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激闘超戦士 ビッグサンバイン! 第一話 俺たち三人がロボットに!? ――は、別に関係ないけれど

 ドカン! と音が鳴った方へ目を向ければ、そこにはビル街をフィールドにして向かい合う、怪獣と巨大ロボットがいた。

 色とりどりのパーツが組み合わさったロボットは人間を模した精悍な顔を怪獣に向け、爬虫類っぽい怪獣はゴーヤに似た表皮を波打たせ、互いに睨み合う。

 一触即発。ロボットは拳を構え、怪獣は口を開き、一般民衆はその足元で必死に避難中。


 それはそれとして、私は告白の為に山中を走っていた。


「はぁ、はぁっ……!」


 上がってきた息が後ろに流れ、額から零れる汗が顎を伝って滴り落ちる。早く、早く行かないと。


 何で私は、告白の場に山の上の公園を指定したのだろう。いやその時は景色の良い場所ですれば成功率も高いかな、ロマンチックかなとか思っていたけど。登るのがこうも大変だということは考えなかったのか。夏の日に山を登るということがどういうことか、想像だにしなかったのか。恋は盲目とはいうけれど、そんなところで視野が狭くなるのはやめてほしかった。


 何で私は、そんな大切な日に寝坊したのだろう。いやその前日に緊張しすぎて眠れず、ベッドに寝転がってゲームをしていたのが悪いのだけど。その心地よい疲労感に身体を開け放した結果いつの間にか眠り込んでいて、気付いたら約束の一時間前だという事実に飛び起きて、今こうして走っている。ダウンロードしたゲームが丁度一日で終わる長さながら、しっかりとしたストーリーの感動作だったのが悪い。


 何で私は、自転車を友達に貸したのだろう。いやそれは友達が彼氏とサイクリングに行きたいから貸して欲しいと頭を下げてきたからだけど。下見の時は電動アシスト付きの自転車で悠々と駆け上ったのに、どうしてその自転車は昨日から友達のところにあるのだ。というか人の恋路に手を貸す暇が私にあるのか。んな余裕があったら告白の文言を少しでも練れば良いのに。結局白紙のままじゃないか。


 走る。走る。走る――。

 と、いうか。

 何で今日というこの日に限ってロボットと怪獣が戦っているのか。


 だって昨日まで、そんなことは一切無かったのに。

 普通に学校へ登校して、まだ来てないアイツの席に目が向いて、そのことをからかわれて、後ろから話しかけてきたアイツが何の話かと訊いてきて、私は顔を真っ赤にして。

 そんな日常を、私は走馬灯のように思い返す。


 アイツの目が好きだった。

 黒なのに青空を映して澄んだ印象を与えるその目に、最初に吸い込まれた。気付いたらアイツの目を見ることが宝物を眺めるように好きになっていた。


 アイツの仕草が好きだった。

 食べる時の箸の持ち方が妙に女性的で、丁寧な食べ方で食べると自然と弁当箱の中も綺麗になって。ごちそうさまって言う瞬間すら目につくなんて、反則が過ぎる。


 アイツの髪が好きだった。

 硬質で、寝癖が取れなくて、逆に男らしいだろって笑うアイツの笑顔に撃ち抜かれた。昼休みベンチで寝ているのを良いことに、こっそり触れてみたアイツの髪はツンツンしていて、ずっと触っていたいと思ってしまった。


 けほっと息が出た。

 酸素が足りていない。限界だった私は道の途中で立ち止まって、ぜーはー息を吸い込む。というか、私は貴重な酸素を使って何を考えていたのか。


 街を見下ろすと、ロボットと怪獣のバトルが始まっていた。ロボットのパンチが怪獣の頬を抉り、怪獣は反撃に火を吹いている。ビルに火がついて燃え上がる。消防車が近寄れなくて大変だな、という感想が浮かぶ。

 ぼーっと見てしまい、はっと気付く。そんなことより、早く行かなくちゃ。


 震える足を叱咤して、また登り始める。家からずっと走ってきた所為で脚はガタガタだ。ホットパンツから飛び出た太ももは汗ばんで、スニーカーの中の爪先はズキズキ痛む。それよりも、今日の格好は大丈夫か気になった。


