日本編20 二人目の弟子、二人目の友達
城明視点
「…………大丈夫、まだ死んでない」
耳を如月さんの胸に当てて、心臓の鼓動を確認する。ドクン、ドクンと。まだ動いている、死んではいない。だが、通常の拍動と比べて勢いや音の大きさが弱い。出血量も酷く、このままでは確実に死ぬ。
時間がない。今すぐにでもここを脱出して、手当てをしなくては。
如月さんの肩を獣の手で担ぎ上げ、半ば引きずるように運ぶ。私も私で体力が無い。下の階から登ってくる煙と、単純に疲れて息が切れる。
「はぁ……はぁ……はぁ、キッツ………」
―――なんて、なんて情けない。途方に暮れて、子どもみたいに泣きじゃくって、何もかも助けられて、助けることもままならない。
能力は使いようとはよく言ったものだ。こんな人間を越えた獣の力を持っていても、このザマだ。少女一人助けることが出来ない。命の恩人に恩返しだって出来やしない…………!!
グッと唇を噛みしめる。噛みしめ過ぎて血が滴り、口の中に鉄分の味が広がる。
「……………けど、諦めない!絶対助ける!!」
今にも倒れそうな体に鞭を打って如月さんの体を引きずり運ぶ。階段を降りて下の階まで来た。
「………うわ!?熱!?」
ボワッ!!と突然のフレアが襲いかかる。前方は見渡す限りの、赤。メラメラと赤色の海が目が潰れるほど燃え盛っている。
とんなところに飛び込むなんて自殺行為だ。二人とも焼死体になるのは火を見るより明らか。けど、ここを通らないことに脱出は不可能。
(どうする…………他の出入り口を探す?けど私そんなにこの学校のこと知ってる訳じゃないし………。何よりその間に如月さんが死んだら………)
可能性をつくっては潰して、つくっては潰していく。熱さと疲労で適切な案が全く思いつかない。思考がバチバチと点滅する。どれも現実的ではなく、正解に近くもない。かと言ってここでモタモタしているのも正解では決してない。
この炎でも消すことが出来れば全てが解決するのだが…………。
「――――いや、いけるかもしれない」
この絶体絶命の危機を乗り越える唯一の手段。ありとあらゆるものを覆し、非現実を現実に呼び起こす超常現象。最も身近にあって、誰も気付かないもの。
「―――魔法」
この消火に何十時間かかるであろうこの業火を、一瞬で消し去るほどの魔法を使えばなんとかなるかもしれない。けど、それにはある前提が必要になってくる。
「けど、魔法の使い方なんて全く分からないわ…………」
魔法使いのお姉さんから聞いた話によると、暴走した私と如月さんが戦ったときの私はその荒々しさからは想像も出来ないほど器用に氷の魔法を使ってたという。
それと同じことができれば、この火だって消せるかもしれない。だが、やり方が全く分からないのが一番の問題だ。
「あの時を再現すれば、もしかしたらいけるんじゃないかしら………」
理性で魔法が使えないなら、本能でやってやればいい。獣の力を今こそ最大限活用するときだ。あの時と同じ………考えられるとしたら、『感情の昂ぶり』だ。多分スーパーサ○ヤ人と似たような理屈だと思う。
今は四肢が獣になり、耳と尻尾が生えてるだけでそれに見合った腕力や魔力?的なのは感じない。もっと、もっと感情を昂ぶらせなければ。内なる獣を呼び起こさなければ――――
「……………………………………………………」
今一番手っ取り早い感情は、『怒り』だ。自分自身への怒り。情けなくて、無能な自分が許せない憤り。アレコレと自分を責めている内に、なんだか頭がムカムカしてきて気持ち悪くなってきた。
「……………グルルルルル!」
『あーマイクテストマイクテストわんとぅーすりー。城明さーん聞こえますかー聞こえてないと困るんですけどー』
「うぇ!?き、如月さん!?」
突然、エコーのかかったボイスに驚いてはっと我に返る。肩をもたれかかった如月さんは依然、意識を失ったままでなんなら息もどんどん浅くなっていく。
なら、この声は一体!?
