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日本編15  超能力のひ・み・つ

如月視点




「っつー訳で、城明の件は片付いたとさ。おひたしおひたし」


「…………そうですか。……それは………良かったですね………」


「んあ?おいおい、そこはめでたしめでたしだ、ってツッコむところじゃあねーのかよ。…………なんだかとても疲れてんな、どした?」


「どうしたもこうしたもテメェが差し向けて刺客のせいだろうがぁ!こちとら大怪我してろくに動けねぇ怪我人だぞ!なのに安心して眠れる瞬間が1秒たりとも無かったわ!…………はぁ」


「呼んだっスか?」


「呼んでねぇ!てかまだいたのか、鏡史郎きょうしろう!」



 にぱー、と鼻をへし折りたくなるような挑発的な笑みを浮かべるのは引き篭もり学生占い師兼私の唯一の後輩、水面鏡史郎みなもきょうしろうだ。


 鏡史郎は何故かは分からんが、いつの間にか私の傍にいていつの間にか私に惚れてた奴である。顔立ちは非常に整っていて、声も高くスタイルもよくて普通に美少女の部類に入るだろう。  


 だが男だ。



「えー、自分特に何もしていないっスよ。なのにそんなご無体な」

 

「食事を口移しで食わそうとしたり、風呂入ろうと思ったらいつの間にか先回りしてたり、どさくさに紛れて洗濯物干しながら人の下着盗んだり、人の金でクソ高い出前勝手に頼んだり、布団の中に当たり前のように入ってきたり。まだあるぞ、これでも何もしていないと言い張るのか貴様」


「やろうと思えばもっとスゴいことしましたけど、そっちの方がお好みでし―――ちょ、押さないでくださいっスあぁ髪引っ張らないで痛い痛い痛い!」


「帰れ!!」



 ダンッ!!と力強くドアを閉め、鍵をかけた。


 ふぅ、これで邪魔者はいなくなった。この世の害虫を消すといい気分になるね!ほら、部屋の空気もこんなに澄んでいる………。




「まぁ、その悪かった。次からはしっかり言いつけておくから……」

 

「まずアイツに頼むことを辞めて欲しいですかね!」





#######




 ジャー、とマーリンさんが皿洗いする音とカタカタカタと私がコントローラーをイジる音だけが部屋に鳴り渡る。


 昼ご飯を食べ、暇を持て余した私は勉強するのも嫌だしかと言って昼寝するのも違うなーと思い久しぶりにゲームをしていた。


 格ゲーとか久しぶりにやるわ。苦手意識があったから、買ったはいいもののあまりプレイはしてなかったな。別に一緒にやる友達とかがいなかったわけじゃねぇぞ!?やなぎとかと一緒にやったりしたんだからね!


 インターネットに繋いで、さぁスタート。


 ………って何だあの相手のキャラ。見たことねぇぞ、追加DLC的なアレか?ふっふっふ、新入りが。初代から全作品にかけて登場している私の愛用キャラに勝てると思っているのか?いっちょ先輩の力ってのを見せてやるよぉ!




二分後………




 あっ、ちょ、ま、クソ!強いぞこいつ。フヨフヨ浮きやがって、ちょこざいな。やべぇ全然ダメージ与えられてねぇ、油断したら即ま―――だぁぁっつおお危ねええ!


 へ、ヘルメットがなければ即死だった………。


 この攻撃が厄介だ。ゲージが溜まると一定時間速くなって攻撃力上がるやつ。なんか赤くなるし煙も出るしよお、城明さんと戦ってた時の私みたいだな。



「………………………………………………………あ」


「ふーふふーん♪やはりコーヒーは砂糖ドカ入れにかぎr


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」


「うおっ!?なんだ急に叫んで―――あぁぁ私のコーヒーが!?」


「アレですよアレ!えーっと、あの……赤くなっ煙出ると強くなるやつ。アレの正体は何なんですかマーリンさん!」


「はぁ?なんのこっちゃ?」


 

 説明中……………



「………はぁ、なんじゃそりゃ。初めて聞いたぞそんな現象」


「えぇ!?何も分からないんですか?」



 城明さんと対峙してるときに突然発現した力。

 体が内側から焼かれてるように熱くなって、そしてあの暴走した城明さんと渡り合えるほどのドーピングが付与される。  

 確か、一か八か魔法を発動させようとして魔力を動かしまくった直後に起こった。そしてあの熱さは、この前魔力放出ができず、魔力が熱を暴発して酷い目にあった時の熱さに似ていた。


 この二つの出来事は決して無関係ではないはずだ。だから、専門家マーリンさんに聞いてみようと思ってたのだが………


 

