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日本編11  熱


 え?何これ?


 何でさっきまで凍ってた腕が溶け………何で城明さんはあんな吹っ飛んで………魔法は発動してない………あれ?  


 いや、そんなことよりもだ――――



「熱!?あっつ!?!?熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いんすけど!?!?ふぅ、ふぅ!」



 全身がマグマ風呂にでも浸かったかのように熱い。全身が、心が、精神がことごとくあっっっつい!!暑い、じゃないからな、熱い、だからな!!


 心臓が炎にでもなったのかと錯覚する。不可解なのはそれだけじゃない。体中からは蒸気が火山温泉の如く溢れており、肌の色は血液のように赤い。


 ―――この感覚、あの時に似ている。あれだ、えっと………そうだ!私がマーリンさんに南極海に投げ飛ばされた時のやつだ!

 魔力放出ができずに永遠と永遠と魔力をぐるぐるしてると、体が熱くなったときのあれだ。先程も、魔法は出せずに魔力を回しまくった。


 結果、腕の氷が一瞬にして溶けるまでの熱量が溢れ出てる。



「一体何が起こってるんだこりゃ………」


「グルルルルル……………」


「あ、やば――――」


「ラァァァ!!!」



 一発喰らわされたのが腹立たしかったのか、雑に飛び掛かってくる城明さん。避けようにも、私の足は生まれたての子鹿のようにプルプルで、とてもあの攻撃を避けられる気がしない。


 しかし、何かしなければ殺される。動け、一瞬でもいい。動け動け動け、動け!!



「――――あ?」



 ダンッ!!と。世界が反転した。

 私の両脚が地面を砕いて飛ぶ。その跳躍スピードは尋常ではなく、目の前にいた城明さんはもう握り拳サイズに。10メートルほどの空中で、逆さまの体勢になった私は慌てながらも体操選手のようにクルクルとバク宙して着地した。



「…………なっ、ぁあ」

 


 今、跳んだ………のか?この足で?あのスピードで?しかも華麗に着地対応?痛みも傷も残ってるのに?素の時よりも高い身体能力なのは何故?


 城明さんも目の前の敵が突然消えたことが不可解なのか、キョトンと首を傾げている。私も首を傾げている。

 

 考えられるとしたら、この体の異常しかない。これは素人の私の推測に過ぎないが、ここ最近の走力や跳躍力などの身体能力上昇、この熱、更にこのパワーアップ、私が魔法を出せないこと。


 これらは一連して何か関係があるのではないだろうか。そうだ、そうに違いにない。そうに決まっている。そうじゃなかったらほんとなんなんですかね。



 

「ァァァアウゥ!!」


「ま、また来る……!!」



 

 城明さんはビョン!と跳び上がった。木から木へ、電柱から壁へ、また木へ。縦横無尽に周りを駆け巡る。その速さは常人に目で捉えるのは不可能に近く、現時点私も視界が片目だけなのも相まって分からない。

  

 真正面からでは避けられると判断したのだろう。四方八方から攻撃を仕掛けられる体勢にすれば、攻撃を加えられる。そして城明さんはそれができる。ヒョウのような眼光を光らせ、二つの線が宙に無規則に引かれる。



「―――――――――」



 落ち着け、落ち着け。

 敵はそこにいる。見えないといっても、透明になってるわけじゃなければスターをとった配管工みたいに無敵なわけじゃない。


 マーリンさんは言っていた、見えなければ聞けばいい。聞けないのなら感じればいい。感じれられないなら自分かんを信じろ。伊達にマーリンさんにしごかれてない。


 ふぅ、と深い息を吐いて――――




「――――そこぉっ!!!!」


「ウグエッ!?!?」

 


 一撃!