『これは「念動会話」を好きなタイミングで送れるタイマーモードです。そっちの言葉は意味が無いので黙って聞いてください』
「何それ………超能力って何でもアリなの?」
『今から、城明さんとぶっ倒れてるであろう私をこの場から脱出させる手段を教えます。魔法を使ってください。水でも氷でも風でもいいんでとにかく魔法で火を消してください。今から魔法の使い方を教えます』
「え………!?」
魔法の使い方。それはまさに今、喉から手が出るほど欲しい情報だ。
『一回しか伝えれないのでよーく聞いてください。まず意識を魔力核という脳や脊椎のどこかにあるところに接続して下さい。これに関してはもう勘で当ててください。接続に成功すれば、きっと感覚で分かるはずです。その後はもう何も考えず、バァァ!!っと魔力を吐き出してください。城明さんの体質なら、勝手に冷気になって出てくるはずです』
「…………………」
『とにかく頑張ってください。あなたの事、まだろくに知らないんですから死ぬのはごめんですよ。んじゃ』
その言葉を最後に、プツッと電話が切れたように声は聞こえなくなった。なんて投げやりなんだろうか、初心者に爆弾の配線を切る役目を押しつけるようなものだ。
―――けど、何でだろう。傷ついた身体でも勇気が湧いてくる。
彼女の言葉一つで、やってやろうと思えてくる。私だって、まだあなたの事を何も知らないから。
必要なのは罪悪感でも、悲壮感でも、怒りでもない。
「―――勇気よ!!」
残り少ない酸素をスゥゥっと吸い込む。集中、集中しろ。探す、自身の内に宿る物を。掻い潜る、緻密な意識の鎖を。潜り込む、深く深く。決して見逃さないように、強く強く気を張り詰めて。
目には見えないし、手では振れることもない。けど、確かにそこにあるもの――――。それこそ、私の中の獣を飼い慣らすための鎖、力を制御するための秘訣。
お父さんからもらったリボンでも、悪魔の力も借りない100%私の中のもの。
「――――魔力核、接続」
細かい事はいい。とにかく今は、ぶっ放せ!!
「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ビュウウゥゥゥゥゥゥ!!!!と。
直後、私の中から冷気………いや、冷気なんてものじゃない。全てを凍てつかせる吹雪がどんどんと炎を消していった。学校中に広がった赤い海が、一瞬で青白い海へと変わっていく。気付けば熱さは悉く奪われ、氷の銀世界作り出していた。
疲労的にも寒さ的にも震える体を動かして、如月さんを運ぶ。自分でやっておいてなんだが、やりすぎなのではないだろうか。
「はぁ、はぁ、はぁ…………や、やっと出られた…………」
そして遂に、脱出できた喜びと安堵で霜ができた冷たい地面に突っ伏した。
########
「オイオイオイオイ、やっと戻ってきたこれたと思ったらこりゃァどうゆうこった。オイオイ何でもこいつら生きてんの?一人は死にかけだけど」
「――――ぁ」
なんてことだ。最悪だ、最高に奇跡的で最悪なタイミングで炎の男が戻ってきた。如月さんの超能力で吹っ飛ばされ白いジャンパーには土汚れや木の葉がついている。
「オイオイ『秩序派』のやつらはなぁにやってんだよぉ、こんなガキ二人にやられるたぁ情けねぇぜ。まぁんなこたぁ割とどうでもいいや。こいつらどうすっかなー」
「ッッ!?」
「オイオイそう怯えんなって。お前らは思ったより商品価値がありそうだから殺しやしねぇよ。顔面焼けちまっても面がいいことには変わりねぇし?獣人とのハーフだし?そこの白髪のガキだって魔法じゃねぇ変な能力持ってやがる。こんなの初めてだ、いくらになるかなぁ?ひゃひゃひゃひゃひゃ!」
口角を大袈裟に上げて笑う男。ヤバいヤバいヤバい、本当にヤバい。如月さんは死にかけだし、私だってもう指一本だって動けない。こうやって意識を保ってるだけで手一杯だ。
一歩、二歩、三歩とゆっくり近づいくる。
誰か、誰かいないか。私はいい、せめて如月さんだけでも誰か――――