「本当に知らないんですか………?」  


「だから知らないって言ってるじゃないか。知らんものは知らん」


「そんな……じゃあ素人の私はどうしろと……」


「知識もつけ、経験を積み、分からない現象を解明していくのもまた魔法使いだ。まぁ、いくつか推測は立てられるがな」


「え、あるんですか!?なら教えてください」


「待て待て落ち着け。今からその推測を確認しに出掛ける。というわけで行くぞ弟子。テレビの電源を切ってとりま着替えろ」



 マーリンさんは立ち上がり、薄着からせっせといつもの魔法使いっぽい服装に着替える。私はテレビの電源を切りながら尋ねた。



「行くって……どこにですか?」

 

「お前のじいさんの家」

 

「は?」




######





 家を出て、トテトテトテと歩くこと20分。

 この辺では広いくせに遊具が少ないスカスカなことで知られているとある公園までやって来た。


 公園には日なたぼっこしに来た老人や、犬の散歩に来た女性、テーブルベンチでママ友会が開かれている。

 怪我したという名目で学校を休んでいるので忘れてたが今日は普通に平日である。活気が少ないのは当然だ、テリトリー保有者であるちびっ子達は今は学校である。



「おい、本当にここにお前のじいさんがいるのか?どう見てもただの公園だぞ」

 

「まぁ見ていてください。うちのおじいちゃん、ちょっと………かなり………めちゃくちゃ………酷くヤバいや、ゴホンヤバい奴で」


「言い直せてねぇぞ」


「普通の住居に住みたがらないんですよ。だから、最近はここに住んでますね」


「ここって………もしかしてホームレスなのか?本当に科学者?」


「だから、見ていてくださいってば」




 私は数少ない遊具の一つであるブランコまで歩いた。柵をまたぎ、ブランコの下に置かれている事故防止のためのクッションマット。それを、



「えい」

 

「ん!?」


 

 力を入れてベリッと剥がす。すると、マットの下には謎の地下へと続く階段が姿を現した。完全にRPGとかに出てくる隠し通路である。



「お、おぉー!!」



 マーリンさんが少年のように目を光らせている。まぁ、気持ちは分かりますよ。私も初めて来た時は興奮を隠せなかったなぁ、今はもう慣れたけど。



「この下ですよ。あっけど、ここ見知らぬ人が入ると防衛システムが働くから私から先に……マーリンさん!?」


「なんだかすっげぇワクワクしてきたなぁこれ!おっさきー!」


「待てこのヤロー!先に突っ走ると私がグロテスクな物見る羽目になるでしょうが!」


『侵入者を感知 侵入者を感知 防衛システムを作動します』



 ポワンポワンと警鐘が鳴り響き、照明が警告色に変わる。あっ駄目だわ、こうなったらどうしようもねぇわ。とにかくマーリンさんがグロテスクな肉塊になる前におじいちゃんに止めてもらわないと!

 


 先に行ったマーリンさんを追いかけ、急いで階段を下る。下った先には横幅2メートルくらいの通路がまっすぐ伸びており、既に防衛システムが作動していた。


 ガチャガチャと音が鳴り、壁からレーザー光線銃みたいなのが飛び出してくる。赤いレーザーポインターがピピピピピと点滅し、容赦なくマーリンさんの脳天を撃ち抜こうとする。



「お、なんかそれっぽいそれっぽい!カッコイイなぁここ!奥には何があるんだ?」


「マーリンさん、危ない!!」


「んあ?―――なんだ、こんなもん」



 降り注ぐ光を、マーリンさんはハエをたたき落とす見たいに手ではね除けた。少しジューと焼けているが、マーリンさんの涼しげな顔を見るにそこまでっぽい。


 そういやこの人超強いんだった。というか人間でも無かったわ。………なんかもう心配とかしなくていいんじゃね?自分の身だけ案じてればいっか。



「この扉の向こうには一体なにがー?」

 

「あ、マーリンさんそれ触ると………っ!?」


「あ?」



 ザジュン!と。

 マーリンさんが一番奥の扉に近づいた瞬間、目にも止まらぬ速さで閃光の刃が彼女を上半身と下半身に絶った。ブジューと鈍い音を立てて、赤い血がそこら中にぶちまけられる。



「あぁぁぁぁぁマーリンさんぁぁぁぁぁん!!!???」


 

 そうだ忘れてたあの性格の悪いジジイは絶対初見じゃ分からないようなトラップを仕掛けてるんだった!!