 強烈な後ろ回し蹴りが飛び掛かった城明さんの頬を正確に貫く。何本か小山の木をへし折りながら、弾丸のように吹っ飛んでいった。


 さっきはよくも顔面を殴ってくれたな!お返しだこの野郎!!…………しかし、すごい飛んだな。単純なパワーも上がってるのか、これ。


 ―――いやいや、油断するなするな。しっかりと城明さんを見ろ。


「ラァァァウ!!!」


「ほら来た!」

 


 ドコン!と埋もれていた土や木を吹っ飛ばし立ち上がる。タフなやつだなーと思ったが、まだまともな攻撃は二回しか当ててなかったわ。


「グルルルルル……ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」


 だがそのたった二回でもご立腹なのか、形相を鬼に変え、額に血管を浮かび上がらせて彼女は咆哮する。すると拳を握り締め、それを自身の左胸に押しつけた。

 


「…………ッッ!?」



 瞬間、全ての空気がそれ(・・)で凍り付いた。恐怖で心臓が跳ね上がる。


 どす黒く、見ているだけで吐き気を催すおぞましい何か(・・)が彼女の胸から漏れ出した。闇より暗く、宇宙より深く、心より冷たい。ぐぐぐぐっ、と鞘から刀身を抜き出すみたいにどんどんとそれを胸から引き抜いていく。



「あれは…………」



 明らかに今までとは違う。桁違いの圧が、殺気が、魔力が、私を押し潰そうとする。見たくないのに、目玉が誰かに操られてるみたいにそちらに向いてしまう。引き寄せられてしまう。飲み込まれてしまう。


 ――――『神秘』。


 あの『氷の剣』こそが、荒木さんを死に追い詰めた彼女の切り札。『腐食』の正体なのだ。





#######






 ヤバい、あれはヤバい。本当にヤバい。さっきまでのバーサーカー城明さんが可愛く見えるくらいだ。………いや、正確に言うと恐怖のベクトルが違うか。

 

 城明さんに対する恐怖は、単純に暴力や凄まじい力などに対する防衛的な恐怖だ。デカイ蜂が部屋に入ってきたらビビる心理状態に近い。


 けどあの『氷の剣』は違う。未知の存在、『分からない』という恐怖だ。人は、というか生き物はすべからく自分の知らない存在に恐怖を覚える。一部好奇心を持つ者もいるが、そんなのは自分に害がないと思える場合だ。


 私は知っている、荒木さんの体が腐って崩れ落ちていくのを。あの剣にはそんな末恐ろしいことができる。けど、それ以上のことは全くもってこれっぽっちも一ミリだって分からない。まさに、未知との遭遇。


 もし、腐食以上のことができるとしたら……………


 

「はぁ、はぁ、はぁ…………」



 過呼吸が止まらない。肺が圧迫されるようだ。ドク!ドク!ドク!という心臓の音が周囲の音を掻き散らす。皮膚という皮膚の鳥肌が立つ。五臓六腑、全身で恐怖を表現する。



「――――けど、ここで負けるわけにはいかない」



 なんとかしてあの『氷の剣』を掻い潜り、マーリンさんが来るまで時間を稼がなければ。というか、あの人はいつ作業が終わるんだ?今どのくらい経ってる?


 チラッと一瞬だけ視線を手首に落とす。

 …………………え?15分?これだけ生死を掻い潜ってまだ15分!?あとどれだけ時間を稼げb



「ラァァァ!!!」


「っは!?」



 一閃!

 『氷の剣』がついに猛威を振るった。長い刀身を横一文字に振り回し、間一髪で避けた私の頭部スレスレを通る。


 アブな、アブな、あっぶな!?!?油断するなって言ったろ、マーリンさんを信じてこっちはこっちで集中しろ!!


 爆転を繰り返し城明さんと距離をとる。すると、ドォン!と轟音を立てて突然木が倒れる。よく見ると、あれは『氷の剣』を喰らった木だ。

 剣によって切れた……訳ではない。よく見ると、木の一部が腐っている。離れた場所からでも分かる鼻をつまみたくなるほどの腐臭だ。


 あの腐食は『氷の剣』で切った対象に働くのか。遠距離攻撃とかだったら詰んでいたな………。



「フンッッ!!!」


「今度は何をする気だ………?」



 城明さんは大きく鼻を鳴らすと、手の平を地面に叩きつける。地面からピキパキピキと地面から一つ、二つの三つ飛んで九つ、彼女自身を模した氷像を作り出した。

 しかも、自律機能があるのか氷像は自ら魔法を使い氷の武器の数々を作り出す。


 キェェェェェェ動いたァァァァァ!?!?