「んじゃ大人しくしてr
「―――ウチの弟子から離れやがれクソロリコン野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ブルッファ!?」
「…………え?」
突如、とんでもないスピードで飛行する何かに男が吹っ飛ばされる。というかこの声、どこか聞き覚えがある。
「………あなたは」
「二人とも大丈夫か?遅れてすまない………千里眼で見た時にはほとんど手遅れだったんだ。城明、私の弟子を助けてくれて感謝するぜ」
「お姉さん!!」
「―――あぁ、強くて頼りになるマーリンお姉さんだぜ」
#######
「うし、止血は完了したな。しかし………出血量が酷いな。あと一つでも傷口が多かったらもう死んでたなこりゃ。まぁ今すぐ輸血しないと死ぬけど」
「そんな適当に言ってる場合!?何かないの血を作り出す魔法とかぁ!?」
「血液を操る魔法はあるが一から作るのは無理だな。現代医療でも人工血液はできてないんだぞ。だが、手はなくはない」
するとお姉さんは白いローブを脱ぎ捨て、袖をまくる。何をするつもりなのだろうか、と首を傾げているとお姉さんは如月さんの口元に指を指して、
「舌噛まないようこいつの口塞いどいてくれ」
「え………でも、私指一本動かせないのだけど」
「じゃあ口づけでもいいから塞いでろ」
「なっ………!!?」
「冗談だ…………何で顔を赤くなってんだ?お前まさk
「布!布みたいなのちょうだい!!」
おう………と呟くと、お姉さんの手の平から青いモヤモヤっとしたものが出て、どこにでもあるようなタオルを形作っていく。一体どういう原理なのかしら………
受け取ったタオルを棒状にして如月さんの口に当てる。お姉さんがそれを確認すると、スッと腕を大きく上げて………
「よいしょ」
「ヴぅえぁ!?あぎぃghkufcがぉ▽<★らa!?!?」
「えぇ!?何してるのお姉さん!?」
「何って、腕を弟子の腹に突っ込んでるだけだが?」
「本当に何してるのよぉぉぉ!!!トドメ刺してどうするの!?」
「勘違いするなよ。これはな、たんなる輸血だ。夢魔の身体ってのは便利でな。悪魔の一種と言ってもその身体は生物達が見る『夢』を食い物にして生きている。『夢』がもつ何でもアリの力がこの身体には宿ってんだ。だからその力で私の血をこいつと同じ血液型の血にして輸血してるんだよ。夢魔の私だからこそできる荒技だな」
「じゃあ腕をお腹に突っ込んでる理由は………?」
「?。表面積が広い方が効率が良いだろう?」
「……………………………」
人間じゃないとは聞いていたが、感性も人間じゃないのかもしれない……。
「にしてもどうやって魔法を使ったんだお前?あの氷お前のだろ」
「えっと………如月さんがやり方を教えてくれて」
「え?こいつが?――――そうか。なんだよ、役に立ったじゃねぇか」
輸血が十分に済んだのか、腕を引っこ抜いて血を地面に飛ばす。その後は私には何をしているか分からない作業で如月さんの傷を塞ぎ、パパーっと適当に包帯をぐるぐる巻いて闇医者もびっくりなくらい雑な治療が終わった。
でも、過程は置いておいて、如月さんが助かって本当によかった。ほっと胸をなで下ろし、心の底から安堵する。すると如月さんを助けること一心で保っていた意識が、どんどんと薄れていく。とても眠い、全身がダルい、本当に今度こそ指一本動かせない。―――けど今回だけは、それがとっても誇らしい。
まだなおヒンヤリとする地面に大の字になって、休息を求める体に身を任せる。
「はぁ―――――本当に、つかれ
「オイオイオイオイこれでおしまいおしまいとか思ってんじゃねェだろうなァ?アァン!?」
「んあ?」
ドゴォォォォォンッッ!!!!と。
オレンジ色の火花が至近距離で炸裂する。轟音と破壊が校庭の枠を越えてここら周辺に響いた。それは全身を地面にゆだねていた私を軽々吹っ飛ばすほどで、近くにいたお姉さんはもろにそれを受ける。
忘れていた………!!一番忘れちゃいけない最悪の相手がすぐそこにいたことに!