 レーザー光線なんてフェイクだよフェイク!全てはこの為だけに造られた前座にすぎない。本命はこの大切断。たとえマーリンさんとて、避けれるはずもない。おじいちゃん曰く、ジェット機にも勝るとも劣らない速度にしてるとかなんとか!


 防衛システムはマーリンさんが死んだと判断し、警鐘を止め照明は優しい青色に戻る。



「マーリンさん!マーリンさん!大丈夫なんですよねいや絶対大丈夫じゃねぇなこりゃ!だって見事にに分割されてるし!ああぁぁどうしよう………!?」

 

「安心しろ弟子。死んでないし生きてるし死ねないし」


「ギャァァァァ喋ったぁぁぁぁぁ!?」


「喋るわ!!咄嗟に痛覚無効の魔法をかけれて良かったわ、そうじゃなかったら今頃激痛で泣き叫んでるぜ」

 

「よ、良かったぁ…………いや良くねぇな。大丈夫なんですかそれ………?元に戻るんですよね?ぶっちゃけ見るに耐えないんですが」


「幸い切断面がめちゃくちゃ綺麗だから、くっつけて30秒くらい放置すれば元に戻る。だからくっつけてくれ」

     

「バケモンかあなたやっぱり………うえぇ、ばっちいなぁ……」



 下半身にを動かして切断面にくっつけようとしたその時。ガチャ!と扉が開いた。そこから、誰かが覗いている。



「―――あ、おじいちゃん」

 

「ふわぁぁ………さっきから超うるさいじゃけど、辞めてくんね?てかどうしたんじゃ魔里、急に」


「――――おじい、ちゃん?」


 

 マーリンさんはそのおじいちゃんの姿を見て首を90度傾げた。



######





「えーとこちらが私のおじいちゃんです」


「…………なぁ、弟子。お前はこれを見て自分の祖父だというのか?」

 

「そうですね」

 

「いや、こりゃどう見ても女の子だろ」



 じと目で色々と私を疑うマーリンさん。

 まぁ、言いたいことは分かる。私達の目の前にいるのはどう見ても12歳ほどの少女だ。


 黒髪ロングというシンプルな髪型。そのシンプルさに相反するような裾は大きいが丈は短いへそが出る変わったTシャツに、短パン一丁。そこにマントのように白衣を羽織っている。


 顔立ちは非常に整っていて、まさに美少女といった感じだ。




「儂が女の子だとかそんなことはどうでもええんじゃよ。魔里、この姉ちゃん何者よマジで。さっきトラップに引っかかって一刀両断されてたよな?新種の不死身な生き物?それか驚異的な再生能力をもつミュータント?それとも全く別に宇宙テクノロジー!?………ほぉー、興味深い興味深い!ちょっと解体してええ?まずは脳組織からー」


「いやどうでもよくねぇよ説明しろ。おじいちゃんは女の子、なんて最近のラノベでもみねぇぞ」


「あん?そんなのはシンプルな理由じゃよ。老けた体じゃ不便だから体をバッキバキに改造してついでに女の子の体になったらお得かもなー程度じゃ。よし、細胞を傷つけないスーパー切断機持ってくる、魔里その姉ちゃん押さえつけとくんじゃ!」


「あいあいさー」


「ちょ、やめろ馬鹿!離せ!変なところ触るんじゃない!」


「触るところも無いクセに何言ってんすかw」


「テメェも大概だろうがよ!クソ貧乳!」


「んだとコラァ!?」



 そのあとめちゃくちゃボコボコにされた。そして切断機は破壊された。




######




「ほれほれ魔里見てくれ!最近新しいパーツをつけて拡張したんじゃ。スイッチオン、竜娘っ子セットー」



 ガチャンガチャンとおじいちゃんの頭部と尻部が稼働し、木の枝のような角と爬虫類のような尻尾が現れる。



「おぉー、毎回思うんだけどそれどこにしまってんの?」


「いや、なんだその機能。他にもあんのか?」


「もちのろん。犬娘、猫娘、狐娘、鳥娘、人魚娘、異型腕、異型脚、ロボット娘、メイド。もっと大きなパーツを交換すればお姉さんから男の娘までー」


「「おぉー………!」」


「じゃなぁい!!私達はそんなことを聞きに来たんじゃなかった!」



 ダンッ!とテーブルを叩くマーリンさん。

 その音が耳を通って脳に繋がり、はっとここに来た理由をたたき起こされる。



「あ、そうでしたね。…………で、何を聞くんですか?