「ガウゥッ!!」


『『『『『ラァァァ!!!』』』』


「しかも喋んのかい!!」



 突撃ー!と言わんばかりに雄叫びを上げる城明さんに、応!と答える氷像達。双剣、氷ハンマー、太刀に槍や弓などの殺意の塊を両手に氷像達が襲いかかる。



「うお!?っつぉ!?アブな!?」



 一人でもキツいのに数責めされると無理!!死ぬ!あとそこ!弓は近接武器じゃねぇ殴りかかってくんなせめて矢を使え!

 


 一体一体の動きは城明さん本体よりは劣るが、それでもキツいものはキツい。全ての攻撃をなんとか紙一重で避ける。しかし――――



「ガァァァァァァァァ!!!」


「やば、本体も………!?」



 隙を見せてしまったのか、『氷の剣』を持った本体が背後から襲いかかる。横は氷ハンマー、前方は槍、斜め上からは太刀。まさに背水の陣。いくらパワーアップ状態でも避けるのは不可能だ。だから…………



「『瞬間移動テレポート』!」



 文字通り一瞬のうちにその場から姿を消す。大きく空振りした『氷の剣』は、前方を扇状に腐食させ、草木は瞬く間に朽ち果てた。



「…………うっ!?ゴハァ!?」



 口からかなりの量の血が出た。人間は体内の血液の三十パーセントを損失すると失血死するらしい。これがどの程度の量なのかは知らないが、私の生物としての本能が警鐘を鳴らしている。

 

 ―――多分、次超能力を使ったら出血多量で死ぬ。



 城明さん本体も含めて10人の暴力装置が、私の周りを囲い込む。ここが生きるか死ぬかの別れ道だ。正直超能力無しでこの状況を乗り切るのは9割方、無理だ。




「けど、そんなの関係ぇねぇ!」


「『『『『『ガァァァァァァァァァァ!!!!!』』』』』」


 

 10匹の獣が咆哮し、一斉に襲いかかってきた。


 まず一番に私に接近したのは氷の双剣持ち。地面を蹴り、高速回転しながら斬り掛かる。しかし、私は退いたりしない。どうせ退いたら他のやつに殺られるだけだ。


 だから!あえて!突っ込む!


 大きく前へ踏み込み拳を握り締める。振り回される剣と剣の間、すなわち胴体に狙いを定めてボクシング選手の如きジャブをお見舞いする。


 そこまで硬くはないのか、パンチ一発で氷像は砕け散った。



「つぎ……って来るのが速い!?」



 味方が一人やられたところでお構いなし。続けて氷の大剣を持った二体の氷像が、私の左右から大きくその凶器を振り回す。

 私はヒョイと5メートルほど真上に跳んで回避。二体の氷像は互いの攻撃が当たって自滅。次は自身の体長よりも長い槍を持った氷像が突撃してくる。



「フンッ!ヌゥッ!おりゃぁぁぁ!!!」



 掴んで、捻って、引き寄せぶん投げる!氷像ボール相手の氷像ゴールに、シュゥゥゥゥゥゥト!!超!エキサイティング!


 ついでにもう一体もぶっ壊した。次は………



『ラァァァ!!!』



 デカイ氷ハンマーの面が視界いっぱいに映り込む。距離的に回避は難しい。打ち壊すにもハンマーは流石に無理だ。ならば………



「マーリンさん直伝、受け流し!」



 攻撃を受け流し、威力を最小限まで減らして逸らす。重心が不安定なって倒れ込む氷像の顔面に回し蹴りを喰らわせ大破。


 すかさず太刀を持った氷像がその刃を私に向ける。太刀なら、横から拳で武器を砕けば………



「―――あ?」



 動かない。片手の時間だけ止まったみたいに動かない。

 まさか、受け流し切れてなかった?ハンマーの威力など、全然殺し切れてなどいなかったのだ。


 ヤバい、マズイ、斬られる!?片手が死んでるならもう片手で………いや、距離的に反撃はできない!



