えぇ……マジか………。一回気絶したといえのに、すぐさま怒りがこみ上げてくるほどってこいつマジで何言ったんだよ。怒髪宇宙って、天よりも上ってことか?多分使い方間違ってるよ。



「ぷっはははなんスか怒髪宇宙って意味分かんねー!意味分かってて使ってるんスか?頭大丈夫スか?ん?というか、女の子に向かって殴るなんて最低っスよ最低!男の風上にも置けないっスねぇ!お父さんに言われませんでしたか、女を殴っちゃいけないのは恐竜時代から決まってるんスよ!もしかして恐竜時代以前の古代生物さんでしたかぁ!これはすげぇ、今すぐ研究者さんに連絡だ!」


「………………………………」



 アッ君の顔が激辛カレー食べたみたいに真っ赤に染まり、全身は力みすぎてブルブルブルと震えている。

 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!何追い打ちしてんだ鏡史郎!!

 その旨を目力で伝えると、『しまった』と口を急いで塞ぐ鏡史郎。しかし、何もかもすでに遅い。



「ざけんなぁぁぁぁぁ!!!」


「ああアッ君、さすがに女子に手を出したら………」


「ヤバいアッ君を止めろぉ!」



 ダン!と走り出し襲い掛かってくるアッ君。リンゴ程度なら軽く握りつぶせてしまいそうなその豪腕を振りかざし、鏡史郎の顔へ放つ。



「――――はぁ、しょうがないな。アッ君ごめんね!」


「何ぃ!?ぐぼぉ!!??」


「「えぇ!?」」



 バズーカのようなパンチをすらりと手の平で受け流し、掌底でアッ君の顎にクリティカルヒットォォォ!!!当たり所が良かったのか、一発でまた気絶するアッ君。それに驚愕する二人。



「あのアッ君が………一撃………!?」


「しかもあんなチビに………」



 ぱんぱんと手の平を払い、口が塞がらない二人に向けて、



「…………あぁ、えっと」


「「は、はい!!?」」


「あの、マジごめんね?ファミレスでなんか奢るから許して?」


「「は、はい……………」」





#######




「いやぁマジパネェです姐さん!ホント調子こいてスンマセンした!あ、俺唐揚げ定食で」


「お見それしたっす姐さん!どうやったらそんなに強くなれるんですか?あ、僕ビッグバーガーとポテトで」


「あの伝説の不良『小嵐こがらし』を彷彿とさせるあの掌底………シビれたっす!ついて行きやすぜ姐さん!あ、俺ハンバーグカレーで」


「ホントホント。なんせ自分の先輩は世界一っスからね!あ、自分はポテトグラタンで」


「はい、かしこまりましたー」


「………………………ズズズズ(水を啜る音)」



 ………なんか懐かれてしまった。正面から左の小柄でちょっと出っ歯な不良Aはキョウちゃん、正面から右の少々ふくよかな不良Bはユッキ、そして正面真ん中三人組のリーダー格、筋肉質な

アッ君。


 随分とまぁ個性の強い奴らだ。しかも中々に図々しいなこいつら、奢るとは言ったが安いファミレスの中でも高いやつを頼むな。まぁ全部鏡史郎に払わせればいっかこいつが全部悪いんだし。



「あの、姐さんっていうの辞めてくれません?私まで不良みたいに思われそうなんだけど」


「でも、その目つきの悪さで不良じゃないってのもですねー」


「うそ、私そんな目つき悪い!?」


「先輩は基本表情豊かっスから分かんないかもっスけど、真顔だとめっちゃ目つき悪いっスよ」


「マジか…………嘘だ………」


「でも自分はそんな先輩も愛してるっスよ♡」


「そうですぜ姐さん、その鋭い眼光!猛獣おも気圧させるような威圧感!あの伝説の『小嵐こがらし』や『金棒阿修羅』に引けを取らない不良っぷりですよぉ!」


「さっきからその小嵐とかって何!?そんなよく分からんのと同列にしないでくれません!?」



 三人は目をパチリとさせ互いの顔を見やり、私へ視線へ戻す。もしかして、あの小嵐をしらない!?みたいリアクションやめぇや。そしてアッ君が語り出す。



「小嵐はつい一、二年前まで全国の不良にその名前を轟かせた歴史上最強の不良と言われた人物です。年上年下所属校関係なし、かかってくる相手は全員ぶちのめす。嵐ように暴れては静かに去って行くところから、小さい嵐、小嵐……こあらし……こがらし………小嵐こがらしと呼ばれるようになりました。舎弟を一人も持たない一匹狼としても有名でした」



 何だその漫画の世界みたいな不良。………と言いたいところだけど、夢魔の魔法使いと一緒に住んでたりイエティと人のハーフを妹弟子をもつ超能力者の私が言うのも説得力がないな………。


 しかし、



「でし()って過去形にするあたり、今はいないんですか?」


「そうなんですよ!全国の不良の恐怖の対象でもあり、また憧れの存在だったはずの小嵐はある日の突然姿を消したんすよ。噂では誰かに殺されたとか、その実力を買われて傭兵組織にスカウトされたとか、闇世界に踏み込んでしまったとか……………」


「ふーん……………」



 ズズズズと氷の入った水を飲み干し、一息つく。不良の世界も知らないだけで色々と大変なんだなぁ。そうこう話している間に注文した料理が運ばれてきた。


 どれもかれも美味しそうで、「いただきまーす!」と元気よく食べる4人の食いっぷりは見ていて清々しい。ぐぅぅぅ、と腹の虫が鳴った。そういえば夜ご飯食べてなか――――



「あ」


「ん?どうしたっスか先輩。あーんして欲しいんですか?ぐぇ」


「違うわ。今何時?」


「9時前ですね。それが?」



 私は横長椅子の隅っこに置いた卵パックに目を向ける。確か私が家を出たのは7時前くらい……………




「マーリンさんのこと忘れてた……………………!!」






一方その頃マーリンは――――――




「弟子……………遅いなぁ………………」






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