「お姉さん!!」
「人のことすげェ勢いで吹っ飛ばしてくれちゃってよォ。打ち所が悪かったら気絶程度じゃ済まなかったぜ」
「ったく最近のガキは常識がなってねぇな。近くに怪我人が二人もいるのが分かんねぇのか。ア?」
「…………オイオイ、あれだけの爆発をもろに喰らっておいて無傷たァどういうこったァ?何もんだお前」
「こんなの、揚げ物してるときに跳ねてくる油と比べたらなんてことないね。それと、相手のことを尋ねるときはまず自分からって教わらなかったのか?」
「ふん、言うじゃねぇか。俺ッチの名前は『ファウスト・フレムリン』。錬金術師だ」
「錬金術師か………随分珍しい奴が現代に残ってるもんだな」
「錬金術師?」
錬金術師………錬金術師と言ったら………。あれ?錬金術師ってなんだったかしら?首を傾げる私に、うむとお姉さんが相づちを入れる。
「錬金術師ってのはまぁ、簡単に言っちまえばAと言う物質をBと言う物質に変える『錬金術』を使う奴らのことだ。魔法とはまた違う系統の超常現象だな」
「オイオイ本当に簡単に言ったなァ、とは言っても本当にそんなもんだから文句のつけようがないぜ」
「あ、そういえばこっちの自己紹介がまだだったな。私はマーリン、夢魔だ」
「あ?マーリン?夢魔ァ?……………オイオイどっかで聞いたことある名前だなァ」
「え、私ってそんな有名人だったか?へへへ困るなーサインとか今の内に練習したいと方がいいかなぁ?」
「……………………」
本気で言ってるのか冗談で言っているのか分からない。お姉さんの事情はよく知らないが、多分賞金首的な意味で有名人なんだと思うのは私でも推測できる。少なくともそれはないというツッコミは胸の中にしまっておこう。
「あ、そうそう。『反魔法教会』共が高額の賞金をかけてる大物賞金首だ!確か賞金額は…………一億ドルとかだったかな?」
「一億………!?」
「マジかよ」
一億ドル………日本円に換算するとえーとえーと………約150億円!?凄まじい大金をかけられているのに多少危機感を覚えたのか、お姉さんは慌てた様子で口を塞いで、
「写真写りとか大丈夫かな………変に写ってない?」
「そこじゃない!お姉さんそこじゃないわ!」
「安心しろォ。その指名手配書は今すぐに必要じゃなくなる………今ここで死ぬからなァ!!」
「ん」
ダンッ!!と炎の男―――ファウスト・フレムリンなる男が地面を強く踏み込み走り出す。さっきので中距離からの攻撃は防がれると思ったのか、今度は物理で攻めようと拳を握り締める。
「ヒャッハー!!一時はどうなるかと思ったが、今日の俺ッチはついてるぜェ!!まさか噂の夢魔に会えるたァな。テメェをぶっ殺して、一攫千金大金持ち!ついでのそこのガキもさらって小銭稼ぎ!さぁさぁまた防がねぇと今度こそ頭が吹っ飛んじまうぞ!!」
ボワッと拳に炎を纏う。素人の私でも爆発する脅威のパンチが容易に想像できた。如月さんもいるのだ、今すぐにでもそこから離れて欲しいと叫ぶが、お姉さんはフレムリンを睨みつけたまま微動だにしない。
シュバッ!っとフレムリンが跳び上がり、その拳を鉄槌の如く振るおうと――――!!
「バン」
「―――――――ハ?」
「え?」
お姉さんがフレムリンに指鉄砲を向け、バンと呟くと彼の体は空中で硬直した。まるで写真の中の人のように、その空間から切り離されたみたいな………。
(なんだ、これ!?動か、ねェ!!?まるで俺ッチの時だけが止められたみてェだ………どうなってやがる!?)
「こっちは色々と忙しいからお前にいちいち構ってる暇ないの。分かる?城明の治療もあるんだからさぁ、邪魔しないでくれよ――――な?」
(ッッ!?)
遠目からでも分かる、お姉さんから発せられる圧倒的威圧感。背筋がゾッとするような、一周回って冷静になるような生命の危機を感じる。生物としての格が違うのだ、それを真正面から受け取ったフレムリンの心境は計り知れない。
「別にこのまんま放置しててもいいが、お前にはウチの弟子に手をかけた借りがあるからなぁ。……………二度と立ち上がれないように内側から再起不能にしてやる」
(なっ……やめろやめろやめろ!!来るなァ!!クソクソ、こんな化け物がいるなんて聞いてないぞォ!?そりゃァ一億ドルなんて大金かけるわけだ!いや、一億ドルでも足りねェなこれァ!?ちくしょう!!)
