日本編14 母を訪ねて三千里
城明視点
「なぁなぁ、お前の家ってスゴイ企業だって聞いたが具体的になんの企業なんだ?」
「ええと……、宝石とかを扱うジュエリー業界の企業ね。世界の中でも結構上の方らしいわよ」
「えぇ………なんか他人事みたいな口調だな。そんなスゴイところのご令嬢なら、会社を継いでーうんたらかんたらーみたいな話にはならないのか?」
「なってないわね。母は私には自由に生きて欲しいって言って、自分からは会社の話はあまりしなかったの」
「ふーん………」
夜が明けた。
うどんを食べ終わった後は満腹になったからか、はたまた多大なる情報量に頭がパンクしたからか、長い時間寝てた後でもよく眠れた。
目覚めたのは、おはようと言うには遅すぎるし、こんにちはというのも早い気がする、そんな時間帯。私とお姉さんは学校を無断欠席してまで、あるところに向かっていた。
我らが日本の首都、東京である。
お姉さんは新幹線に揺られながら、
「しかし……何故家が東京にあるのにお前は北海道にいるんだ?普通に親と一緒に住めばいいだろう。それともあれか?もしかして喧嘩でもしてんのか?」
「わざわざ喧嘩で北海道まで来ないわよ……。単純に東京は暑いからよ」
「え?それだけ?」
「死活問題よ!暑いってだけで、生命活動に大きな支障をきたすわ。まず人が多い時点で熱気でムワンムワンしてるのに、その上太陽が暑いわ。クーラーなんて所詮意味がないわ熱湯をぬるま湯にしてるようなものよ。しかも昨今の地球温暖化現象のせいで年をまたぐごとに暑くなる!暑いというか熱いわ!早急に解決すべき問題だと私は思う。とはいっても、北海道の夏も割と暑いのだけれど、東京よりかは遙かにマシよ。あぁ速く冬にならないかしら。冬になったら、絶対に北海道のサラサラの雪に薄着でダイブしたいわ……」
「お、おう………………」
………っは!?
しし、しまった。つい熱く語りすぎてしまった。だ、誰かに聞かれてないかしら……!?
「ううぅ……恥ずかしい……ごめんなさい」
「ハーブ」
「あぁぁぁ……いくぅぅぅ」
気を取り直して。
「そういえば、如月さんはあのまま北海道に置いてきて良かったのかしら。まだまともに動けないんでしょう?何かあったら………」
「安心しろ。並の野郎じゃ絶対に解けない結界を二重に貼っておいたし、トラップもしかけといた。何より、対弟子のプロフェッショナル……ソムリエ……護衛、もとい変態を呼んだからな。大丈夫だ」
「?」
《一方そのころ、如月の家では………》
「ハイ先輩、あーん♡」
「………自分で食べれるよ」
「えーでも先輩の腕まだプルプルじゃないっスかぁ。まともに箸も持てないくせにー。ほら意地張ってないで、はい」
「………す、スプーンとかならまだ」
「そう言ってさっき溢したじゃないスか。もう、しょうがないっスね。じゃあ………」
「で、なんでお前が食べるんだよおかしいだろ」
「それは勿論、口移しで食べさせるからに決まってるじゃないスかぁ。言わせないでください、恥ずかしい……///さぁ、カモン!」
「誰がお前なんかに私のファーストキスをやるかぁあと頬を染めるな気持ち悪いそして食べ物を口に含んだまま話すな行儀悪い!てか、なんで私からいくんだよ!やるにしてもせめてお前から来いやぁ!!」
「え、先輩ってキスは受けの方がいいんスか。じゃあ遠慮なくぅ………」
「違うそうじゃな、うおおおおおこっち来るなぁァァァァァァァァァァ!?!?!?!?」
######
「んまぁ大丈夫だろ」
「それ大丈夫なのかしら…………?」
そんなこんなで、函館から青森へ、青森から東北新幹線を乗って一気に東京まで辿り着いた。
暑い。少し緯度が下がっただけでこの暑さだ。もう秋だというのに、季節はちゃんと仕事をしているのだろうか。九州や沖縄まで行ったら恐らく私は氷のように溶けてしまうだろう。
だがそうも言ってられない。今日は学校を休んでまで、ここまで来たのだ。暑さに負けてはいられない!