 結構、気は遣ったのだ。私はガサツで、あんまり清楚なイメージがなくて、アイツには友達のように思われていたから、カジュアルでスポーティーな感じに努めた。

 本当は、ヒラヒラなワンピースを着てみたかった。レモンに似た淡い黄色のスカートを揺らし、白い帽子で日陰を避ける。小さい頃に見た恋愛譚の主人公が、そんな服を着ていたから。

 でもそれだと私らしくなくて、アイツをドン引きさせてしまうんじゃないかと不安になったから。それに山の上の公園なんだから、歩きやすい服の方が気負ってなくていいかなと思ったんだ。まぁ結果、ワンピースなんて着てたら汗ばんで張り付いてしまっていただろうけど。

 後、髪も、ちょっと不安だ。急いで出てきたからセットが上手くいっているか分かんない。塩素が悪さした髪はずっと自信が無いから、キリがないんだけど。


 眩しい光が私を照らした。横目に見ると、ロボットがビームを出していた。でもそのビームは怪獣の張ったバリアーに止められて、空気に霧散して消える。

 あの怪獣、バリアー持ってるのか。普通そういう怪獣って後の方の強敵として出てこない? 私、あんまり詳しく無いけど。今やってるの最初の戦いじゃないの。


 そんな風に走っていると、ようやっと公園の看板が目に入った。スマホを取り出して時間を確認する。13:09。若干オーバー。

 頭を抱えたい気持ちを振り払い、私は公園に飛び込んだ。


 そこにはアイツが待っていた。自転車を傍らに止めて、欄干にもたれ掛かって眼下の大決戦を眺めている。

 私はそれを見てちょっとムカついた。なんでアンタだけ自転車に乗ってきたんだよ、とか。どうして私が来たことに気付かずロボットを見てるんだよ、とか。浮かんだ端から理不尽だと自覚するそんな感情を胸に巡らせて、私は近づいていく。

 っと、その前に髪を整えて、ハンカチで汗を拭う。汗は全身びっしょり濡らしていて、取り敢えず顔だけ拭いておく。……どうしよう、自信ないな。いや私が可愛さ誇ってもしょうが無いんだけどさ。


 息を吸う。心肺が安定していく。でも心はかっかと熱くなっている。

 息を吐く。その気持ち良さが、私に一歩踏み出す気力を与えた。


 よし、と気合いを入れた私はアイツの背中に声を掛けた。


「……よっ! ちゃんと来たんだ!」


 私の掛けた声がロボットに夢中で聞き届けられなかったらと不安になったけど、幸いアイツは振り向いてくれた。


「……あぁ、うん。まぁ、呼ばれたし?」


 頬を掻いて苦笑する顔が、胸をときめかせる。心臓がバクバク跳ねているのは、激しい運動をしたからだけではきっとない。


 ズッガーン! という雷みたいな轟音が鳴った。二人で見ると、ロボットが剣みたいな奴を持って必殺技っぽい何かをしている。

 振り向いた隙を見て、私は隣の欄干に並んだ。目を逸らしてアイツを見ると、あっちもあっちで私の方を向いていた。

 私たちは目を合わせ、どちらともなく笑い合った。


「あんなのが暴れてるのに、よく来たじゃん」

「そっちこそ。ここで待っている最中にアレが出て、来ないのかと思ったよ」

「確かにね。……アンタの家、あそこら辺じゃないよね」

「俺の家はもっと遠くだよ。ここ来るのにも結構漕いだし」


 じゃあなんで、私より早く着いてるんだろう。

 ロボットが出る前からいるなら、割と長くここにいるんだろうし。そんなに早くにここに来ていたの。それは、なんで?

 目を見る。ふとした瞬間には青空を映すその目は、今は私だけを見ている。

 頬が紅潮していて、そこでようやく私も悟った。


 あぁ、コイツ。気付いてるんだ。


 じゃあ、モタモタしてらんない。待たせないように、さっさと言わないと。


「あのね――」


 遠くでは、ロボットが勝利していた。

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