「ぅぐっ、ぁあぐぁ!?」



 氷の太刀をもう片腕の二の腕で受け止めた。刃が皮膚を貫通し、肉を切り、骨を絶たんとする。幸いだったのが、体が熱を帯びているため鋭い刃が溶けて切断しきらず、肉の中で留まったことだ。


 相手を固定できるが、こちらも動けない。しかも―――


 

「ウガァァァァァァァ!!!!」


「最悪のタイミングで本体が来た………!!」



 恐ろしき『氷の剣』を持った城明さん本体が飛び掛かった。瞬間、強烈な『死』が全身を穿うがつ。両腕は動かせない。回避不可能。まさしく、――――詰み。



「『念動力サイコキネシス』!!!!」



 最後の力を振り絞り、『氷の剣』に不可視の力を加える。神秘にも超能力は効くようで、しっかりとその場で静止した。だが―――、



「ガァァァァァァァァァァ!!!!」


「ぐっ…………ァァァァァァア!!!」



 城明さんも負けじと念動力サイコキネシスを押し返そうと吼える。私も絶対に負けないと、声を出して抵抗する。しかしパワーの差は歴然。虫の息なのも相まって、どんどんと押されていく。



「城明さん……いい加減冬眠から目を覚ましたらどうです!?こっちはもう死にかけでヤバいんですよ………!」


「グルルルルルル…………!!!」


「もしかしたら、私の発言で情緒不安定になってんのかもしれませんけど………撤回はしませんからね!!」


「ガァァァァァァァァァァ!!」


「うるさいですよ犬っころ!そうやって溜め込んでぶっ壊れるくらいなら、最初から無理なんかすんじゃねぇ!城明さんはハイスペックだし超美人だし優しいし、他人に頼らないで一人でもやってける自信があったんでしょうがねぇ、思い上がりも甚だしいですよ!人は一人じゃ絶対に生きていけない、誰にも迷惑をかけずに過ごせるわけがない!それは!私が一番よく知っている!」



 私なんて両親に、祖父に、柳に、幹也さんに、マーリンさんに、色々な人に迷惑かけっぱなしだ。なんなら出会う関わる人全員に苦労をかけてるまである。


 けど、だからって自分を卑下するのは間違いだ。少なくとも正解ではない。故に、ごめんなさいの謝罪するのではなく、ありがとうと感謝を述べたい。そんな人達と対等でいられるように努力したい。


 しかし、私みたいな何もかも中途半端な非人間には難しい。思っていても、結果に起こすことはできない。

  


「けど、あんたにはそれがある!私よりもっと多くのものを持っている!そして、それをあんたに伝えることが、気付かせてやるのが私の使命だぁ!!」


「グゥゥゥルル!!」

 

「だから―――――」



 次に私の口から出たのは彼女に対する激励ではなく、赤黒い液体だった。短期間の超能力の多用、それは脳を中心とした全身に微弱だが負担が積もっていき、それはさらに累乗していく。


 さらに、



「…………熱い」



 双剣が一体、大剣が二体、槍ともう一体で二体、ハンマーで一体、太刀で一体、城明さんで一人。氷像は城明さん含めて十体。じゃあ、残り二体は?



「か、ふ」



 熱い、腹が、腹の底から内側からぐりぐりと抉られるように痛い。痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。


 氷によって作られて命を刈り取る凶器が私の腹を背後から、正面から突き刺さる。加えて、氷像二体によるダブルキックにより吹っ飛ばされ、赤黒い液体を撒き散らしながらコンクリートの上を転がる。 


 何も見えない。どうやら近くにあったトンネルの中まで吹っ飛ばされたようだ。



「ぁ、あぅ、ぇ」



 もはやこの気持ちを言語化するのも無理だった。ただただ、熱い、痛い、そして寒い(・・)。気付いたら体から溢れる蒸気は止まっていた。つまり、タイムリミット。



 ジジジジ、と。

 城明さんが『氷の剣』を引きずりながらこちらへ向かってくる。先程のような気合いでどうにかなるものじゃない。

 ―――圧倒的な、『死』。強烈な、目眩がするほどの殺意。



 死にたくない。


 死にたくない。


 死にたくない。


 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


 あああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアア!?!?!?!?



 今、その、『死』が私を―――――



「よくここまで持ちこたえたな、弟子」


「――――ぁ」


「ラa


「うるせぇぞ雑魚・・が」


「ヴァッ!?」



 ドゴォォォォォンン!!と。


 城明さんが遙か彼方へと吹っ飛ばされる。私は、まともにろれつの回らない口で呟いた。

 

「まぁり、んさん…………」


「こっからは師匠にまかせろ、弟子」






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