「さぁ、行きましょう!お姉さん」
「うん。じゃあいい加減駅から出ない?暑いのは分かるけどさぁ」
ところで、何故私達が東京まで来ているのかというと勿論訳がある。それは、母に会うためである。
お姉さんは、私の身体の異常は悪魔による影響ではなく私の身体そのもの、体質もとい遺伝によるものではないかと考察した。
その場合、私の両親あるいは片親は人間ではない可能性が高い。私はそれを確かめるために、母の経営する会社がある東京までやって来たのだ。別に、聞くだけなら電話などでも良かったのだが、こういうのは直接話を聞いた方が良いだろうと思った。あと単純に、久しぶりに母に会いたくなったのである。
「なぁ、母親に会いに来たのは分かるんだけどよ。父親はどうなんだ?父親も会社にいるのか?」
「―――父は、とっくの昔に他界したと聞いているわ」
「聞いている?」
「父に会った記憶はないのよ。私が生まれてすぐに事故で亡くなったらしいから………強いて言うなら、いつもつけてたリボンが父の形見………あ」
そう、だ。
リボン、リボンだ。私がいつもつけていた、無駄に紐の長いリボン。母が私の10歳の誕生日にくれたあの赤いリボンだ。曰く、父が生きていたころに準備していた特別製のものだとかなんとか………。
そしてあれは、盗っ人に捕まったときに髪と一緒に斬られてしまって……。確かその直後だ。意識が遠くなって、私の中の『何か』がプツリと切れたのは。
「リボン………もしかしたらあれに秘密があったのかも」
「あん?日陰を飛び出して急にどうした?」
「急ぎましょうお姉さん。母に聞きたいことが増えたわ!」
「お、そうか。じゃあ飛んだ方が速いな。おい、会社ってどこの方向にあるんだ?」
「えーと……ここから南西方向ね。それがどうし、きゃあ!?」
お姉さんが急に私の襟首を掴む。すると、世界が急速に浮き上がった。
「と、飛んでる!?魔法!?これも魔法なの?待って、ちょっとお姉さん待って!!」
「ビルばっかだなー東京って。分かんねぇからそれっぽいところあったら言ってくれ。飛ばすぞー!」
「ちょ、まっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
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「なぁ、思ったんだけどよ。最初っから飛んで行けばわざわざ新幹線なんか乗らなくてもすぐこれたんじゃね?今更か、はっはっは!」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」
良かった!新幹線選んで、本当に良かった!死ぬかと思った!速すぎる………新幹線とまではいかないが、時速100キロくらいは出てたのではないだろうか。
マズイ、頭がクラクラしてきた。吐き気も少し………ウプ。
「おい、大丈夫か?顔色悪いぞ?」
「いえ、大丈夫よ………もうちょっとしたら治るから。ごめんなさい」
「………まぁいいけど。そんなことより、でけーなーこのビル。他にもデカイのはチラホラ見えたが、中でも頭一つ抜けてデカいぞ」
目の前には、札幌のテレビ塔を上回る巨大な建物がそびえ立っていた。まさに、ザ・ビル。大企業の本社に相応しい立派で大きな建物だ。
ここに来たのは初めてじゃないが、やはりそのスケールには圧倒されるものがある。お姉さんには目新しいのか、ビルの周りを興奮気味でウロチョロしていると、警備の人にギロリと睨まれた。
「お姉さん速く入りましょう。警備員さんがこっち見てる……」
「ん?そうか?ちょっと待ってくれよ、きっと隠し扉的なのがこの辺にあるはず……そしてその奥には秘密組織のアジトがある………あ、おい先に行くなよ!」
大きな自動ドアを通り、ついに会社の中に入る。だだっ広いエントランスの内装は思ったよりシンプルで、白を基調にした壁にはビル内の地図や広告ポスターなどが貼ってある。フカフカそうな長い椅子が三組ほど、対面する形で置かれていて、それ以外は特になかった。
私は受付まで行き、自分の名前を名乗って母に会わせてほしいと頼むと、「少々お待ちください」と言われしばらくすると上に上がれと言われた。
エレベーターのボタンを押し、指示された階の数字を押す。大きなビルなだけに、待ち時間が長い………エレベーターが来るまで5分くらい待ったし、人が多いし、暑い………エアコン効いてるのかしら?