「なんじゃ、儂に聞きたいことでもあるのか?」


「じいさん、この弟子の頭の中身を教えてくれないか?」


「は?」


「えっと、頭の中身というかこいつにあんたが施したっつう超能力手術について知りたいんだ。魔力放出には脳や脊髄にある魔力核が大きく関係する。もしかして……と思ってな」



 なるほど、と手をポンと叩く。


 魔力核とは、魔力を扱う上で最も重要な器官。実態はなく魂と似たような物だとされるが、確実にそこにあり脳や脊椎などに存在すると言われている。


 意識を魔力核に接続することで魔力を操るスイッチオンオフを決める。私は猛特訓の末、意識を魔力核に接続するところまではできた。

 だが問題なのはここからで、体内の魔力を操れたのはいいものの一向に外に放出できないのだ。魔法の構築ができても、外に出せなかったら意味が無い。銃口のないピストルのようなものだ。


 マーリンさんはこれを、超能力手術による脳の変化によるものではないかと考えたわけだ。


 おじいちゃんは不思議そうにありもしない顎髭を擦りながら、



「別に構わないが、これ結構ヤバメのやつだから周りにバラしたりするでないぞ?これに限らず、ここで見た資料とか全部じゃ。これ目当てに、何回他の科学者に襲われてると思っとる」


「そこは大丈夫だ安心しろ。別にあんたの科学技術にはそう興味は……いや、少しはあるな。まぁいい、とりあえず見せてくれ」


「ほいほーい。ちょっと待ってな、取り出すのに結構時間かかるかも。おーいマントラやー、手伝っておくれー」


「マントラ?」


『告。ただいま充電中おひるねちゅう、自分でやれジジイ』



 すると、家全体に響き渡る機械的な女の子声のアナウンスが聞こえた。そして無駄に高音質。それに驚いたマーリンさんの背中がビクッと震える。思うが、この人突然の事によく驚くよな………。



「うお!?なんだこのアナウンス。もしかしてこれがそのマントラって奴か?」


『肯。私は如月典魔様に造られた全自動自立型高性能お手伝いアンドロイド「マントラ」でございます。おはようから次の日のおはようまでつきっきりでサポートさせて頂きます。これで満足ですかこのやろー』


「マントラやー、それ一昨日も聞いたんじゃがー。お主の充電ってれーパーからでも一時間で満タンになるはずなんじゃがー。またサボり?」


『否。決してサボりではございません。機体の一部に異常が見られ、充電状態が芳しくありません。しかしこの程度なら自力で直せますので、典魔様はお気になさらず』


「それも一昨日聞いた。昨日ボディチェックしたから壊れてるわけないじゃろ」


『黙。…………………………………』



 そう言ったきりマントラはだんまりを決めた。リビングはなんとも言えない沈黙に包まれ、ガサゴソとおじいちゃんがものを漁る音だけが聞こえる。



「高性能アンドロイドのくせになんか馬鹿じゃない?こいつ。会うたびに人間っぽくなってってる気がするんだけど。悪い方に」


『黙れシマパン』


「ななな、なんで知ってんだよぉ!?」


「ほぉ、お前割と大胆な下着つけてんのか。シマパン………ぷふっ!」


「ちがっ、これが安かったからですよ!下着にいちいち金かけてられ……じゃなくて、なんで知ってんだアホロイド!」


『答。私は全世界のネット機器に簡単に接続できます。あなたの部屋に仕掛けられているカメラを通じて知りましたが何か?』


「は?なんで私の家にカメラなんか……………あ」



 私の脳裏に、「てへぺろ!」と舌を出し頭を小突くド変態占い後輩の姿が映った。



「あんにゃろぉぉぉぉぉ鏡史郎ぉぉぉぉぉまたあいつ人の家に盗撮カメラ仕掛けたのか!!おじいちゃん、ちょっとカメラ破壊しにいってくるぁ!」


「おう、気ぃつけるんじゃぞー」


鏡史郎あいつ前科何犯あるんだ…………?」




######





「ただいまー………………」



 全速力で家に戻り、隣の部屋に住む鏡史郎に我ながら見事なバックブリーカーを決めカメラを破壊してきた。プロレス技で締められてるというのに、何故か鏡史郎は幸せそうな顔をしていた。素でめっちゃキモイと思いました(小並感)



「おかえり弟子ー。じいさんのおかげで色々と分かったぞー」



 ドアを開けると、紙を丸めてポンポンと叩くマーリンが出迎えてくれた。疑問を解消できてスッキリしたかのような表情だ。ということは………



「分かったんですか?あの『熱』の正体」


「あぁ。完璧……とまではいかないが、恐らくこれだろう」



 マーリンさんは丸めた紙をテーブルに広げる。そこには全く分からない図や数式(?)文字列がダァーっと並んでいた。読むだけで頭が痛くなりそうだ。これが超能力手術についての資料なのだろうか。