お姉さんはフレムリンの肩を、トン、と軽く叩くと重く鈍い声で呟いた。
「『血暗黒』」
########
……………知っている天井だ。
寝かされていた布団からむくりと起き上がり、辺りを見渡す。そこは以前と同じ状況の如月さんの家だった。私は寝ていて、如月さんは横で白目を剥きながら死んだように眠っていて、お姉さんは台所で鼻歌を歌いながら夕飯の支度をしている。
あぁ、やっと終わったんだなと心底安堵した。「んぁー」と意味不明な奇声をあげ、もう一度布団に背を預ける。
いつの間に寝てしまったんだろうか。寝る前の記憶がおぼろげだ、どっから途切れたんだっけか。えーとえーと…………
「…………………………………あ」
――――思い出した、思い出した思い出した思い出した思い出した!!!!途端、喉の奥から吐瀉物が登ってきて、猛烈な吐き気に襲われる。
ガバッと布団を蹴飛ばしお姉さんの傍まで駆け込んで、
「お姉さんあれちょうだいあれ精神安定剤葉っぱ!!」
「ん?あぁ起きたか城明、冷たいうどんと温かいうどんどっちにす
「今はうどんはいいから早く!うぷ…………」
「お、おう。ほら、落ち着け」
「すぅぅぅぅぅぅぅ…………ん、んん//落ち着く………」
やはりこの葉っぱは最強だ。あらゆる情緒を打ち付けて精神を安定の地へと誘ってくれる。十分に葉っぱを吸った後、私はぺこりと頭を下げ、
「ごめんなさい急に慌てちゃって………葉っぱ、ありがとうございます。でも、あんな精神に異常をきたすような一生物のトラウマ映像を見せるのはお姉さんにも責任があると思うの」
「んんー?あぁ『血暗黒のことか。あれはな、内側から全身を破壊してその後にすぐに再生、破壊しては再生を繰り返す魔法だ。発案者が実験で使った際に、実験室が実験体の血で真っ黒に染まってたことから名付けられたんだな。あまりにも非人道的だという理由で基本、使うのは禁止されてる魔法だな」
「そんなえげつないもの使ったの………?すこしフレムリンに同情しちゃうわ」
「ちなみに暴走したお前を止めるときにもアレ使ったぞ」
「え」
とんでもないカミングアウトに背筋がゾッとする、血の気が引く、顔色が青ざめる。また吐き気が纏わり付いてきたが、頑張って忘れよう………。
「そういえば、フレムリンは捕らえなくていいの?」
「んあ?なんでだよ」
「確かアンチ・キャスター?がお姉さんが賞金をつけたとかなんとか………よく分からないけど、それってお姉さんの敵よね。情報を吐かせるとかしなくていいのかしら?」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………ナンデソレハヤクイッテクレナカッタノ」
「えぇ!?もしかして聞いてなかったの?」
「写真写りとかに気をとられすぎてた………!!クソッ!!マジか!!ちょっと今から行って来るわ、ご飯食べたかったらそこのうどん茹でて食べてね!!」
エプロンを投げ出し、いつものローブを着けて外へ飛び出すお姉さん。せわしない人だな………
「あ、そうだ城明」
「ん?何かしら?」
「お前、私の弟子にならないか?」
「…………………え?」
「お前には才能がある。ちょっと齧った程度の弟子の指示で魔法を使ったんだ、このまま元の生活に戻るには惜しい才能だよ。それに、お前の体調不良は魔力の流れの制御が問題なんだろ?私の元で魔法を学べばそんな問題すぐに解決だ。どうだ?悪くないだろう?」
「……………………私は」
「まぁすぐにとは言わん。私も鬼じゃないからな、でもちょっと考えといてくれ。それじゃ」
「待って!」
「ん?」
「―――やる、やるわ。魔法使い。私はもっと成長したい、強くなりたい。不甲斐ない自分を捨てたい。魔法の力でもし大切な人を守ったり、誰かの力になれるのなら喜んでやってやるわ。如月さんみたいに」
お姉さんは一瞬、ポカンと口を開き驚いた様子だったがすぐにニヤリとその八重歯を見せつけて、
「………お前の覚悟、よーく伝わったぜ。今後ともよろしくな白亜。私の修行は厳しいぜ?」
「えぇ、よろしくお願いします。お姉さん………師匠!」
いつか、彼女のような誰かのヒーローになれならいいな。そんな淡い希望を胸に、父と母に誓って魔法の道を歩む覚悟を決めたのだった。
#########
如月視点
「うぅ………お腹痛いズキズキする………頭クラクラする。やっぱり無理があったか」
とある日の朝。今日も今日とて早朝の街を走っていた。もう冬が近いからか、午前5時の空は暗い。
白ペストマスクに刺された傷はまだズキズキと痛み、完全に回復したとはとても言い切れない。おじいちゃんからは超能力禁止令が出されてしまった。私の体はボドボドだ。
なのに私は走っている。なんか、体動かさねぇと落ち着かないんだよな。なまってしまう。少し前の自分なら絶対に有り得ない思考だ、なしてこんな体になってしまったんだーー!