チーンと到着を報せる音が鳴り、ゆっくりとその扉が開く。落ち着いた雰囲気の廊下を歩くと、デカデカと社長室と書かれた部屋の前に立つ。そしてドアノブを手に取って、私は固まってしまった。
「……………………」
な、なんか緊張する。ドアの奥からビシビシと感じる、何というか、社長オーラ的な威圧感に当てられているからか、久しぶりに母と会うのがぎこちないからか、それとも真実を知りにいくからか………。
額に汗が駆け巡った。息が荒くなっていく。肺が見えない何かで締め付けられてるみたいだ。心なしか吐き気もしてきた。落ち着け、落ち着け―――。
「こんちゃーす」
「んな!?」
私がウダウダしてる間に、お姉さんは私の手をドアノブから引き離し、ドン!とノックもなしに豪快にその扉を開く。
部屋の奥には、突然の開扉にも動じず待っていたと言わんばかりにイスに座る女性がいる。白い髪を肩の辺りまで伸ばし、耳には小さな宝石のイヤリング。40歳を越えてるとは思えぬその若々しさとスタイルに恥じない藍色のスーツは、できる大人の女性という印象を与える。
「―――お母、さん」
「久しぶりやな、白亜。元気にしとったか?」
「ぶふぁ!?wwwwww」
見た目に似合わぬ関西弁にお姉さんは盛大に吹き出した。
#######
「今は関西弁にハマってるの…………?」
「せやなぁ。関西弁って、思ったより話しやすいで?前は博多弁でその前は出雲弁やったかな。そっちはあまり馴染めなくてなぁ」
「普通に標準語で話せば楽だと思うのだけれど」
「んーそれもそうやけど、やっぱ話し方も変われば気分も変わるしやり方、手口も変わって色んなアイデアとかも浮かんでくるもんやで?公の場ではちゃんと標準語で話しとるしええやろ!ハハハ!…………ところで、そこでまだ笑い転げてる姉ちゃんは?」
「あ、この人はその………」
「ひひひひひひひ!………あ、あぁー腹痛え。不意打ちにも程があるだろ、あんた面白いな。私の名前はマーリン、こいつの付き添いで来た、まぁ………有識者ってとこかな」
「ほーん、有識者ねぇ…………」
その言葉に眉をひそめ、意味深に呟くお母さん。
私は鼓動する心臓を落ち着かせ、意を決してお母さんの方へ足を踏み出す。互いにしっかりと顔を合わせた状態で、私は口を開いた。
「あのねお母さん、聞いてほしいことがあるの。信じられないかもしれないけど、これから言うことは全部本当よ。そこのお姉さんも関わってるわ」
「―――話してみぃ」
私は自分が突然暴れ出してしまったこと、沢山の人に迷惑をかけて、傷つけてしまったこと、学校で出会った如月さんとお姉さんに助けて貰ったこと、私の中に悪魔がいるということ、あれこれ構わず全部話した。
お母さんは途中で口を挟まず、ところどころ頷きながら無言で聞いてくれた。戸惑う様子も、疑う様子も無かった。まるで、最初から全部知っていたかのように。
「―――とういう訳なの。お母さん、単刀直入に聞くわ。何か知っていることがあったら教えてほ――――むぐ」
言葉を言い切る前に、柔らかくて温かい感触に顔が覆い尽くされた。手の平が頭に乗せられて、もう一つの手の平が背中を
優しく撫でる。
「―――良かった。白亜が無事で本当に良かった」
「――――――」
お母さんはこの世の何よりにも感謝するように、言葉を溢した。それが涙となり、頭の上で波紋となって広がるのを肌で感じる。
なんか、すごく泣きそうになった。今まで溜め込んでた不安や罪悪感、恐怖が今だけは全て弾け飛んだ。正直、親のことをすごく疑っていた。
実は両親は極悪な科学者でキメラ実験とか非人道的な結果の末に生まれたのが私かもとか、両親とも人知を超えた化け物なのかもとか、私に悪魔を植え付けた悪魔崇拝者的なのかもとか…………。
そんな子供のようなくだらない妄想があった。けどそんなの杞憂だった。杞憂すぎた。お母さんは、お母さんだ。科学者だろうと化け物でろうと悪魔崇拝者でもどうでもいい。今この瞬間、母の愛を一身に受けているのを実感したからこそ言える。