「これを見てもらえば分かると思うが、お前の超能力の原理はかなりヤバい。じいさんの解説がなきゃ解読不可能な怪文書だ」

 

「いや見ても分かりませんけど………。で、その内容ってどうだったんです?私は脳みそをちょちょいと弄くった程度にしか聞いてないんですが」

 

「色々と端折って説明するとだなー………。結論から言うと、この超能力手術の正体は魔力核の改造だ」


「魔力核の、改造!?」



 何を馬鹿な事を。

 魔力核には実態がない。意識的に存在は確認できても、目視することはおろか手を加えることなど不可能だ。


 眉をひそめる私に同意見なのか、マーリンさんもうんうんと頷く。しかし、現実はどうも違うようだ。



「分かるはずのない魔力核。それをお前のじいさんは科学的に証明して物理的に干渉しやがったんだよ………ったく、何千年もかけて常識だったことをいとも簡単に覆しやがってよぉ………」



 あのマーリンさんが、魔法のことでため息をついて頭を抱えている。魔法初心者である私にはイマイチピンとこないが、魔法界では世紀の大発見も大発見らしい。


 当の本人はというと茶柱が立って喜んでいる。呑気なジジイだまったく………。



「うーん詳細は色々省くが、術式の組み立て及び魔法の行使に重要な魔力核を無理くり改造しやがったんだ。だが、そのせいで魔力を放出するための『穴』が壊れちまってる。とんでもない発明だが、これはあまりにもこの世の理に反しすぎている………欠陥品なのも頷けるな」


「え、じゃあ超能力の正体って………」


「魔法の亜種みたいなものだな。まったく別の系統になるが、原理は似たようなもんだ」



 なん……だと………!?

 知らず知らずのうちに私は魔法を使っていたというのか!!というかおじいちゃんスゴいな!?尊敬通り越してもはや恐怖よ………そんな不安定な実験を実の孫に施したってのか。おい、口笛ふいて誤魔化すな!

  



「あれ。でも、それとあの熱のパワーアップは何が関係してるんですか?」



 『熱』のパワーアップ。魔力を循環しまくったときに発生する熱だとは思うのだが………なぜに力やスピードが増すのか。

 

 

「そう!そこなんだよこの超能力手術の酷いところは!超能力に必要なエネルギー………超能力エネルギーとでも言っとくか。それの放出効率を良くするあまり、魔力の放出ができないようになってるんだ。だからいくら魔力核に接続して魔力を放出しようとしても、そもそも穴がないんだから魔法を使える訳もないんだ」


「―――――まじすか」


「そして『熱』のパワーアップについてだが、魔力は体を動かしたりするのにも必要なエネルギーだって話はしたよな?放出できずに溜まった魔力は全て身体能力の底上げに使われる……ついでに、発生した魔力熱によって全身は燃え上がるように熱くなり、蒸気が出たりする………これが『熱』の正体だ」





#######


 



 地下から出ると、既に空はオレンジ色に染まっていた。時刻は午後5時くらい。つい最近まではこの時間でも明るかったというのに、と秋の到来を感じずにはいられない。公園にはトンボが飛んでいて、今日も今日とてつがいを探すためナンパに勤しんでいる。


 そんな元気ハツラツなトンボとは正反対に、私はやる気のない足取りで公園を出た。


 ――――私は魔法は使えない。決して。


 超能力の正体解明とともに、悲劇的な事実も判明した。



「…………………………はぁ」


 

 深い深いため息が出た。怒りとか悲しみとかその他諸々の感情をそれに乗せて吐き出した。そうしなかったら、情緒がどうにかなってたかもしれない。


 ―――やっと、やる気になれるものが見つかった気がしたのに。今度こそ最後までやってみようと思えるものと出会えたのに。


 始まる前から既に挫折していたなんて、随所と酷いじゃないか。残ったのは無駄に多い体力と、もう使うことのない中途半端な知識だけ。


 今までの努力をドブに捨てるように、現実という悪魔がケラケラと嗤ってるような気がした。『お前は所詮、何もできないんだ』と。


 沈みゆく太陽を見る。あの方向の、奥の奥には約束を誓った唯一無二の親友がいる。立派な魔法使いになって、魔法を教えてやると宣言した彼女がいる。



「…………………………ごめん柳。約束、守れないや」


 

 無念と無力さに打ちひしがれながら、人っ子一人いない道を無気力に歩き続けた。



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