いつもの走行ルート。ボタンを押すタイプの信号で数秒の休憩。まぁまだそんなに疲れていないが。
「ん?」
すると、横断歩道をまたいだ先に見知った人影を見た。何度も見て振り返ってしまう美貌、白鳥のように美しい白い髪にルビーのような赤い瞳。そのスタイルに似合わぬジャージ姿で、その少女はえっほえっほと両脚を上げていた。
「城明………しゃん?」
「あ、如月さん!ホントにいた!」
笑顔で信号が青になった横断歩道を渡りこちらへ向かってくる。
「な、なな何してるんですか………?」
「見ての通りランニングよ。如月さんと一緒で」
「なな何してるんですか!そんなことしたら体が………あれ、リボンは?というかその顔の火傷………マーリンさんに治してもらってないんですか!?」
「ちょちょ、落ち着いて。……お姉さん、師匠から聞いてないの?私、マーリン師匠の弟子になったの」
「なっ………!マジか………てかなんでそんな大切なこと私に言ってないんだあの夢魔野郎!ぶっ潰してやる!」
「師匠のことを悪く言わないで如月さん。私はほら、この通り、師匠から教えてもらった魔力操作のおかげで動いてもそこまで辛くないわ」
「…………ちなみにそれどのくらいで習得したの」
「えーと………20分くらいね」
「…………………………馬鹿な、私が何日もかかったやつを………」
「どうかした?」
「いやいやいや、何でもないです………。で、その火傷跡は?」
「これは、覚悟の証よ。魔法使いになるために、絶対に諦めないっていう証。いや……戒め、かしらね」
「戒め………ですか」
そう言って城明さんは自分の火傷跡を撫でる。分かる、多分彼女の覚悟は本物だ。超能力など使わずとも、目を見ればそれが本気だって分かる。
「それに、これなら男の人に絡まれにくくなるからね」
「やっぱ迷惑してたのか………」
「す、少しよ!少し!」
「にしても、城明さんがマーリンさんの弟子になったってことは………城明さんは妹弟子になるわけか」
「妹……妹かぁ。私、一人っ子だからお姉ちゃんに少し憧れてるのよ。ねぇ、姉さんって呼んでもいい?」
「え!?それはちょっと………」
城明さんが顔を少し赤らめて、変な提案をしてくる。姉さん……姉さん……なんて素晴らしい響き!けど、こんなの周りに聞かれたら。あと身長的に私の方が妹じゃない?
「ダメ……かしら。そうよね、突然ごめんなさい」
「いや!それはえーっとその………。姉さんは恥ずかしいから魔里って呼んで。えと、私も白亜って呼ぶから………」
「――えぇ、分かったわ。よろしくね、魔里」
「よ、よろしく白亜………ねぇ、なんか性格かわった?」
「別にー?そんなこと無いわよー。さ、行きましょう!ランニングの続きよ!」
白亜に手を引かれて、私達は二人で走り出す。待って!まだそんなに速くはぁぁぁ怪我人にもっと優しくぅぅぅ!!
「あはははは!」
「ちょ、ちょっと待ってー!」
そして、そんな二人をどこかで見かける魔女が一人。
「ふーむ、これなら二人で楽しくやってけそうだな!色々あったがこれでハッピーエンド!さ、私は朝ごはんの支度でもしてようかなー♩」