たとえ私がどんな存在でも大丈夫だ。何故なら、私はこのお母さんの子どもだという事実は変わらないから。
「―――お母さん、ちょっと苦しいよ」
「私は凄く幸せよ?」
「物理的に苦しいの私が…………ありがとう、お母さん。お願い、お母さんが知っていることがあるなら教えてくれない?知りたいの、私が何者なのか、私の力は何なのか。大丈夫、どんな答えでも受け止めるわ」
私はお母さんの目を力強く、覚悟を込めた瞳で見つめる。それに応えるようにお母さんはゆっくり頷いた。ゴホンと咳払いをし、口調を元に戻して語り始める。
「白亜、確かにあなたは普通の人間じゃあらへん。私と、お父さんの子どもやしな。あっでも私は純度百の人間やで、普通じゃないのはお父さんの方」
そういうお母さんはケータイを開いて写真のファイルを漁り始める。そういえば、何気にお父さんの写真は見たことが無かった。お父さんの人柄や思い出話は少し聞いたことはあるが、具体的な容姿は知らない。お父さんの方の親族もいないから、私の中のお父さん情報は少ない。
強いて言うなら、少し毛が濃い男だったとお母さんは語っていた。もしかしたら立派な髭のダンディーなオジサンだったのかもしれない。
「えーとどこやったかなー、結構昔のやからなー。えーとえーと…………あった!これやで」
「どれどれ」
「どれどれ」
お姉さんも一緒になってスマホの画面を覗き込む。そこにはニット帽を被り登山ウエア着た若き日のお母さんの姿。今と大して変わってないのすごいわね…………髪の長さが違うくらいしか相違点がないわ。
そしてその隣に、お父さんがいた。
「―――――なぁ、っ」
「まじかよ」
驚きで声を上げそうになった。なんなら驚きが強すぎて声も引っ込んだ。確かに、父親がどんなに普通じゃない人でも受け入れる覚悟はできていた。けど、これは、どう見ても――――、
「お母さん、ここここれってててて」
「うん、雪男やで」
まず人間じゃなかった………………
######
「え、ちょ、雪男ってあの雪男!?というかここどこ!?」
「エベレスト」
「エベレスト………!?」
雪男。
それはネッシーやチュパカブラに次ぐ昔から有名な未確認生物、UMAだ。
写真にはお母さん三人分くらいありそうな巨大に全身白い毛で覆われた霊長類のような生物がいて、確かに雪男と言われれば納得がいくほど特徴が合致している。
「けど、え!?これが本当にお父さんなの!?」
「ほんま言うとるやないか。あんたの父親は正真正銘の雪男や。あれは私がまだ起業してなかった頃やなー。
今はやんなくやったけど昔は生粋の山ガール、世界のあちらこちらの山を登りに行ったもんや。んで、いざ世界一の山エベレストへ!と思ったら山で遭難して死にかけてなーあっはっは」
何とんでもエピソードをケラケラ笑いながら言ってるのかしらこの人………。
「そこで偶然通りかかった私を助けたのがお父さんで、それが出会いやった。もちろん私も最初は驚いたで?でも話してみるとめっちゃ紳士的で初心でかわいいのよこれが。いやー今でもお父さんの入れた紅茶より美味い紅茶は飲んだことがあらへんなー」
「随分とギャップ萌なやつだな雪男ってのは。それでそれで?どうやって恋に発展したんだよー」
「なんでお姉さんがそんな食いついてるのよ…………」
男勝りな口調や性格な割に、恋バナとかには興味津々のお姉さん。それこそギャップ萌だわ…………。
「えーそりゃ、関わっていく内にお父さんの優しさとかカッコ良さとか内気に見えて実はちょっと強引なところだったりとかー。キャー!言わせんな恥ずいやろ!」
「私も恥ずかしくなってくるからやめてお母さん…………」
「ん?そか?まぁ若い頃とはいえ中年の惚気話聞いても面白くないわな。せや、重要なのはこっから。白亜が生まれてからや」
すると、さっきまでの陽気なお母さんの口調から一変、表情は強張り真剣味のある口調へと変わる。そこにはどこか、いつも明るい母とは思えない寂しげな郷愁さを感じた。
お母さんはお父さんの写真を眺めながら、
「白亜は生まれてすぐ、死にかけやった。白亜は人と獣人の間の子、交配には成功してもその後が問題。獣人の、魔力をふんだんに帯びた性質と人間の性質は共存することができず、肉体が内側から破裂寸前やった」
「そうだったの………!?」
「なるほどなー。人間と別種の交配、いわゆる亜人と呼ばれる奴らは片方が片方の性質に耐えられずに生まれてもすぐに死んじまうケースが多い。生まれて間もない赤ん坊が溢れ出る魔力の流れを制御できるわけもねぇしな。
魚と鳥が交配に成功しても、その子どもが空を飛べて海も泳げる訳じゃねえってことだ。んで、その問題を解決するため召喚されたのが――――」
「――――クロケル」
私の中に潜む、腐食という世にも恐ろしい力を持つ悪魔。その正体は、魔力の流れを制御し私が死ぬのを防いでいてくれた命の恩人だったのだ。
「お父さんは獣人にしては珍しく魔法に精通しとった。その知識をフル活用し、悪魔を召喚して、そして死んだ」
「――――え?は?な、なんで召喚しただけで」
「ばーか。悪魔の力を借りるには『契約』が付き物だ。フィクションでもよくあるだろ?無償で手を貸してくれる悪魔なんてそれは悪魔じゃねぇ。それも地獄の公爵クロケル様だ、ドギツイ要求されたんだろ」
「その通り。悪魔の要求は、人間が50年間に精製するとされる魔力量、それを一度に寄越すことやった」
「人数に換算すると、ざっと成人600人くらいだな。でも死んだってことは…………」
「―――――まさか」
全部、一人で…………?
正直、魔力とか契約とかはよく分からないけど、お姉さんの発言からしてそれには人の命600人分の重みがあるということ。
―――600人分の命。
言葉にするのは簡単だが、それが意味するのはとんでもない数字と重みであるくらいは素人の私でも容易に想像できる。そして、想像する度に全身の血の気が引いていく。
想像を絶する苦しみと葛藤、そして死ぬもしれないという生命が持つ根源的恐怖。おそらくそれは人でも雪男でも変わらないだろう。
その代償を父はたった一人で支払ったのだ。痛みも苦しみも葛藤も死も全て受け入れて。私の――――、
「私のせい、で―――」
「………………………」
「まっ、そういうこった。私が知ってることはこれが全部。白亜が知りたいことは分かった?」
「…………あの、リボンは」
「あ?リボン?あーあれな。お父さん曰く、成長すればもっと魔力が増えて悪魔だけじゃカバーしきれなくなるからそれを調整するための……霊装?やっけ。らしいで…………ってか、リボンはどしたんや白亜ぁ!?」
「え、そんな大事なものだったの………」
なるほど。おかげで私の暴走のトリガーが分かった。盗っ人にリボンを切られてしまったために、今まで安定を保っていた体調が一気に瓦解したのだ。
「あ、でもどうしよう……!すごく大事なもの壊されちゃった!?わ、私これからどうなるのかしら?」
「心配すんな、私が新しいの作ってやる。魔力を調整する装置ってんなら二流の魔法使いでも作れるぜ」
「何から何まで………ほんまにありがとうございます。ほら、白亜も頭下げぇ」
「えぇ。お姉さん、迷惑をかけてしまってごめんなさい。その……よろしくお願いします」
「……………………」
「ど、どうしたの?」
「んいや、別に」
こうして、私の体の謎は解けた。
色々分からないことや、考えることは山ほどあるけれど、一番知りたいことは知れた。
けど、一つどうしても引っかかることもある。
暴走の引き金となったのが魔力の調節を行っていたリボンの損失によるものなら、あの時のモヤモヤした感情は何だったんだろうか。
怒っているような、悲しんでいるような、ぱっとしない初めての感情。ただ一つ分かるのは、これは感じてはいけない感情だ。悪いものだ。
てっきりあれが何かしらの原因になったのかもしれないと思っていたが、違うというのなら、一体、何なのだろうか。
「―――――」
私はそれ以外考えようとするのはやめた。なんだかそれ以外考えると、頭がどうにかなりそうだった。




